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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

今ここにある『契り』 その2

Mark Rosewater
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2021年11月22日

 

 先週、『イニストラード:真紅の契り』のカード個別のデザイン話を始めた。1本の記事には収まらない話があったので、今日もそれらを紹介していこう。

霊狩り、ケイヤ

 イニストラードといえば、主なクリーチャー・タイプ4つ、すなわちスピリット、吸血鬼、狼男、ゾンビである。マジックには人狼のプレインズウォーカーと吸血鬼のプレインズウォーカーがいるので、それらは登場させる必要がある。(アーリンは『イニストラード:真夜中の狩り』に、ソリンは『イニストラード:真紅の契り』に入っている。ソリンのデザインについてはこのあと。)ゾンビのプレインズウォーカーはいないが、ゾンビと深く関わっているプレインズウォーカー、灯を持つ屍術師のリリアナがいる。彼女はストリクスヘイヴンに身を隠していて、過去の両イニストラード訪問にいたので、彼女は今回はお休みにした。

 それでは、スピリットは? ゾンビ同様、スピリットであるプレインズウォーカーはいないが、スピリットに関係のあるプレインズウォーカーはいる。幽霊暗殺者(彼女が幽霊なのではなく、幽霊を殺す)のケイヤだ。彼女を初めてイニストラードに訪れさせる唯一の機会だろう。一方、興味深いことに、我々がこのセットを手掛け始めたとき、彼女は入っていなかった。このプレインズウォーカーのスロットには、最初、別のキャラクターが入っていたのだ。

〈秘儀強盗、ダブリエル〉(バージョン1)
{2}{B}{B}
伝説のプレインズウォーカー ― ダブリエル
忠誠度 ― 4
プレイヤーが呪文1つを捨てるたび、あなたはその呪文を唱えてもよく、それを唱えるためにマナを任意のマナであるかのように支払ってもよい。
+2:各プレイヤーはそれぞれ、カード1枚を捨てる。
-3:飛行と「防御プレイヤーの手札にカードがあるかぎり、[カード名]では攻撃できない。」を持つ黒の3/3のデーモン・クリーチャー・トークン1体を生成する。

 そう、このセットの最初の企画では、ブランドン・サンダーソン/Brandon Sandersonの小説「Children of the Nameless」で初登場したダブリエル・ケインが、3人のプレインズウォーカーの1人として登場していたのだ。

 ダブリエルがゲームに初登場したのは、『灯争大戦』のアンコモンのプレインズウォーカーとしてだった。彼はイニストラードのケッシグに住んでいるので、イニストラードのセットにはちょうどいいと考えられた。『灯争大戦』に登場したときと同様、ダブリエルのカードは手札を捨てることを基柱に作られていた。対戦相手にカードを捨てさせることで利益を得る誘発型能力を持たせ、対戦相手の呪文を唱えられるようにしたのだ。彼のプラス能力はその誘発型能力で使えるようにカードを捨てさせるものであり、マイナス能力は飛行を持つ3/3のデーモンを生成するものだった。このデーモンには、カードの残りの部分にある捨てさせるというテーマと関係する、攻撃の制限があった。

〈秘儀強盗、ダブリエル〉(バージョン2)
{2}{B}{B}
伝説のプレインズウォーカー ― ダブリエル
忠誠度 ― 4
プレイヤー1人が土地でないカード1枚を捨てるたび、あなたはその呪文のオーナーの墓地からその呪文を唱えてもよく、それを唱えるためにマナを任意のマナであるかのように支払ってもよい。
+1:各プレイヤーはそれぞれ、カード1枚を捨てる。
-2:あなたはクリーチャー1体を生け贄に捧げてもよい。そうしたとき、クリーチャー1体を対象とする。それを破壊する。

 次のこのバージョンは誘発型能力を整形し、その捨てられたカードが行くところを明記した。マイナス能力とのバランスを改善するため、捨てさせる能力は+2から+1に縮小された。マイナス能力は勝利条件を作るものからクリーチャー対策に変更された。これは自身を守る助けになるが、この新しいマイナス能力はデザイン全体との親和性が高くないと感じていた。

〈幽霊狩り、ケイヤ〉(バージョン3)
{2}{B}{B}
伝説のプレインズウォーカー ― ケイヤ
忠誠度 ― 5
+3:墓地にあるカード最大2枚を対象とする。それらを追放する。これにより1枚以上のクリーチャー・カードが追放されたなら、飛行を持つ白の1/1のスピリット・クリーチャー・トークンを生成する。そうでなければ、あなたは2点のライフを得る。
-3:プレイヤー1人を対象とする。「クリーチャー」か「エンチャント」を選ぶ。そのプレイヤーは自分がコントロールしていて選ばれたタイプであるパーマネント1つを追放する。
-8:対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーのライフはそのプレイヤーの墓地にあるカードの枚数に等しい値になる。

 この時点で、クリエイティブ・チームのメンバーはケイヤを物語に登場させる必要に気がついた。ダブリエルは物語に登場していなかった(彼はイニストラードの住人なので、ここにいるのは当然だった)ので、ケイヤの場所を作るために取り除かれることになった。このスロットは黒単色で、当時ソリンは白黒のプレインズウォーカー・カードだったので、ケイヤは最初黒単色でデザインされていた。彼女のプラス能力は墓地をリソースとして使ってスピリットを生成するものであり、イニストラードのセットでは何度も出ているテーマである。また、必要なときにはライフを回復させることもできる。

 1つ目のマイナス能力は、彼女の暗殺者というフレイバーを反映している。イニストラードではスピリットとエンチャントがテーマ的に繋がっているので、このバージョンではそれが反映されている。彼女が追放するのは、戻れないということを表したものである。このセットのデザイン当時、我々は黒にいくらかのエンチャント除去を与えることを試し始めていたので、これは黒単色のパイの一部だったのだ。ケイヤの奥義は、他の2つの能力の墓地テーマに関わるようにしようとしたものである。プラス能力を使って、時間をかけて相手の墓地を空にし、奥義で勝利できるように準備することができるのだ。彼女は初期忠誠度が5なので、奥義を使うには2ターン以上はかかる。

〈幽霊狩り、ケイヤ〉(バージョン4)
{2}{W}{B}
伝説のプレインズウォーカー ― ケイヤ
忠誠度 ― 3
+1:あなたがコントロールしているクリーチャー・トークン1体の上に+1/+1カウンター1個を置く。ターン終了時まで、あなたがコントロールしているすべてのクリーチャーは接死を得る。
-2:ターン終了時まで、効果があなたのコントロール下に1体以上のトークンを生成するなら、変わりにそれはその2倍の数のそれらのトークンを生成する。
-6:プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーの墓地にあるすべてのカードを追放する。これにより追放されたカード1枚につき1体の、飛行を持つ白の1/1のスピリット・クリーチャー・トークンを生成する。

 このカードは、その後、2つの大きな変更を経た。1つ目に、ケイヤが白黒でソリンが黒単色、にするほうが筋が通っていると決定された。ソリンはこれまで3回黒単色になっており、最新のケイヤは白黒混成のプレインズウォーカーだった。

 2つ目に、セットデザイン・チームはこのカードを墓地中心から戦場中心にすることにした。プラス能力が、自軍のクリーチャーを強化できるものになった。マイナス能力は、他のカードからクリーチャーを増やす助けになるようになった。そして奥義は、勝利に繋がるような巨大軍団を作る方法になったのだ。最終バージョンは、これにいくつかの微調整を加えたものである。{2}{W}{B}から{1}{W}{B}になり、最後の能力がプレイヤー1人の墓地からすべての墓地に変更された。

真紅の花嫁、オリヴィア

 先週、この結婚式の花婿のデザインについて語った。今週は、花嫁であるオリヴィアの創造について語ろう。まず、これはオリヴィアの伝説のクリーチャー・カード3枚目である。

 これらのカードはどちらも黒赤だったので、今回もその色にすることにした。(伝説の吸血鬼は3体いて、吸血鬼の色のうち2色の組ごとに1体になっている。)最初のデザインはこうだった。

〈新婦、オリヴィア・ヴォルダーレン〉(バージョン1)
{3}{B}{R}
伝説のクリーチャー ― 吸血鬼
3/3
飛行
[カード名]が戦場に出たとき、墓地にあるクリーチャー・カード1枚を対象とし、[カード名]が戦場を離れるまで、それをあなたのコントロール下で戦場に戻す。そのクリーチャーが吸血鬼なら、それは速攻を得る。

 オリヴィアの過去のカード2枚は3/3だったので、今回もそこから始めた。我々は最終的に、(彼女がエドガーを起こすという物語を再現するため)クリーチャーをリアニメイトし、吸血鬼であればボーナスを与えるという単純な「入場」効果にした。オリヴィアは吸血鬼のリーダーだからである。この効果にはまた持続時間があり、リアニメイトしたクリーチャーはオリヴィアがいる間だけ残るのだ。これは、プレイデザインの観点からは、対戦相手は墓地から出たクリーチャーに対処せず、オリヴィアだけに対処するということである。見ての通り、この最初のバージョンは最終版とそう遠くなかった。

〈新婦、オリヴィア・ヴォルダーレン〉(バージョン2)
{3}{B}{R}
伝説のクリーチャー ― 吸血鬼
3/3
飛行、速攻
[カード名]が戦場に出た時、あなたの墓地にあるクリーチャー1体を対象とする。それを倦怠カウンター1個を置いた状態で戦場に出す。それが吸血鬼なら、ターン終了時まで、それは破壊不能を得る。それが吸血鬼でないなら、ターン終了時まで、それは絆魂を得る。[カード名]が戦場を離れたとき、倦怠カウンターが置かれているすべてのクリーチャーを追放する。

 次のこのバージョンでは、オリヴィアは速攻を得て、リアニメイトしたクリーチャーを倦怠カウンターで示して覚えやすくし、そのクリーチャーが吸血鬼かどうかによって別の能力を与えるようになった。この時点で、おそらくセットデザインはこのカードにこのセットの顔の1人として充分な驚きがないと思ったのだろう、リアニメイトを入場効果ではなく攻撃誘発にしている。これによって、オリヴィアは多くのクリーチャーを死体から蘇らせることができるのだ。カウンターも使わなくなり、その代わりに、リアニメイトされたすべてのクリーチャーに対処するための手段が与えられた。オリヴィアを直接参照するのではなく、「伝説の吸血鬼」を参照することで、オリヴィアはもちろん、それ以外の伝説のクリーチャーをデッキに入れることを推奨している。最後に、コストが{3}{B}{R}から{4}{B}{R}になり、タフネスが1増えた。私は、完成したバージョンは最終的にいい位置に落ち着いたと思っている。

流城のルノ》//《深遠の王、クロサス

回転

 『イニストラード:真紅の契り』にいてこれでないすべての吸血鬼は白、黒、赤であるが、1枚だけ青を含む吸血鬼がいる。《流城のルノ》がどのようにデザインされたかを見ていこう。このスロットの最初のカードがこれである。

〈ダーツ盤のゾンビ〉(バージョン1)
{3}{U}
エンチャント
あなたのアップキープの開始時に、あなたはカード3枚を切削する。1枚以上のクリーチャー・カードがあなたのライブラリーからあなたの墓地に置かれたとき、[カード名]を生け贄に捧げ、それらのクリーチャー・カードのうち1枚をあなたのコントロール下で戦場に戻す。

 そもそも、これは流城のルノではなかった。伝説でも、クリーチャーでも、なかった。多色カードですらなかった。そう、このスロットは最初、青のエンチャントだったのだ。おそらく、これは展望デザイン中に作られた愚かなカードだったのだろう。

〈族長〉(バージョン2)
{1}{U}{B}
伝説のクリーチャー ― ゾンビ・ウィザード
3/3
[カード名]がダメージを与えるたび、あなたはその点数に等しい枚数のカードを切削する。あなたのライブラリーから1枚以上のクリーチャー・カードがあなたの墓地に置かれたとき、あなたは[カード名]を生け贄に捧げてもよい。そうしたなら、それらのクリーチャー・カードのうち1枚をあなたのコントロール下で戦場に戻す。

 この枠は公式に、印刷されることになるものと同じ、青黒の伝説のクリーチャーになった。まだ流城のルノではないが、メカニズム的には〈ダーツ盤のゾンビ〉をクリーチャーに持たせたものである。違いは、誘発がダメージ(興味深いことに戦闘ダメージではない。おそらく見落としだろう)になり、リアニメイト部分が任意になったことである。

 ちなみに、族長というのは名前ではなく地位であり、貴族以外で土地を与えられた人のことである。おそらく、族長○○とするつもりで、名前をつけるのを忘れたのだろう。

〈ウルムのルーデヴィック〉(バージョン3)
{2}{U}{B}
伝説のクリーチャー ― ゾンビ・ウィザード
4/4
{4}, あなたの墓地にありインスタントやソーサリーであるカード1枚を追放する:あなたの墓地にあるクリーチャー・カード1枚を対象とする。それを戦場に戻す。それはそれの他のタイプに加えてゾンビになり、「このクリーチャーが対戦相手1人に戦闘ダメージを与えるたび、あなたは『その追放されているカード1枚をコピーし、それをマナ・コストを支払うことなく唱える。』を選んでもよい。」を得る。

 次の反復工程のこのカードは、スカーブを作るのが大好きな科学者のルーデヴィックである。基本的なフレイバーは、彼が墓地にあるカード2枚、クリーチャーとインスタントやソーサリーをつなぎ合わせ、1体のゾンビ・クリーチャーにするというものである。そのゾンビはクリーチャーの肉体を持ち、呪文はサボタージュ能力(そのクリーチャーが戦闘ダメージを与えたときに発生するもの)になった。これはクールなデザインだと思う。残念ながら、このカードが作られた直後に、セットデザイン・チームは『イニストラード:真夜中の狩り』にルーデヴィックのカードが入ることを知り、キャラクターへの他の種類のカードが必要となる変更はないので、このカードは他のキャラクターにしなければならなかった。

〈流城のルノ〉(バージョン4)
{2}{U}{B}
伝説のクリーチャー ― ゾンビ・邪術師
2/3
飛行
[カード名]が戦場に出たか攻撃したとき、カード1枚を引き、その後、カード1枚を捨てる。あなたの終了ステップの開始時に、あなたはあなたのライブラリーにあるカード4枚を、それぞれ異なるカード・タイプを持つように選んで追放してもよい。そうしたなら、[カード名]をアンタップし、変身させる。
///
〈嵐と海の王〉(第2面のバージョン1)
伝説のクリーチャー ― エルダー・クラーケン
6/6
飛行
その呪文を唱えるために6マナ以上を支払っているかぎり、あなたはあなたの墓地から呪文を唱えてもよい。
>〈流城のルノ〉

 このカードは、流城のルノになり、また変身する両面カード(TDFC)にもなった。なぜ吸血鬼・クレリックであるルノのカードがゾンビ・邪術師になっているのかはわからない。印刷版では正しいものになっている。このバージョンは毎ターンルーター処理(引いて捨てる)をし、自分の墓地にカード・タイプ4枚があることを参照して変身する昂揚型の誘発を持つ最初の第2面はクラーケンだが、クラーケン・ホラーではなくエルダー・クラーケンだった。自分の墓地から呪文を唱えることができるが、追加コストが重かった。

〈嵐と海の王〉(第2面のバージョン2)
伝説のクリーチャー ― エルダー・クラーケン
6/6
飛行
[カード名]が対戦相手1人を攻撃するたび、あなたはあなたの手札にありクラーケンやリバイアサンやタコや海蛇であるクリーチャー・カード1枚をタップ状態かつその対戦相手を攻撃している状態で戦場に出してもよい。
>〈流城のルノ〉

 最終バージョンの前に、第2面の第2バージョンがある。このバージョンから、クラーケンやリバイアサンやタコや海蛇の部族に関わり始めている。第2面の最終バージョンはサイズが6/5から3/5に少し縮み、能力は攻撃クリーチャーをコピーするものになった。クラーケンやリバイアサンやタコや海蛇を参照するが、それはそのクリーチャー・タイプだけに制限するものではなく、改善を得るためのものである。プレイテストの結果、狭すぎるとわかったのだろう。

 第1面、《流城のルノ》は、基本的に新しいカードといえるほどの変更を経た。{2}{U}{B}2/3から{1}{U}{B}1/4になり、変身する条件も完全に変わった。また、自分の墓地にあるクリーチャー・カード1枚を自分のライブラリーの一番上に置くことができる入場効果を得た。それは、価値あるクリーチャーを戻すだけでなく、変身に必要な条件を揃える助けにもなる。

不笑のソリン

 イニストラードを舞台にしていて、ソリンの祖父であるエドガー・マルコフが結婚するので、ソリンが出てこないことは本当にありえない。おそらく、このセットの一番最初のプレインズウォーカーだったはずだ。彼の進化の軌跡を見ていこう。

〈ソリン・マルコフ〉(バージョン1)
{W}{B}
伝説のプレインズウォーカー ― ソリン
忠誠度 ― 3
あなたが血1つを生け贄に捧げるたび、[カード名]は1点の忠誠度を得る。
+1:クリーチャーやプレインズウォーカーやプレイヤーのうち1つを対象とする。[カード名]はそれに2点のダメージを与える。血・トークン1個を生成する。
0:飛行と絆魂を持つ黒の2/2の吸血鬼・クリーチャー・トークン1体を生成する。

 ソリンの最初のバージョンでは、2マナだけにすることと、血・トークンと結びつけることの2つを試みている。後者は誘発型能力で行なわれていた。そして、忠誠度能力は2つだけで、どちらも奥義ではなかった。プラス能力は血を得ることを助け、対戦相手にダメージを与えるものである。ゼロ能力は吸血鬼を生成し、彼を守ったり勝利条件にしたりできる。ここで、ソリンの第1バージョンは白黒であることを指摘しておこう。上述の通り、ソリンとケイヤは後に色が入れ替わることになる。

〈血脈の裏切り者、ソリン〉(バージョン2)
{2}{W}{B}
伝説のプレインズウォーカー ― ソリン
忠誠度 ― 3
あなたがライフを得るたび、血・トークン1個を生成する。
+1:各プレイヤーはそれぞれ、飛行と絆魂を持つ黒の2/2の吸血鬼・クリーチャー・トークン1体を生成する。
-2:クリーチャーやプレインズウォーカーやプレイヤーのうち1つを対象とする。[カード名]はそれに2点のダメージを与え、あなたは2点のライフを得る。
-X:カードX枚を引く。あなたはX点のライフを失う。

 最初のバージョンは、プレインズウォーカー・カードとしては少し精彩を欠いたものであった。血デッキに入って、毎ターン吸血鬼・トークンを生み出すのが仕事になっていた。次のこのバージョンでは、誘発型能力を入れ替えた。血でリソース(忠誠度)を得るのではなく、リソース(ライフ)で血を得るようになった。吸血鬼生成能力はプラス能力になったが、自分だけでなく全員が吸血鬼を得るようになった。マイナス能力は2点の吸収になった。クリーチャーやプレイヤーから吸収するのはソリンのカードによく見られる吸血鬼らしさを示すものである。ここで、吸血鬼・トークンが持つ絆魂とマイナス能力は、ライフを得るという誘発条件に関わっているのだ。奥義はそのライフを使ってカードを引く手段になっている。

〈血脈の裏切り者、ソリン〉(バージョン3)
{2}{W}{B}
伝説のプレインズウォーカー ― ソリン
忠誠度 ― 4
+1:あなたのライブラリーの一番上にあるカード1枚を公開し、あなたの手札に加える。あなたはそれのマナ総量に等しい点数のライフを失う。
-2:絆魂と飛行を持つ黒の2/2の吸血鬼・クリーチャー・トークン1体を生成する。
-7:クリーチャーやプレインズウォーカーやプレイヤーのうち1つを対象とする。[カード名]はそれに13点のダメージを与える。あなたは13点のライフを得る。

 第3バージョンは、最終バージョンに近づいている。ライフと引き換えにカードを引くのは奥義ではなく、プラス能力になった。これは《闇の腹心》(ボブ・マーハー/Bob Maherが2004年にマジック・インビテーショナルに優勝した賞品)に最も縁の深い効果だろう。吸血鬼トークン生成能力はプラス能力から小マイナス能力になった。全員に吸血鬼を生成するのは、単に、よくなかった。吸収は奥義になり、イニストラードらしい13点になった。

 最終バージョンにはいくつかの調整が加えられた。最大の変更は、白黒から黒単色になったことである。すべての効果は黒ででき、それによってケイヤを白黒にできた。プラス能力は強制から任意になった。カードを見て、それを引くかどうか決められるようになったのだ。最後に、吸血鬼・トークンは2/2から2/3になった。

蝕むもの、トクスリル

 トクスリルはこのセットでの私のお気に入りのカードなので、この伝説のナメクジ・ホラーがどのようにできたのか掘り下げるのは楽しいと思う。これから見ていく通り、いくつかの変更を経ている。最初は、

〈心無いデーモン〉(バージョン1)
{2}{B}{B}{B}
クリーチャー ― デーモン
6/6
飛行
あなたがクリーチャー・呪文を唱えるためのコストは{2}少なくなる。
あなたがコントロールしていてこれでないすべてのクリーチャーは-1/-1の修整を受ける。

 そう、最初トクスリルは伝説でないデーモンだった。デーモンによくある通り、利益はあるがコストを伴う。6/6の飛行クリーチャーを{2}{B}{B}{B}で手に入れられ、すべてのクリーチャー・呪文のコストが2点安くなる。それはすばらしい。それと引き換えに、自軍のすべてのクリーチャーが弱体化するのだ。

〈奈落のデーモン〉(バージョン2)
{3}{B}{B}
クリーチャー ― デーモン
3/5
飛行
各プレイヤーのアップキープの開始時に、そのプレイヤーはクリーチャーやプレインズウォーカーのうち1体生け贄に捧げる。そうしたなら、そのプレイヤーはカード1枚を引く。

 このデーモンは見かけほど楽しくなかったので、セットデザインは新しいデーモンのデザインを試みた。この新バージョンは、「悪魔との取引」を全プレイヤーに適用している。毎ターン、そのプレイヤーが、クリーチャーやプレインズウォーカーのうち1体と引き換えに、カード1枚を引くのだ。ただし、これは正確には強制ではない。新しいこのデザインも飛行を持っていたが、マナ・コストやサイズは少し小さくなっている。{2}{B}{B}{B}6/6から、{3}{B}{B}3/5になった。

〈スライムに支配された者、モールスカ〉(バージョン3)
{2}{B}{B}
伝説のクリーチャー ― ナメクジ・ホラー
4/3
あなたの終了ステップの開始時に、クリーチャー1体を対象とする。あなたはそれの上に[ナメクジ]・カウンター1個を置いてもよい。
各クリーチャーはそれぞれ、その上にある[ナメクジ]・カウンター1個につき-1/-1の修整を受ける。
[ナメクジ]・カウンターが置かれているクリーチャー1体が死亡するたび、[カード名]の上に+1/+1カウンター1個を置く。

 セットデザイン・チームは最終的に、マジックには充分な量のデーモンがいると気がついた。本当に必要なのは、伝説のナメクジ・ホラーなのだ。これは初めてカウンターを使ったバージョンであり、そのカウンターはクリーチャーを-1/-1するが、効果がカウンターを置くのは一度に1体である。カウンターでクリーチャーが死ぬと、モールスカ(デザイン名)は強化される。

〈スライムに支配された者、モールスカ〉(バージョン4)
{4}{B}{B}
伝説のクリーチャー ― ナメクジ・ホラー
5/5
あなたの終了ステップの開始時に、あなたがコントロールしていない各クリーチャーの上にそれぞれ粘液・カウンター1個を置く。
各クリーチャーはそれぞれ、その上にある粘液・カウンター1個につき-1/-1の修整を受ける。
粘液・カウンターが置かれているクリーチャー1体が死亡するたび、黒の1/1のナメクジ・クリーチャー・トークン1体を生成する。

 次のこのバージョンは、印刷されたバージョンに近い。カウンターはナメクジ・カウンターから粘液・カウンターになり、自分がコントロールしていないすべてのクリーチャーに置かれる。セットデザインは、カウンター1個では不十分だと、特に神話レアにしては不十分だと感じたのだろう。対戦相手のクリーチャーが死亡したことによる利益は、モールスカを大きくさせることから黒の1/1のナメクジ・クリーチャー・トークンを生成することになる。また、{2}{B}{B}4/3から{5}{B}{B}5/5になった。

 最終バージョンにはいくつかの調整が加えられた。1つ目、印象的にするため、5/5から7/7になった。コストは{5}{B}{B}になった。2つ目、カウンターが正式名称のスライム・カウンターになった。3つ目、新しい能力が加えられ、ナメクジ・トークンを生け贄に捧げてカードを引けるようになった。起動コストに黒だけでなく青が含まれるようになったことで、統率者戦でこのクリーチャーの固有色に青が加えられた。このカードは、カラー・パイ的には青は必要ないのだ。

祝祭の時間

 本日はここまで。カード個別のデザインの話を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、この記事や今回取り上げたカード、あるいは『イニストラード:真紅の契り』そのものについて、諸君からの感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『Unfinity』、次なる銀枠セットの初のスニーク・プレビューをする日にお会いしよう。

 その日まで、あなたが『イニストラード:真紅の契り』の祝祭を楽しめますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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