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Making Magic -マジック開発秘話-
『世界』の創造 その1
2022年1月27日
諸君、『神河:輝ける世界』のプレビュー第1週にようこそ。今日は諸君に展望デザイン・チームを紹介し、このセットのデザインの話を始め、そしてクールなプレビューカードをお見せする。話すべきことが大量にあるので、さっそく本題に入ろう。
《皇国の地、永岩城》 アート:ゾウノセ/ZOUNOSE |
輝ける世界の名
話を始める前に、このセットを手掛けたデザイナーを紹介させてもらいたい。今日は(私がリードを務めた)先行デザイン・チームと展望デザイン・チームを、そして来週はデイブ・ハンフリー/Dave Humpherysがセットデザイン・チームを紹介する。
『神河:輝ける世界』の先行デザイン・チームと展望デザイン・チーム(クリックで表示)
帰還限界点
この話は、2002年のビル・ローズ/Bill Roseに遡る。当時、ビルは開発担当副社長とマジックの主席デザイナーを兼任していた。(これは彼が集中できる仕事量を少しばかり超えていたので、彼は2003年に主席デザイナーを私に引き継ぐことになる。)ビルが『インベイジョン』ブロックで主席デザイナーになって以来、各ブロックにはテーマがあった。この時点まで、すべてのテーマはメカニズム的なもの(『インベイジョン』が多色、『オデッセイ』が墓地、『オンスロート』が部族、『ミラディン』がアーティファクト)だった。この新ブロックでは、ビルは他のことを試そうと考えていた。メカニズムをデザインしてクリエイティブをそれに合わせるのではなく、その逆をするのはどうだろうか。クリエイティブから始めて、メカニズムをそれに合わせるのはどうか。これは、トップダウン・ブロックに関する開発部の初挑戦だった。(トップダウン・セットであれば『アラビアン・ナイト』があった。)
ビルは現実世界の文化的影響から始めたいと考え、我々は数か月かけてさまざまな選択肢を掘り下げた。最終的に、日本風セットがエジプト風セットに競り勝ったのだ。当時のクリエイティブ・ディレクターであったブレイディ・ドマーマス/Brady Dommermuth率いるクリエイティブ・チームはその困難に立ち向かい、日本神話、特に神道要素を用いて新しいマジックの次元を作った。
新しい世界に基づくトップダウン・デザインをしたのは初めてだったので、我々は多くの失敗をした。我々はメカニズムの前にクリエイティブを確定させたが、それによって多くのぎこちないデザインや孤立的メカニズム(同セット内の他のカードと組み合わせてしか働かないもの)を生むことになった。我々は大テーマとして伝説関連を選んだが、これはセットにうまく編み込まれておらず、大量のブースターを開封しても気づかないことがあり得た。クリエイティブそのものは、ユーザーの多くに馴染みがない日本神話の一面に忠実すぎた結果、セットの大部分が多くのユーザーにとって日本よりも奇妙に感じられるものになっていた。全体として、神河はクールな次元だったが、その実装は可能な限り良いものにできていたとは言えなかった。(再び強調しておきたいのは、我々がこの種のトップダウンのブロックをデザインしたのはこれが初めてだったということである。)
結果として、このセットはうまくは行かなかった。売上は落ちた。プレイ数は減った。メカニズム的にもフレイバー的にも、市場調査の結果はセットへの市場調査を始めて以来最低だった。社内で、これは大失敗だと判断された。そしてこれで話はおしまい、だったが、ここで統率者戦が勃興した。このフォーマットは伝説のクリーチャーにスポットを当て、突然、『神河物語』ブロックの伝説のクリーチャーが注目を集めることになったのだ。当時、セットごとの伝説のクリーチャーの枚数はずっと少なかったことを思い出してもらいたい。また、神河には、時を経てついにそのユーザーを見つけた愛すべき要素があった。
読んだことのない諸君のために説明しておくと、私のブログはTumblrでやっていて、Blogatogという。毎日、私はマジックのプレイヤーからの質問に答えているが、その日の話題によって盛り上がったり盛り上がらなかったりしている。何度も何度も取り上げているテーマは、このブログのレギュラーという内向けジョークとも言えるほどになっている。一番繰り返しているテーマが、神河への再訪だった。初代『神河物語』がほぼあらゆる面で失敗していたので上司への売り込みは難しいと説明していたが、からくりがそうだったように、私が無理だといえば言うほどユーザーは求めるものなのだ。多くのプレイヤーに何年もこの話をしていて、私も内心ではこれはしなければならないものなのだということがわかっていた。しかし、そのための方法は見えなかった。今日の話は、「絶対にありえない」から「やろう」に到った経緯についてのものである。
アート:Rudy Siswanto |
もう一度、感覚で
2年に1度、開発部の上層部が集まり、その後数年の計画をどのようなものにするか詰め始める。我々が訪れる新しい次元はどこか。我々が再訪する古い次元はどこか。何年も我々を悩ませ続けていたアイデアの1つが、新しい日本風次元を作ることだった。日本のポップカルチャーの素材を大量に扱える、もっと現代的な次元のクールなアイデアがあったのだ。その次元について話せば話すほど、人々は興奮していた。最終的に、我々はそれをスケジュールに載せることにした。私は、これが神河への再訪の機会だと信じていたので、個人的に興味があったのだ。
しかしそれには多くの障壁があった。この新しいアイデアは初代神河からの大きな変化であり、とはいえ神河にするには社内のすべての抵抗を打ち破る必要があったが、作り上げるために私は先行デザインと展望デザインのすべてを使うことができた。私の計画への鍵は、私が開発部のメンバーに向かって言ったこの言葉から始まった。この次元が神河かどうかは気にせず、とにかくできる限り最高の日本風次元を作ろう。それを神河と呼ぶかどうかは後で決める。(この新セットは、初代『神河物語』ブロックから1200年ほど後の同一次元を舞台としているので、次元が大きく様変わりしている理由を説明することはできているということを思い出してほしい。)
先行デザインは、可能な限りクールな日本風次元を作るという前提で始まった。私が興味があったことの1つは、歴史的、神話的な影響に加えて、日本のポップカルチャーの素材を使うことだった。多くのトップダウンのデザインをするうちに、我々はポップカルチャーの素材のほうが文化的な素材よりもプレイヤーにとって芳潤であるとわかり、その両方をもっと組み合わせるようにしたいと考えるようになった。加えて、我々は全体としてジャンルの限界を押し広げ始めていたので、初めて神河を訪れた当時には不可能だった方法でサイバーパンクの素材を扱うことができるようになっていた。これらすべてから、非常にクールな新しい次元ができたが、それは初代神河とは全く異なるものに思えた。なお、先行デザイン中、エミリーは先行世界構築をしているチームのリードを務めていたので、我々はその次元がどのような外見・雰囲気になるかを把握し始めていた。
展望デザインが始まったときには、私は新しい日本風次元の外見がどのようなものか把握していた。私にとっての重大な問題は、これは神河らしい雰囲気だろうか、ということであった。もちろん、これを神河と呼ぶことはできるが、プレイヤーが再訪を望む理由は当時の次元と何の関連もない次元に行きたいからではない。そこで、私は私のブログで、再訪するにあたって必要だとプレイヤーが感じるものについて尋ねてみた。(私のブログに詳しくない諸君のために添えるなら、私は常々質問をしているので、どの質問が具体的に未来の製品に関するものなのかを見分けるのは難しい。)答えはいろいろとあったが、共通していた答えは神河特有の種族(鼠、空民など)だった。よし、それならそれらの種族すべてが存在するようにしたらどうだろう。私はエミリーと話して、それらの種族のほとんどを再登場させる計画になった。それは始点だったが、それでは不充分なことはわかっていた。
私が全く違う疑問に取り組んでいたとき、興味深いことに、大きなブレイクスルーが始まった。マジックはその本質として魔法的対立を扱うゲームなので、どの次元でも、本質的対立が存在しなければならない。その対立がメカニズムの前面に出ていることもあれば、フレイバー要素(アート、名前、フレイバー・テキスト)で表されていることもある。これは日本風セットなので、元素材を思い起こさせるようなテーマがあるようにしたいと考えた。その時、すべてが繋がったのだ。日本に存在する大きな対立の1つが、近代性と伝統性との間のものである。文化は最新技術と古来の伝統を受け入れており、それによって日本社会を貫く興味深い対立が生まれ、それが文化にも反映されているのだ。それをこのセットの本質的対立にしたらどうだろうか。
セットの半分を我々が既に作った新しいサイバーパンクやポップカルチャー風の次元にし、残り半分を古の伝統を扱うものにするというアイデアだった。古の伝統なら何でもいいというわけではなく、マジックの歴史に存在していた過去である。このセットの残り半分が、『神河物語』ブロックで見た神河を反映したものだとすればどうだろうか。新しい日本風次元と古い日本風次元という選択肢から選ぶ必要がないとしたら、どうだろうか。このセットがそれらの両方であり、本質的対立がその間にあるものだとしたらどうだろうか。それはつまり、この次元は間違いなく神河であり、しかも我々はそれにケーキを足して食べることができるということになる。我々に必要なのは、対立を感じられて、それでいてうまく噛み合うようなその両面をメカニズム的に表現することだけだった。それがすべてだ。
《耐え抜くもの、母聖樹》 アート:えすてぃお/ESUTHIO |
タイプが足りない
我々はこの問題を、最初にこのセットの両半分を見ることで解決した。単体で見て、それぞれの面を表すにはどうしたらいいか。現代側のほうが解決するのが簡単そうに思えた。我々は、技術を表すのに長い間アーティファクトを使っており、最近の次元ではさらに装備品や機体も使っている。古い次元では遠い昔(アーティファクトの「アンティキティ」性)の物品を表すためにもアーティファクトを使っていることにも気がついた。
問題は、単純にアーティファクト・テーマを使うのでは2つの側面があまりにも似通ってしまい、対立感が出ないということであった。そのとき、我々は神河の伝統面をでエンチャントを使うことを検証した。『神河物語』ブロックには祭殿やエンチャントになる反転カードなど、人気のエンチャントが存在していた。また、エンチャントは自然の魔法らしさを持ち、過去を表していた。
エンチャントを使うことの最大の利点は、それが我々の難問の解になっていたことである。アーティファクトとエンチャントはマジックでメカニズム的によく似た役割を持っているが、フレイバー的には相対立するものである。対立感を出しながら、うまく噛み合うようなデザインができるのだ。現代側はさまざまなアーティファクトを使うことができる。伝統側はさまざまなエンチャントを使うことができる。現代側はアーティファクト・クリーチャーを使うことができる。伝統側はクリーチャー・エンチャントを使うことができる。現代側は装備品を使うことができる。伝統側はオーラを使うことができる。平行構造を作り、そしてメカニズム的に両方の側を参照したいときには「アーティファクトやエンチャント」を参照する効果を使うことができた。
その後、それぞれの側を特定の色に寄せることにした。現代側は、青であるべきとなった。青は最も未来志向の色で、アーティファクトの親和性が最も高い色である。伝統側は、緑であるべきとなった。緑は最も過去を尊重する色で、エンチャントを最も気にかける色である。その後、青とアーティファクト・テーマを共有する赤を現代側の2色目にし、緑とエンチャント・テーマを共有する白を伝統側の2色目にした。そして、目的を果たすためにどんなリソースでも使う黒をその中間に置いた。さらに我々は、アーティファクトとエンチャントをコントロールしている必要がある均衡/balanceという黒を中心としたしきい値能力のメカニズムさえも作った(これは後に名前のない能力として印刷されている)。色の振り分けはこうなった。
現代側 ← 青 赤 黒 白 緑 → 伝統側
このアイデアを進め始めて、我々はこの対立がこの次元に正しく編み込まれるようにし、また色の重み付けに基づいて調整されるようにするため、エミリーと世界構築チームと密に協力した。世界構築チームの同意が取れると、私はなぜこの次元が神河でなければならないのか、開発部の残りのメンバーに売り込んでまわった。確かに、全く新しい次元を作ってその次元の過去を作ることもできたが、それは既に訪れたことがありその次元の過去がマジックの過去の一部である次元に比べるとはるかに軽いものになる。誰もがこの売り込みの理論を理解し、そしてこの次元が公式に神河として承認されたときには、展望デザインがセットデザインに引き渡す日があと1か月に迫っていた。
神河のどの要素を残し、どの要素を作り直すのか、どうやって決めたのか。それらについては来週触れることにしよう。
話を終わらせる前に、再録されるあるメカニズムについて触れておこう。そのメカニズムは、今日のプレビュー・カードに使われている。そのメカニズムとは、忍術である。『神河物語』ブロックの間に、忍者感を再現するためのトップダウン・デザインとして私がデザインしたものである。元祖『神河物語』ブロックの人気のメカニズムだった。(そして、人気のメカニズムは多くなかった――来週話そう。)再録されたことは2回あり、1回は『プレインチェイス(2012年版)』、もう1回が『モダンホライゾン』である。忍術のない忍者などありえない。
本日はここまで。『神河:輝ける世界』のデザインの始まりの話を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、今日の記事、プレビュー・カード、この『神河:輝ける世界』そのものに関する諸君の反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『神河:輝ける世界』のデザインの話を続ける日にお会いしよう。
その日まで、あなたが神河への再訪を楽しめますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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