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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『カルドハイム』の物語 その1

Mark Rosewater
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2021年1月25日

 

 先週先々週で、『カルドハイム』のデザインについての話をしてきた。今日は、いくつかのカード個別のデザインの話をしよう。

高山の草地》《極北の並木》《氷河の氾濫原》《高地の森》《氷のトンネル》《霧氷林の滝》《雪原の陥没孔》《硫黄のぬかるみ》《移り変わるフィヨルド》《森林の地割れ
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 『コールドスナップ』には、タップ状態で戦場に出る友好色の氷雪2色土地のサイクルがあった。最初のアイデアは、これらを『カルドハイム』で再録し、そしてその敵対色版を作るというものだった。この計画には、それらの土地の中には(《トレッサーホーンの掃き溜め》のように)ドミナリアの地名がついているものがあり、カルドハイムにはふさわしくないという問題があった。『カルドハイム』のリード・セットデザイナーであったデイブ・ハンフリー/Dave Humpherysは、これらのカードに基本土地タイプを持たせることで別のカード名をつけることができるようにするというアイデアを思いついた。タップ状態で戦場に出る2色土地には、もう少し何かを付け加える余地があるということがわかっていたのだ。デイブとプレイデザイン・チームは氷雪の特殊タイプを持たせ(これは欠点というより利点である。詳しくは来週)、さらに基本土地タイプを持たせるのは許容範囲だと判断した。

 この時点で、すべてが出揃ったように思われたのだ。『カルドハイム』には、それぞれの2色の組み合わせに関係した10個の単語が存在している。氷雪の2色土地は、10枚のサイクルだ。こうなると、それぞれが対応する世界を示すことができる。ここでちょっとした問題があった。すべての世界に氷雪がふさわしいわけではなかったのだ。例えば、イマースターム(黒赤の世界)は火の大地である。クリエイティブ・チームはそれぞれの領界から氷雪にふさわしい場所を探すべく尽力した。(そして最終的には、2色土地が厳密に言えばその色の領界に位置していなくても該当する色の場所を描いたものにすることにした。)そして、これらの土地は、将来別の氷雪関連の次元でも使えるようにするため、一般的な名前がつけられたのだった。

星界の神、アールンド》//《囁く鴉、ハーカ
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 マジック版オーディンとその鴉の、最初のバージョンはこうだった。

〈浮き名のフラフィン〉
{2}{U}{U}
伝説のクリーチャー ― 神
*/*
あなたがこの呪文を唱えたとき、カード名1つを選ぶ。あなたのライブラリーの一番上のカード1枚を見る。それが選ばれたカード名のカードであるなら、カード2枚を引く。そうでないなら、カード1枚を引く。[カード名]のパワーとタフネスはそれぞれ、あなたの手札にあるカードの枚数に等しい。

//

〈フラフィンの鴉〉
{U}
クリーチャー ― 鳥
1/1
飛行
[カード名]が攻撃するたび、占術1を行う。[カード名]が死亡したとき、あなたが神をコントロールしている場合、カード1枚を引く。

 この最初のデザインのもとになったアイデアは、このカードを初期に引いた場合には鴉で唱え、「オーディン」を唱えるための2枚目を見つけやすくするというものだった。占術があれば、この神が戦場に出たときにカード名を正しく指定する役に立つ。

 アールンドはその後、3回の大きな変更を経た。1つ目が、*/*のクリーチャーから手札1枚ごとに+1/+1の修整を受ける1/1クリーチャーになった。2つ目が、ライブラリーの一番上のカードを指名することが入場効果からターン終了時の誘発型能力になり、複数回使えるようになった。3つ目が、カード名1つを選ぶのではなく、カード・タイプ1つを選ぶようになり、2枚引ける可能性ができた。これらの変更にはどれも、このカードを印象的でプレイして心躍るものにするためのものである。

 鴉は占術能力を持ち続けたが、初期にプレイして後にマナが揃ったら《星界の神、アールンド》としてプレイできるようにするため、手札に戻るようになった。最初のデザインから印刷に到るまで、中核のフレイバーが保たれたことに満足している。

隆盛するスピリット
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 何年もの間、我々は大量のマジックのカードをデザインしてきたが、すべてのマジックのカードが同じわけではない。時折、我々は私が「雛形」カードと呼んでいるものを作る。非常にクールで印象的なため、そのようなカードを作る発想を生み出すもとになるカードのことだ。それが将来のクールなカードの雛形になるということである。雛形カードを作ろうとして作るわけではなく、時折起こる軌跡のようなものなのだ。そのような雛形カードの一例が、『イーブンタイド』でブライアン・ティンスマン/Brian Tinsmanがデザインした《運命の大立者》というカードである。

 このカードは、『エルドラージ覚醒』のLvアップ・メカニズムなど、多くのものを生み出す源となった。これが元になったもう1つのものがこのカードである。(私は「面影」カードと呼んでいる。雛形が面影を生むのだ。)我々は氷雪マナですることを探していて、誰かが《運命の大立者》と掛け合わせるというアイデアを出したのだ。(《運命の大立者》系のカードはどの起動型能力を使えるかを決めるためにクリーチャー・タイプを得る必要があるので)《隆盛するスピリット》にはフレイバーが必要だったが、スピリットから戦士になってその後天使になるというのはこのカードをデザインした時点で自然に生まれたものである。

災厄を携える者
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 このカードは、非常に良い部族デザインの手法を使っている。部族能力を作り、その後それをその部族のクリーチャーに与えることでその能力が自身だけで成立するようにしているのだ。例えば、《災厄を携える者》は巨人のダメージを倍にするが、これ自身が巨人なので、この能力は自分自身だけで成立する。このデザインのいいところは、単体でも作用し(巨人がこれしかなくても使うことができ)、また、部族デザインの中心としても作用する(大量の巨人と組み合わせて《災厄を携える者》を使うことができる)ということである。部族カードの問題点の1つは、その部族デッキに入れなければ使い物にならないことが多いということである。この類の手法により、その狭い範囲から出ても使いみちがあるようになっているのだ。

竜巻の召喚士
jp_cp9EmuhEZR.png

 開発部は部族効果を使うのが好きだ。ほとんどのプレイヤーに人気で、非常にフレイバーに富んでいる。課題は、新しい部族効果の作り方を見つけなければならないということである。「[ある部族]は+1/+1の修整を受ける。」を使える回数は限られているのだ。《竜巻の召喚士》は過去数年にデザインが扱ってきた2つのものを扱っている。(これを扱ったカードは過去に大量に存在している。)

包括

 これは、ひとかたまりのものを取り上げ、それをメカニズム的に結合させることである。それに単語を割り当てる(歴史的など。これは枚数が多い場合に行なうことが多い)こともあるが、単に列記するだけのこともある。これによって、複数のクリーチャー・タイプをあわせて使う、あるいは特定のクリーチャー・タイプと他の一部のカードを組み合わせる、デッキの元になったりすることができるのだ。例えば、《竜巻の召喚士》では巨人とウィザードを使ったデッキを作ることが推奨されている。

負の部族効果

 通常の部族効果は、特定の(あるいは複数の)クリーチャー・タイプを助けるものである。負の部族効果は、通常悪い何かを、そのクリーチャー・タイプ以外のすべてに対してするのだ。これも部族デッキを作ることを推奨するが、伝統的な部族効果とはその方法が違う。

ドゥームスカール
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 《ドゥームスカール》と、映画「スターウォーズ」との関連について語らせてくれたまえ。ご存しの通り、先週予顕のデザインについて語ったとき、その話の面白い部分を隠していた。今回、話をしていく中で、予顕のデザインの興味深い側面について諸君を満足させられる機会があると考えたのだ。

 何年も前(19年か20年前になる)、私は当時私の上司の上司だった、ジム・リン/Jim Linという人物の部屋に呼ばれていた。彼は私に、ハズブロがスターウォーズのライセンス権を獲得するためジョージ・ルーカスと取引を成立させた、と伝えてきたのだ。この取引の派生として、ウィザーズがスターウォーズのトレーディング・カードゲームを作ることになった。リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldはそのゲームを作るための(私も参加していた)デザイン・チームのリードとなり、そして私が第1セットのデザインのリードを務めることになったのだ。私がスカイウォーカーランチを訪れたときの話を聞いたことがあるなら、これがその理由である。(2文でまとめよう。私はセットをデザインするために「クローンの攻撃」の脚本を読む必要があり、そのためにはスカイウォーカーランチに行く必要があったのだ。これは私が生きているうちに叶えたいことの1つだった。)

 このゲームでは、映画のフレイバーに合わせるため、戦闘が行われる領域は3つ存在していた。宇宙、地上、人物である。その3つの領域のうち2つを確保すれば勝利となるのだ。このゲームには、さまざまな戦闘要素を表すカードをいろいろな領域に出していた。このゲームでは、カードを使うためのポイントがリソースとして与えられた。大きなものを使うために、時間を掛けてポイントを支払える、カードをプレイする構築領域が存在していた。

 私は『スターウォーズTCG』におかえる構築領域の使い方が好きだったので、それを真似た「予約/layaway」というメカニズムを作った。カードを追放領域に裏向きにプレイし、支払ったマナごとにカウンターをその上に置くのだ。追放領域にあるそれをいつでも(ああ、その呪文がプレイできるときならいつでも、だ)唱えることができ、そのマナ・コストはその上にあるカウンターの数だけ少なくなる。これは不特定マナだけを減らすので、その呪文を唱えるときには適正な色を支払うのは変わらない。加えて、そのカードが何であるかがわかりにくくなるように、自身のマナを必要以上に支払うこともできる。

 これは楽しいメカニズムだったが、複雑で物理的な処理も多く、しかもそのとき手掛けていたセットに特にふさわしいものでもなかった。(何のセットのときだったかは正直覚えていない。20年ほども前のことなのだ。)そこで、私は特にふさわしいものでないクールなメカニズムに対するいつもの取り扱いをした。モスボール化してふさわしい場所を探すことにしたのだった。(何年も後の居場所を見つけるためにモスボールしていたメカニズムの好例が、エネルギーである。)時折、私はメカニズムを探しているときにこれを取り出していたが、その居場所が見つかることはなかった。

 そして『カルドハイム』の展望デザインの話になる。前兆は北欧神話に置いて重要なものなので、イーサン/Ethanは、前兆のフレイバーを再現したメカニズムをするというアイデアを思いついた。彼が必要だと考えるものを説明したとき、私は「ああ、ほとんど予約じゃないか」と言い、モスボールから取り出して俎上に上げたのだ。その結果、我々はイーサンのアイデアと予約を組み合わせ、そのどちらよりも清麗なバージョンを作りだしたと言える。これが、「スターウォーズ」が予顕を助け、究極的には《ドゥームスカール》を生み出すに到った話である。

死の神、イーガン》//《死の玉座
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 北欧神話の死の神は、ヘル(マーベルのコミックや映画ではヘラ)である。当然、我々は死の神のマジック版を作った。最初のバージョンはこうだった。

〈強欲のヘル〉
{3}{B}
伝説のクリーチャー ― 神
2/5
接死
対戦相手がコントロールしているクリーチャー1体が死亡するたび、カード1枚を引く。

//

〈ヘルの門〉
{2}{B}
アーティファクト
すべてのクリーチャー・カードは対戦相手の墓地を離れることはできない。

 この両カードとも、何度も変更された。まずはヘルから見てみよう。印刷に到るまで接死を持っていることは変わらなかったが、主な能力は「対戦相手がコントロールしているクリーチャー1体が死亡するたび、カード1枚を引く。クリーチャー1体があなたのコントロール下で戦場に出るたび、それがあなたの墓地から出たかあなたの墓地から唱えたものであった場合、カード1枚を引く。」に変わった。さらにその能力は変更され、「あなたがカード1枚を引くなら、代わりに、あなたの墓地にあるカード1枚を無作為に選び、あなたの手札に戻す。そうできないなら、[カード名]を生け贄に捧げる。カード1枚がいずこかからあなたの墓地に置かれるなら、代わりにそのカードを追放する。」になった。その次の大変更の結果できたのが印刷されたものである。また、それに合わせて、サイズも2/5から2/4、そして5/4、最終的に6/6へと変わった。

 〈ヘルの門〉はすぐに「{3}{B}, [カード名]を生け贄に捧げる:このターンに戦場から各墓地に置かれてそこにありクリーチャーやプレインズウォーカーであるすべてのカードをあなたのコントロール下で戦場に出す。」という能力を与えられた。その後、対戦相手がコントロールしていて死亡したすべてのクリーチャーやプレインズウォーカーを追放して、門のコントローラーが{3}{B}を支払って門を生け贄に捧げればこれが追放しているクリーチャー・カードや自分の墓地にあるクリーチャー・カードのうち1枚を戦場に戻せる、というものになった。その後、印刷されたバージョンに変わったが、最初は切削するのは2枚だった。これはやりすぎだったので、1枚に引き下げられたのだ。〈ヘルの門〉が《死の玉座》になったのは、切削バージョンに変わった頃だったと記憶している。

樹の神、エシカ》 // 《虹色の橋
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 すべての神々をMDFC(モードを持つ両面カード)にするというアイデアが出たデザイン会議で、我々は作らなければならないすべての組み合わせを列記していった。トールとその鎚。オーディンとその鴉。ロキとその真の姿。(ティボルトがこの詐欺師の神に化けているという発想はかなり初期からあったのだ。)そしてもちろん、ヘイムダルとその虹の橋も作らなければならない。(そう、マーベル・シネマティック・ユニバースにおいて、虹の橋とビフロストは関連付けられていないということはわかっている。)

 我々は虹の橋を先にデザインした。5色のエンチャントで、何か派手なことをするものである必要があった。あまり考える必要はなかった。明らかに、他の次元から持ってくるものなのだ。複数のアイデアが出たが、その後誰かが「毎ターン、クリーチャーを出し続けるというのはどうだろう」と言った。それで、完成だった。セットデザイン中に変更されたのは、フレイバー的な理由で、クリーチャーかプレインズウォーカーになっただけである。プレイデザインは「プレインズウォーカー」を除くことを真剣に検討したが、問題なしと判断した。

 一方、もう一方の面は、何度も変更されることになった。最初のバージョン(展望デザイン中に我々が作ったもの)はこうだった。

〈領界の守護者、ヘイムダル〉
{2}{W}
伝説のクリーチャー
1/5
到達
戦闘中、望む数のクリーチャーをブロックできる。

 ヘイムダルの主な役割はアクスガルドをよそ者から守ることなので、我々は彼に非常に防御的な能力を持たせた。その名前はすぐに〈領域の守護者、ヘイムダル〉から〈監視のヴァーディ〉に変更された。また、白から緑に変更され、この時点で正式に神になった。彼の能力はその後、彼と他の神々が到達と「望む数のクリーチャーをブロックできる。」を持つというものに変更された。その後、警戒する人物なのでフレイバー的にふさわしく、到達は警戒に変わった。

 この時点で、セットデザインはこのカードの両面ともそれぞれはフレイバーに富んでいるが、お互いにうまく噛み合うようにはなっていないということに気がついた。MDFCの神々に関して我々が気に入っていたことの1つが、伝説の側がすでに戦場に出ていた場合、もう1つの面でプレイできるということだった。これは伝説のクリーチャーを2枚引いてしまった場合の苦痛を軽減してくれるいい方法に思われたのだ。このことから、セットデザインは「望む数のクリーチャーをブロックできる。」を「{T}:望む色1色のマナ1点を加える。」に変更した。その後、このカードのコンセプト付けが行なわれた際に、このカードは守護者というよりも自然のクリーチャーへと変更されることになった。また、猫が引くフレイヤの車もここに割り当てられた。(ある時点では、フレイヤのカードの第2面がそれになっていた。)

 ヘイムダルの要素(剣の守護者部分)は《戦闘の神、ハルヴァール》とその《領界の剣》に移動した。我々が発想の元ネタを使う場合、ある一面が複数のカードに広がることはよくあることなのだ。

牙持ち、フィン
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 毒がマジックに初めて導入されたとき(『レジェンド』)、たった2枚のカードにしか存在しなかった。それから数年、毒が存在していたのはセット内に存在する単独のカードだけだった。長い中断期間を経て『ミラディンの傷跡』で私が復活させたとき(『未来予知』で数枚の匂わせはあった)、大量のカードに存在する中心メカニズムにしたのだ。フィンは毒の根幹に戻るカードである。これまで作ってきたどの毒デッキとも違う毒デッキを作れるような基柱カードとなる、すばらしいフレイバーを持つ1枚のカードなのだ。これを使って諸君が作るデッキを見るのが楽しみである。

北欧を水辺に連れていくことはできる

 本日はここまで。これらの話を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、この記事や話題にしたカード、あるいは『カルドハイム』全体について、諸君からの感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、さらなるカード個別のデザインの話を続ける日にお会いしよう。

 その日まで、作ったときの我々と同じようにあなたが10個の領界の探索を楽しんでくれますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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