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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

北方へ その2

Mark Rosewater
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2021年1月18日

 

 先週、私は『カルドハイム』のデザインについての話を始めた。私は、最初の会議で書き出した、プレイヤーが北欧風セットとして想像するだろうと考えた8つの議題それぞれについて見ていくという方法で話を組み立てている。その議題とは、

  • 神々
  • 9つのレルムをもとにした何か
  • いくつもの特定のクリーチャー・タイプ(エルフ、ドワーフ、巨人など)
  • 特定の武器(鎚、斧、剣など)
  • 北欧型魔法(ルーン、前兆、ゾンビなど)
  • 戦闘関連のさまざまなもの
  • その他ヴァイキングらしいもの(兜、舟、葬儀など)
  • 寒冷な気候

 このうち、最初の4つについては先週話した。今週は、後半4つについて話していこう。また、今週も新しいメカニズムの1つを持つクールなプレビュー・カードがある。その話になったときにお目にかけよう。しかし、それらの話を始める前に、展望デザイン・チーム、セットデザイン・チームをご紹介したい。

クリックで展望デザイン・チームを表示


クリックでセットデザイン・チームを表示


 デザイナー紹介が終わったので、ここからはデザインの話に入る。

北欧型魔法(ルーン、前兆、ゾンビなど)

 現実世界のものを元ネタとして扱う場合に我々がよくやることの1つが、その神話にどのような魔法が存在するかを検証することである。マジックはもちろん魔法に関するゲームなので、魔法の呪文を使う中でその元ネタに合ったものを作るためにできることを探すのはいつでも有益なのだ。ここから、我々のデザインの基柱になった2つのものが生まれた。ルーンと前兆である。

 さまざまなスカンジナビア語はルーンをその言語の文字として使っている。北欧神話の一部では、その特定のルーンを物品に刻むことで魔法の能力を与えるというものがある。展望デザインは様々なルーンのデザインを試みた。展望デザイン・チームが提出したものは、装備品をエンチャントして何らかの形で強化するオーラのサイクルだったと記憶している。他のカードがメカニズム的に参照できるように、我々はそれにルーンというエンチャント・タイプを与えた。セットデザインはそのアイデアを採用し、より実用的なものに拡張した。それらのルーンは、それぞれがパーマネントをエンチャントするようになった。エンチャントしたクリーチャーに特定の能力を与え、エンチャントされた装備品はその同じ能力を与えるようになる。また、ルーンをメカニズム的に参照するカードも数枚存在している。

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 北欧神話といえばもう1つ大きいのが(そしてほとんどの神話がそうであるが)、前兆という発想、つまり未来の出来事を予言することである。神話とは基本的に当時の物語の基本形であり、登場人物が将来起こるべきことを知っているというのはクールな物語になるのだ。これをセット内で表す方法はあるだろうか。他のアイデア同様、まずそれがメカニズム的にどうあらなければならないのかを見つけることから始めることになる。前兆は将来についての話であり、つまり未来の出来事に何らかの形で干渉できなければならない。そのためにはどうすればいいか。将来まで起こらない呪文を今唱えるのはどうだろうか。

 マジックではこのようなことをやったことがある。もっとも直接な例は、『時のらせん』の待機メカニズムである。その呪文の通常よりも安いコストを支払い、残りは時間で払うことになるのだ。これはつまり、今唱えた呪文が、未来のターンが訪れるまで解決されないということである。また、我々は、呪文を今唱え、それが次のターンの開始時にも繰り返される、反復というメカニズムも作った。しかし、どちらのメカニズムも公開情報を含んでいる。その呪文が将来のターンに発生することになることを私がわかっているというだけでなく、プレイしている全員がそれを知っているのだ。唱えた本人だけが完全な情報を持っているようなものはできないだろうか。

 ここから生まれたのが、呪文を唱えて裏向きに追放するというアイデアであった。最初のバージョンでは、その呪文は次のターンに処理されることになっていたと記憶している。マナの支払いは公開でなければならないので、わからないというわけではないという問題に気がついた。また、呪文が常に次のターンに解決されるということは、デザイン空間的にも状況が変わって呪文が無意味になった場合の苛立ちという点でも制限となっていた。

 このことから、変異に触発されたバージョンを試すことになる。一定量のマナを支払って追放領域に裏向きでカードを出し、そしてそれ以降のターンに「予顕」コストを支払うことでプレイできるというものである。(セットデザインの間に、このメカニズムの名前は予顕に変わった。)最初に試したコストは無色マナ2点で、それは最終的にいい選択だった。我々は他のコストについても議論したが、プレイテストの結果最初のものが正しいとわかったのだ。

 予顕はデザインするのに興味深いメカニズムだということがわかった。あらゆるカード・タイプに持たせることができ、うまくプレイできるデザイン空間も非常に広かった。デザイン上の唯一の制約は、どの予顕カードをプレイしているのかが隠せるように十分な量の予顕カードがあれば特にリミテッドではうまく働くことがわかったということである。また、それらのカードをどう唱えるかの選択肢がプレイヤーに与えられたので、マナの円滑化にも役立った。展望デザインはこのメカニズムを5色全てに持たせ、セットデザインはそのまま保った。私はこのセット内の枚数も増えていると確信している。

 こうして私のプレビュー・カードである予顕カードができたので、ここで諸君にお披露目しよう。

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戦闘のさまざまなもの

 北欧神話やヴァイキングと言って人々が思い浮かべるもう1つのものは、戦闘である。実際のところ、マジックは戦闘を中心としたゲームなので、デザインの余地は大量にあると思われたのだ。展望デザインで自問した質問は、「伝統的な戦闘の扱い方以外で戦闘を扱う方法はあるだろうか」というものだった。クリーチャーを戦闘で助ける側面攻撃や武士道のようなものから、戦闘に参加しているとカードを強化してくれる強襲や大隊、戦闘に参加したときに誘発して何らかの効果をもたらす挑発や喊声まで、さまざまな戦闘関連メカニズムを作ってきた。

 かなりの掘り下げの後、展望デザインで見つかったアイデアは、我々が「燃葬/cremate」と名付けたメカニズムだった。燃葬は墓地にあるクリーチャー・カードをリソースとして用いる。この背景にあったアイデアは、クリーチャーが死ぬことをゲーム後半で自分を強化することにつなげることで、攻撃的になることを推奨するというものだった。これは戦闘中心のメカニズムで、展望デザインはセットデザインに提出したのはこれだった。セットデザインはこれをセットに残すことにしたが、このメカニズムに名前は不要だと考えたのでキーワードではなくした。また、このセット内の全体の数を引き下げた。

 セットデザインは、このセットに名前のある戦闘関連のメカニズムが必要だという総論には同意し、そして誇示を追加した。誇示を持つクリーチャーは、そのクリーチャーがそのターンに攻撃していたときにだけ使える起動型能力を持つ。後者が生まれたのは、攻撃しているという条件から、起動コストにタップ・シンボルを含めないことからである。誇示は、直接は戦闘に関わらないものを含め、さまざまな効果を持つことがありうる。

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 私がデザイナーとして常に探しているものの1つが、プレイヤーが直面したことがないようなゲームの局面や構造を作る方法である。私が誇示メカニズムを心底気に入った理由の1つが、これによってクリーチャーで攻撃することをリソースにする方法が示されたからである。誇示クリーチャーを起動したいのか。そのコストは、それで攻撃することだ。これは、戦闘について全く新しい形で考えることを強制する興味深い選択であり、そもそも戦闘中心のメカニズムを作ることの目標そのものだった。セットデザイン諸君、ご苦労だった。

その他ヴァイキングらしいもの(兜、舟、葬儀など)

 この分類はどのメカニズムのもとにもならなかったが、多くのトップダウン・デザインのもとになった。(その中のいくらかについては、カード個別デザインの記事で話そう。)トップダウンのセットで展望デザインの初期にいつもすることの1つが、品物、人物、物語、その他の元ネタ関連のものについて、そのもとの素材が提供しなければならないあらゆるものを列記していくことである。北欧神話や歴史上のヴァイキングを好きな諸君が想像したものの多くがそのままセットに入っているようであれば幸いである。我々はそのためにかなりの時間を費やしたのだ。

寒冷な気候

 列記した中の最後の1つが、気候であった。北欧神話の舞台は北ヨーロッパであり、一般的に多くの雪や氷に覆われている。氷雪メカニズムが必要かどうか、我々は展望デザイン中に議論した。氷雪土地やそれを参照するカードは、『アイスエイジ』で初登場したものである。しかし、その実装はいわば最適なものではなく、プレイヤーに良く受けとられることはなかった。『アイスエイジ』の拡張セットとして発売された(デザインはそうではない)『アライアンス』では、デベロップ中に数枚氷雪土地を参照するカードが追加された。

 何年も経って、「何年も前に『アイスエイジ』ブロックを終えるためにデザインされた失われた『アイスエイジ』のセット」というフレイバー付けがされた『コールドスナップ』を作った。その中で、我々は氷雪を特殊タイプにして、土地以外のカードにも持たせた。また、マナを生み出し氷雪の特殊タイプを持つカードが生み出したマナである氷雪マナも導入した。『コールドスナップ』は素晴らしい以上のものではなかったので、開発部の多くは氷雪は失われて戻ってくることはないだろうと考えていたのだ。これは展望デザイン中のことであった。

 しかし、展望デザインとセットデザインの間で興味深いことが起こった。『モダンホライゾン』が登場し、そこで氷雪メカニズムが使われていたのだ。『モダンホライゾン』ではデッキになるような過去の振り返りを探し、そして氷雪カードを増やすというアイデアが生まれたのだ。これによってこのセットでは需要のある氷雪土地を再録できるようになった。氷雪テーマは最初は小さかったが、雪だるま式に大きくなった(私が思うに氷雪テーマはそうなりやすいのだ)。最終的にはセット内の重要な役割を果たすようになったのだ。そしてプレイヤーは心からそれを楽しんだ。

 そう、北欧風セットには、必ずや冷たいというテーマが必要なのだ。氷雪がテーブルに戻されると、セットデザインはそれをセットに加えるのは筋が通っていると判断した。冷たいと思われるカードは氷雪のキーワードを持ち、氷雪テーマやそのマナはセットに加えられた。基本土地は氷雪基本土地に差し替えられ、氷雪2色土地のサイクルが追加された。

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色違いの北欧

 わずか2本の記事で、『カルドハイム』のデザインの話は語り尽くした。諸君がこのセットを楽しんでくれていたら幸いである。また、これらのメカニズムやテーマ、あるいはセット全体についての反響を聞かせてほしい。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『カルドハイム』のカード個別のデザインの話をする日にお会いしよう。

 その日まで、北欧を途中で変えませんように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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