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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

セット・ブースター

Mark Rosewater
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2020年7月25日

 

 今日は、『ゼンディカーの夜明け』で初登場するもの、新型ブースターについて語っていく。それが、今回のタイトルにもなっている、セット・ブースターと呼ばれるものである。今日の記事ではそれについて話そう。

 詳しい話に入る前に、少し伝えておきたいことがある。これは、我々がマジックに新しく導入するものだ。何もなくなるわけではなく、現在の製品は何ひとつ変わらないままである。これまでのものが好きなら、セット・ブースターのことは無視してくれて構わないのだ。

セット・ブースターとは

 ここ数年で、開発部の考え方は、ユーザーをどのように製品に合わせるか、から、製品をどのようにユーザーに合わせるか、へと大きく変わった。つまり、誰がマジックを買っていて彼らが何を求めているのかを把握し、そして彼らの需要に応えられるような製品を作るのだ。

 ここで、マジックのブースターを見てみよう。何十年もの間、ブースターは1種類しか存在せず、そして新セットへの経路はそれだけだった。どんなプレイヤーであっても、何を求めているとしても、新セットを手にする方法は他のプレイヤーと同種のブースターしかなかったのだ。(それが、今「ドラフト・ブースター」と呼ばれているブースターである。)この手法の問題は、あるグループにとっての制約が、全員にとっての制約になるということである。例えば、ドラフトはマジックの大きな部分を占めている。ブースターをどう作るかの多くの決定が、どうドラフトするかに影響されているのだ。つまり、そのユーザーがドラフトをするかどうかに関わらず、そしてそれらの決定がそのユーザーにとって最高のブースター体験をもたらすものでなかったとしても、その決定に影響を受けていたのである。数年前、このことから我々は「通常のドラフト・ブースターの想定顧客ではないユーザーが心を躍らせるような、異なる種類のブースターを作ることはできないだろうか」という疑問にたどり着いたのだった。

 この発想から作られた最初のブースターが、テーマ・ブースターであった。これはテーマに焦点を当てたものであり、通常は1色に制限されていて、自分のデッキに直接入れられるカードの枚数が多いパックが欲しいプレイヤーが買えるようにしたものだった。また、これはその世界の特定の一面を知りたい人たちのために、そのセットのフレイバーを扱ったものでもあった。

 次にできたのがコレクター・ブースターである。我々はプロジェクト・ブースター・ファン(何の話かわからない諸君はこちらを参照のこと)で、集めるべき新カードを大量に増やし、そしてコレクターがそれらの手に入れにくいカードを簡単に手に入れられるようなブースターを作ろうと考えたのだ。

 3種類のブースターを作ったことで達成したと思ったが、その後興味深いデータが目に入った。開封されたブースターの過半数が、リミテッド(シールドやドラフト)には使われていないということがわかったのだ。つまり、プレイヤーの過半数は、シールドやドラフトをプレイする気がないときに、リミテッド向けに最適化されたブースターを開封しているということになる。ここに可能性があるように思えた。可能な限り楽しくブースターを開けることに最適化した新しいブースターを作るのはどうだろうか。ブースターを開くのをもっと楽しいことにできるとしたらどうだろうか。それは、プレイヤーの過半数がしていることだ。彼らのためのブースターを作ろう。

 それこそが、セット・ブースターなのだ。

どうすればブースターを開封するのをもっと楽しくできるのか

 これは我々が解決しなければならない大問題だった。ところで、現在ブースターを開封するのがつまらないという話ではない。楽しい。ただ、開封することが可能な限り楽しくなるように最適化されてはいないというだけである。

 意識しなければならないのは、新型のブースターはドラフト・ブースターではないということだ。ドラフト(やシールド)のために定められたルールに縛られる必要はない。例えば、ちょうど15枚である必要はない。一定数のコモン、アンコモン、レアか神話レア、にこだわる必要もない。ゲーム用品でないカードをブースターに入れるという実験もできるのだ。必要なことは何でもできる。(もちろん、このセットのカードが入っているかぎりで。)

 何がブースターを開封することをさらに楽しくするのかを理解するため、我々はまずドラフト・ブースターを観察した。ドラフト・ブースターを開封するのはなぜ楽しいのか。新しいカードを見るのは楽しいが、それは新カードが入っているブースターなら何でもいいわけではない。それよりも重要で明白な答えは、開封したレアや神話レアを見ること、あるいは自分のデッキの鍵となるアンコモンやコモンを見つけることだった。しかしながら、ブースターの中で一番興奮させられるのはレア枠だった。この興奮をブースター内で何度も体験できるようにすることはできないだろうか。さらに我々は、これまでにしたことの中でブースターを開封することを楽しくしたものを探すため、マジックの歴史を精査した。

 かなりの実験の末に、我々が見つけ出したのはマジックのカード12枚入りの、合計14枚入りのパックだった。(ドラフト・ブースターは16枚入りで、そのうち15枚がマジックのカードである。)

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 目標は、開封するときに流れがあるようなブースターを作ることだった。興奮するところが1か所だけではなく、いくつもあるようにブースターをデザインしたのだ。そのために、我々はブースターを4つの章(導入、爆発、大団円、終章)に分け、それぞれに何枚かのカードを入れる枠を充てた。

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 セット・ブースターを紹介するため、これからブースターを開封するときと同じように1枠ずつ見ていこう。枠ごとに、その枠に何が入っているのかを説明していく。

 まずは導入の章。ここには8枚の枠がある。これは、ユーザーをこのブースターに導くためのものだ。

第1枠 ― アート・カード
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 『モダンホライゾン』で、アート・カードを導入した。表にフルアートが、裏にカードの情報が書かれているカードである。これはマジックでプレイできるカードではなく、置いておいたり集めたりする、単に楽しいモノだ。

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 多くのプレイヤー(アート・ファン、物語ファン、コレクターたち)に好評だったので、復活させることにした。『ゼンディカーの夜明け』のセット・ブースターには81種類のアート・カードが入っている。(『モダンホライゾン』は54種類だった。)先述の通り、我々は各枠に興奮できる可能性があるようにしたいので、アート・カードにも仕掛けがある。全体の5%で、通常のアート・カードではなく、アーティストのサインのスタンプが入っているアート・カードが手に入るのだ。すべてのアート・カードに、通常版とシグネチャー版が存在する。アートはマジックをこれほど楽しいゲームにしている大きな要素なので、素晴らしいアートとアーティストを称える機会を作れたことを嬉しく思っている。また、(歴史が示している通り、コレクションを集めることが好きなプレイヤーが多く存在している)マジックに新しいコレクション要素を加えることにもなるのだ。

第2枠 ― 土地
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 導入の章の没入体験の続きとして、第2枠は世界で最もよく見かけられるカード・タイプを取り上げる。そう、土地・カードだ。この枠は通常基本土地・カードだが、セットによって異なる場合がある。『ゼンディカーの夜明け』にはフルアートの基本土地があるので、このセット・ブースター向けの基本土地にも添付した。15%の割合で、この枠の土地はフォイル版である。この枠にフォイル版が入っていても、このブースターに他のフォイルが入っていないということではない。(これについては後の枠で話そう。)

第3~8枠 ― 関連したコモンとアンコモン
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 次の6枚は、コモンとアンコモンの枠である。ドラフト・ブースターでは、コモンやアンコモンはリミテッドで開封比が妥当になるように特定の比率で存在していた。そのセットで正しくドラフトができるように、色の比率も均等になっていた。これらの懸念は、セット・ブースターには関係ない。そこで、我々はこうした。コモンとアンコモンを、このセットのクールなものを見せるために使っている。セット・ブースターのこの6枚は、同じレアリティの各カードがその隣のカードと何らかの形で組み合わせられように集められている。その関連性はクリーチャー・タイプかもしれないし、うまく噛み合うのかもしれないし、共通の物語要素があるのかもしれない。我々はあらゆる種類の関連性を実験している。どんな関連性を作ったかを見つけるというものもまた、この章のカードを開封する楽しみなのだ。

 これらの枠について、知っておくべきことがあと2つある。1つ目に、このブースターで通常のコモンやアンコモンが入っていることが確実なのはここだけであるということ。(ただし、他の枠でコモンやアンコモンが出てくる可能性はある。)伝統的には、ドラフト・ブースターでは、コモン10枚とアンコモン3枚が入っている。調査結果を見て、ほとんどのプレイヤーはブースターを開封するとき、すぐにコモンは意識しないようになる(そしてやがてアンコモンも意識しなくなる)ということがわかった。そこで、セット・ブースターでは、全体的なコモンやアンコモンの枚数をドラフト・ブースターよりも少なくしたが、もっと興奮して衝撃的なものをブースターに入れられるよう、プレイヤーにとって最善なように(すぐに無視したくなるようなカードを作らないように)調整したと確信している。

 2つ目に、各セット・ブースターのこの6枚の中にアンコモンは少なくとも1枚入っているが、各コモンがアンコモンに差し替わる可能性はある。つまり、セット・ブースターのこの6枚は、コモン5枚とアンコモン1枚、から、コモン0枚とアンコモン6枚、までありうるということである。その確率は以下の通り。

  • コモン5枚、アンコモン1枚、が35%。
  • コモン4枚、アンコモン2枚、が40%。
  • コモン3枚、アンコモン3枚、が12.5%。
  • コモン2枚、アンコモン4枚、が7%。
  • コモン1枚、アンコモン5枚、が3.5%。
  • コモン0枚、アンコモン6枚、が2%だ。
第9枠 ― 仰天動地枠
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 ここから、爆発の章の最初の枠に入っていく。この章の目的は、派手で心躍るものにすることである。ここで何が出てくるかわからないのだ。第9枠は、必ず、視覚的に面白いカードが入っている。それが何なのかはセットごとに異なる。『ゼンディカーの夜明け』のセット・ブースターに関しては、ショーケース版のコモンやアンコモン、あるいはまだ公開されていないこのセットのクールな要素であるカードが入っている。

第10~11枠 ― 不確定レアリティ枠
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 この2枚は、基本的に、コモンから神話レアまで何が入っている可能性もある。レアや神話レアのショーケース版が入っている場合もありうる。(コモンやアンコモンのショーケース版カードは前の枠に入っている可能性があった。)このどちらもレア枠ではないので、この枠で手に入れたレアや神話レアはブースター内の追加分ということになる。各枠のレアリティは独立しており、神話レア2枚をここで手に入れる可能性もある。その確率は以下の通り。(以下で「レア」と言っている場合、神話レアも含む。)

  • コモン、コモン、が49%。
  • コモン、アンコモン、が24.5%。
  • コモン、レア、が17.5%。
  • アンコモン、アンコモン、が3.1%。
  • アンコモン、レア、が4.3%。
  • レア、レア、が1.6%。

 つまり、全体の23.4%で(ほぼ4分の1だ)少なくとも1枚、セット・ブースターから、しかも不確定レアリティ枠だけから、追加のレアや神話レアを手に入れられるということである。さらに追加でレアを手に入れられる方法があるのだ。

第12枠 ― レア/神話レア枠
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 ここから大団円の章に入っていく。この章は、必ずいいものが当たるのだ。ここの最初の枠は、レア/神話レア枠である。ドラフト・ブースターで一番興奮するものなので、入れないわけにはいかない。これは、ドラフト・ブースターで諸君が馴染み愛しているレア/神話レア枠と同様の働きをする。

 『ゼンディカーの夜明け』から、神話レアの封入確率が変更になる。これまで、レアのうち8分の1が神話レアだった。『ゼンディカーの夜明け』から、レアのうち7.4分の1が神話レアになる。これはドラフト・ブースターでもそうである。

第13枠 ― フォイル枠
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 多くのプレイヤーがフォイルを楽しんでいるので、どのパックでも確実にフォイルを手に入れられる枠を作ることにした。この枠はどのレアリティでもありうるので、ここでもまたレアや神話レアを手に入れられる可能性があるのだ。

第14枠 ― トークン/広告カード
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 これらのカードは、諸君がドラフト・ブースターで見てきたものと似ている。

 しかし、ここでまだ1つ隠し玉があるのだ。25%の割合で、トークン・カードや広告カードに替わって、リストにあるカードが入っているのだ。「リスト」とは何か。マジックの最もクールな要素の1つが歴史なので、我々は『時のらせん』や『Mystery Booster』の手法を借りることにした。マジックの過去から、300枚の面白いカードを選んだのだ。『Mystery Booster』同様、それらは左下隅に小さなプレインズウォーカー・シンボルが入っている以外、(アート、外枠、エキスパンション・シンボルも)昔のままの形で印刷されている。

 「リスト」には、コモン、アンコモン、レア、神話レアが含まれており、それぞれお互いに適切な比率で入っている。「リスト」に入っているからといって、そのカードがスタンダードで使えるというわけではない。そのカードがすでに使えるフォーマットでは使用可能である。マジックの27年の歴史のあらゆる場所からカードは選ばれている。「リスト」はセットごとにそのセットで登場することに筋が通るカードを追加していく形で少しずつ変更する計画であるが、ほとんどはそのまま維持されるので、「リスト」にどのようなカードが入っているかはいずれわかっていくことになる。

 ここで、『ゼンディカーの夜明け』のセット・ブースターで登場する「リスト」のカード3枚のヒントをお出ししよう。

 見ての通り、リストは、過去の愛されたメカニズムや楽しい世界やクリエイティブ、あるいは全くのわからないものを紹介するものである。つまり、セット・ブースターを開封すると、あらゆるマジックのカードが出てくる可能性があるのだ。

肝心要

 ここまでセット・ブースターの中身を見てきて、それについて少し語らせてもらいたい。

 まずはじめに、セット・ブースターはドラフト・ブースターよりも少し高くなるだろうということを伝えておくべきだろう。(パック単価で1ドルほど高くなると思われるが、地域ごとに異なる。)しかし、パックごとに得られるレアの枚数が増える可能性があるので(セット・ブースターでは、リストを考慮しなくても、不確定枠から2枚、レア枠、フォイル枠で最大4枚のレアや神話レアが手に入る可能性がある)、ドラフト・ブースターを買うのと比較して値段あたりのレアや神話レアの枚数はそう変わらないと計算している。

 セット・ブースターの1ボックスは、36パックでなく30パック入りになる。

 セット・ブースターはドラフト・ブースターと見た目が大きく変わるようにデザインしたので、はっきり区別することができるだろう。『ゼンディカーの夜明け』のセット・ブースターの外見はこうなっている。

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 セット・ブースターは最初は英語版と日本語版のみだが、他の言語にも広げていくことを計画している。

 セット・ブースターについて疑問があり、手に触れてみたいと思う諸君は、『ゼンディカーの夜明け』のプレリリースに参加してくれたまえ。(在庫がある限り)参加賞としてセット・ブースター1個が配られる。

 ここで強調しておきたいポイントがある。『ゼンディカーの夜明け』のセット・ブースターは、我々の最初の試みなのだ。我々は、プレイヤーが気に入るだろうと思うさまざまなことを試しているが、本当の試験は諸君がそれを体験した時に行なわれることになる。反響が欲しい。我々はとにかく諸君からの意見に基づいて、変化し、合わせていきたいのだ。また、我々は、リミテッドをプレイするためにブースターを使うことに興味がないプレイヤーにとって、セット・ブースターが楽しく心躍る選択肢になるような新しい方法を求め続けている。セット・ブースターのデザインがドラフト・ブースターに追いつくためには、何年もの反復工程が必要だということはわかっている。だからこそ、これは出発点に過ぎないのだ。我々は、開封することをできるだけ楽しいものにするブースターを作る、という宣言をしたところである。この目標を現実のものにする手助けをしてほしい。

そして最後に

 セット・ブースターの画像をお見せしたので、残りの部分もお見せしよう。『ゼンディカーの夜明け』の外見はこのようなものになる。そして、そう、このセットにはジェイスとニッサとナヒリが登場するのだ。

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準備万端

 本日はここまで。諸君がセット・ブースターについて心を躍らせ、そして9月の『ゼンディカーの夜明け』の発売時に確認してくれれば幸いである。セット・ブースターについて意見があれば、ぜひ聞かせてもらいたい。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『ダブルマスターズ』プレビューでお会いしよう。

 その日まで、マジックのブースターを開封することがマジックをプレイするのと同じぐらい楽しくありますように。

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