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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『森』の話 その2

Mark Rosewater
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2023年8月21日

 

 『エルドレインの森』プレビュー特集第2週にようこそ。先週、展望デザイン・チームを紹介し、先行デザインと展望デザインの期間にこのセットがどのようにデザインされたかについて話した。今日は、セット・デザインの話をして、セットデザイン・チームの紹介をして、そして新しいクールなプレビュー・カードをお見せする。

『ワイルド』バンチ

 さて、『エルドレインの森』のセットデザインの話を始める前に、まずはそれを手掛けたチームを紹介せねばならない。通例通り、そのチームのリード・デザイナーを務めたイアン・デュークにチームを紹介してもらおう。彼自身のものも含むすべての紹介は、イアンが書いたものである。

クリックしてセットデザイン・チームを表示

『ワイルド』・アット・ハート

 今日の話は、展望デザイン提出文書から始まる。セットデザイン・チームに提供されたものはこうだった。

  • 役割 ―― 展望デザインは、セットにいくつ入れるべきかは確定していない、と付記を添えて10個の役割を提出した。
  • 食物・トークン ―― 展望デザインのファイルには、食物を扱う個別のカードがあり、これは食物をセットに入れるべきだがドラフトのために量は抑えるべきだという意図を示していた。
  • 出来事 ―― 展望デザインは、色違いの出来事・呪文を持つカードと、出来事を持つエンチャントという2つの新しいコンセプトを扱っていた。
  • 協約 ―― 協約メカニズムはファイルにあったが、生け贄に捧げられるのはアーティファクトとエンチャントだけだった。
  • 祝祭 ―― 赤白のアーキタイプにはこのメカニズムを持つカードがいくらか存在していたが、名前はついていなかった。
  • 英雄譚 ―― 展望デザインが提出したファイルには、それぞれ2色でその色の組のドラフト・アーキタイプになっているおとぎ話の物語を描いた英雄譚10枚からなるサイクルがあった。
  • おとぎ話アーキタイプ ―― 展望デザインは、2色の組それぞれについておとぎ話を選んでいた。それぞれのアーキタイプについてどの程度メカニズム的に進展しているかは組ごとに大きく異なっていた。
  • エンチャント・テーマ ―― メカニズムを見て分かる通り、展望デザイン・チームはエルドレインへの再訪では元のセットよりも濃いエンチャント・テーマを提案していた。

 それではこのそれぞれについて見て、それがセットデザイン中にどう調整されたかを語っていこう。

役割

 役割のことを、我々は「デザインの中心」と呼んでいた。(エンチャント・テーマを成立させ、協約や祝祭と相性がよく、おとぎ話テーマを強化し、など)それ以外のデザインが基柱としている中核的一面なので、セットデザインが最初に取り組むべきものであった。セットデザインが解決しなければならない大きな問題は2つあった。

  • 問題1――役割はいくつ存在すべきか

 展望デザインは、新しい役割を作ることに寛容だった。クールなデザインに新しい役割が必要なら、ただ作るだけだった。展望デザイン工程の中には、デザイン空間の確認が含まれているので、数に関して限界を広げることは筋が通っていた。しかし、セットデザインにおいては、記憶と実装上の問題が存在する。理想的には、デザインの幅が取れる範囲で役割の種類は少なければ少ないほど良いのだ。

 セットデザイン・チームがそれをしている間に、グラフィックデザイン・チームはさまざまなトークンの作り方を試していた。カード1枚に2つの役割というのが最適だったので、可能なら偶数にするのがいいという示唆になった。役割はこのセットの構造の中核だったので、各色にメカニズム的にそのカラー・パイ内で働く役割が1つ以上あるようにするため、5色全てにあることが望ましいと考えた。もう1つの問題は、コモンやアンコモンで作用する役割があるようにすることだった。また、役割はおとぎ話のキャラクターの類例を示すので、良いバランスが必要だった。セットデザインは最終的に、6種類に決めた。

呪われし者(1/1になる)

 この役割は元から「呪われし者」という名前だった(6種類の役割のうち3種類は名前がそのままになった)。カエルにもなるようになったことを除いては、デザインも元のバージョンのままだった。この役割は主に青で、わずかに黒にもある。

怪物(+1/+1とトランプル)

 この役割の元の名前は「ビースト」だった。単に、大型クリーチャーにしたかった。トランプルはそのための一番簡単な方法だと思われた。これの最初のバージョンでは、パワーだけを強化していたと思う。この役割は主に緑、わずかに赤にもある。

王族(+1/+1と護法{1})

 この役割は元々、展望デザインでは「お姫様」だったが、適用できる類例を広げるために性別を問わない表記にすることにした。この役割の基本的なアイデアは、そのクリーチャーを少しだけ強力なものにすることだった。王族の子供はおとぎ話ではたいてい生き残るので、護法で少しだけ殺しにくいことを示すことにした。この役割は白と緑である。

魔術師(+1/+1と攻撃時に占術1)

 この役割は展望デザインでは「導師」と呼ばれていた。基本的なアイデアは、何らかの方法で魔法で干渉するというものだった。展望デザインは、インスタントやソーサリーを軽くすることやクリーチャーに果敢を与えることなる、様々なものを試した。最終的に、セットデザイン・チームは、呪文を唱えるのを簡単にすることや呪文を唱えたことに依って利益を得られるようにすることではなく呪文を手に入れやすくすることを選んだ。この役割は白と青である。

ひねくれ者(+1/+1と役割が墓地に行ったときに各対戦相手が1点のライフを失う)

 この役割は展望デザインでは「ひねくれ者」と呼ばれていた。悪役がするであろうと思われることらしくなければならなかった。最初のデザインでは、対戦相手のクリーチャーが死亡したときに自分に+1/+1カウンターを置くものだったと記憶している。これから説明する通り、それは強すぎた。セットデザインは、対戦相手がライフを失うことは充分に意地悪いと判断した。この役割は主に黒、わずかに赤にもある。

若き英雄(攻撃時にタフネスが3以下ならこれに+1/+1カウンターを置く)

 この役割は展望デザインでも「若き英雄」と呼ばれていた。これは、完全に同じままだった唯一の役割である。このデザインは、単純なクリーチャーが冒険に出かけてレベルアップすることをトップダウンで再現しようとしていてできたものである。タフネス1のクリーチャーにつけたくなるようにタフネスの制限を採用した。この役割は白と赤である。

  • 問題2 ―― パワーレベル的に、役割にはどの程度の幅があるべきか

 展望デザインはさまざまな役割を試したので、そのパワーレベルにはいくらかの幅があった。ここで言っているのは、役割を独立したオーラとして唱えなければならないとしたら、それぞれの役割のマナ・コストは異なるだろうということである。セットデザインは、それがこのメカニズムを開発する上で正しい方法かどうかを見極める必要があった。プレイテストの結果、役割はゲーム内の多くのカードでリソースとして機能するので、統一されたパワーレベルであるのが最も良いということがわかった。これが、役割の殆どが同じパワー/タフネス強化(+1/+1)を与える理由である。

食物・トークン

 『エルドレインの王権』の教訓の1つが、食物はゲームを遅くするということだった。ライフを得ることになり、ライフが多くなればなるほど対戦相手が倒すのは大変になる。展望デザインが食物・トークンに関して懐疑的だった理由はこれであった。セットデザインは、多くのおとぎ話には食べ物が出てきて、つまりフレイバー的に重要な要素だと認識したので、ゲームが長期化したりアグロ戦術を否定したりすることなくセット内に多くの食物を入れる方法を見つけることにした。

 その解決策は二重構造になっている。最初に、2色(黒と緑)に絞ることでドラフト・アーキタイプ1つにまとめることにした。(黒緑はヘンゼルとグレーテルなので、食物テーマはふさわしい。)その後、その2色にライフを得るよりも強力な食物の使い方を与えた。それらの使い方をより攻撃的なものにして、食物を防御的よりも攻撃的なものにしたのだ。食物は協約とも相性がよく、これもライフを得る以外の使いたということになる。

出来事

 展望デザインの発明2つ(出来事・呪文を色違いにすることと、エンチャントに持たせること)はどちらも採用された。セットデザインは、出来事の位置づけをどうするのが最適なのかを決めることに時間の殆どを費やした。どのようなデザインが最高のゲームプレイにつながるのか。『エルドレインの森』は非常にパーマネントに寄っているので、セットデザインは出来事・呪文を相互作用性を提供するものにしたいと考えた。つまり、インスタント速度で唱えられる効果や、戦闘を扱うことに焦点をおいたソーサリー効果である。これによって、基本的に、プレイヤーがさらに多くの呪文をデッキに入れることができるようになる。

 もう1つセットデザインによる大きな決定が、出来事の機能を広げて、デッキ内に当事者カードを大量に入れたいと思わせるようなカードを作らないということだった。立てば、出来事に焦点を当てたドラフト・アーキタイプは存在しない。セットデザイン・チームは、各ドラフト・アーキタイプにそれぞれ使いたい当事者カードがあるようにすることにしたのだ。一般的に、出来事カードは、それだけで成立するカードになるようにデザインされている。

協約

 協約は展望デザイン中に、役割に第2の機能を与えるためにデザインされたものである。(エンチャントを生け贄に捧げるカードはそう多くない。)展望デザインが「アーティファクトやエンチャント」にしていたのにはいくつかの理由があった。1つ目に、『エルドレインの王権』のエンチャントやアーティファクトという小さなテーマと合致していた。2つ目に、食物・トークンのもう1つの使い道を提供していた。3つ目に、充分な割合で実用的にするには充分汎用的だった。

 セットデザインは協約がこのセットで果たすことを気に入ったので、5色全てに残すことにした。彼らによる唯一の変更が、トークンをリストに入れることだった。クリーチャー・トークンは大抵の場合小さくて使い捨てにできるものであり、特に大量のネズミ・クリーチャー・トークンを作る黒赤のアーキタイプではそうである。また、これによって『エルドレインの森』の生態系の外のリミテッドでも協約メカニズムがうまく働くようにできた。白黒のアーキタイプは、協約をもっともよく使うようにデザインされた。

祝祭

 展望デザインは、赤や白のクリーチャーの一部にこのメカニズムを持たせていたが、名前はつけていなかった。元のバージョンでは、土地でないパーマネントが自分のコントロール下で戦場に出るたびに誘発していた。セットデザインは、複数回発生しうる小さな効果が必要となり、ほぼ拡大型効果のようになるこの実装を気に入らなかった。彼らはこれを、2つのものが戦場に出たときに誘発する単一の能力に変更した。これによって、このメカニズムを増やすことができたので、能力語を与えることができると判断したのだ。この能力は、赤白のままである。

英雄譚

 先週語った通り、『エルドレインの王権』では、ユーザーが既に知っている物語を使えるときにもっとも有用となる英雄譚を使いたかった。物語はその条件を満たしている。展望デザインの最初の計画では、10個のアーキタイプそれぞれのおとぎ話の物語を伝える2色の英雄譚を作ることにしていた。セットデザインは、各アーキタイプのカードが既にその訳を果たしているので、少しばかりくどいものになると気づいた。彼らは結局、(そのほとんどで)10個のアーキタイプ以外のおとぎ話の物語を語ることにした。例外は青赤の英雄譚で、これはマジック流の魔法使いの弟子を描いている。セットデザインは、単純に、その扱いが非常に気に入ったのだ。

おとぎ話・アーキタイプ

 展望デザインは、10個の2色アーキタイプにふさわしい10個のおとぎ話を見つけるのにかなりの時間を費やした。セットデザインは、展望デザイン・チームがクリエイティブ・チームと協力していい仕事をしたと感じたので、セットデザイン中にそれらを変更することはなかった。おとぎ話テーマは、アートやカード・コンセプトに大きな影響を与えるので、セットデザインはそこまでの多くの作業を台無しにしたくはなかったのだ。

 それでは、セットデザインがそれらのアーキタイプをどう扱ったのか見ていこう。

白青 ― 雪の女王

 物語のフレイバーに合わせるため、このアーキタイプはクリーチャーをタップし封鎖することを軸にしている。セットデザインはこのアーキタイプの新奇さを気に入ったが、対戦してつまらないものにしないために多くの調整が必要だった。この問題を解決するため、セットデザイン・チームはこれをコントロール・デッキではなくテンボ・デッキにした。

青黒 ― 眠れる森の美女

 このアーキタイプはフェアリーを中心にしている。フェアリーは青黒で有名で、眠れる森の美女の物語とも深く関わっている。セットデザインの課題は、フェアリーはフレイバー的に飛行を持っていて、飛行クリーチャーばかりのタイプ的デッキを作るのは非常に難しいということだった。セットデザインの解決策は二重になっていた。最初に、広く並べるデッキではなくコントロール・デッキ寄りにした。大群ではなく1体か2体のフェアリーで攻撃することで勝利するようにしたのだ。次に、フェアリーを参照するカードの枚数を制限した。同時に大量のフェアリーを戦場に並べるデッキにするのではなく、フェアリーが最高のコントロール・クリーチャーになるようにしたのである。

黒赤 ― ハーメルンの笛吹き男

 小型クリーチャー・トークンを大量に並べるデッキは防御的になりがちで戦場を膠着させるものだが、展望デザインは「これではブロックできない」を持つネズミ・トークンというアイデアを思いついた。このネズミ・クリーチャー・トークンのおかげで、セットデザインはより積極的にそれを作ることができ、このおとぎ話に必要なネズミの群れらしさにふさわしくなった。さらに攻撃を推奨するため、セットデザインは自軍のクリーチャーが死ぬことで利益を得られるようにした。また、(協約とともに)生け贄効果を増やすことで、攻撃できないときにもネズミをリソースとして使えるようにした。

赤緑 ― 赤ずきん

 これは、展望デザインから明確なメカニズム的テーマなしで引き継がれたアーキタイプの1つである。セットデザインは、経験の浅いドラフト・プレイヤー向けに、より直接的な(シナジーを理解することにあまり基づかない)アーキタイプを置くことにして、赤ずきんちゃんとその森という舞台は大型クリーチャーを扱うことに都合がいいと考えた。セットデザインは最終的に、このアーキタイプを、ただどんどん大きなクリーチャーを唱え続けて攻撃するというアグロ・ミッドレンジの「ビートダウン」デッキにした。

緑白 ― 美女と野獣

 緑と白は、最もエンチャントのシナジーがある2色なので、このアーキタイプはそれを扱うものになる。すべてのアーキタイプが役割を使っているが、緑白が一番多く使っていて、特に王族と怪物の役割を使うことで美女と野獣のフレイバーを再現している。

白黒 ― 白雪姫

 白黒は、最も複雑なアーキタイプの1つである。自軍のものが死ぬことで利益を得るので、役割などのオーラ、食物を生け贄に捧げることを推奨し、そして協約を使うことに最も焦点を当てた色になる。これは、カード間のシナジーを理解することに大きく依存するという面で、赤緑のアーキタイプとは対照的である。

青赤 ― 魔法使いの弟子

 青赤は伝統的に「呪文関連」のデッキで、青と赤はクリーチャーが最も少なく呪文が最も多い色である。このアーキタイプはパーマネントにあまり注目せず、大量の呪文を唱えることを推奨するために花冠のようなものに依存している。

黒緑 ― ヘンゼルとグレーテル

 黒緑は最終的に、食物・トークンを中心としたアーキタイプになった。この色の組には、食物になるあるいは死亡したときに食物を生成するお菓子の怪物がいる。お菓子の怪物は最初の世界構築で現れて、誰もが一目惚れしたのだ。このアーキタイプのセットデザインの多くは、食物・トークンの別の使い方をうまく推奨する方法を探すことにあった。最終的に、このデッキはミッドレンジ・デッキになった。

赤白 ― シンデレラ

 よくあることだが、赤白は最もアグロであることに焦点をおいたアーキタイプである。祝祭はこのアーキタイプのために作られたものであり、役割や装備品といったものを使うことを推奨しているので、セットデザイン・チームはすべての支援カードを赤や白にすることにかなりの時間を費やした。カード1枚でパーマネント2つを作れるように、このアーキタイプ用の出来事は役割を作りがちである。

緑青 ― ジャックと豆の木

 このアーキタイプも、展望デザインから明確なメカニズム的定義無しで引き継がれたものである。展望デザインは食物・トークンを使ったコントロール・デッキを考えていたが、それは対戦してつまらないと判断された。セットデザインは食物を黒緑中心にして、これは「マナ総量5以上」テーマ中心にすることにした。これにより、これはランプ・アーキタイプとなり、出来事を最も扱うアーキタイプになった。これの出来事は、大型クリーチャーと小さな効果の組み合わせになった。

エンチャント・テーマ

 このセットの展望デザインは、明らかに、通常よりも大きくエンチャントを扱っていた。セットデザインは時間をかけて様々な要素間のあらゆるシナジーを理解し、エンチャントが様々なアーキタイプで様々な役目を果たすようにした。セットデザインがこのテーマに加えた唯一のものが、おとぎ話のボーナスシートである。

 ボーナスシートはプレイヤーの間でいつも人気なので、我々はボーナスシートを入れられる濃いテーマのあるセットを探している。テーマとしてのエンチャントは、クールなボーナスシートになった。セットデザインは、このセットのテーマを扱い、このセットを10回以上ドラフトしたプレイヤーのために分散を高めてドラフトに追加の価値をもたらすカードの入った、プレイヤーが求めていた再録でプレイヤーを興奮させるようなボーナスシートを作るために時間をかけた。

『ワイルド』シング

 『エルドレインの森』のセットデザインの話は以上となる。今日の話を終える前に、お見せするカードがある。今回のプレビューはこのセットの祝祭であり、能力語としての祝祭を用いたレアのカードである。

クリックして「擬態する歓楽者、ゴドリック」を表示

 参加してくれたことに感謝しよう。いつもの通り、今日の記事や私の話したメカニズム、あるいは『『エルドレインの森』に関する意見があれば、メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『エルドレインの森』の展望デザイン提出文書をお見せする日にお会いしよう。

 その日まで、あなたが心に語りかけてくるようなおとぎ話・アーキタイプと出会えますように。


(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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