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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『バルダーズ・ゲート』一番乗り

Mark Rosewater
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2022年5月17日

 

 『統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い』のプレビューにようこそ。今日は、このセットのデザインについての話をして、展望デザイン・チームとセットデザイン・チームの紹介をして、そしてクールな新しいプレビュー・カードをお見せしていく。盛りだくさんなので、早速始めよう。

伝説の存在に連なる伝説

 このセットのデザインの話を始める前に、まずこれを手掛けたデザイナーたちを紹介したい。いつもの通り、彼らとともに働いたセットのリードたちに紹介してもらうことにしよう。以下の紹介は、セットデザインのリードであり展望デザイン・チームに所属していたコーリー・ボウエン/Corey Bowenによるものである。

『統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い』(CLB)の展望デザイン・チームとセットデザイン・チームの紹介(クリックで表示)

「はじまりはじまり……」

 この記事では、さまざまなことについて話す。マジックは、ユーザーがどう使うか、そして、開発部がユーザーが楽しんでくれると思われる新しい空間の予測に基づいてどの方向に向かうか、という両方において順応し続ける流動のゲームである。『統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い』では、直近の2つの流れが初めて1つのセットで合流している。興味深いことに、それらの流れはどちらも同じ根源、カジュアル・プレイの華々しい隆盛によるものなのだ。

 1つめの流れは、統率者戦への流れである。2011年、我々はこのフォーマットの人口が増えつつあるととに気づき、その年の革新的製品枠を割り当てることにした。統率者デッキは大好評だったので、毎年恒例の製品になったのだ。その後、無作為のブースター製品の殆どで、構築済みのプレインズウォーカーデッキは統率者デッキに変わっていった。この人気のもう1つの副作用が、もう1つの人気のフォーマットであるドラフトを統率者線でする方法がほしいというものであった。この要望から生まれたのが2020年に発売された『統率者レジェンズ』である。この製品は好評で、我々はもう一度作ることにしたのだった。

 2つ目の流れは、他のIPをマジックに導入するというものである。アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheはソーシャルメディアで、他のIPがマジックのメカニズムでどう表現されるかという話題をファンが楽しんでいることに気づき、現在のプレイヤーが楽しみ、そして、マジックを新しいユーザーに届けることができる製品を作るいい方法だと気がついたのだ。このアイデアはやがて『ユニバースビヨンド』になっていく。これを試す最初の第一歩は、『ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ』だった。これは2つの理由から最適だった。1つ目が、伝統的ハイ・ファンタジー設定はマジックとよく馴染むものだったということ。そして2つ目が、D&Dもウィザーズ・オブ・ザ・コーストの製品であり、ライセンスの問題が単純だったことである。『フォーゴトン・レルム探訪』は2021年の夏に発売され、大ヒットになった。我々は、この1作目がまだ発売もされていない間から、2つ目のD&Dセットを作ることを検討するほどにこの製品に楽観的だった。

 いつ「チョコレート・ピーナツバター・カップの瞬間」(「チョコレートとピーナツバターを組み合わせたらどうだろう?」)が訪れたのかはわからないが、誰かがどこかで、2つ目の『統率者レジェンズ』を2つ目のダンジョンズ・アンド・ドラゴンズのセットにしようと提案したのだ。どちらの製品も、カジュアルで、社会的で、多人数戦好きなユーザー向けだったので、この2つのマリアージュは完璧なものに思われた。誰もがすぐ同意した。我々は公式な同意を取るためにD&Dチームと話し合い(ライセンス製品である)、その会議の中でバルダーズ・ゲートを舞台にすることが提案されたと思う。つまり、展望デザインが始まる時点で基本的に3つのことが決まっていたことになる。(1)『統率者レジェンズ』である、(2)D&Dのフレイバーを用いる、(3)バルダーズ・ゲートを舞台にする。それらそれぞれについて我々が取った手法は次の通りだった。

『統率者レジェンズ』である

 『統率者レジェンズ』製品である、というのはどういうことか。『統率者レジェンズ』の中核的特徴は、ドラフトできる統率者戦であるということである。それでは、そこから何が言えるか。1つ目に、デッキには統率者が必要なので、大量の伝説のクリーチャーが必要である。(どちらの『統率者レジェンズ』セットにも、使いたい統率者をドラフトしなかった場合にいつでも統率者として使えるカードが含まれている。)

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 2つ目に、プレイヤーが同じカードを何枚も見ないようにするため、充分な枚数が必要である。(構築統率者戦と違い、リミテッド統率者戦では同じカードを複数枚入れることができる。)『統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い』には、初代『統率者レジェンズ』と同じく、361枚のカードが含まれている。『統率者レジェンズ』のブースターは20枚入りで、ドラフト時には2枚ずつドラフトするということを思い出してほしい。

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 3つ目に、統率者戦らしいプレイに向かうものである。つまり、このセットには多人数戦で輝くメカニズムがあるべきである。これが、使嗾や無尽が再登場した理由である。この前者はゲームを終わらせるような攻撃を奨励するもので、初の多人数戦常盤木能力となった。この後者は、コーリーがこのメカニズムの大ファンで、このメカニズムがこのセットのテーマの多く(トークン、生け贄、全プレイヤーへの攻撃など)と相性がよかったのでセットデザイン中に『統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い』に加えられたものである。展望デザイン・チームは新しい多人数戦メカニズムを追加したが、それについては後で語ろう。

 4つ目が重要で、ドラフトを進めている間にプレイヤーが色を追加できるようにするメカニズムが必要だということである。通常のドラフトでは、マナのシステムからデッキに色を追加するように調整することができるので、1色で始めて追加の色に枝分かれしていくことができる。ドラフトの序盤で緑のカードをドラフトしていて、後で強力な赤のカードをドラフトすることにしたなら、必要なだけの《》を追加することができるのだ。

 『統率者レジェンズ』での課題が、統率者が色を定義するということである。統率者をドラフトすると、その時点で色が固定されるのだ。よいドラフト体験に繋がる、その柔軟性は認められていない。初代『統率者レジェンズ』ではこの問題を共闘メカニズムで解決していた。ドラフトの後半になって2色目を追加することができるように、すべての単色の伝説のクリーチャーは、他の単色の伝説のクリーチャーと共闘することができるようになっていた。(共闘を持たない2色、3色の伝説のクリーチャーもいたが、それはそもそも多色を扱うものである。)

 共闘は、4色の統率者デッキを4色カードなしで成立させるため、『統率者(2016年版)』で初登場した。そして、『統率者レジェンズ』で再登場したのだ。『統率者レジェンズ』のプレイデザイン中に、共闘メカニズムには限界があることが明らかになった。マジックに共闘カードが増えていくと既存の共闘クリーチャーが強化されることになり、このメカニズムが壊れる(共闘を持つ多くのカードを禁止しなければならないほど強力になる)限界があるのだ。『バトルボンド』は「~との共闘」メカニズムという次善策を作った。これらのカードは共闘できるが、特定のクリーチャー1種としか共闘できないのだ。『Secret Lair x Stranger Things』は、永遠の友というメカニズムで新しい形の共闘を試した。この能力は、そのグループの伝説のクリーチャー同士だけが共闘できるというものだった。

 『統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い』チームは、共闘以外の解決策を探したが、共闘のほうが堅牢だとわかった。元の無制限の共闘は使えないと認識していたが、~との共闘や永遠の友のような変種を採用できないかと考えていた。理想的には、ドラフトを可能にするため、それらよりももう少しだけ柔軟性のあるものが必要だった。いくらかの掘り下げのあとで、彼らは、キャラクターのバックグラウンドを参照する伝説のエンチャントである背景というアイデアを思いついた。これはD&D的にフレイバーに富んでいて、共闘の新しい形だった。このセットのすべての単色の伝説のクリーチャーは、背景と共闘できる「背景選択」という能力を持っている。背景は、統率者を強化して追加の能力を与えるエンチャントである。初代『統率者レジェンズ』同様、このセットにも共闘も背景選択もしない多色の伝説のクリーチャーが存在している。数に興味がある諸君のために言うと、このセットには合計85枚の伝説のパーマネントがあり、うち27枚は背景選択を持つ単色の伝説のクリーチャーで、25枚は背景で、33枚は多色のクリーチャーや(統率者として使える)プレインズウォーカーである。

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D&Dのフレイバーを用いる

 『統率者レジェンズ』同様、展望デザイン・チーム(『統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い』の開発中に『フォーゴトン・レルム探訪』が発売されたので、後にはセットデザイン・チーム)は『フォーゴトン・レルム探訪』がしたことの中で採用したいものを探した。最終的に、5つ見つかった。

 1つ目が、フレイバー語(ルール文の直前にフレイバー書体で書かれて、フレイバー的文脈を与える語句)の継続。マジックのクリエイティブは、マジックの受け取られたに合うようにデザインされている。他のIPはそうなっていないので、カードに書きたい表記をするのが難しいことがあるのだ。フレイバー語はこの問題のための価値ある道具であることがわかっていて、おそらくこれは多くの『ユニバースビヨンド』のセットで定番の道具になることだろう。(厳密に言えば、『フォーゴトン・レルム探訪』は『ユニバースビヨンド』には入らないが、その先駆けではある。)『統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い』は、フレイバー語をカードのモードを示す固定語としても用いている。これによって、D&Dのロールプレイング・ゲームのセッションに期待される、複数の選択肢から選ぶことができるイベントを多くのカードで登場させることができるようになっている。

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 2つ目が、ダイスを振ることと結果チャートの再登場。20面ダイスを振ることはD&Dの象徴なので、我々は『フォーゴトン・レルム探訪』で「1個のd20を振る」メカニズムとその出目に基づいた結果を示す表を持つカードを作った。『統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い』は『フォーゴトン・レルム探訪』でしたことを繰り返し、さらに新しいひねりを加えている。ダイスの出目以外にも影響を受ける表や、複数個のd20を振るカード、表なしでd20を使う神話レアのクリーチャーのサイクルが存在している。

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 3つ目が、D&Dの人気の要素に基づく大量のトップダウンのカード。ちなみに、セットデザイン・チームは、『フォーゴトン・レルム探訪』に入っていなくてファンが不満を感じたものに注意を払っていた。その結果、今日のプレビュー・カードは諸君にお見せしたい楽しいトップダウンのデザインとなっている。

 《魔女王、ターシャ》は、バーバ・ヤーガの養女であり、非常に強力な魔法使いである。その強力さを示すため、このセットで彼女はプレインズウォーカーになっている。

 これが「魔女王、ターシャ」だ。

 4つ目が、『フォーゴトン・レルム探訪』のダンジョンと相互作用させる方法。『フォーゴトン・レルム探訪』では、3種類のダンジョンのうち1つに入るという「ダンジョン探索」という新しいキーワード処理が登場していた。

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 興味深いことに、展望デザイン・チームは別の目標を目指していた。彼らは新しい多人数戦用メカニズムを作ろうとしていて、それが新しいダンジョンを作る上での目標と合致したのだ。統治者は、『コンスピラシー:王位争奪』で初登場したメカニズムである。これは、プレイヤー1人がなることができるもので、その後、ゲーム内のすべてのプレイヤーがその地位を奪い合うのだ。このメカニズムは好評で、初代『統率者レジェンズ』と『フォーゴトン・レルム探訪』の統率者デッキの2回再登場している。

 統治者は、自分の終了ステップの開始時にカード1枚を引く。統治者であるプレイヤーに戦闘ダメージを与えることで、統治者の地位を奪う。展望デザイン・チームは、統率者のカードを引く能力は少しばかり強いと考え、他に使える効果を探していた。そして、その効果がダンジョン探索にできると気がついたことで、デザイン上2つ目の「チョコレート・ピーナツバター・カップの瞬間」が訪れたのだ。

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 共闘同様、ダンジョン探索もダンジョンが増えすぎると壊れるメカニズムなので、実際にはダンジョン探索することはできないとわかった。彼らは、上手くバランスを取れて、ダンジョン探索と相互作用できるようにする興味深い次善策を見つけた。その働きは次の通り。『統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い』版の統治者は、イニシアチブというD&D由来の用語である。イニシアチブを得るたび、あるいは自分のアップキープの開始時に、地下街探索ができる。ダンジョンにいないなら(同時にはダンジョン1つにしかいられない)、必ず「地下街」というダンジョンに入らなければならない。『フォーゴトン・レルム探訪』のカードですでにダンジョンにいるなら、そのダンジョンの探索を進めることになる。両セットにある踏破したことを参照するカードは、踏破したのが『フォーゴトン・レルム探訪』の3枚のダンジョンや『統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い』の地下街のうちどれであっても参照する。

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 もう1つ、D&Dに関係していることでデザイン・チームが意識していたことがある。D&Dセットにうってつけと感じられる、既存のマジックのメカニズムはないか。社内の多くの人と話した結果、最有力候補が2つ見つかった。『エルドレインの王権』の出来事・カードと、『ゼンディカーの夜明け』のパーティー・メカニズムである。

 パーティー・メカニズムを作用させるためにかなりの時間を費やしたが、2つ問題があった。1つ目に、D&Dのクラスは4つではなく12個あること。2つ目に、大量のトップダウン・デザインが必要で、特定のクリーチャー・タイプの開封比が高い必要があるメカニズムとなじまないこと。妥協の結果、統率者デッキの1つで使うことになった。

 一方、出来事・カードはまさにふさわしいとわかった。プレイヤーが向かうことになる出来事というフレイバー付けができ、そして唱えたパーマネントは怪物にせよクールで新しい魔法の品物にせよ、その探索行で見つけたものというフレイバー付けができる。この後者のことから、パーマネント側としてクリーチャーでなくアーティファクトであるものが初登場することになった。

バルダーズ・ゲートを舞台にする

 キャラクター、物品、呪文、場所まで、ほとんどの場合、カードが描くものは舞台によって決まる。多くのトップダウン・デザインは最終的に大量のチャーミングでフレイバーにあふれたカードになるのだ。ただし、バルダーズ・ゲートの要素のうち1つは、メカニズム的表現になる。バルダーズ・ゲートの世界には、9つの門がある。マジックには、ラヴニカのおかげで、門という土地のサブタイプがある。『統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い』は、ちょうど9個の門(7個がコモン、1個がアンコモン、1個がレア)を作ることでこれを活かしている。このセットには門で利益を得る多くのカードがあり、基柱にしてドラフトすることやラヴニカの門と組み合わせて「門関連」の構築デッキを作ることができるのだ。

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本日のセッションはおしまい

 本日の記事はここまでとなる。デザインの話(とプレビュー・カード)を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、諸君からの反響を楽しみにしている。この記事について、プレビュー・カードについて、あるいは『統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い』の要素について。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い』のカード個別のデザインの話をする日にお会いしよう。

 その日まで、あなたがバルダーズ・ゲートを旅する多くの壮大な冒険に出会えますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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