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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

こぼれ話:『ニューカペナの街角』

Mark Rosewater
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2022年5月9日

 

 各セットごとに、私は、最新セットに関する諸君からの質問に答える一問一答記事を書いている。今回は、『ニューカペナの街角』の一問一答の番となる。

 私のツイートは次の通り:

 現在、『ニューカペナの街角』の一問一答記事を書いている。この新セットに関する質問があれば、1問1ツイートで送ってくれたまえ。#WotCStaff

 

 いつもの通り、可能な限り多くの質問に答えようと思うが、以下のような理由によって答えられないこともある。

  • 文章量の都合で、答えられる質問の数には限界がある。
  • すでに同じ質問に答えている場合がある。最初に来た質問に答えるのが通例である。
  • 私が答えを知らない質問もあるし、正しく答える資格がないと思われる質問もある。
  • 将来のセットのプレビューになるなど、さまざまな理由で回答できない話題もある。

 それでは、質問に入るとしよう。

物語上は死んでいるはずの天使たちがセット内に何枚も入っているのはなぜですか?

 

 過去の事件により、天使の多くは彫像になり、残りは安全のために社会から身を隠している。あまりにも長い間去っていたので、民衆は死んだのだと思っているが、実際はそうではない。物語の最後になるジアーダの天使の目覚めの結果、ニューカペナに天使たちがゆっくりと戻りつつある。カードセットで描かれているのは物語の途中や後の都市なので、天使の帰還がカードに反映されているのだ。物語上のこの部分はもっと明確にできたと思う。

天使たちが作った世界なのに、なぜ5色の伝説の天使がいないんですか?

 

 一問一答記事をしていて楽しいことの1つが、このような正反対の質問を受けられることである。なぜこのセットに天使がいるのか? なぜこのセットに5色の伝説の天使がいないのか?

 なぜ5色の伝説の天使がいないのかという点に関して、いくつか理由がある。

  • このセットには天使がいるが、役割は小さく、5色の統率者を入れるにふさわしいとは思えなかった。
  • そのカードにできるようなキャラクターがいなかった。
  • このセットは弧3色に焦点を当てているので、心躍る多色カードは3色にしたかった。なお、セット内唯一の5色カード、《五者会談》は3色テーマに焦点を当てたものである。

調査を「私立探偵」的なキャラクターのために再録することは考えましたか? この世界にこの上なくふさわしいと思います。

 

 近年わかってきたことの1つが、各セットにいくらかの芳醇さ、つまりユーザーがすでに馴染みのあるものとの関わり、を持たせることの重要性である。(これについて詳しくは、私の「踊る芳醇さ」の記事を参照のこと。)芳醇さの中には、プレイヤーが人生やポップカルチャーを通じて体験したことがある一般的なものと似たようなテーマを持つ素材の塊が含まれる。こうして、我々はセット内で用いる素材を絞ることを学んだのだ。ミステリーは犯罪と関連しているが、それ自身が1ジャンルであり素材を持つ。そのため、『ニューカペナの街角』で使う素材はすべて犯罪を中心としたものにして、他のジャンルに渡る素材はそれをテーマにした将来のセットのために残すことにしたのだ。

白にカードを引くカードが何枚かありますが、どれもメカニズム的に謀議メカニズムから外れているように見えます。なぜですか?

 

 謀議は+1/+1カウンターとルーター効果(引いて捨てる)との2つのメカニズムの組み合わせである。白は+1/+1カウンターについては第1位だが、ルーター効果については第5位である。(白は手札を捨てることで墓地を肥やすことが不得手である。)そのため、我々は意図して白単色には謀議カードをあまり入れなかった。本体セットには2枚しか存在していない。その上、謀議はカード・アドバンテージをもたらすメカニズムではない(手札は増えない)ので、カードを引く効果と組み合わせてもうまく働かない。

3色のプレインズウォーカーがいないのはなぜ? ナヤ3色のプレインズウォーカーをついに登場させるいい機会だったと思います。

 

 これはよくある質問だ。マジックにはXが必要です。(それでサイクルが完成することが多い。)この新セットのテーマなら、フレイバーに富んだXができます。Xはどこですか? 一言で答えると、サイクルを完成させることは、プレイヤーが考えているほど開発部での優先順位は高くないことが多い。

 すべての3色の組み合わせにプレインズウォーカーが必要だろうか。もちろん、いつかは。それは喫緊の課題だろうか? そんなことはない。より優先されるべき事項が大量に存在している。例えば、物語上のキャラクターを描くこと、セットのテーマにふさわしいようにプレインズウォーカーをデザインすること、スタンダード内のプレインズウォーカーの色のバランスをとること、プレインズウォーカーを大量には作らないので可能な限り一般的に有用なものにすること。

 総合的な考え方として、機会があれば3色のプレインズウォーカーを作り、それには時間がかかるので、プレイヤーには急いで見えないのだ。ゲームでの必要性よりも、美的な問題のほうがずっと多いのである。

このセットはトップダウンですか、ボトムアップですか、それともその中間ですか?

 

 諸君にマジックのデザインの内幕を話すのは楽しいものだ。そのために、私は開発部で使っているさまざまな語彙を共有し、デザインについての話をしやすくしている。トップダウン・デザインとボトムアップ・デザインは、その工程がどのようなものであるかを理解する以外にはあまり使い道のない用語の好例である。

 知らない諸君のために説明しておくと、トップダウン・デザインはフレイバー的発想(ギリシャ神話の次元、ゴシックホラーの次元など)から始まるものであり、ボトムアップ・デザインはメカニズム的発想(2色陣営、土地メカニズムなど)から始まるものである。技術的に言えば、セットの中核構造をどのように作るかによる。我々の仕事がうまく行けば、ほとんどの場合、どちらであるかは諸君には判断できない。というのは、我々は各セットのメカニズムとフレイバーが継ぎ目なく繋がり合うようにするために尽力しているからである。

 『ニューカペナの街角』は3色陣営セット(メカニズム的)であり、犯罪のセット(フレイバー的)である。さて、トップダウンかボトムアップか。答えは、ボトムアップ・セットである。多色の陣営セットを作る場合、メカニズム的にかなり緻密な構造が必要になる。今回の場合、完全にサイクルを基柱にしている。3色カードや2色カードはすべてがサイクルの一部であり、中には条件が厳しいものもある(マナ・コストやカード・タイプ、ルール文、パワー/タフネスの共通点が多ければ多いほど、厳しいといえる。)フレイバーはメカニズムや個別カードの振る舞いを決める上で重要だったが、セット全体を組み上げる基本構造には影響を与えていない。

どうやって、弧3色の陣営を『アラーラの断片』と別物かつ色の特徴に合ったものにしましたか? ところで、このセットはすごくすごいです。

 

 セットの構造はセットのメカニズム的必要性に基づくものである一方、弧3色はフレイバーに基づくものである。5つのファミリーそれぞれについて、犯罪分野があり、それによって各ファミリーがどういう雰囲気かを決めることができ、そこからキーワードやドラフト・アーキタイプが決まっていった。一方、『アラーラの断片』は、全く違う視点から始まっていた。断片、つまりそのセット内の弧3色それぞれについて、我々は、色1色とその友好色だけが存在して敵対色が存在しないなら次元はどうなるかを考えた。

 弧3色の1つ、青黒赤を例にしてみよう。『ニューカペナの街角』では、貴顕廊一家であり、芸術を愛する暗殺者の陣営である。『アラーラの断片』では、グリクシスであり、悪魔と屍術師が支配する死と暗闇に焦点を当てた次元である。それぞれが全く異なる視点から始まっているので、デザイン・チームは色の組み合わせについてそれぞれに異なる側面を掘り下げることになった。もちろんメカニズム的な重なりはあるが、両陣営の雰囲気は全く異なるものになっている。これが、デザインを独自の視点から始めることの力である。そうすることで、それまでデザインしたことがないものを作ることができるようになり、色が同じ2つの陣営をお互いに別物にする助けになるのだ。

『ニューカペナの街角』(とその直前の『神河:輝ける世界』)で登場した街灯や産業、車などはウルザ時代の機械やカラデシュの技巧とは技術的に大きく異なります。この現代性は、マジックの振り子なのでしょうか?

 

 私が気に入っているマジックの部分の1つが、常に新しい境界に挑み、新しいものを試せることである。今年我々は、より現代的な要素を含むセットに対してユーザーがどう感じるかの調査をしてきている。成功すれば、そして現時点ではそうだと思われる、現代性は将来使うべき時に使うことができる道具の1つになることだろう。伝統的ファンタジーは今後も我々の標準であり続ける。

前回の断片セットから14年が経っています。この期間の間に、断片のメカニズム的な働きについてデザイナーの見方は変わりましたか?

 

 マジックのデザイン技術は常に進化しているので、『アラーラの断片』ブロックからは多くの変化があった。おそらく裁断の変化は、3色セットのデザイン全般の方法だろう。『タルキール覇王譚』でその作り方が再発明され、『ニューカペナの街角』はそれをもとにしている。常に変わり続けているカラー・パイも変動している。それ以上に、これまで述べてきたように色の組み合わせへの取り組み方はさまざまに存在しているので、『アラーラの断片』を作ったときからは多くのことが変わっているのだ。

トライオームの基本土地タイプはどういう意味ですか? ボクシングのリングがなぜ沼で森で山なんですか?それについて考えすぎるべきではないんでしょうか?

 

 土地タイプは、そこまで文字通りに捉えるべきではないと考えている。例えば、沼、というのは、文字通りの沼であるというよりも、黒マナの発生源、という意味が強い。もともとはフレイバーに基づいていたゲーム用語で、ときとともにマジックがさまざまな側面を表すように広がってきたものなのだ。

SNCで、年季の入ったプレイヤーでさえ混乱するような(《雑集家、ラグレーラ》とか)特に文章量が多いカードが増えて、スタンダードのマジックのカードの平均の文章量はまた増えているように思えます。この複雑さについて、特にコモンやアンコモンについて、どうお考えですか?

 

 複雑さがプレイヤーにどう影響を与えるかについての理解が、時を経て変わってきていると思う。特に低いレアリティで、文章量(ルール文中に存在する単語の数)に注目するのではなく、単語の独自性(ルール文中に存在する単語の種類数)に注目するようになっている。

 例えば、奇襲メカニズムは注釈文を含めて4行の文章になっているが、奇襲の意味を理解してしまえば、それ以降はどの奇襲カードであっても奇襲は簡単に把握できるようになる。つまり、奇襲メカニズムは『ニューカペナの街角』のコモンやアンコモンにおける平均の文章量を増やしているが、「単語の種類」の合計(それらのカードをプレイするために理解する必要がある単語の数)は過去のセットとそう変わらない。これは、マジックが30年近く続き、文章量の少ない新デザイン空間が減ってきたことの副産物である。

SNCの複雑さのレベルについてどう思っていますか?

 

 先の質問への答えを踏まえて、ここ数年で平均の複雑さを少し上げているということを伝えたい。カードプールの広く複雑なフォーマットでプレイしたり、ルールの複雑さに対処しやすいオンラインでプレイしたりするプレイヤーが増えていることから、我々は平均的プレイヤーがもう少し複雑さに対処できるようになっていると気が付き、新しいセットをそれに合わせているのだ。

この名前なのに、ニューカペナの街角を描いたカードがこんなに少ないのはなぜですか? 土木工学についてのセットがカードでは人形生命体ばかり扱っているのは奇妙に思えます。

 

 いい質問だ。『神河:輝ける世界』は、世界観についてあまり触れていない。『イニストラード:真紅の契り』には契りがほとんどない。『イニストラード:真夜中の狩り』は……。狩りがすべてだっただろうか。おそらく、この質問者は最近のセットに欠けている大事なものを見つけてくれたのだろう。多分ね。

伝説のアライグマは検討しましたか?

 

 楽しい統率者をマジックに導入する、大きな計画がある。

  • 第1段階 ― 銀枠セットに入れる
  • 第2段階 ― 本流のセットに入れる
  • 第3段階 ― 本流のセットに入れ続ける
  • 第4段階 ― 本流のセットで伝説のカードにする

 これは《秘密を知るもの、トスキ》で取った手法である。耐え給え、計画は進行中なのだ。

今後、盾カウンターのような定義済みカウンターは増えますか? 落葉樹にはなりますか?

 

 私は、カウンターにはかなりのデザイン空間の可能性があると考えている。カウンターで最も注意すべきことは、盤面をあまり混乱させないようにすること、つまりプレイヤーがクリーチャー上のカウンターを特にリミテッドで識別できるようにすることである。パンチアウト・トークンはそれを低減してくれる。新しいカウンターの広い使い道が見つかれば、落葉樹になる可能性はあると考えている。

見た目がセファリッドらしくないセファリッドを復活させたのはなぜですか?

 

 ここで重要な点が2つある。

 1つ目に、次元ごとに同じクリーチャー・タイプでも見た目が違うようにすることが多いということ。例えば、これらのゴブリン・カードはそれぞれ違う姿のゴブリンである。

 マジックが多元宇宙を動き回ることの楽しみの中には、クリーチャーのそれぞれ異なる姿を見ていく可能性がある。これはマジックの性質であり、欠陥ではない。

 2つ目に、「セファリッドを作ろう」という目標から始めたわけではないということ。この次元にふさわしい見た目のクリーチャーを作り、その後でそれにもっともふさわしいクリーチャー・タイプを決めるのだ。

統率者デッキで数枚に再登場している召集を本体セットで使う計画はありましたか?

 

 私が知る限りはない。統率者デッキのカードをデザインするにあたっては過去のメカニズムを使うことがいくらか認められるようになっている。本体セットで再録するほどにはふさわしくないが個別のデザインとしては非常に楽しいメカニズムを再登場させることはかなり楽しい可能性がある。

欲深き者、エヴリン》や《ジェトミアの情婦、ジニー・フェイ》のようなコストを持つカードをデザインしたデザイナーに聞きたいんですけど。つまり……「基本の」色と両「友好」色を組み合わせるものですか、それとも、少しだけ「右の友好」色と「左の友好」色を(混成マナなどで)入れた「基本」色というようなものなんですか?

 

 この混成サイクルをどのように作ったか見ていこう。《ジェトミアの情婦、ジニー・フェイ》を例として取り上げる。各カードのコストはちょうど3マナである。その陣営の中心色が中心のマナとなる。《ジェトミアの情婦、ジニー・フェイ》の場合、舞台座一家なので緑である。1つ目と3つ目のマナ・シンボルは、中心色と、その陣営の他の2色それぞれの混成マナ・シンボルである。この色は、混成マナを書く上では、中心色は緑マナ・シンボルに隣接した側に置かれる。《ジェトミアの情婦、ジニー・フェイ》の場合、1つ目のシンボルが赤緑混成、3つ目のシンボルが緑白混成になる。

 カードをデザインするにあたって、目標は、カラー・パイの上で完全に緑の範囲内で働くこと、しかし赤緑の重なりや緑白の重なりを想起させるものであることである。緑、赤、白はどれもトークンを作るが、緑だけでも可能である。生成する2種類のトークンは赤と緑を想起させるものになっている。1つ目のトークンは、赤を1種色、緑を2種色とする速攻を持つ。2つ目のトークンは、白を1種色、緑を2種色とする警戒を持つ。。それらのトークンはそれぞれ異なるパワー/タフネスを持つが、通常の色の関連性とは逆になっている。一般的に赤が3/1、白が2/2を作るものだが、他方の色からのキーワード能力が割り振られている。これによってこのカードは、唱えるのに3色使わなかったとしても、赤緑白らしさが与えられているのだ。

ニューカペナは、多種多様な食べ物のあるニューヨークやシカゴといったアメリカの都市をかなりもとにしているように見えます。このセットに食物・トークンを入れることを検討したことはありますか?

 

 本流のセットの一般則として、何が起こっているのか把握できるようにするため、アーティファクト・トークンは1種類にすることが多い。『ニューカペナの街角』は3色のセットであり、3色を使えるようにするためにどうしても宝物が必要だったので、食物より優先することにしたのだ。

充分な質問

 文字数が限界なので、今日の記事はここで締めくくりの時間となる。質問を送ってくれた諸君に感謝したい。いつも通り、すべての質問には答えられなかったことを申し訳なく思っている。今日の記事や私の回答、『ニューカペナの街角』に関する意見を、メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い』のプレビューを始める火曜日にお会いしよう。

 その日まで、あなたがニューカペナの街角を探索し続けられますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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