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Making Magic -マジック開発秘話-
『ドミナリア・リマスター』マスター
2022年12月6日
『ドミナリア・リマスター』プレビュー特集へようこそ。今日は、リマスター・セットの歴史について少し話そう。特に、『ドミナリア・リマスター』のデザインについて解説していく。最後に、このセットのプレビュー・カードをご紹介することになる。このセットのカードはすべて再録なので、このカードも新規カードではないが、クールな新アートになっている。
古い革袋に新しい酒を
この話の始まりは、2014年に遡る。『Magic Online』に新しい要素が必要だったが、新カードを作らずにそうする方法を考えていた。既存のカードだけで新しい要素を作る方法はあるだろうか。こうして、リマスター・セットというアイデアが生まれたのだ。マジックが1993年に生まれた当時、セットを作るときにリミテッドは考慮されていなかった。もちろん、リミテッドでプレイはされていたが(初期はほとんどシールドだった)、それは後で考えたことで、セットはリミテッドを意識してデザインされてはいなかった。つまり、ほとんどのリミテッドのプレイは、素晴らしいプレイ体験ではなかったのだ。
『レジェンド』を例に取ってみよう。『レジェンド』では、攻撃してダメージを与えることができる赤のコモンのクリーチャーは1枚(2/2の《Raging Bull》)しかなく、対戦相手がコントロールしていてワールドでないエンチャントを破壊するには、自分のエンチャントすべてを手札に戻すしかなかった。『アイスエイジ』には、自分のブースターすべてを開封してもデッキを作るのに充分なクリーチャーがいないというまた別の問題があった。私は何度も、『アイスエイジ』のブースターを開封して「これじゃ20点与えられるデッキは組めないよ」と言った経験がある。
『ミラージュ』から、開発部はリミテッドを考慮し始めたが、それは急勾配の学習曲線であり、リミテッドに関して今日のデザインで当たり前になっているものの多くを見つけるには何年もかかった。つまり、初期のセットの多くはリミテッドに関して今日の標準にそぐわなかったのだ。過去のカード・プールを使い、現在のデザイン技術を適用する方法はあるだろうか。それが、リマスター・セットの裏にあるアイデアだった。通常のセットよりも大きなカードプールから、ドラフト環境を組み上げるのだ。これは、どのカードが必要か1枚ずつ選び、時にはレアリティを変更して行なわれた。最初のアイデアでは、同じ舞台で同じメカニズムやテーマを扱っている3セットが使えるのでブロック1つを扱うことにしていた。3セット使えれば、テーマの微調整や、現代的方法を編み込んだセットの再構成が可能だったのだ。
初めてリマスター処理を受けたセットは、『テンペスト』だった。(『テンペスト』は私が初めてリードを務めた、そして私がマジックのデザイナーになる入口になった、私にとって懐かしのセットだ。)デザイン・チームは『テンペスト』ブロックの3つのセット(『テンペスト』『ストロングホールド』『エクソダス』)を使って、1つのセットを組み上げた。そして、2015年に『Magic Online』で実装されたのだ。反響は極めて上々だった。2020年、『マジック:ザ・ギャザリング アリーナ』では『カラデシュ』と『アモンケット』両ブロックのリマスター版が作られた。(それらのカードはすでにベータ・プレイテストのためにコーディングが済んでいたので、新しくコーディングする必要はなかった。)そして2021年、テーブルトップ初のリマスター・セットである『時のらせんリマスター』が作られることになった。『時のらせん』ブロックは非常に冒険的で、非常に多くのメカニズムを使っていた。(このブロックにあるメカニズムは、それまでのマジックにあったメカニズムよりも多かったのだ。)
そしてマーク・グローバス/Mark Globusの登場となる。マークは第1回グレート・デザイナー・サーチの4位入賞者だ。そして、開発部に所属することになる。マークはやがてプロデューサーとなり、最初の統率者製品のデベロップや最初の『モダンホライゾン』のデザインとデベロップの共同リードなど、いくつもの製品を監督することになる。この記事の愛読者諸君は、『Unstable』を作る助けとなったマーク評議会の一員として彼のことを知っているかもしれない。今日の話は、マークが開発部で何年も務めた後、他の興味を追ってウィザーズ・オブ・ザ・コーストを離れた直後に始まる。彼は、フリーランスでデザインの仕事をしたいと言って退職した。
マークには、以下のフリーランスでの仕事が提示された。開発部はリマスターのセットをもっと作る必要があった。彼がもっとも実現性を見出していたのはどれか。マークはすべてのマジックのセットを見て、そして予測できるリマスター・セットの可能性について実現性が高いものから低いものまでの一覧を作っていた。それらのセットの中には、過去のリマスター・セットのように既存のブロックを扱っているものもあったが、他の方法でリマスター・セットを作れるような別のテーマにも注目していた。そのリストから、マークが手掛けるものとして3つのリマスター・セットの案が選ばれた。(おそらくリストの上から選んだのだろう。)『ドミナリア・リマスター』は、その3つの中から最初に印刷されるものとなる。マークはスタジオXのプレイデザイナーのベン・ルンドキスト/Ben Lundquistにデザインを協力してもらった。
ユニバースのリマスター
過去に遡れば遡るほど、セットのデザインはリミテッド・プレイ向けではなかった。例えば、色の組み合わせに基づくリミテッド・アーキタイプの考え方はここ15年の成果物であり、つまりマジックの前半はそれを組み込んでいなかったということである。結果的にその方向性に近いことをしているセットもあったが、現在のように構造としてはいなかった。そのため、初期の多くのセットを使ってリマスター・セットを作るのは少し難しい。マークはこの問題に興味深い解決策を見出した。ドミナリア次元をリマスター・セットのテーマにしたらどうだろうか。ほとんどの初期のセットはそこを舞台にしているので、そのセットで使えるカード・プールは通常よりもずっと大きくなる。
ドミナリアを舞台とした(あるいは主な舞台とした)セットは以下の27個ある。(ヴォーソス諸君のために言うと、『テンペスト』『ストロングホールド』『エクソダス』『ネメシス』はラースを舞台としており、後にドミナリアと融合したが、これらはその時点ではドミナリアを舞台にしていなかったし、先の3つについてはすでに『Tempest Remastered』で使っているので含めなかった。)
- 『アルファ版』
- 『アンティキティー』
- 『レジェンド』
- 『ザ・ダーク』
- 『フォールン・エンパイア』
- 『アイスエイジ』
- 『アライアンス』
- 『コールドスナップ』
- 『ミラージュ』
- 『ビジョンズ』
- 『ウルザズ・サーガ』
- 『ウルザズ・レガシー』
- 『ウルザズ・デスティニー』
- 『インベイジョン』
- 『プレーンシフト』
- 『アポカリプス』
- 『プロフェシー』
- 『オデッセイ』
- 『トーメント』
- 『ジャッジメント』
- 『オンスロート』
- 『レギオン』
- 『スカージ』
- 『時のらせん』
- 『次元の混乱』
- 『未来予知』
- 『ドミナリア』
このリストは、ほとんどのリマスター・セットで我々が使うよりもかなり長いが、テーマはそのセットがもともとしていたことをもとにするのではなくイチから作り上げるようなものなので、必要なカードもずっと多くなるのだ。マークとベンがこのセットを作った方法はこうである。まず使えるセットすべてに目を通し、入れることができるカードを選ぶ。入れることができないカードには以下のようなものがあった。
1) 弱すぎる
マジックでは、特にクリーチャーのパワーレベルをよく把握できるようになるまで時間がかかっていたので、現在のリミテッド体験に望ましいパワーレベルに至っていないカードが多い。これによって排除されたカードは最も多い。
2) 強すぎる
パワーレベルの誤りという中には、特にリミテッドにおいて、強すぎるものもある。過去のマジックのセット、特に初期のものには、リミテッド環境を歪めるようなカードが存在していて、それらは検討から除かれた。レアリティを変更することは可能で、強力なコモンやアンコモンはあまりにも運要素が大きくなければレアリティを上げることができた。
3) カラーパイに反している
カラーパイに反したカードを再録することは、それによって新しいフォーマットで使えるようになるのでない限り認められている(つまり『ドミナリア・リマスター』にはいくらか存在している)が、馴染みのあるテーマを扱うときには、ドラフトするときにセット内で不整合になるのでカラーパイ違反には注意が必要である。
4) 狭すぎる
リミテッドでは(構築でさえ)発生しないような状況で機能するカードが、特に初期には、大量に存在している。リミテッド環境全体に寄与せず、構築環境でも役に立たないことで多くのカードが排除された。
5) 誤解しやすすぎる
ドラフトでは、そのセットで扱われていないテーマをドラフトするように示唆する、「罠」と呼ばれるものが存在する。そのカードが構築環境で有用であれば、高いレアリティに数枚あるのは問題ないが、我々はコモンやアンコモンにおいては強く警戒している。過去からカードを選ぶとき、デザイン・チームはその色のカード全体の標準からかけ離れすぎたカードには注意しなければならない。
この関門の後、彼らはプールを見て、さまざまな色の組み合わせに自然に存在しているメカニズム的テーマを探した。マジックの色は、何年にもわたってある程度一貫性がある。加えて、彼らはアンコモンに多色の指標カードが必要だったので、推奨するテーマを探すために多色カードを確認した。
当時、多くのセットで多色は採用していなかったので、使える多色のカード・プールは諸君が想像するより小さいのだ。彼らはテーマを見つけたが、カード・プールの性質上、現代のセットでしているよりも薄いものにならざるを得なかった。
これを補正するため、マークとベンは組み合わせてセット全体にうまく編み込むことができる少量のカード群を見つけた。つまり、特定のテーマを探しているとき、お互いにシナジーを持つカードによって別の方向に少し引っ張られることになるということである。これらのシナジーのあるカード群は、このカード・プールに関する最も面白いものの1つであり、ドラフトにうまい振れ幅を生み出すことができるのだ。
デザインはいくつもの反復工程を経て、どのテーマが成立してプレイして楽しいかを調べるためにプレイテストをした。そして、アーキタイプの最終形ができることになったのだ。
白青:明滅
白と青にはクリーチャーを複数回戦場に出す方法がいくつも存在している。明滅させる(追放して戻す)こと、手札に戻してから再びプレイすること、墓地から(手札や戦場に)戻すこと、コピーすること、などが可能である。このアーキタイプでは、複数回誘発させられる入場効果を大量に入れることで利益を得ている。そしてそれらの効果でゲームをコントロールし、それあのクリーチャーを使って勝利を得るのだ。
青黒:コントロール
青と黒にはカード・アドバンテージを得て対戦相手を抑え込む処分方法(打ち消し呪文、手札破壊、バウンス、クリーチャー除去、奪取など)が大量にある。このアーキタイプはいくらか遅いが、プレイヤーがゲームに影響を与えるために必要な効果を与え、時間をかけて勝利に至らしめるためのよい働きをする。青黒は、対戦相手がなぜ負けたのかわからないような方法で勝つことに非常に長けているのだ。
黒赤:ゾンビ、ゴブリン
アーキタイプのほとんどは、その2色がそのセットで最もよく使っているメカニズム空間を扱うだけのものである。黒赤は、少し違うことをしている。黒に多いクリーチャー・タイプ・テーマであるゾンビと、赤に多いクリーチャー・タイプ・テーマであるゴブリンを組み合わせる方法を見つけているのだ。ゴブリンは大量のゴブリンを出すことに長けており、ゾンビはクリーチャーを生け贄に捧げて有利を得るものである。このアーキタイプでは、ゾンビやゴブリンで有利を得るカードも使っている。そして、いくつかのセットには黒単色のゴブリンが存在している。(残念ながら、赤単色のゾンビはいない。)
赤緑:サイクリング
ドミナリアを舞台にした3つのブロック(『ウルザズ・サーガ』『オンスロート』『時のらせん』)で、サイクリング・メカニズムが使われている。(興味深いことに、もとは『テンペスト』で使うためにリチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldがデザインしたものである。)これは、リミテッドのテーマを組み立てるのに充分だった。デザイン・チームは、もっとも加速に長けた色である赤と緑を選んだ。サイクリング・カードを、序盤に引いたら必要ないものをサイクリングして加速する助けになるカードを手に入れ、その後、長期戦で引いたら唱えるのだ。
緑白:スレッショルド
スレッショルド・メカニズム(自分の墓地に7枚以上のカードがある場合に利益を得るメカニズム)は『オデッセイ』ブロック(『オデッセイ』『トーメント』『ジャッジメント』)にしか存在しないが、通常の緑白の並べる戦略との相性はいい。軽いカードで墓地を肥やし、戦場に残っているものを強化して対戦相手を圧倒するのだ。これは、上手くバランスを取るのが一番難しいテーマの1つだった。
白黒:ライフ獲得、ライフ喪失
白と黒はどちらもライフ獲得が得意な色である。(白はライフ獲得呪文で、黒は吸収効果で、そして両方とも絆魂クリーチャーがいる。)このアーキタイプでは、ライフをさまざまな方法で獲得し、さまざまな方法で消費する。このアーキタイプは遅くてコントロール寄りで、ライフ獲得を使って時間稼ぎをしながら相手のライフを削ってゲームに勝利するのだ。この種のデッキは、「流血デッキ」と呼ばれることもある。
青赤:ストーム
ストームは『スカージ』で初登場し、『時のらせん』ブロックで再登場したキーワード・メカニズムである。青赤の呪文テーマ(青と赤はクリーチャーでない呪文の比率が最も高い色である)と相性がいい。このアーキタイプは呪文を使ってテンポ・アドバンテージを取り、とどめとしてストームを使うことが多い。なお、ストーム・カードはすべて赤である。
黒緑:ザ・ロック
「ザ・ロック」はマジック史上に何度も登場しているアーキタイプである。ミッドレンジで、大量の妨害呪文をプレイする。次々と大きくなるクリーチャーを出し、呪文で障害を取り除いていく。大型クリーチャーをフィニッシャーにしていることが多い。
赤白:オーラ
通常通り、赤白は攻撃性で勝利する、アグロなアーキタイプである。オーラでクリーチャーを強化し、可能な限り攻撃的にする助けにする。これはほとんどどのセットにも存在しているので、デザイン・チームは多くの選択肢があるので可能なテーマの好例である。
緑青:ランプ
青緑ランプも、伝統的な定番アーキタイプである。青はそのコントロール要素で緑のマナ加速を支え、長期戦で両方の色の重い呪文を使うのだ。このテーマはよく使われるので、これを成立させる助けとなるカードは大量に存在する。
マークとベンがアーキタイプのテーマを揃えたら、彼らは多くの時間を費やして複数のテーマで作用する単色カードを探した。それでドラフトは活性化するだろう。このセットのウィキには、各色ごとに、その色のテーマとうまく噛み合う他の色のカードのリストが作られている。
リミテッド以外でも、マークとベンはどのカードが他のフォーマットに興味を持つプレイヤーの心を躍らせる再録になるかを見つけるために時間を掛けた。ファイルを見る上で楽しいことの1つが、過去のお気に入りのカードを大量に見ることである。
自身の運命のリマスター
今日のプレビュー・カードは、1997年ごろに私がデザインしたカードである。このカードをお見せして、そのデザインについて少しお話ししようと思ったのだ。
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学んでそしてリマスター
本日はここまで。『ドミナリア・リマスター』の創造についての話を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、今日の記事や『ドミナリア・リマスター』について、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『兄弟戦争』に関する質問にお答えする日にお会いしよう。
その日まで、あなたが古いものからの新しいものを楽しみますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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