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Making Magic -マジック開発秘話-
『基本』はここまで、ではなくて
2020年6月15日
先週、『基本セット2021』のデザインの話を始めたが、まだ話すべきことは残っている。このセットについての残りの話をして、おそらくプレイヤー諸君の一部がとても喜ぶような、クールなレアのサイクルのプレビューをお目にかけよう。
今日はまず最初に、最終的に『基本セット2021』で登場することになった、私がウィザーズに入ってからほぼずっと取り組んできたものを紹介しよう。これは何なのか。猟犬が、公式に犬になった。それはこのセット内だけの話だけではない。この変更はこれまでのカードすべてに適用され、マジック史上に存在するすべての猟犬は犬になるのだ。この決定はどうして起こったのか。それは、おかしな話である。
荒唐むく犬な話
この話の始まりは、1996年にさかのぼる。私はその前年にウィザーズで働き始めたばかりで、私が初めてデザインをリードしたセットである『テンペスト』のデベロップにかかっていた。そこに、私は3種類の犬を入れていた。
《番犬》はアーティファクト・クリーチャーなので、当時はクリーチャー・タイプを持たなかった。(これはその数年後まで私が主張していた話ではない。その件については、こちらの記事に詳しい。)他の2種類は、犬というクリーチャー・タイプにした。このことから大論争が起こったのだ。衆知の通り、それまでにマジックに存在していた犬は2種類だけだった。
『アイスエイジ』の《Snow Hound》と『ホームランド』の《Ghost Hounds》である。《Snow Hound》の、最初のクリーチャー・タイプは犬だった。《Ghost Hounds》の、最初のクリーチャー・タイプは猟犬だった。そこにいた全員が、これは同じ犬なのに一方のクリーチャー・タイプが犬で他方のクリーチャー・タイプが猟犬なのはおかしいと感じた。どちらか1つを選ぶ必要があった。議論は、犬と猟犬のどちらを選ぶかということになった。
ビル・ローズ/Bill Roseは猟犬を主張する側の論客だった。彼は、猟犬のほうがファンタジーっぽいと主張した。例えば、ヘルハウンドは「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ」の有名クリーチャーである。彼は、マジックを威厳ある、現実から離れたものにすることは重要だと感じていたのだ。彼いわく、犬は、非常に現実的だ。
犬を主張する側の論客は私だった。私は、これから多くの犬を作ることになると主張した。人々は犬が好きだ。そして犬にはさまざまな種類が存在する。猟犬は犬の一部である。猟犬でない犬を猟犬として表記するのは奇妙なことになる。(これには、猟犬と犬は類義語であるという反論があるが、それでも主張は変わらない。例えばプードルのことを猟犬と呼ぶのは奇妙なことだ。)我々は猫のことを、ペットも野生動物もどちらも猫と呼んでいる。なぜ犬のことを犬と呼ばないのか。
私は、この弁論で正しい方に立っていると確信していた。私の主張が採用されるだろうと考えていた。しかし、そうはならなかった。当時わずか5人(フルタイムが5人で、他のマジックの仕事にも関わっていたメンバーは他に2人いた)だったマジック開発部の多数はビル側について、『テンペスト』の2種類のクリーチャーは猟犬になったのだった。誰がどちらに投票したかは覚えていないが、結果は確か3対2という僅差だったと記憶している。
私はその判断に不満で(そして私は物事についてどう感じたかを黙っている質ではないことは知られている)、そして開発部で新しい猟犬を作るたびにお決まりのジョークになっていった。『Unhinged』の《B-I-N-G-O》のフレイバーで、この決定について何年も後に柔らかく皮肉ったものを見ることができる。
私は論争を諦めなかった。読者諸君は、私の戦略の1つが我慢だということを知っているだろう。マジック開発部は時とともに変わっていく。ある時点であることが信じられていたとしても、他のときにも同じことが信じられているとは限らないのだ。そこで、私は時間を稼いだ。時折、私は猟犬を犬に変更するという違憲を出したが、望んでいた先に進めるような反応は返ってこなかった。何ひとつ手応えを感じられなかったのだ。エリック・ラウアー/Erik Lauerが開発部に入ってくるまでは。私はエリック・ラウアーが犬大好きだと知っていた。『オデッセイ』で、私は(エリックの旧友であるランディ・ビューラー/Rany Buehlerのリクエストに応え)エリックのために犬のサイクルを作ったことがある。
話し合ったところ、彼はクリーチャー・タイプは猟犬でなく犬であるべきだと同意してくれた。エリックと私の話し合いを聞いていた他のメンバーも、変更すべきだと同意してくれた。それを受けて、私は他のメンバーとも話し合って賛同者を増やしていった。数えてみると、今では過半数が味方だと確信できたのだ。そこで、適切な会議においてそれを議題にした。今は多数派はこちらである。私は情熱的なスピーチをした。そして、今回はその変更が叶ったのだった。
残念なことに、そこで予期せぬ障害が発生した。問題は、議論の結論が、犬と猟犬のどちらが良いかというところに留まらず(その点については味方の多さからも勝てると感じていた)、これほど長い年月、猟犬であったものを変更するのがいいことかどうかということだということだった。その会議のほとんどのメンバーは犬のほうがいいということには同意したが、これほどの時間が経っているものをいま変更する意味があるのだろうか。その論点では、私は多数派ではなかった。(マジックのほとんどの決定は多数決ではないということを言っておくべきだろう。通常、決定は、他のメンバーの意見を聞いてマジックにとって最適だと感じる結論を出す1人、あるいは1グループの責任で行なわれる。)
この論点は、私の我慢して開発部が変わるのを待つという戦略と逆に働くので、問題だった。1年経つごとに、猟犬を犬に変えるには遅すぎるという意見はただただ強くなっていくのだ。この議論に勝つためにはどうしたらいいのだろうか。
面白いのは、私は勝たなかった、ということである。年を経て、何度も何度も、我々は昔失敗した、猟犬でなく犬を選ぶべきだった、という意見が持ち上がってきたのだ。(私が言ったものもあるが、そうでないものもあった。)あまりにも多かったので、開発部内では間違いだったということが自明になっていった。アダム・プロサック/Adam Prosakがこのセットをまとめて、軽い犬テーマがあることに気づいたとき、彼は、猟犬を犬に変えるべきかどうかを考えた。今まで述べてきたような論争の歴史について、彼は何も知らなかった。彼にとって、それは単に『基本セット2021』で可能な良い変更だったので、周りに聞いたのだ。誰も問題視しなかったので、彼は変更を行なった。
そう、猟犬は公式に犬になったのだ。私が20年以上戦ってきた論争は、私以外の誰かによって何の抵抗もなく成し遂げられたのだ。その勝利は私にも喜ばしいことである。
犬に変更したのと合わせて、アダム率いるチームは犬のロードを入れた。
さらに、白の犬3種類と、赤の犬3種類も。アート・チームはさまざまな、その多くが可愛い寄りの、犬を描いたことにも注目してほしい。
また、ボックス購入特典は猫でも犬でもあるカードで、それを使って3色の猫&犬デッキを組むことができるようになっている。(『基本セット2021』の猫は緑に4種類、白に1種類存在している。)
また、《群れを導くもの》もレアの部族カードのゆるいサイクルに含まれているということを指摘しておきたい。それらのカードはメカニズム的に似た作用をするわけではないが、それぞれが特定の部族デッキを推奨するのだ。このサイクルでは、青はスピリットを、黒はならず者を、赤はゴブリンを、緑は猫を強化している。このサイクルのカードのうち、現時点で公開されているものは次の通り。
私のサブタイプ
私のブログ(英語)の熱心な読者諸君は、何度も話題になっている話題があることにお気づきだろう。その中で、一番頻度が高いものを挙げるなら、お約束のやり取りレベルだと言えそうなものが1つあり、神河への再訪である。2004年、我々は、日本神話をもとにしたトップダウンのセット『神河物語』で初めて神河を訪れた。実際のところ、トップダウンのブロックをデザインしたのはあれが初めてだっあ。(最初のトップダウン・セットは、マジックの最初の拡張セット『アラビアン・ナイト』だという主張もあるだろう。)何かを初めてする場合、それが最高のものになるとは限らない。そして『神河物語』ブロックはマジックのメカニズム的に低得点だったのだ。(我々はトップダウン・セットをするにあたって大きく向上している。)従って、それはまったく上手くはいかなかったので、再訪するのは難しい意見となる。
だからといって、神河ファン向けに何かを供給することができないということではないし、今回のプレビュー・カードは彼らに笑顔をもたらせられるに違いない。『基本セット2021』には、新しい祭殿のサイクルが存在している。祭殿とは何か。これからお見せしよう。
『神河物語』ブロックには、伝説のパーマネントというテーマがあった。当時、伝説のクリーチャーや伝説のアーティファクトや伝説の土地はあったが、伝説のエンチャントは存在していなかった。(当時はまだプレインズウォーカーは存在していない。伝説のパーマネントとして存在していなかったパーマネント・タイプはエンチャントだけだったのだ。)『神河物語』ではそれを変える必要があった。クリエイティブ的にそれをどう表すのか(特別で類を見ないエンチャントだ)よりも、メカニズム的にどう表すのかが大問題だった。エンチャントが伝説のパーマネントである必要はどこにあるのか。メカニズム的に、同時に存在できるものは1つだけである。それに意味を持たせる方法はあるだろうか。
我々はいくつか試したが、すぐに出てきたのは、それらのエンチャントはお互いに繋がりを持つというアイデアだった。つまり、それらを全部戦場に並べたいのだ。それらは伝説のパーマネントなので、各色1枚ずつしか出すことはできない。それはつまり、その効果をかなり強くできるということになる。我々が最終的に落ち着いたのは、各ターン、それらは戦場に多く並べることによって強くなる効果を1回生成するというアイデアだった。
メカニズム的には、これを成立させるために、これらのエンチャントにサブタイプを持たせる必要があった。ルール的には、数えられる何かが必要だった。我々は「祭殿」を選んだ。こうすることで、それぞれのカードが誘発したときに戦場で自分がコントロールしている祭殿の数を数えることができるのだ。一方、クリエイティブ的には、これらのエンチャントを神道の祭殿である本殿と名付けることにした。このクリエイティブ的な選択が、祭殿という単語を選んだ理由であろう。『神河物語』は全体として大好評とはいかなかったが、祭殿は好評だった。
そして時は流れて『基本セット2021』のセットデザインに到る。アダム・プロサック率いるチームは、レアのサイクルを探していた。その条件は次のものだった。
過去に関連しているものであること。
より熱心なプレイヤーが認識するような、理想的には一度しか作っていないサイクルの新バージョンである、何かをするものを探していた。そのサイクルが愛されていたものであればあるほどよい。
それだけで充分成立すること。
そのサイクルは元ネタを知らない新規プレイヤーにとってクールなことをするものでなければならず、スタンダードでうまく成立しなければならない。広いフォーマットで過去のサイクルと何らかのコンボになるのであればクールだが、必須ではない。
エンチャントのサイクルであればなお良い。
『テーロス還魂記』には濃いエンチャント・テーマがあり、このサイクルがエンチャントであればそれに関連させることができる。このセットは一般に、多くのエンチャントを採用できる。
常磐木でないメカニズムを使うことはできない。
『基本セット2021』は基本セットであり、常盤木(あるいは落葉樹)メカニズムだけしか使うことができない。このサイクルは、常磐木でなく名前を持つメカニズムを必要としないものでなくてはならない。実際のところ、これによって興味深いサイクルの選択肢がいくつも不採用になった。
アダムは会議を開き、思いつく限りのアイデアをホワイトボードに書き出していった。そしてお気に入りのものとして選ばれたのが、祭殿だったのだ。祭殿はエンチャントであり、過去とつながりがあり(つまり昔の祭殿とうまく噛み合い)、スタンダードで使えるぐらいにそれだけで充分成立する。すべての条件を満たしていたのだ。
それらのデザインについて語る前に、まずそれらをお見せしよう。
最初の意図では、元祖の5つの祭殿と効果が重複しないようにするつもりだった。しかし、カードを引くことや直接ダメージは他の選択肢よりもずっと良かったので、チームはそれらを再利用することにした。このサイクルは、白や赤の祭殿が誘発型でなく起動型能力を持っているなど、過去の祭殿がしなかったことをいくつかしていることに気づくだろう。
しかし、これで終わりではない。チームが祭殿サイクルを作った後で、彼らはもう少し何かできる可能性があるということに気がついたのだ。見ての通り、彼らは祭殿はスリヴァーと似ている部分があるということに気がついたのだった。どちらのメカニズムも、そのデッキが参照するものの戦場にある数を増やせるように、いろいろな色をプレイする方向に推している。この5色性から、スリヴァーが登場するたび、5色カードも登場している。祭殿でもそれができるだろうか。こう言っているとおり、これからもう1枚のプレビュー・カードをお見せしよう。祭殿サイクルは実は5枚ではなく、6枚なのだ。
《万物の聖域》は、5色祭殿デッキを組むことことを推奨し、そしてすべての祭殿を並べることを求めるものである。『神河物語』が使えるフォーマットであれば、祭殿デッキにはさらに5枚のカードが増えることになり、《万物の聖域》の達成はさらに簡単になる。神河ファンの諸君、そしてそれ以外の諸君が、この祭殿を楽しんでもらえれば幸いである。
『基本』その楽しきもの
本日はここまで。先週と今週で、『基本セット2021』がどのようなものであるかを掴んでもらえれば幸いである。いつもの通り、この記事やこのセットそのものに関する諸君の反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『基本セット2021』のカード個別のデザインの話を続ける日にお会いしよう。
その日まで、あなたの祭殿が輝きますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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