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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

こぼれ話:『モダンホライゾン2』 その1

Mark Rosewater
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2021年6月21日

 

 諸君からのこのセットに関する様々な質問に答える、『モダンホライゾン2』の一問一答記事だ。私のツイートは次の通り。

現在、『モダンホライゾン2』の一問一答記事を書いている。この新セットに関する質問があれば、1問1ツイートで送ってくれたまえ。#WotCStaff

 いつもの通り、可能な限り多くの質問に答えようと思うが、以下のような理由によって答えられないこともある。

  • 文章量の都合で、答えられる質問の数には限界がある。
  • すでに同じ質問に答えている場合がある。最初に来た質問に答えるのが通例である。
  • 私が答えを知らない質問もあるし、正しく答える資格がないと思われる質問もある。
  • 将来のセットのプレビューになるなど、さまざまな理由で回答できない話題もある。

 最後に1つ。通常、私は自分で回答を書いている。しかし今回は豪華絢爛なゲストに一部の質問に解答してもらっている。マジックのデザイン・ディレクター、私の上司、『モダンホライゾン2』のリード・セットデザイナーのアーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheだ。アーロンが回答してくれている場合、そう説明しよう。

 それではさっそく質問に入ろう。

このセットは間違いなく、これまでのこの種のセットよりも…… ふざけていますよね。チームが、この、なんというか真剣でないデザイン空間に踏み込んだのはなぜですか?

 アーロンに答えてもらおう。

アーロン:具体化させるような一体感のある世界がないので、このセットにはなにか重心となるところが必要でした。私は、全体の指針となる理念として「娯楽」を選びました。結局のところ、ゲームは楽しくあるべきです! 私たちは、「理知的検証は楽しい」という人々向けにリミテッドや構築に技量を試すあらゆる要素を組み込んでから、このセットを、人々の顔に笑顔をもたらすようなメカニズムやテーマやフレイバーでいっぱいにしました。時折、《片目のガース》などの限界を押し広げるデザインや、リスなどの風変わりなテーマ、《万華焼》などのクールな合成もありました。

 私は、カードを見たり読んだりして楽しいだけにしたいのではなく、プレイしても楽しいものにしたいと考えました。なぜなら、それが長期的な楽しさの源になるからです。私は、マジック全体が最近「くつろいだ」ものになっていると思います。これは素晴らしいことで、そしてこのセットには特にそれを最大化できるような自由がありました。

『モダンホライゾン』は、スタンダードで使えるセットよりも「ユーモラスな」ものにしてもいいものなんですか?

 『モダンホライゾン2』では、通常のセットと違うことが3つあった。

 1つ目に、全体として一体感のあるクリエイティブ的発想は少なかった。ほとんどの本流のセットは単一の世界を舞台にしており、特定の物語を描いている。『モダンホライゾン2』はそうではないので、各カードが「そのカードである」ことを最大化しようと思えばできる自由があった。このテーマの緩和から、真剣さが少し減ったと言える。

 2つ目に、このセットには濃い郷愁のテーマがあり、そこには楽しい感情がたっぷり詰まっているので、カードが実際よりもやや明るいものに見える。例えば、《カルドラの完成体》は非常に陰鬱な物語を描いている。大英雄カルドラでさえもファイレクシアの侵略に屈したのだ。しかし、このカードは、生体武器メカニズムと初代『ミラディン』ブロックの象徴的カードという2つのクールなものの組み合わせという見方のほうが強く、そのためクリエイティブ的な内容に比べて明るく楽しいものとして伝わった。その反応は「えぇ」よりも「おぉっ」であり、そのことが「ユーモラスな」雰囲気に寄与しているのだ。

 3つ目に、マジックの過去を祝賀するというこのセットの全体的雰囲気そのものが明るいものであり、我々は意識して「楽しい」カードを大量に入れている。これらを踏まえて、そう、このセットは平均的なセットより少し「ユーモラスな」ものである。

リス以外で、あなたが長年印刷することを主張していてこのセットに入った大きなものは何がありますか?

 私はこのセットに入った組み合わせカードの大ファンでもある。(今回私が入れたという話ではなく、機会があるたびに私が主張していたという話である。)マジックの過去のすべてのメカニズムを記録しなければならない人間にとって、それらを面白い形で組み合わせることを考えるのは楽しいことだ。

 このセットのプレビュー記事2本目で語ったとおり、私がはじめて私の『モダンホライゾン』を提案したとき(イーサンと私はどちらも似たものを第1回開発部ハッカソンで提案したのだ)、私はこれを「未来予知2」と呼んでおり、大量の組み合わせカードを入れようと考えていたのだ。実際私は、初代『モダンホライゾン』のために大量の組み合わせカードをデザインした(ギルドのメカニズムを使った2色組み合わせカードの10枚サイクルなど)が、そのテーマは3枚にまで削られてしまった。それで、『モダンホライゾン2』で組み合わせカードを掘り下げているのを見て、私は嬉しかったのだ。

Q: このセットの新しいリス・アーキタイプは、MTGにもっとリスを入れるというあなたの戦いに勝利したということですか?

 何年も前にリスが黒枠から消えた理由は、当時、リスは黒枠には少しばかり「くだらな」すぎるものであり、マジックの世界観に合わないと信じられていたからだろう。そのころからいくつものことが変わってきたと思う。1つ目に、マジックが幅広い雰囲気を受け入れるようになった。明るい雰囲気のカードを入れてもいい、というだけでなく、それが推奨されている。我々は部品を作り、諸君がゲームを作る。それなら、くだらない側を楽しむユーザーに、そういったものを提供しよう。

 2つ目に、我々はコメディを少しばかり棚上げにしすぎていたと思う。ゴブリンはユーモラスでありえたが、他のほとんどのものは真剣であることを義務付けられていた。今は、コメディが存在できる場所をもっと認めるようになったと思う。すべてのものがコメディ的であるべきではなく、マジックには真面目な面も存在するのだが、もっとコメディが浸透できるようにする必要があるのだ。

 3つ目に、ウィザーズにはリス嫌いがいたが、今は基本的にいない。開発部は全体として親リス派だ。つまり、私はこれを私の勝利だとは考えておらず、我々開発部のマジックの捉え方に大きな変化が訪れたのだと考えているのだ。私がその方向に押す助けになったか、と言われると。もちろんだ。しかしそれは私だけでなく、多くの人々の結果なのである。

なぜ黒や白にはリスが増えなかったんですか?

 リスの1種色は緑で、2種色は黒だ。『イコリア』には偶然白のリスが入ることになったが、それはリスというクリーチャー・タイプにとっての前兆ではない。リスは白ではないのだ。実際、将来の白のカードでは、リスよりもハツカネズミが多くなることだろう。『モダンホライゾン2』チームは、入れられるところにリスを入れた。そして黒より緑に場所があったというだけのことである。繰り返しになるが、リスというクリーチャー・タイプの1種色は緑なのだ。ただし、将来、黒の新しいリスは登場することだろう。

『モダンホライゾン』からの教訓は、このセットの手法にどんな影響を与えましたか?

 これもアーロンに答えてもらうほうがいいだろう。

アーロン:古き良き『モダンホライゾン』では多くのことがうまく行われていて、私たちはその成功に導いたあらゆる要素を守りたいと考えました。それだけでなく、私たちは、物語の達人イーサン・フライシャー/Ethan Fleisherを両セットの展望デザイン・リードに、その他賢明なカード専門家のアリソン・スティール/Allison Steeleやモダン戦の達人ダン・マッサー/Dan Musserたち、同じ人々を任命しました。私たちは初代『モダンホライゾン』が持っていた、郷愁、狂ったあらゆるデザイン、素晴らしいドラフト環境、モダンへの影響を維持しようとしました。その例を示します。

  • 維持要素:ファンのいる部族リスは展望デザイン提出文書にはありませんでした。私は、このセットには『モダンホライゾン』にあった忍者やスリヴァーといった愛される部族要素が足りないと感じたので、ふわふわした友人を投入したのです。
  • 改善要素:再録の扱い『モダンホライゾン』は《エラダムリーの呼び声》や《溶岩の投げ矢》、《発掘》といった魅力的な再録をモダンに持ち込みました。しかし、それは通常のカードとしてで、何も目印はついておらず、開封して再録のレアが出たときには残念に感じることもあるものでした。そこで、私たちはパック内に再録カードが出る場所を作り、時折レアを2枚手に入れられるようにするとともにエキスパンション・シンボルを透かしに入れて目立つようにするという改善を施しました。
  • 改善要素:構築の試験《甦る死滅都市、ホガーク》と《アーカムの天測儀》で『モダンホライゾン』の記憶が汚染された人もいます。そこで私たちは禁止する必要があったりフォーマットをつまらないものにするものであったりするようなカードを繰り返さないようにしたいと考えました。そのため、私たちはサム・ブラック/Sam Black、ブラッド・ネルソン/Brad Nelson、ブライアン・ブラウン=デュイン/Brian Braun-Duinといった史上最高のプロ・マジック・プレイヤーの助力を得ました。私たちがすべてを正しく理解したという保証はありませんが、もちろんそうなっていると確信しています!

制限は創造の母ということを踏まえて、これまでにされたことのないキーワードの組み合わせをするほぼ無制限の自由があるとき、あるいは未踏のデザイン空間があるとき、どのようにデザインの工程は進められるんですか?

 それは実際はもう少し複雑である。ほとんどの本流のセットでは、狙いを定めるところ(「これは、魔法学校のトップダウン感覚を持ち、呪文を軸に作る、敵対色の陣営セットである」)があり、手掛けている全員が同じ方向を向くのは容易い。『モダンホライゾン』のセットでは、ずっと軽いタッチが必要になる。大抵、最初はクールな個別のカードのデザインを掘り下げることから始まり、その後でそれらを組み合わせられるような大きな構造を作る方法を見つけることになる。

 『モダンホライゾン2』のセットデザインのかなりの部分は、さまざまな2色のアーキタイプを見つけ、そしてそれらを組み合わせて一体感のあるドラフト環境を作る方法を考えるというものであった。開発部内でも最も経験豊富なメンバーの1人であるアーロンが、セットデザインの指揮を執ったのは偶然ではないのだ。

過去の、カード化されたことのないキャラクターを、統率者戦セットではなく『モダンホライゾン』セットに入れることにしたのはいつですか?

 例外はあるが、物語上のキャラクターが登場するのは多くの場合そのセットで必要だからである。本流のセットでは、その必要性は物語上のものであることが多い。世界Xが舞台で、キャラクターA、B、Cが何らかの役割を果たしている場合、それらのキャラクターをカード化するのだ。

 また、その世界に関連するキャラクターが存在しているので、その中でも人気のあるキャラクターたちがはっきりしている場合は、その中から何人かをカード化することもある。サプリメント・セットでは、物語性は薄いことが多いので、そのセットのメカニズム的必要性から選ばれることになる。

 カルドラが『モダンホライゾン2』に登場したのは、生体武器を持たせるクールな新カードを探していて、カルドラをそこに充てるのは無視するにはいいアイデア過ぎたからである。『統率者』デッキに、特定の色の条件やデッキのテーマを満たすキャラクターが必要なことが多いのは確かだ。つまり、先にキャラクターがあって「どこに入れるべきか」を考えるのではなく、先に必要性があって、それから「この必要性を満たせるのは誰か」を考えることのほうが多いのだ。

『モダンホライゾン2』のプレインズウォーカーはどう選びましたか?

 アーロンに答えてもらおう。

アーロン:ダッコンは最初のころに、このセットの顔として選ばれました。『モダンホライゾン』でセラが顔だったのと同様です。彼には郷愁的なアピールがあり、物語上はプレインズウォーカーだったので、まさにちょうどよかったのです。

 グリストは、クリエイティブ・ディレクターの1人が「この新しいキャラクターを登場させたいのですが、彼女はとても奇妙なのでカードも奇妙になるでしょうから、『モダンホライゾン』が適切な場所だと思います」というように推薦したものです。

 ミラディンをテーマとしたカードを大量に入れる予定だったので、3人目のプレインズウォーカーは最近登場していなかったコスの新カードになる予定でした。そのコスは手の込んだ忠誠度の構想がありましたがこれは最終的にうまく行かなかったので彼をボツにして、その代わりに、クリエイティブ・チームがセット内の別の場所でカード・コンセプトに登場させていた《ジアドロン・ディハーダ》を入れました。この入れ替わりの結果、セットにはダッコン、ピルー、ディハーダ、《獅子のカルス》と、1996年のダッコンのコミックの登場人物が登場することになりました。

 このセットのプレインズウォーカー3人は全員が黒で、これはプレインズウォーカーの色のバランスをしっかり調査しているスタンダードで使えるセットでは問題になりえます。しかし、モダンでは、その広大なカードプールのおかげで、問題にはなりにくいのです。私はこの極悪トリオに大満足しています!

毎回過去の物語への興味深い振り返りを見つけ続けることができるのはなぜですか? 《滅ぼし》、《片目のガース》、《アスモラノマルディカダイスティナカルダカール》はどれも見事な出来です。

 28年近く続いていることの利点の1つが、大量のカードや物語が存在していることである。ディープカットな郷愁が必要なセットを手掛けるなら、熟読すべき過去の素材(小説、コミックなど)が大量に存在している。私たちにはいつの日かカード化できる古き良きキャラクターのリストがあり、それは非常に長い。また、時が流れるにつれて、我々は新しいカードや物語を作り続け、それらは将来の新たな選択肢の礎になっていくのだ。

アスモラノマルディカダイスティナカルダカール》を、省略形で書くのではなく、フルネームをカードに入れて、枠に収まるようにコストをなくすと決めたのはどういう判断でしたか?

 実際、何年も前に《アスモラノマルディカダイスティナカルダカール》をカード化することを検討し、カード名は「地獄界の料理人」にする予定だったが、それはプレイヤーが求めるものを回避しているように思われた。彼女が『アルファ版』時代から注目されている理由は、その名前が図抜けておかしいからである。

 カード・デザインで重要なのは、なぜカードを作るのかを理解することだ。それを作ることでどんな願望を満たすのか。このカードの場合、プレイヤーはその名前が欲しいのだ。それがこのキャラクターの特別なところなので、その問題を回避する方法を探すのではなく直面しなければならない。このカードは《アスモラノマルディカダイスティナカルダカール》という名前でなければならないのだ。そのためにはどうすればいいか。答えは、マナ・コストをなくすことだった。

『モダンホライゾン2』に登場させる物語上のキャラクターの選択は、意図的に昔のドミナリアの物語に寄せていますか、それともあのキャラクターたちが単純にこのセットに「はまる」、他と比べて自然なものだっただけですか?

 これもアーロン向けだ。

アーロン:私たちはこれまでカードセットのセットを作ってはきませんでした。過去の、あるいは死んだキャラクターに焦点を当てたい場合、『モダンホライゾン2』や『統率者レジェンズ』などのセットがそのための最適の場所だったわけです。

 先に、1996年の《黒き剣のダッコン》のコミックを多くのキャラクターの素材として使うことになったという話をしました。《アスモラノマルディカダイスティナカルダカール》や《片目のガース》、トーラック、シヴィエルンらはプレイヤーが印刷を待ち望んでいたキャラクターです。ドミナリアには他のどの次元よりも長い歴史があるのです。さらに、他の次元からも数人の古いキャラクター(ラガバン、フェールス将軍)を登場させ、新しい伝説のクリーチャーも作りました。

『モダン』タイムス

 本日はここまで。質問してくれた諸君と、回答に協力してくれたアーロンに感謝したい。いつもの通り、今日我々がした回答や『モダンホライゾン2』一般のについての諸君の考えを聞かせてほしい。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、アーロンと私がさらなる質問に答える日にお会いしよう。

 その日まで、あなたが『モダンホライゾン2』という楽しい混沌を楽しみますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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