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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『団結のドミナリア』にあり その2

Mark Rosewater
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2022年8月22日

 

 先週、展望デザイン・チームを紹介し、『団結のドミナリア』制作に関する彼らの話(の大半)をし、そしてクールなプレビュー・カードを何枚かお見せした。今回は、同じことを、セットデザインについてしようと思う。

『団結のドミナリア』の入り口、その2

 いつもの通り、『団結のドミナリア』のセットデザインの話をする前に、『団結のドミナリア』のセットデザインの共同リードを務めたイアン・デューク/Ian Dukeに彼の率いるチームの紹介をしてもらおう。

クリックしてセットデザイン・チームを表示

『団結』のデザイン演説

 前回の最後に、『団結のドミナリア』展望デザイン・チームは『ドミナリア』から多くのもの(英雄譚、多くの伝説のクリーチャー、「伝説関連」、多色への焦点、多くの振り返り、歴史的)を引き継ぎ、歴史的以外のすべては最終製品に採用された、という話をしたが、印刷に至らかなかったものも大量に含まれていた。

団結/Unite

 これは怪物化の変種で、2体のクリーチャーが協力するというフレイバーだった。マナを支払って+1/+1カウンターを得るとき、色とクリーチャー・タイプも得るのだ。以下のようなものだった。

〈ヤヴィマヤの虚幹〉
{3}{G}
クリーチャー ― ツリーフォーク
2/4
到達
団結 {3}{U}―1, 青, フェアリー(このクリーチャーがフェアリーでないなら、これの上に+1/+1カウンター1個を置き、これは青のフェアリーでもある。)
あなたが[カード名]を団結させたとき、カード1枚を引く。

 ドミナリアの住人たちが侵略してくるファイレクシア人を止めるために連帯するのは物語の中核部分なので、展望デザイン・チームは異なるクリーチャーが協力することを示すメカニズムを見つけたのだ。このセットにはマナ消費先が必要で、怪物化はその役に立つ人気のメカニズムだとわかっていた。

選別/Sift

 選別はまた別のメカニズムである。文章はこうだった。選別[コスト]([コスト], このケードをあなたの手札やあなたの墓地から追放する。占術2を行う。これがあなたの手札から追放されたなら、カード1枚を引く。)基本的には、選別はサイクリングの亜種で、墓地からも使えるという汎用性を持つ。

壮大

 これは『未来予知』のメカニズムで、伝説のクリーチャーだけが持ち、2枚目以降を捨てることで効果が得られるというものだった。展望デザイン・チームは壮大を持つコモンの伝説のクリーチャーのサイクルを実験した。

パワーストーン・トークン

 これは、『兄弟戦争』の前フリとして含まれていた。『団結のドミナリア』もドミナリアを舞台にしているので、展望デザイン・チームは次のセットのほのめかしを入れるのはクールだと考えたのだ。

 

 展望デザインはこのセットをセットデザインに引き継いだ。『団結のドミナリア』の最初のリード・セットデザイナーは、エリック・ラウアーだった。通常どおり、エリックは提出されたセットをもとに調整を始める。先週説明した通り、彼らはセットデザインの初期に、『兄弟戦争』とのバランスを取る上で問題になることから、歴史的をボツにした。もし歴史的が『団結のドミナリア』にあれば、『兄弟戦争』がアーティファクト・テーマを存分に発揮する前にコストやパワーレベルを片付ける必要があっただろう。『団結のドミナリア』のカードで間違っていれば(そしてプレイデザインの性質上、最終的なメタゲームにおけるカードの強力さは変動する)、そのことによって『兄弟戦争』の状況が悪くなり、既存の制限によって必要なことができなくなることになる。セットがそれ自身素晴らしいものであるために必要なことをスタンダードのバランスを崩さないためにできなくしたくはないので、その後のセットが扱うテーマがわかっているときには特に慎重にすることが多いのだ。展望デザイン・チームは、『兄弟戦争』との相性を良くするために歴史的をセットに入れた。しかし、少しばかり相性が良すぎたのだ。

 エリックは団結を弄ったが、それの新しい中核要素である色やクリーチャー・タイプの変更がセット内の他の部分と充分なメカニズム的関連性があるとは言えないと気がついた。追加しようと考えたが、セット内でしている他のこととのシナジーが足りなかったので、(怪物化そのもののファンであるにも関わらず)ボツにした。また、プレイテストによって充分役に立っていないとわかった選別もボツにした。コモンの伝説のクリーチャーのサイクルを取り除いたときに、壮大も削られた。セットからいくつか削られて、エリックはなにか追加できるものを探した。この時点で、エリックはこのセットが何を反映すべきかを考え始めたのだ。『ドミナリア』は、『アルファ版』のエッセンスを反映するために多くのことをした。しかし他にも多くのセットがドミナリアを舞台にしている。エリックは、今回のドミナリアがこの次元を舞台にした他のセットに敬意を示したものにしたいと考えた。

 エリックがそのひらめきを得るには時間はかからなかった。『団結のドミナリア』の物語は、この次元がファイレクシア人から自身を守るというものである。ドミナリアのセットでこのテーマを扱うのは初めてではない。『インベイジョン』ブロックは、(ウェザーライト・サーガの最後で)ファイレクシア人の侵略を描いたものだった。また、エリックが掘り下げたいと思っていた、多くの色を使うというメカニズム的テーマもあった。ここから、彼はキッカー(彼の手掛けたセットの多くで使っているので、お気に入りのメカニズムなのだろう)と版図という、ともに『インベイジョン』で初登場したメカニズムを再登場させた。キッカーはこのセットに必要だったマナ消費先(この時点で団結も選別もボツになっている)となり、色違いのキッカーを使えば多色化を進めることもできる。ちなみに、ここからできたのが今日のプレビュー・カードの2枚であり、どちらも色違いキッカーを使っている。

クリックして「アーボーグのルアゴイフ」「要塞の闘技場」を表示

 もう1つ追加された、さまざまな基本土地を使っていることを参照する版図はより多くの色をプレイする動機となる。版図は、リチャード・ガーフィールドとともにマジックを初めてプレイした人物であるバリー・レイヒ/Barry Reichが作った。バリーが作ったセット「Specrtal Chaos」は生産されなかったが、その一部は『インベイジョン』に採用されており、版図はその中でも最大のものだった。版図は初登場当時は名前がついていなかったが、『コンフラックス』で再登場したときに能力語になった。

 名前のあるメカニズム最後の1つはエリックではなく、セットデザインの後期にイアンにより追加されたものである。エリックは団結をファイルから取り除いたが、それが表していた、ドミナリア人が協力してファイレクシア人と戦う、というフレイバーはセットに残っていた。イアンも、セット内に戦闘に関わるものがないことに気づいていたので、彼率いるチームはこの空間を埋めるメカニズムを探すことになった。

 エリックが古き良きドミナリアのセットへの郷愁から思いついたのと同様に、イアンは発想の源を古き良きドミナリア人のメカニズム、バンドに求めた。この結果、セットデザイン・チームは後援(このクリーチャーが攻撃するに際し、あなたがコントロールしていて召喚酔いの影響を受けておらず攻撃していないクリーチャー1体をタップしてもよい。そうしたとき、ターン終了時まで、、このクリーチャーのパワーにそのタップしたクリーチャーのパワーを足す。)というメカニズムを作ったのだ。バンドは『アルファ版』から登場しており、クリーチャーが協力するというアイデアをメカニズム的には表している。長年の間常盤木メカニズムだったが、複雑さのせいで最終的には取り除かれた。後援は、他のクリーチャーのパワーを後援を持つクリーチャーに足すことで協力という雰囲気を再現しているが、バンドに比べて大幅に単純になっている。後援は、白、赤、緑に登場している。

 先述したパワーストーン・トークンはセットデザインのほとんどの期間大量にファイルに存在していたが、デザインが続く間に減り続けた。最終的に、イアンは『兄弟戦争』のリード・セットデザイナーのヨニ・スコルニク/Yoni Skolnikと話し合い、『団結のドミナリア』には大規模な「前フリ」(開発部語で言う、大きく取り上げるセットの前のセットでメカニズム要素を初登場させること)は必要ない、と判断して、(《生けるレガシー、カーン》と『団結のドミナリア』統率者デッキのカード1枚の)2枚だけになった。

 エリックとイアンとセットデザイン・チームは、展望デザイン・チームが提出した多くのものを微調整するのにかなりの時間を費やした。

「先読」英雄譚

 セットデザインは、どの章からでも始められる英雄譚の構造は気に入ったが、彼らが最初に考えたよりもすっとデザイン空間が狭いことに気がついた。魅力的な「先読」英雄譚を作る鍵は、状況に応じてプレイヤーが違う選択をするような効果を選ぶことである。これは、思ったよりずっと難しい。英雄譚の中には、アーキタイプごとに異なる働きをするようにデザインされているものもあった。展望デザインは、「先読」英雄譚は通常の英雄譚と混ぜることができると提案していたが、セットデザイン・チームは10個のデザインを作り、「先読」英雄譚だけで揃えたのだ。

伝説のクリーチャー

 セットデザイン・チームは最終的に伝説のクリーチャーをコモンから外したが、『ドミナリア』同様にパックに1枚入れることを含む全体のテーマとしては残した。セットデザインで追加された大きなことは、指針となるアンコモンの金色の伝説のクリーチャーによる10枚サイクル2つだった。それぞれの2色テーマごとに、そのテーマ内で別々の働きをする2体のクリーチャーをデザインしたのだ。また、彼らは統率者デザイナーと話し合い、レアの伝説のクリーチャーが、特に3色のものについて、統率者としてうまく働くようにした。

「伝説関連」

 このテーマはセットには残っているが、最終的に、キッカーや版図のカードのための場所が必要だったので、いくらか切り下げられた。

過去参照カード

 セットデザイン・チームが発想のもととして『インベイジョン』に焦点を当てたとき、『インベイジョン』ブロックの過去を参照する多くのカードにも焦点を当てることにしたが、他のセットを示唆しているものも大量にある。ドミナリアへの再訪の楽しいことの1つが、セットに大量のイースターエッグを仕込めることである。セットデザイン・チームが追加した新しいサイクルの1つが、単色ロード(特定のクリーチャー・タイプを強化するクリーチャー)のサイクルであり、それぞれが言及するクリーチャー・タイプは『アルファ版』から存在しているものである。

 もう1つ、エリックとイアン率いるセットデザイン・チームが時間をかけたのが、マナだった。『インベイジョン』はこのセットに大量の影響を与えているが、その最大の弱点はマナ基盤だった。セットデザイン・チームは現代の道具を使って、プレイヤーが必要な色を使えるようにしようと考えた。彼らはコモンとレアにそれぞれ1つずつ、2色土地のサイクルを入れた。

 『団結のドミナリア』は、プレイヤーが主には2色デッキとタッチ1色で、2色デッキから5色デッキまで好きにドラフトできるようにデザインされている。この多色テーマのため、ドラフト・アーキタイプを作ることがいくらか難しくなったので、エリックとイアンは強い単色テーマを作ることに集中し、プレイヤーがさまざまな色を使うときに組み合わせることに決めたのだ。そのテーマがこれである。

 白はクリーチャーが最多の色なので、主なテーマは並べること、つまり大量の小型クリーチャーをプレイしてその軍団で攻撃することである。並べる戦略の中に、トークンの利用も含まれる。

 青は呪文の割合が一番高い色なので、主なテーマはインスタントやソーサリーを扱うことであり、それには大量に唱えることやメカニズム的にそれらをプレイすることに言及するカードが含まれる。

 黒は死の色なので、クリーチャーを殺すこと、クリーチャーを生け贄に捧げること、墓地を操作することの3つを主に扱う。

 赤は攻撃性の色なので、アグロ系クリーチャーと直接ダメージ呪文の組み合わせで勝つことに焦点をおいている。

 緑はマナに最も重点を置いた色なので、加速する道具を持ち、版図が最も得意である。

 

 これらの5つのテーマを組み合わせれば、2色のアーキタイプ10種類ができることになる。

白青

 並べることと、インスタントやソーサリーを組み合わせるので、大量のトークンを生成し、それらを守り、それらを強化することになる。並べる戦略は伝統的に白青ではないので、これは新奇な空間になる。

青黒

 これはインスタントやソーサリーと死の組み合わせである。結果として、カード・アドバンテージを活かしてゆっくり勝つコントロール・デッキになる。

黒赤

 これは死と攻撃性の組み合わせである。 その結果は、自軍のクリーチャーが死ぬことで利益を得る、アグロ系クリーチャー戦略になる。

赤緑

 これは攻撃性と加速の組み合わせなので、版図カードを使ったミッドレンジのクリーチャー・デッキになる。

緑白

 これは版図と並べる戦略の組み合わせである。このデッキでは自軍を強化するための道具として版図を使うために他の色をタッチする。

白黒

 これは並べる戦略と死の組み合わせなので、大量の小型クリーチャーを生成し、生け贄に捧げて対価を得るデッキになる。これは最終的に、ほとんどの並べる戦略より遅いコントロール・デッキになる。

青赤

 これはインスタントやソーサリーと攻撃性の組み合わせである。ここから生まれるのは、テンポ系の呪文デッキになる。

黒緑

 これは死と加速の組み合わせである。これは、墓地を利用するミッドレンジ・デッキになる。

赤白

 これは攻撃性と並べる戦略の組み合わせであり、赤白の典型的なアグロ系クリーチャー戦略になる。

緑青

 これは加速/版図とインスタントやソーサリーの組み合わせである。この結果、版図を最大限に使う2~3色をタッチした緑青ベースのデッキになる。

 

 これらすべての結果、新旧がバランスよく混じったと感じられる、まさにドミナリア次元そのもののセットとなった。

侵略その2

 『団結のドミナリア』のセットデザインの覗き見を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、今日の記事や『団結のドミナリア』についての反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『団結のドミナリア』のカード個別の話を始める日にお会いしよう。

 その日まで、あなたがドミナリアでの時間を楽しめますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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