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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『契り』から その2

Mark Rosewater
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2021年11月8日

 

 先週、私は『イニストラード:真紅の契り』のデザインの話を始めた。今週はその続きとなる。先週は吸血鬼を取り上げたが、今週はゾンビ、スピリット、人狼、人間について取り上げていく。しかし、その前に、アダム・プロサック/Adam Prosak(このセットのセットデザインの共同リード)に、セットデザイン・チームを紹介してもらおう。

『イニストラード:真紅の契り』のセットデザイン・チーム(クリックで表示)

ゾンビ

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 先週、このセットの焦点を吸血鬼にするかゾンビにするか決めるため、1回の会議をゾンビのアイデアのブレインストーミングに費やしたという話をした。そのブレインストーミングの中で、最初のゾンビのメカニズムのアイデアが生まれたのだ。我々は、戦場をただ膠着させるだけではないゾンビの軍団を作る方法を掘り下げ、最終的に腐乱を作った。(この話について詳しくは、私の『イニストラード:真夜中の狩り』のプレビュー記事の1本を参照してくれたまえ。)

 それ以降に、私はこれについてもう少し学んでいた。現在ウィザーズ開発部が作っている別のカードゲーム「デュエル・マスターズ」(日本向けTCG)に、ほとんどのセットで使われている名前のないメカニズム、通称「クランチ/crunchy」がある。クランチを持つクリーチャーは、攻撃やブロックをしてダメージを与えた後で破壊されるのだ。腐乱を作るための最初の掘り下げは、単純に、クリーチャー・トークンではブロックできないというものだった。これは充分ではなかったので、トークンに追加できるものがないか聞いて回ったところ、チームの一員であるアンドリュー・ヴィーン/Andrew veenが、戦闘ダメージを与えた後に死亡するという提案をしてくれた。彼はデュエル・マスターズのセットをいくつもデザインしていて、クランチがうまくいくと知っていたのだ。これは、(複数のゲームを作っているゲーム会社にいるなら)異なるゲーム間でデザイナーの交流をすることが価値ある道具になりうるという素晴らしい例である。アンドリューと最近話すまで、私は「デュエル・マスターズ」の関係に気づいてすらいなかったのだ。

 ここから、もちろん次の疑問につながる。腐乱はなぜ『イニストラード:真夜中の狩り』に入ることになったのか。これについてはエリック・ラウアーのおかげだろう。セットデザインの責任者として、エリックがセットデザイン・チームを立ち上げ、そして他のデザイナーに引き継ぐというのは非常によくあることである。実際、エリックは『イニストラード:真夜中の狩り』と『イニストラード:真紅の契り』の両方で、展望デザインからの提出文書を受け取っている。彼は、入れ替えたほうがシナジー的になるであろう2つのメカニズムがあることに気づいたので、腐乱を『イニストラード:真夜中の狩り』に、そして降霊を『イニストラード:真紅の契り』に移したのだ。おや、降霊は『イニストラード:真夜中の狩り』になかっただろうか。あった。その話は、スピリットのときにすることにしよう。

 エリックがこのセットをアダム・プロサックに引き継いだとき、腐乱は『イニストラード:真夜中の狩り』に移っていたので、ゾンビにはメカニズムがなかった。つまり、アダム率いるセットデザイン・チームは何かを見つけなければならなかったのだ。

 『イニストラード:真夜中の狩り』のゾンビと『イニストラード:真紅の契り』のゾンビの最大の違いは、クリエイティブ的なものだった。初代『イニストラード』で、ゾンビに2色目を持たせようとしていて、ゴシックホラーには2種類のゾンビがいると気がついた。1種類目は、魔法の一形態、屍術によるもの。しかし、2種類目はもっと科学的なものである。実際、フランケンシュタインの怪物は、蘇ったのではなく作り上げられたゾンビであった。初代『イニストラード』では、我々はこの違いを色を分けるために使った。黒のゾンビは屍術の産物であり、青のゾンビは科学の産物なのだ。我々はそれをスカーブと名付けた。

 『イニストラード:真夜中の狩り』と『イニストラード:真紅の契り』を差別化するため、クリエイティブ・チームは第1セットに屍術のゾンビを、第2セットにスカーブを増やした。これが、ギサが『イニストラード:真夜中の狩り』に、ゲラルフが『イニストラード:真紅の契り』に入った理由である。(この姉弟は、ゾンビを作る最高の方法について全く違う見解を持っている。)つまるところ、『イニストラード:真紅の契り』のゾンビは、墓地にカードを送り、それを墓地から使うことが中心である。対照的に、『イニストラード:真夜中の狩り』では、2/2ゾンビの大軍団を作ることが中心になっていた。そのため、腐乱はそっちのほうが筋が通っていたのである。

 このセットがエリックからアダムに引き継がれた時点でゾンビにはメカニズムがなかったが、スカーブの範囲に深く踏み込んでいた。つまり、墓地をリソースとして使うゾンビということである。これは『イニストラード:真紅の契り』のゾンビを『イニストラード:真夜中の狩り』と差別化しており、血・トークンとのシナジーもあった。アダム率いるセットデザイン・チームは、さらにゾンビと墓地のシナジーを助けるメカニズムを見つけようとした。

 いくつかの新メカニズムを掘り下げていたが、やがて、必要なのは既存のメカニズムである濫用だと気がついたのだった。濫用は『タルキール龍紀伝』のシルムガル氏族(青黒)の陣営メカニズムで、クリーチャーを生け贄に捧げて入場効果を生むことができるというものである。これによって、セット内のゾンビにさらなる多用性を与えると同時に、墓地をリソースとして用いるゾンビその他のこのセットの要素と相互作用することができるようになったのだ。

スピリット

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カードをクリックで別の面を表示

 『イニストラード:真夜中の狩り』の展望デザイン・チームの目標の1つは、スピリットのフレイバーに富んだメカニズムを見つけることだった。まず、憑依のフレイバーが気に入っていることは確かだったが、そのメカニズム的実装は気に入っていなかった。クリーチャーが死に、その後、生きているクリーチャーに住み着くというアイデアを再現する新しい方法はないだろうか。

 解決策をブレインストーミングしていて、非常に手軽な道具がそこに転がっていることに気がついた。変身する両面カード(TDFC)だ。第1面をスピリットに、第2面をそのスピリットと同じ能力をエンチャントしたクリーチャーに与えるオーラにすることができる。最初のバージョンでは、そのクリーチャーが死亡したとき、すぐにオーラに変身して選んだクリーチャーにつくようになっていた。マナは必要なかった。我々はこのメカニズムに大満足して、『イニストラード:真夜中の狩り』に入れることになると考えていた。

 このメカニズムが『イニストラード:真夜中の狩り』のセットデザインに引き渡されて、彼らはオーラを「唱える」ためにマナ・コストをつけることにした。イニストラードのセットではTDFCを使っているので、この効果のコストは墓地にある間に表になっていて有効であるカードの第1面に書かれた。そのカードを弄っていて、セットデザイン・チームは、両方の面にクリーチャーを使った同じような実装ができると気がついた。第1面はスピリットでなく、第2面がスピリットなのだ。このバージョンとオーラのバージョンを見ていて、クリーチャーのバージョンを先に、オーラのバージョンを後にするのが筋が通っていた。そこで、腐乱が『イニストラード:真紅の契り』から『イニストラード:真夜中の狩り』に移ったときに、降霊のオーラのバージョンは『イニストラード:真夜中の狩り』から『イニストラード:真紅の契り』に移ったのだった。

人狼

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カードをクリックで別の面を表示

 我々は、『イニストラード:真紅の契り』で人狼に『イニストラード:真夜中の狩り』と違うメカニズムを持たせるべきかどうか話し合ったが、日暮/夜明の人狼を、日暮/夜明のない人狼とスタンダードで混ぜるのには実装上の問題があることはすぐに明らかになった。日暮/夜明と非常に近いのに同じではない過去の「人狼メカニズム」(以前のイニストラードのセットで使っていたもの)を単純に戻すことは混乱を招くのでできなかった。

 何か全く異なるものが必要だが、そうすると混沌と問題あるフレイバーを招くことになる。

 日暮/夜明は『イニストラード:真夜中の狩り』の中心なので、我々はそれをセット内で狼男だけに使うことにした。つまり、人狼は『イニストラード:真紅の契り』では主なクリーチャー・タイプで唯一新しいものを得ないことになった。ただし、その第1面は人間なので、人間が得るものと少しの相互作用はすることになる。

人間

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 人間は、イニストラードのセットで部族としてサポートされている中で唯一、怪物でないクリーチャー・タイプである。通例として人間が協力しあうというフレイバーを使うが、これは人間が人間を殺そうとする多くのクリーチャーの中で生き残ることがその存在そのものだからである。『イニストラード:真夜中の狩り』では、人間は身を守るために魔女魔法を使っていた。『イニストラード:真紅の契り』の目標は、それを中央に戻すことだった。我々が最終的に採用することにしたのは、学生/studentと呼んでいたメカニズム(印刷時は訓練)で、これは『ラヴニカのギルド』の教導メカニズムをもとにしたものである。

 展望デザイン・チームはボロスのメカニズムとして提出した。(警察/軍隊のギルドなので、協力してお互いを強化するというアイデアを採用したのだ。)そしてエリック・ラウアーはリード・セットデザイナーとして引き継いだときにセットに残したのだ。彼はこれを弄っていくうちに、これが保守的だと理解していった。大型クリーチャーがいるなら、小型クリーチャーを強化することよりもその大型クリーチャーで攻撃することを意識するものだ。エリックは、この「訂正版教導」を『イニストラード:真紅の契り』の人間のメカニズムとして使うことを提案した。そうすれば、クリーチャーは協力することになるが、このメカニズムを持つクリーチャーには自身を強化する方法があるのだ。また、これは人狼とも興味深い相互作用を見せた。まず人間側の面で訓練し、その後大きな人狼側の面でも訓練することができるのだ。

ビーバーへの切除

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 セットデザイン・チームが主要5クリーチャー・タイプをどうするか決めると、アダムは問題があることに気がついた。濫用、降霊、日暮/夜明、訓練、これらはどれもクリーチャー・呪文につくものである。インスタントやソーサリーで血・トークンを生成することはできるが、その血を最も効率的に使うのは吸血鬼になるだろう。このセットに必要なのは、インスタントやソーサリーに焦点を当てたメカニズムである。

 また、このセットには開発部語で言う「マナ消費先」、つまり余剰のマナを使うメカニズム的な意味も必要だった。アダムは、この両方の問題に1つのメカニズムで取り組もうと考えた。エリック・ラウアーはこの2つの問題を解決するため、ファイルに多重キッカー・メカニズム(『ワールドウェイク』の、望む回数支払えるキッカーの亜種)を入れていたが、多重キッカーはイニストラードにはそぐわないように思われた。アダムは『イニストラード:真夜中の狩り』で使われていたフラッシュバックの再利用を考えたが、最終的に、新しいメカニズムを作ることにした。

 その新しいメカニズムには、興味深い起源があった。『ニューカペナの街角』(コードネームは「Ice Skating」)の先行デザイン中に、アリ・ニーが斬新な新メカニズムを思いついた。彼女は犯罪らしさを再現しようとして、追加のマナを支払うことでカードからルール文を取り除くことができるというメカニズムを見つけたのだ。この先行デザイン・チームはクールな新メカニズムに出会ったときに通常する手法を取った。つまりそれを展望デザイン・チームで検討するように記録して、他のメカニズムの作成に向かった。

 『ニューカペナの街角』の展望デザイン中に、展望デザイン・チームはあるフレイバーにふさわしいメカニズムを探していて、アリはこのメカニズムを再び検討に上げたのだ。『ニューカペナの街角』の展望デザイン・リードであったマーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebは、ふさわしいとは思わなかったが、そのメカニズム自体は気に入ったと認めた。1~2か月後、『イニストラード:真紅の契り』のセットデザイン中に、ゴットリーブは、アダムが埋めたい穴を埋めるのにこの新メカニズムを提案し、こうして切除がセットに入ることになった。

 先に進む前に、ここで切除カードをデザインする上での課題について軽く触れよう。このメカニズムの中心にある発想は、何らかの形で効果を制限するルール文があり、切除コストを支払うことでその制限を取り払うことができるということである。デザインするのは簡単そうに聞こえることだろうが、実際は非常に難しい。『イニストラード:真紅の契り』のデザイン・チームは、切除コストを支払えないときにもうまくプレイできるような制限のうまい度合いを見つけるのにかなりの時間を費やしていた。これが、このセットに切除がふさわしいもう1つの理由である。これは一見して思うよりもずっとデザイン空間が狭いメカニズムであり、大量のカードに入れることを必要としないセットが必要だったのだ。『イニストラード:真紅の契り』の需要は、切除の制約とまさにうまく噛み合ったのだ。

怪物パンチ

 さて、これで、1万字を費やして、吸血鬼以外すべての『イニストラード:真紅の契り』のデザインについて話すことができた。今日語ったこのセットのメカニズムには多くのシナジーが組み込まれており、プレイしたときにはわかるだろうから、諸君がこのセットをプレイしてくれることに興奮している。いつもの通り、この記事全体、取り上げた各メカニズム、そして『イニストラード:真紅の契り』そのものについて、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、このセットのカード個別の話をする日にお会いしよう。

 その日まで、あなたが『イニストラード:真紅の契り』でイニストラード世界での生き残りと楽しめますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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