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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『基本』を語る必要がある

Mark Rosewater
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2020年6月8日

 

 この話は何年も前、開発部の第1回ハッカソンにさかのぼる。ハッカソンとは、開発部で行なっているイベントで、通常の業務から1週間離れて課題だけに取り組むというものである。第1回ハッカソンの目標は、さらなる革新的製品を見つけることだった。(革新的製品とは、毎年存在している枠で、『コンスピラシー』や『プレインチェイス』、銀枠セットなどが含まれる。)このハッカソンの「優勝者」は、2019年の革新的製品枠に選ばれるのだ。結果は、イーサン・フライシャー/Ethan Fleischerと私が、『時のらせん2』として提案した、高い複雑さを持ち経験豊富なプレイヤーに焦点を当てたサプリメント製品が選ばれた。これは『モダンホライゾン』となった。しかし、今日の主役はそのハッカソンのチームではない。

 今日の主役は、ダグ・ベイヤー/Doug Beyerが率いた、もっと初心者向けのドラフトの方法を探そうとしたハッカソンのチームなのだ。リミテッドのプレイには、常に興味深いジレンマがつきまとう。事前にデッキを作っておかなくていいのは、デッキを組むために60枚のカードを選ぶという別の行為に怖気づいた新規プレイヤーにとって大きな利点だが、それまでに持たことがない大量の新カードを見て40枚のデッキを作ることも同じぐらい恐ろしいことなのはわかっている。ダグのチームの目標は、素早く簡単にプレイできるようにする方法を見つけることだったのだ。

 ダグがハッカソンで発表したアイデアは、プレイヤーがする選択が少ないドラフトだった。彼の展望は、カード1枚ごとではなくテーマのある数枚のカード単位でドラフトをするというものだった。例えば、ゴブリン1枚を取るのではなく、数枚のゴブリンをまとめてドラフトする、というように。

 私があまり語ってこなかったことの1つに、人々は非常に高い理想と非常に低い実行性を持つアイデアを持つものだ、というものがある。素晴らしいアイデアは素晴らしいものだが、それの実装法を見つけられなければ意味はない。それがハッカソンでのダグのチームの課題だった。アイデアは素晴らしいが、それをどうやって実行するかが大きな課題だったのだ。「数枚のカード」というのは具体的に何を指すのか。どうやってそれらを1組にするのか。それらに必要なテーマとは何か。具体的にどのようにして作り、どのようにそれをブースターパックに入れるのか。1週間の掘り下げを経てダグのチームは回答を見つけ出したが、それには未だ手に入れていない印刷や梱包の技術が必要だった。ハッカソンの最後に、ダグのプロジェクトは「高評価。いつの日か実行できるかもしれない」箱に収められた。

 そして『基本セット2021』の展望デザインに到る。ダグはそのハッカソン以来ずっと彼のプロジェクトに取り組んでいて、それを実装する最高の方法は基本セットに合わせることだと判断していた。後に『Jumpstart』と呼ばれることになる製品には大量のカードが必要で、その多くは同時期の基本セットから採用されることになっていた。一方、そのセットのリード展望デザイナーのアーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheはこの基本セットを心躍る興味深い再録カードを入れる機会と見て心を躍らせていた。これらすべてにもまして、これはブースター・ファンが関わる最初のブースター・セットであり。基本セットの性質にあった心躍ることをする方法を探していた。アーロン率いるチームには、見つけるべきものが大量にあったのだ。

君の知る『基本』

 まず最初に、展望デザイン・チームが出発点としたものについて解説しよう。

『基本セット2020』の形式に従った。

 これはいくつかのことを意味する。まず、常磐木でないキーワードは存在しない。しばらくの間、基本セットはセットごとに1つのキーワードを再録するという手法をとっていたが、基本セット中断後には、これは採用されなくなった。2つ目に、多くの場合そのセットの顔となるものに関わる軽いテーマが存在する。『基本セット2020』はチャンドラを使った。『基本セット2021』はまた異なるプレインズウォーカーを選ぶ必要がある。最後に、このセットには新カードと再録カードの両方が存在する。新カードはそれぞれがフレイバーに富んでいるカードや関連するメカニズム的テーマを持つサイクルである。再録カードはプレイデザインがスタンダード入りを承認したものなら何でもありだ。ここはアーロンの興味を惹きつけた部分である。

『Jumpstart』と組み合わせて成立しなければならない。

 これは、デザイン最大の課題であった。マジックにそれまでは存在しなかったものと組み合わせて成立しなければならないのだ。ダグはさまざまなチームとともに多くの問題を解決してきたが、解決すべき問題はまだまだ山積しており、その中には『基本セット2021』を解決のための道具にするものもあった。つまり、『基本セット2021』のデザイン・チーム(展望デザインとセットデザイン)は、『Jumpstart』が必要とするカードの多くを提供する形でセットを組み上げなければならないということになる。

クールなブースター・ファン要素が必要である。

 これは通常の基本セットではあるが、前回作ったものとは何かを変えなければならない。『エルドレインの王権』で、いくつかの特別カード枠やアートがセットごとに加えられるというブースター・ファンが採用された。(こちらの記事に詳しい。)他のセット同様、『基本セット2021』にも、新アートでカードの縁いっぱいにプレインズウォーカーが描かれている拡張アート仕様のプレインズウォーカー・カードや、一部のレアや神話レアがカードの縁までアートを拡張している拡張アート枠が存在している。(拡張アート仕様のプレインズウォーカーはドラフト・ブースターに入っているが、拡張アート枠のカードはコレクター・ブースターにしか入っていない。)また、このセット専用の特別な枠とアートの、ショーケース版と呼ばれるものも存在している。例えば『エルドレインの王権』では、小説本のようなカードが存在していた。『基本セット2021』でも、ショーケース枠のためのクールな条件を見つけなければならない。

 アーロン、そして後には『基本セット2021』のリード・セットデザイナーのアダム・プロサック/Adam Prosakは、これらの問題すべてを解決しなければならなかった。どうやって解決していったのかを見ていこう。

いつか私の再録が来るであろう

 アーロンはまず、この基本セットをどのようにして目立たせるかを考えた。本流のセットに存在するような基柱になる世界やテーマはなかったが、アーロンは世界が存在しないことは利点にもなるということに気がついていた。例えば、そのセットの世界観とメカニズム的テーマの両方に合わなけければならないので、再録カードをセットに入れるのが難しいことが多々ある。基本セットにはその問題は存在しない。アーロンは必要なカードを何でも再録できるのだ。そこで、彼は、このセットに入れられるクールな再録カードについて考えることから始めたのだった。マジックの歴史上の心躍るもののうち、何をスタンダードに加えられるか。

 アーロン率いる展望デザイン・チーム(ダグ・ベイヤー/Doug Beyer、マーク・ヘゲン/Mark Heggen、彼)は過去のセットからクールな候補を洗い出していった。彼らは積極果敢に選んだ。1枚ごとに、再録したらスタンダードにどんな影響が出るかプレイデザインに相談した。そしてこの課題は、アダム率いるセットデザイン・チーム(サム・ストッダート/Sam Stoddard、ヨニ・スコルニク/Yoni Skolnik、コリー・ボウエン/Corey Bowen、ドナルド・スミス・ジュニア/Donald Smith Jr.、アンドリュー・ブラウン/Andrew Brown、アリ・ニーエ/Ari Nieh)へと引き継がれた。

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 中でも過激な選択が、《精霊龍、ウギン》と《不気味な教示者》は展望デザインから提出されたものだが、セットデザインもまたクールな再録を何枚も見つけ出していった。(ここで開示しているのは、すでに公開されているカードだけである。このセットには他にもさまざまな再録カードが入っている。)

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 アーロンはまた、基本セットは2つの非常に重要な役割を果たしているとも評価していた。1つ目が、広い文脈にとらわれないクールなトップダウンのデザインができるということ。『基本セット2021』のすべてのデザイナーは、単独で心躍るようなクールなデザインを推し進めたのだ。2つ目に、開発部が広いメタゲームのために必要なカードを作れるということ。あるテーマを前のセットで推していたが、スタンダードで姿を見せていなかったとしたら。基本セットで、そのテーマを推すために1~2枚のカードを作ることができる。特に、『ゼンディカーの夜明け』と入れ替わりにローテーションするテーマを推すのであればもう少し積極的にできるので、楽しいのだ。アーロンの展望デザイン・チームと、のちのアダムのセットデザイン・チームは、この両方の働きを実現させるために尽力した。

『Jumpstart』とは

 『基本セット2021』における『Jumpstart』の必要性を理解するため、まずそもそも『Jumpstart』とは何かを説明しよう。『Jumpstart』のブースターは20枚入りである。カードは基本的に1色で、妥当な枚数の基本土地が入っていて、テーマが存在している。ブースターの袋の中に透明の袋で入っていて、テーマを示す表紙カード(マジックのカードではない)が入っている。ブースター2つを開封して合わせるだけで40枚のデッキが完成するというものなのだ。もう1つ『Jumpstart』の一般的なプレイ方法は、プレイヤーの人数の2倍の数のブースターを開封し、公開されたパックを順番にドラフトしていく。つまり、それぞれのテーマを知ることができるということになる。(ドラフトの方法としては、全員が1パックをドラフトした後、その最後にドラフトしたプレイヤーから逆順でパックをドラフトしていく、スネーク・ドラフトが推奨されている。)

 つまり、『Jumpstart』にはテーマが必要なのだ。数多くのテーマが。『Jumpstart』には121種類の詰め合わせが存在しており、それらの多くには複数の配置がありうる。(なお、いくつかのテーマはカードが異なっている複数のブースターに登場している。)『Jumpstart』のデザイン・チームは、どんなテーマが使えるかを決めるのに時間を費やしたが、使うカードの多くが『基本セット2021』からのものである必要があったので、『基本セット2021』のデザイン・チームと協働する必要があった。

 その手法はこうだった。『Jumpstart』のデザイン・チームが『基本セット2021』のデザイン・チームに、「猫をテーマにしたパックを作りたい。猫はどれぐらい入っていて、何色に存在する?」と聞く。M21チームは、例えば「猫は緑に4枚、白に1枚。緑には猫・トークンを生成するカードが1枚あって、猫に影響を与える土地が1枚ある。」というように答えることになる。『Jumpstart』チームはどんな再録が可能かを確認して(新カードを数枚だけデザインする権限がある)、猫のパックを作れるかを検討することになる。不可能なら、再び『基本セット2021』のセットデザイン・チームに赴き、そして「猫が2枚足りない。もうちょっと緑に猫を増やすことはできないか?」と尋ねるのだ。

 これは1つのテーマだけで起こっていたことではなく、大量のテーマについて同時に行なわれていたことなのである。セットデザイン・チームが変更を加えるたび、『Jumpstart』チームと相談して問題が生じないかを確認しなければならなかった。最終的に、『基本セット2021』の120枚のカードが『Jumpstart』でも使われている。そして、それらのカードはすべてが『基本セット2021』のエキスパンション・シンボルがついており、スタンダードで使用可能になる。

枠付きとして

 ショーケース枠のカードで何をするかもまた、『基本セット2021』のデザイン・チームが(同アート・チームとともに)解決しなければならない課題である。大きな問題は、基本セットの本質をどのようにして重視するか、だった。基本セットの本質への鍵となるものは何なのか。興味深いことに、この問題が解決されつつあるときに、もう1つの問題に注目が集まっていった。『基本セット2019』はニコル・ボーラスが顔だった。『基本セット2020』ではチャンドラを使った。『基本セット2021』の顔となるのは誰だろうか。もちろんプレインズウォーカーであることは必然だが、一体誰にすべきか。

 内部での激論の末、テフェリーに決まった。彼はニコル・ボーラスの物語の中でゲートウォッチに参加していて、我々は彼にスポットライトを当てるべき時期だと考えたのだ。『基本セット2021』のセットデザイン・チームは、テフェリーを少しだけ薄く扱うことにした。『基本セット2020』でチャンドラは3枚のプレインズウォーカー・カードになっていたが、テフェリーのプレインズウォーカー・カードは1枚だけ作ることにした。(ただし、コレクター向けにさまざまな変種は存在している。)その後、このセットに伝説のクリーチャーとして入れるテフェリー周りの人物を調べた。例えば、テフェリーにとても親しいある人物は『基本セット2021』で初めて伝説のクリーチャー・カードになった。

 基本セットには単色プレインズウォーカーのサイクルがあるものだ。(プレインズウォーカー・カードは目玉なので。)そこで、テフェリーは青のプレインズウォーカーとなる。(テフェリーという人物は白青だが、彼の魔法は時間を扱う青のものであり、根幹の色は青なのだ。)これを踏まえて、他のプレインズウォーカーを誰にするかという議論が行なわれた。基本セットでは最も有名なプレインズウォーカーを使うことが多いので、赤と黒は言ってみれば明らかだった。チャンドラとリリアナだ。緑はもう少し選択肢が広かった。ビビアン、ニッサ、ガラクという選択肢がある。ビビアンは『イコリア』で出たばかりで、ニッサには他の計画があったが、まだガラクがいる。幸いにも、ガラクの呪いは『エルドレインの王権』で解けたところで、今は緑単色だ。基本セットにガラクを戻すのは相応しいことだ。

 そして、あとはもちろん白だ。(アジャニ、エルズペスなど)選択肢はあったが、ここで新しい白のプレインズウォーカーを登場させるのがいいと考えた。ギデオンの死んだ穴を埋める誰かを作るのだ。バスリ・ケトというこの新しいプレインズウォーカーは、今日お見せするプレビュー・カードの一部になった。ちなみに、この新プレインズウォーカーについて知りたい諸君のために、彼が何者かについて、彼の(とてもクールな)物語を語る記事が書かれている。こちらの記事で読んでみてくれたまえ。

 プレインズウォーカーは基本セットの重要な部分なので、『基本セット2021』のセットデザイン・チームはそこでクールなことをしようと考えた。垂直サイクルをデザインしたのだ。つまり、神話レアのプレインズウォーカー、レアの呪文1つ、アンコモンの呪文1つ、2つの効果を持つコモンの呪文1つだ。1つ目に、それらはテーマ的にそのプレインズウォーカーに相応しいものである。つまりそれらはそのプレインズウォーカーが唱えることができる呪文である。2つ目に、それらはメカニズム的に繋がっており、組み合わせてプレイしたくなるようになっている。今日のプレビュー・カードは、バスリ・ケトとその垂直サイクルの呪文だ。

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 見ての通り、バスリは+1/+1カウンター・テーマを扱っており、彼の呪文すべてにそれが編み込まれている。

 ある問題を解決した時、他の問題も解決されることはよくあることだ。プレインズウォーカーの垂直サイクルができると、セットデザイン・チームとアート・チームはショーケース枠の軸となるものがあることに気がついた。彼らがしたことはこうである。5種類の単色プレインズウォーカー・カードごとにその人物とその魔法の本質を表すような独特な枠を作った。そして、その垂直サイクルのカード4枚すべてと該当する基本土地のショーケース枠版を作ったのだ。バスリの枠はこのようなものである。

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 これまでにも他のプレインズウォーカーの垂直サイクルの何枚かをすでに紹介しているが、ここでそれらのうち数枚を並べることで違いを見ていただくことにしよう。

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 ウギンにもショーケース仕様が存在することにお気づきのことだろう。彼もこのセットのプレインズウォーカー・カードなので、彼もショーケース仕様を作るのが妥当だと考えられる。ただし、他の5人のプレインズウォーカーと違い、ウギンには垂直サイクルは存在しない。

来るべき『基本』

 本日はここまで。来週は今週以上の『基本セット2021』の話題を紹介しよう。今日の記事を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『基本セット2021』についてのさらなる記事でお会いしよう。

 その日まで、今日見せたカードの中にプレイしたくてたまらないカードがありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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