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Making Magic -マジック開発秘話-
さらなる『ゼンディカーの夜明け』の明星
2020年9月21日
先週、『ゼンディカーの夜明け』のカード個別のデザインの話を始めた。まだ語るべき内容があったので、今週もその続きをすることにした。
《鏡映魔道士、ジェイス》と《影さす太枝のニッサ》
初めてプレインズウォーカーというカード・タイプを作ったとき、我々はプレインズウォーカーはその登場しているセットとは少し関係性が薄い感じにしたいと考えていた。そうすることで、その世界よりも大きな存在であるという雰囲気を持たせることができると考えたのだ。また、多くの場合、プレインズウォーカーはその次元出身ですらないので、その関係性の薄さがその事実を強調する助けになった。こうして、我々はセット特有のメカニズム(常磐木でないものすべて)をプレインズウォーカー・カードでは使わないことにしたのだった。物語上、あるいはフレイバー上の強い理由があれば時折例外を作ることになるのはわかっているが、一般論としては、世界構築とプレインズウォーカー構築の流れを交わらせることはない。
これは、我々がプレインズウォーカー・カードをデザインしてきた何年もの間、守られていた。時折使う予定のカード・タイプとして始まった(そう、最初の計画では年に1組ぐらい登場するという予定だったのだ)ものが、最終的にはプレイヤーのお気に入りとなりすべてのセットに入れるようになった。プレインズウォーカーをデザインする頻度が増えると、重要なことがわかり始めてきた。プレインズウォーカーのデザイン空間は、一見して想像するよりもずっと狭いのだ。これは、プレインズウォーカーのように華々しいカード・タイプにとっては問題だった。このことから我々は、セット固有のメカニズムを使わないなどの理念にさまざまな変更を加えることが必要になった。実際、今はその正反対に、つまりセット特有のメカニズムを、プレインズウォーカーがそのセットに関わりの深いものであると感じられるようにするとともにデザイン空間を広げるための方法として考えるようになっている。
これが、『ゼンディカーの夜明け』の3人のプレインズウォーカーのうち2人がセット特有のメカニズムを使っている理由である。上陸は土地と絆を持つニッサにフレイバー的な関わりが深く、キッカーはジェイスの幻影というイメージをクールに実現する方法となった。では、これがプレインズウォーカーの将来に関してどういう意味を持つのか。この傾向は今後も続くだろう。(正直なところ、これは今始まった話ではない。これはこれまで時間を掛けて加速してきたものであり、それを公知のものにするのに今がふさわしかったというだけのことである。)
《水蓮のコブラ》
初代『ゼンディカー』の開発中に、開発部内で一番議論を呼んだのがこのカードだったのは間違いない。これはそう簡単にできたものではないのだ。我々はデザイン(今日のモデルで言うところの展望デザイン)中に上陸カードをデザインしていて、そのためのクールな効果を探していた。「好きな色1色のマナ1点を加える。」は単純だが心を躍らせるものだと思った。それはレアとしてファイルに入り、私はそのまま印刷されるだろうと確信していたのだ。
それから何か月も経って、そのセットのデベロップの終盤(今日ならプレイデザインにあたるだろう)になった。このカードは素晴らしく働き、FFL(フューチャー・フューチャー・リーグ。開発部が将来の環境をプレイテストするための方法)で多く使われていた。神話レアにふさわしいだけの興奮(と、クールなことをする可能性)を持っていると考えられ、レアから神話レアに移動させるという決定がなされた。
神話レアというレアリティは、この前年に『アラーラの断片』で導入されたばかりだった。私はそれについての記事(英語)を書いており、その中でかなりの時間を割いて神話レアというレアリティをどう扱うつもりかという一般的な理念を展開していた。個人的に、私は《水蓮のコブラ》がその展開した理念にそぐうものだとは思っていなかったのだ。開発部は、このまだ新しいレアリティである神話レアというものを、新しいカードや新しいセットの文脈の中でそれについての理解を深めていくことで進化させようとしている最中だったのだ。開発部はレア派と神話レア派に二分された。それから数か月にわたって多くの論争が繰り広げられたが、最終的には他に差し替えるべきよりよいカードがなかったので神話レアのままになったのだ。レアリティの変更がなされなかった後、私は、《水蓮のコブラ》へとカード名変更を提案した。神話レアになるのであれば、少なくとも、神話レアらしく聞こえるカード名を持つべきなのだ。(読者諸君はご存知の通り、私は「パワー」ワードというもの、すなわち強力なカードに関連しているのでプレイヤーの心を躍らせるような単語、を強く信じている。)
初代『ゼンディカー』が発売され、多くのプレイヤーたちは、《水蓮のコブラ》を愛するとともに、神話レアではなくレアであるべきだと考えた。スポークスパーソンにしてユーザーとのコミュニケーションをよくとる人間である私は、なぜこれが神話レアなのかについてかなりの時間を費やして説明しなければならなかった。私の仕事の奇妙なところの1つが、舞台裏では強く反対したことであっても、製品が発売された後ではそれを弁護しなければならないということである。
さて、そして再び時は流れ、今度は何年も経って、『ゼンディカーの夜明け』のデザインに到った。『戦乱のゼンディカー』で初めて再訪したときに上陸を再録していたが、それを作る上でパワーレベルは非常に控えめなものにしていたので、《水蓮のコブラ》は再録の候補から外されていた。『ゼンディカーの夜明け』では、エリック/Erik(ラウアー/Lauer。リード・セット・デザイナー)は『戦乱のゼンディカー』よりも少し積極的にできると感じていた。そしてそうであれば《水蓮のコブラ》は再び再録の候補になりえることになった。私は、《水蓮のコブラ》が再録されたことと、私が最初に望んでいたレアリティになったことに満足している。これで届くメールがぐっと減ってくれることを期待している。
《溶鉄破》
《溶鉄破》は、開発部が過去数年で変更したもう1つのことについて触れるいい機会である。それは、ニッチな効果をどう扱うか、についてだ。ここで意味しているのは、多くの場合に必要ないようなことをするカードを作る方法ということである。マジックの歴史上の長い間、我々はそれらのカードを「サイドボード用カード」として扱ってきた。つまり、これらのカードはメインデッキではプレイせず(歪んだメタゲームを補正するためには入るかもしれない)、ゲームとゲームの間にデッキに差し入れるものだということである。ここで、「サイドボード」と言っているが、よりカジュアルな対戦では、さらに非公式な形で行われているということを強調しておこう。対戦仲間に何回も何回も負けていたら、それに対応できるようにデッキを変えることになる。この場合、これらのサイドボード用カードが入れられることはよくある。
この変更は、これらのカードをメインデッキに入れて必要かもしれないときにそこにあるようにするための方法を探すものであった。(そう、マジック・ザ・ギャザリング・アリーナにおけるBO1、1本先取の増加は、複数の理由の1つではあるが、これに関与している。)このためのもっともよくある方法が、《溶鉄破》で使われている、モードの増加である。そう、この呪文は狭い効果(アーティファクト破壊など)もするが、一般的にもっと有用な他の効果もできるのだ。《溶鉄破》の場合、それは直接ダメージである。《溶鉄破》をクリーチャーやプレインズウォーカーに対する除去としてデッキに入れて、もしアーティファクトが問題に鳴るようであればアーティファクト除去の効果を使う方法があるのだ。この傾向は今後も続くことだろう。
即用装備品サイクル
諸君も、『ゼンディカーの夜明け』の装備品は全部、戦場に出たときにくっつくことに気づいているかもしれない。これは一体なぜなのか。それにはいくつかの回答がある。まず、『ゼンディカーの夜明け』はパーティー・メカニズムで使われている4種類のクリーチャー・タイプそれぞれを補助する必要があった。そのクリーチャー・タイプの1つが、戦士である。戦士を定義づけるのは何か。そう、戦士は闘いに長けている。展望デザインで、我々はそれらを戦闘で強化するさまざまな方法を掘り下げた。その方法の1つが、装備品で強化されるようにすることだった。戦士が武器の扱いに長けているのは非常にフレイバーに富んでおり、マジックにおいて、ほとんどの装備品は武器というフレイバーを持っている。装備品が即座につくようにすることはゲームごとに同じような経験を生み出すのでバランスを取るのが簡単になる。
2つ目に、それは非常に中盤戦の穴を埋める助けになる。『ゼンディカーの夜明け』には序盤戦では上陸が、長期戦ではキッカーが存在している。即用装備品は、その中間ですることを作る助けとなるのだ。3つ目に、装備コストを高くすることで、それらのカードの働きがゲームの進行に伴って変化するようになる。序盤戦ではオーラのように働いてすぐに効果を持たせることができるが、長期戦では移動することができるのでその柔軟性を発揮することができるのだ。4つ目に、エリックが即用装備品が単に大好きだったのだろう。このセットがセットデザイン・チームに提出された時、エリックはこれらの理由を認識するや否や、すべての装備品を即用装備品にすることを決めたのだ。
《タジームの猛禽》《当惑させる難題》《乱動への突入》《火砕のヘリオン》《むら気な猛導獣》《カザンドゥの踏みつけ》《ニッサのゼンディコン》《ムラーサの根食獣》
新しいメカニズムを導入するとき、まずすべきことの1つが、マジックの基本的な効果のうちでその新メカニズムとシナジーを持っているのはどれかを判断することであり、その後、そのセットにおけるその効果の量を増やすべきなのだ。そう、『ゼンディカーの夜明け』の新メカニズムの1つがモードを持つ両面カード(MDFC)だ。これは、プレイするか唱えるかするときにどちらの面を使うかを選べる両面カードである。これとシナジーを持つ基本的効果は何か。
これを解き明かすための鍵は、まずセット内のカードとこの新メカニズムの間の共通した性質を識別することである。展望デザイン中に、我々は文字通り全ての側面をホワイトボードに書き出した。『ゼンディカーの夜明け』のMDFCに関しては、このようなものがあった。
- すべて2つの面を持つ
- それぞれの面にそれぞれのカード名とルール文がある(アートも該当するが、黒枠マジックではメカニズム的にアートを参照することはできない)
- どちらの面でもプレイするか唱えるかできる
- 少なくともどちらか一方の面は土地である
- それらの土地はタップして1色のマナを出す
最初に目に飛び込んできたのは、これらのカードの一方の面は土地であるということだった。我々は、土地メカニズムと土地テーマでよく知られているゼンディカー世界を舞台にしているので、そこにシナジーがあるように思われた。(そしてもちろん、これがこれらのMDFCを『ゼンディカーの夜明け』に選んだ理由である。)土地とどのように相互作用したいのか。戦場においては、これらは他の多くの土地と同じように振る舞う。実際、これらはタップして1色のマナ1点を出すことしかできないので、ほとんどの土地よりも少しばかりつまらない。これらを面白いものにしているのは、これらが通常のマジックの裏面でないもう1つの面を持っているということである。しかし、それはそれらが手札にあるときにしか意味を持たない。そうであれば、土地を戦場から手札に戻す方法は存在するだろうか。存在する。土地バウンス(戦場にある土地を自分の手札に戻すこと)だ。
土地バウンスがこれほどシナジーを持つ理由は、それが『ゼンディカーの夜明け』におけるMDFCの使われ方と噛み合うからである。序盤戦でマナが必要なら、MDFCは土地の面でプレイすることが多くなる。しかし長期戦で他のマナが揃ってくると、そのマナは不要になり、そのカードのもう1つの面が必要になってくるかもしれない。問題は、戦場にある状態でそのカードをもう1つの面に変更する方法は存在しないということである。(これらは変身する両面カードではないのだ。)しかし、手札に戻すことができれば、その機会が開ける。
土地バウンスには大きく2通りの使われ方がある。効果としてバウンスするものと、コストとしてバウンスするものである。『ゼンディカーの夜明け』では、その両方を掘り下げている。(ただし前者のほうが多い。)上述のカードは、さまざまな方法で、MDFCをもう1つの面で使うことができるようにするものである。また、上陸がセットに存在するので、土地バウンスは上陸を再び誘発させるために土地をもう一度プレイできるようにするので有用である。ここにはMDFCも含まれることが多い。(土地としてプレイすることができるようにすることが、土地でないMDFCパーマネントを戦場から戻す最大の理由である。)
《空飛ぶ思考盗み》
「墓地に8枚以上のカード」テーマはセットデザイン中に、ならず者というクリーチャー・タイプのテーマ(そしてこのセットでの青黒のドラフト・アーキタイプ)を組み上げているときに導入されたものである。伝統的に、ならず者はサボタージュ戦略(開発部語で、戦闘ダメージを与えることによって誘発する効果のこと)を使うことが多い。セットデザイン・チームは、ならず者らしい、それでいてなにか新しいものを探していた。墓地スレッショルドは、青と黒には墓地を肥やす方法がいくつもある(切削、打ち消し、手札捨て、クリーチャー除去など)ことから興味深いものだった。このテーマはおそらく、『基本セット2013』の《ジェイスの幻》がもとになったのだろう。
私がこのテーマを初めて目にしたのは、このセットの確認をしているときだった。展望デザインをリードする中で、下流を時々チェックして展望的に重要な部分から外れていないかを確認する。「墓地にカード8枚」のようなテーマがセットデザイン中にドラフト・アーキタイプを具体化していく中で追加されることは非常によくあることである。私は、マジックにはすでに墓地メカニズムとして(『オデッセイ』に)スレッショルドがあるので、7枚でも8枚でもパワーレベル的に充分近いのであれば7枚を再利用してマジックの過去とのつながりを持たせるほうがいいだろう、というメモを入れた。その差に意味がある(興味深いことに、リミテッドでも構築でも)ことがわかったので、8枚のままになったのだった。
《タジュールの模範》《古参の冒険者》《石造りの荷役獣》
パーティー・メカニズムを作っていくかなり初期の時期に、「パーティーの職業のうち複数を持つクリーチャーはいるべきだろうか」という疑問が浮かんだ。たとえば、ウィザード・ならず者とか、クレリック・戦士とかのことだ。フレイバー的観点からは簡単にできるが、このメカニズムでどう働くかを考えると複雑な問題だった。メカニズムを作る場合、それを補助するのは必要だが、簡単にしすぎてはならない。
我々は展望デザインの初期に複合職業のクリーチャー(職業であるクリーチャー・タイプを複数持つクリーチャー)を試し、そしてパーティーのコスト付けが少しばかり難しくなりすぎるとわかった。複合職業クリーチャーがいるとしてコスト付けをしなければならず、そうなるとデッキ内に複合職業クリーチャーがいなかった場合にそれらのカードを使うのが非常に難しくなるのだ。(これはリミテッドでは顕著な問題だった。構築では、当然それらを入れればいいのだ。)ファイルを提出するとき、我々はこの4つの職業のうち複数を持つクリーチャーは入れていなかった。しかし、セットデザイン・チームが掘り下げたいと思うかもしれないものとして記録に残していたのだ。
パーティーを色に分ける(緑以外の全ての色で。これについては後述)方法として、4つの職業のうち1つについて、1色を1種色とし、別の色を2種色と、さらに別の色を3種色として、残りの色には存在しないとした。緑は4つの職業のどれでも1種色ではないが、4つの職業全てが存在する唯一の色とした。セットデザイン中に、チームは「パーティー全部持ち」、つまり4つの関連する職業全てを持つクリーチャーを試した。緑以外の4色には存在しない職業があるので、「全部持ち」クリーチャーは緑とアーティファクトだけに存在する。
彼らが最終的にこれを採用したのは、これが3通りの意味で助けになるからだった。1つ目に、パーティーをドラフトする上で全体的な助けになること。2つ目に、緑をパーティー・デッキで有用にする助けになること。緑はどの職業においても1種色ではなく、そのため確実に使えるデッキに充分な数入れることが難しかったのだ。3つ目に、プレイデザイン・チームがパーティーを構築で使い物にするようにするために使える道具だったということである。セットデザインは最終的に、3枚の「パーティー全部持ち」クリーチャーを作った。1枚目は、あらゆるパーティー・デッキで使える、コモンのアーティファクト。このクリーチャーはパーティー・デッキが多色に広がる傾向にあるのでマナを揃える助けになる。2枚目は、リミテッドで緑のパーティー・デッキを助ける、やや重めのアンコモンの緑のクリーチャー。3枚目は、構築のパーティー・デッキ向けにデザインされたレアである。
『ゼンディカーの夜明け』の輝き
さて、本日はここまでとなる。これらの話を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、今回話題にしたカード、あるいは『ゼンディカーの夜明け』全体について、諸君からの感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『ドゼンディカーの夜明け』の展望デザインの提出文書の日にお会いしよう。
その日まで、あなたが語るべき新たな物語を生み出しますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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