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Making Magic -マジック開発秘話-
『ファイレクシア:完全なる統一』方的な話 その2
2023年1月23日
『ファイレクシア:完全なる統一』(ONE)カード・プレビュー第2週にようこそ。今回は、セットデザイン・チームを紹介し、セットデザインを見ていってから、プレビュー・カード2枚をお見せしよう。早速始める。ところで、「その2」と書いてあるとおり、これは一連の記事の2本目なので、まだ読んでいない諸君は1本目を読んでおくべきかもしれない。
すべてはONEのために
先週、先行デザインから展望デザインまでのチームのデザイナーを紹介した。今回は、セットデザイン・チームをご紹介しよう。いつもの通り、そのセットのリード・デザイナー(今回はアダム・プロサック/Adam Prosak)にチームの紹介をしてもらう。まず私がアダムを紹介し、それからアダムが他の全員を紹介するという形になる。
クリックしてチームを表示
ONEの特異な感覚
展望デザインがセットデザインにファイルを提出したとき、我々が渡したものはこうだった。
- 有毒
- 堕落
- 油カウンター(と、浸油)
- 武器を取れ
- ファイレクシア・マナ(と、執拗)
- 増殖
これらのメカニズムそれぞれがどうなったか、これから見ていこう。
有毒
先週言った通り、展望デザイン・チームは-1/-1カウンター(や+1/+1カウンター)の代わりに油カウンターを使うことにしたため、感染を使うことはできない。そこで、『未来予知』のカード2枚で登場していた有毒メカニズムを使うことにした。
セットデザイン・チームは有毒の動きを気に入った。彼らは基本的に展望デザインが集約した3色(白黒緑)にしたが、少しだけ青にも散らした。白は毒を1点だけ与えることが多く、黒は2個までで、緑は(確か最大6個まで)大量に与えていた。1つだけ、ちょっとした変更を加えた。有毒から毒性にしたのだ。この違いは一体何で、なぜその変更をしたのか。この2つの能力を併記してみよう。
有毒1(スリヴァー1体がプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、そのプレイヤーは毒カウンター1個を得る。)
毒性1(このクリーチャーから戦闘ダメージを受けたプレイヤーは追加で毒カウンター1個を得る。)
大きな変更点は、有毒が誘発型で毒性はそうでないということである。これはデジタルでは大きな違いになる。実際、少し前に、接死を誘発型能力ではなくした。有毒は2枚にだけ登場していたので(どちらもありうる未来を示唆する「ミライシフト」カードだった)、チームは古いテンプレートに固執せず現代の標準にあったテンプレートを使ったのだ。
もう1つ、毒関連で展望デザインが提出した、有毒1と「このクリーチャーではブロックできない」を持つ1/1の白のダニ・アーティファクト・クリーチャー・トークンは、有毒から毒性に変更されただけで残った。黒のカード1枚から離れ、白のカードで登場するようになった。これは、白の毒の戦略が毒性クリーチャーの大群で相手を圧倒するというもので、毒性1のクリーチャーしかいないことと関係している。一方、緑は大きな毒性の値を持つ少数のクリーチャーが中心になる。黒は白と緑の中間だ。
堕落
堕落は、対戦相手1人が3個以上の毒カウンターを持っているとそのカードが強化されることを示す能力語である。展望デザインは、毒の「ありかなしか」感を減らす助けとしてこれを入れた。対戦相手が毒を与えてきても、その狙いを確信することはできなくなったのだ。また、これによって、基本的には毒カウンター3個を与えることが狙いでも、時折毒によって勝利することもありうるようなデッキが組めるようになっている。展望デザインは、これを白黒のドラフト・アーキタイプとして提案していた。
この記事のためにアダムに話を聞いたとき、彼は、このセットを成立させるための鍵は堕落だったと言っていた。我々が展望デザイン中にしたことを気に入っていて、セットデザインは戦略面ではあまり変更せず、最高の実装を作ることに集中した、と。
- 油カウンター(と、浸油)
展望デザインの重要な部分は、セットデザインがセットを作るための道具を提供することである。そのメカニズムをどう使うべきかを書くこともあれば、より広く使い方の可能性を提供することもある。油カウンターはその後者の一例である。(今後の記事で紹介する)提出文書の中で、我々は油カウンターの様々な使い方を提案し、それらの中でどの実装が一番セットの役に立つのかはセットデザインに委ねた。油カウンターにはメカニズム的意味が内包されていないので、様々な使い方ができるということが重要なのだ。
その多くの選択肢の中に、浸油というメカニズムを入れていた。
浸油N(【カード名】は油カウンターN個を置いた状態で戦場に出、カウンターがない状態で増殖したなら油カウンター1個を得る。)
浸油の背景にあったのは、キーワードにできるだけの枚数、油カウンターが置かれた状態で戦場に出るカードがあるようにすることだった。そして、増殖との相性がよくなるように、そのカードにカウンターが置かれていなくても油カウンターが得られるというおまけを付けたのだ。
多くの選択肢の中で、セットデザインが選んだ油カウンターを使うメカニズム的実装はこうなった。
回数制限
戦場に出たときや、起動型能力や誘発型能力によって、油カウンターを置き、その後、能力や効果のためにカウンターを消費するカードがある。 カウンターがプレイヤーでなくパーマネントに置かれ、互換性がないことを除いては、エネルギーと似ている。
拡大効果の設定
油カウンターで効果の大きさが決まるカードがある。たいてい、これらのカードでは、カウンターを手に入れる方法があるので、時間とともに効果が大きくなる。
閾値
油カウンターが一定数以上あるときのみ能力を得るカードがある。
カウントダウン
油カウンターが置かれた状態で始まって、だんだん、大抵はターンに1個ずつ、減っていくカードがある。最後の油カウンターを取り除いたとき、そのカードはなくなる。
目印
油カウンターが置かれているカードの枚数を参照するカードがある。閾値のものも、拡大型のものもある。油カウンターを使っているかどうかを参照するカードも数枚ある。
油カウンターについて、展望デザインが定めてセットデザイン中も変わらなかった唯一のことが、カウンターが多いほうが良いので増殖と相性がいいということである。つまり、破壊までのカウントダウンはカウントアップではないのだ。セットデザインは油カウンターを青赤緑に集めた。
浸油キーワードにはいくつかの変更がなされることになった。ファイルが最初セットデザインに提出されたとき、当時リードを務めていたエリック・ラウアーは浸油を消失型の、毎ターン1個ずつ油カウンターを取り除き、最後のカウンターを取り除いたときにそのクリーチャーが死亡するというものに変更した。セットデザインは、単純化のためと、油カウンターでカウントダウンするパーマネントをあまり多くするつもりはなかったことから、浸油を取り除いたのだった。パーマネントから最後の油カウンターを取り除くかどうかについて葛藤があっても問題ないと判断したのだ。
武器を取れ
このセットのほとんどはファイレクシアだったが、完成化を逃れて生き延びているミラディン人も少数派存在していた。我々は、レベルに独自のメカニズムがあってもいいと考えたのだ。ファイレクシアのメカニズムにひねりを加えたものにするというアイデアを採用した。先週言った通り、我々はこのセット内でまったく使われていない生体武器を選んだ。我々はこのメカニズムを「武器を取れ」と名付け、黒の0/0の細菌ではなく赤の2/2のレベルを生成することにした。パワーとタフネスを持つトークンにしたことで、デザインはずっと簡単になり、多様性も得られることになった。
セットデザインは武器を取れを気に入り、大きな変更は加えなかった。彼らは新しいカード・デザインを何枚も作ったが、メカニズムの本質は変えなかったのだ。クリエイティブ・チームはこのメカニズムを「ミラディンのために!」に改名した。
ファイレクシア・マナ(と、執拗)
ファイレクシア・マナは奇妙な点だった。最も象徴的なファイレクシアのメカニズムの1つで、唯一名前に「ファイレクシア」が入っているが、プレイデザイン上の問題を最も多く引き起こしたメカニズムでもあった。展望デザインでは、ファイレクシア・マナの3通りの使い方を考えていた。
ファイレクシアのプレインズウォーカー
大局的計画として、『神河:輝ける世界』でタミヨウが、『団結のドミナリア』ではアジャニが、そして『ファイレクシア:完全なる統一』ではさらに5人が、ファイレクシア化するということになっていた。このセットの展望デザインの時点では、まだファイレクシア化したプレインズウォーカーがどう作用するかは決まっていなかった。そのあり方についていくつかの提案をすることが私の任務だった。私が気に入っていたのはファイレクシア・忠誠度で、忠誠カウンターの代わりにライフで支払えるというものだったが、これはバランスを取るのがあまりにも難しいと分かったので、マナ・コストにファイレクシア・マナを含む形に落ち着いた。これは基本的に、ライフに加えて忠誠度をコストとするものであり、それによってプレイデザインがバランスを取りやすくなっている。セットデザインが始まった時点で、我々は実装を固めており、このセットの5人のプレインズウォーカーはそのテンプレートに従っていた。このセットでファイレクシア・マナをマナ・コストに持つのはその5人のプレインズウォーカーだけである。
起動コスト
ファイレクシア・マナの最大の問題の1つは、そこにほとんど選択の余地がないことだった。マナを支払えなければ、ほぼ確実に2点のライフを支払うのだ。展望デザインは、ファイレクシア・マナの居場所として起動型能力のほうがふさわしいと考えた。複数回使うものであり、マナ・コストやカラー・パイを侵害しない。我々はファイル内でそれを大量に使い、セットデザインに提出した。結果、セットに残りはしたが、神話レアのサイクル1つとレア2枚(白1枚、青1枚)の7枚にまで減らされた。アダムは、ファイレクシアの象徴的なものなのでセットにいくらか必要なことは認めたが、プレイデザインの問題が起こるのを防ぐためその数を制限したのだ。
執拗
展望デザインがセットに入れた3つ目のファイレクシア・マナの使い方が、執拗というメカニズムの形だった。執拗は、インスタントやソーサリーが持つメカニズムだった。呪文の解決中に、その呪文を追放する。そして、土地をプレイしたターンに、追放領域から執拗コストで唱えることができるのだ。(その後、墓地に置かれる。)執拗コストに含まれる単色マナはすべてファイレクシア・マナだった。セットデザインは、このセットに詰め込み過ぎになることを懸念した。毒はバランスを取るのが難しい繊細な生態系なので、執拗やその他セット内の多くのファイレクシア・マナはボツになったのだ。
増殖
増殖はファイレクシア人と密に関わっていて(初登場は『ミラディンの傷跡』である)、プレイヤーに好評で、ファイレクシア・マナのようにバランス上の問題があるわけではない。展望デザインによる大きな調整点は、セットの主なカウンターを+1/+1カウンターや-1/-1カウンターでなく油カウンターにしたことだった。これによって増殖に光を当てることができ、『ミラディンの傷跡』や『灯争大戦』と違うプレイ感にすることができたのだ。
セットデザインは、展望デザインが提案した油カウンターや増殖の実装を採用した。主には青黒緑、そしてほんの少しだけ赤に入れられた。展望デザインは赤にもっと増やそうとしたが、色の評議会は理念上増殖は赤のメカニズムではないと的確に指摘したのだった。
孤立するONE
最終的な2色のアーキタイプ10個は以下の通り。
白青(アーティファクト)
ファイレクシア人は常にアーティファクトに関わってきたので、それに焦点を当てたドラフト・アーキタイプがあるのは当然だろう。青は「アーティファクト関連」の1種色で、白が2種色なので、この2色がふさわしいと考えられた。
青黒(増殖コントロール)
青は油カウンターの色の1つである。黒は毒カウンターの色の1つである。その2色を組み合わせ、また、通常は操作的な青黒デッキがあるが、今回はカウンターと増殖を添付した。
黒赤(油カウンターと生け贄)
生け贄は黒赤の一般的なアーキタイプである。このセットはそこに油カウンターを加え、いかにも死を有用な道具として使うファイレクシアらしい2色の組み合わせを作り出した。
赤緑(ミッドレンジ油カウンター)
赤と緑はどちらも油カウンターの色であり、油カウンターが置かれている自分のパーマネントの数を参照する2色である。このテーマは、時間とともにマナと油カウンターが増えることで強化されていくデッキと相性がいい。
緑白(毒性アグロ)
緑と白は毒の色3つのうち2つである。このデッキはダニ・クリーチャー・トークンなどの毒性を持つクリーチャーの軍勢を作り、毒での勝利をもぎ取るのだ。
白黒(堕落)
白と黒は堕落カードが多い色2色なので、対戦相手に自分のカードを強くするのに充分なだけの毒を与えるために集めることができる。
青赤(油カウンターとクリーチャーでない呪文)
このデッキはクリーチャーでない呪文を使って油カウンターを増やし、そのテンポ戦略で勝利する助けとなる効果を作り出す。
黒緑(毒勝利)
黒と緑は、毒性クリーチャーが最も大きい2色である。それらを手に入れて、ほんの数発で勝利するのだ。
赤白(ミラディンのために!装備品)
赤と白は、最もレベルが多い2色デある。ミラディンのために!キーワードを持つ装備品を使って攻撃を重ねるのだ。
緑青(増殖と毒)
緑には毒を持つカードが大量にある。青と緑はどちらも増殖が得意である。対戦相手に毒を与え、ゆっくりと死に追いやるのだ。毒デッキの中でも特にコントロール寄りである。
2つはONE
それでは、終わる前に、プレビュー・カード2枚をお見せしよう。
1枚目は、《胆液月の篭手》だ。
クリックして「胆液月の篭手」を表示
次は《尋問のドミヌス、テクータル》である。
クリックして「尋問のドミヌス、テクータル」を表示
別れのONE
本日はここまで。『ファイレクシア:完全なる統一』のデザインの話を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、今日の記事や私が語ったメカニズム、『ファイレクシア:完全なる統一』のセットそのものについての感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、このセットのカード個別の話をする日にお会いしよう。
その日まで、あなたが完成化を味わえますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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