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Making Magic -マジック開発秘話-
基本根本 #12 その2:リミテッド(テーマ)
2020年3月16日
先週、リミテッドにおけるメカニズムとその必要性がセットをどう形作るかという話を始めた。まだ読んでいないなら、今回の記事を読む前に一読してくれたまえ。今日は、パズルの残り半分、つまりテーマについての話をしていく。リミテッドでのテーマの役割が、セットの構造を定義する上でどう役立つのか。それをこれから見ていこう。
《太陽冠のヘリオッド》 アート:Lius Lasahido |
テーマ
まず最初に、テーマとは一体何なのか、そしてそれがセットにどのような影響を与えるのかを明確にしておこう。テーマとは、セット内の一群のカードを、プレイの仕方に影響する方法で結びつけるものである。通常、テーマは特定のカードを組み合わせてプレイすることを推奨する。もっともよくある種類のテーマには次のようなものがある。
色
(『テーロス還魂記』や『エルドレインの王権』など)単色テーマを持つセットが存在する。(『ラヴニカのギルド』や『ラヴニカの献身』など)2色テーマを持つものもある。(『タルキール覇王譚』や『アラーラの断片』など)3色テーマを持つものもある。かつては5色テーマを持つセット(『コンフラックス』)もあったのだ。いずれの場合にも、そのセットにはユーザーが特定の色を使うことを軸としたテーマが存在した。
カード・タイプ
もう1つよくあるテーマが、特定のタイプのカードを軸とするものである。アーティファクト(『カラデシュ』)、エンチャント(『テーロス還魂記』)、クリーチャー(『レギオン』)、土地(『ゼンディカー』)、プレインズウォーカー(『灯争大戦』)などがある。(いつかインスタントやソーサリーにも手を出すことだろう。)このテーマは、そのカード・タイプを通常よりも多く使うことを推奨することが多い。
カードのサブタイプ
カード・タイプではなく、サブタイプを参照することがある。その中で最も多いのは(『イクサラン』や『ローウィン』のような)クリーチャーのサブタイプであり、それらは部族テーマと呼ばれる。他に、オーラ(『テーロス』)、装備品(『ミラディン』)、機体(『カラデシュ』)、英雄譚(『ドミナリア』)などを扱うセットも存在する。よくあるのはカード単位だが、食物(『エルドレインの王権』)、宝物(『イクサラン』)、手掛かり(『イニストラードを覆う影』)といったトークンを用いることもありうる。
カードの特殊タイプ
伝説の(『ドミナリア)や氷雪(『『モダンホライゾン』)、宿主(『Unstable』)など、セットが特定の特殊タイプを参照することもありうる。
領域
特定の領域との相互作用を扱うセットもありうる。墓地(『イニストラード』)や手札(『神河救済』)、ライブラリー(『運命再編』)、さらには追放領域(『戦乱のゼンディカー』)に言及することもある。
その他
簡単には分類できないテーマも存在する。『フィフス・ドーン』は、コストが1以下のアーティファクトに言及していた。『イニストラード』は、1ターン内にプレイした呪文の数に言及していた。『Unhinged』は、アーティストに言及していた。テーマを作るにあたっては何でもありだが、そのほとんどは上記の分類のどれかに当てはまる。
ここでテーマを取り上げているのは、セットをまとめるときにテーマを特定できることが重要だからである。テーマはメカニズム同様、セットを構成的にまとめるための接着剤になる。リミテッドにおけるテーマについて考えることは、それを正しく実装しているようにするための最高の手段となるのだ。上述の分類のどれがセットに当てはまるかという観点からセットを再確認することをお薦めしておこう。先週同様、『テーロス還魂記』を例として用いる。
色
『テーロス還魂記』には信心メカニズムがあり、単色デッキで最もよく働くので信心は単色テーマを推す。
カード・タイプ
『テーロス還魂記』には星座メカニズムなどの「エンチャント関連」テーマがあり、当然、エンチャントというカード・タイプは通常よりも重要になる。
カードのサブタイプ
クリーチャー・タイプに言及した個別のカード(クラーケン、リバイアサン、タコ、ペガサス、サテュロス、海蛇、ゾンビなどが愛されている)は存在するが、カード群として存在しているものはない。ただし、ほとんどのマジックのセットには少しは部族テーマが存在することが多い。『テーロス還魂記』は、エンチャント・テーマの一部としてオーラにも言及している。
カードの特殊タイプ
特殊タイプのテーマは存在しない。この分類のテーマを持つセットはおそらく一番少ないのではないか。
領域
『テーロス還魂記』には死の国要素や脱出メカニズムがあり、つまりは墓地テーマが存在している。
その他
「パワー4関連」や名前のない英雄的、他のプレイヤーのターンに呪文を唱えることを参照するなど、小さなテーマがいくつか存在する。デザインの初期にセットのテーマを検証したときには存在していなかったが、後述するアーキタイプ構築中に生まれたテーマが存在する。
つまり、『テーロス還魂記』の主なテーマは単色とエンチャントと墓地だということである。セットごとに変動しうるが、主なテーマは平均3つぐらいだろうと思う。
次の手順は、テーマのそれぞれについてそれがセットのデザインにどのような影響を与えるかを理解することである。それぞれの分類について見ていこう。
色
マジックのセットの標準として、プレイヤーはブースタードラフトでは平均して2色ほどを使い、シールドでは2色に1色タッチするぐらいになると想定されている。8人ドラフトでの標準は、1~3人が単色、2~7人が2色、1~2人が3色になっているだろう。プレイグループが上達すれば、プレイされる色は増えていくことが多い。セットに加える色基盤の数は、ブースタードラフトで3色をプレイすると想定するプレイヤーの人数に関連してくる。濃い多色セットも、金色カードの存在によって単色をプレイすることが難しくなるので色基盤に寄せられることになる。単色テーマのセットには、単一の色で充分なプレイアブルを手に入れられる助けになるよう、通例、不特定アーティファクトや土地といった無色の選択肢が加えられることが多い。このような色の調整をしているマジックのセットをセットの例として使っていく。
カード・タイプ
カード・タイプに言及するつもりなら、第一の問題は、開封比の取り扱いである。それを決めるために、リミテッドのマジックをプレイするときに各デッキが必要とするそのカード・タイプのカードの枚数を知らなければならない。それは、戦場に(あるいは手札に)何枚同時に必要かということに基づくことになる。カード・タイプ・テーマを考えるには、拡大性が必要である。一方で、開発部語で言うところの閾値1メカニズム、つまりそのカード・タイプのカードが1枚だけあればいいというメカニズムが存在する。(「あなたがアーティファクトをコントロールしているなら、[カード名]は飛行を得る。」)その反対に位置するのが、開発部語で言う拡大メカニズム、つまり枚数が多ければ多いほど強くなるものである。(「[カード名]のパワーとタフネスはそれぞれあなたがコントロールするクリーチャーの総数に等しい。」)閾値1側に寄れば寄るほど必要な開封比は小さくなり、拡大メカニズムに寄れば寄るほど必要な開封比が高くなる。必要な開封比を理解したら、次にすることはその開封比にするために何を変化させられるかを見つけることである。例えば『テーロス還魂記』のようにエンチャント・テーマを使う場合、既存のカード・タイプにエンチャント(クリーチャー・エンチャントなど)を追加する方法や他のカード・タイプであるものをエンチャントにする(クリーチャーに影響を与える呪文をオーラにするなど)方法を見つけなければならない。
カードのサブタイプ
まず最も多いテーマである部族テーマから見ていこう。セットに濃い部族テーマがあるなら、決めなければならないことが大きく2つある。1つ目が、必要な部族の数と、それぞれをサポートするために必要な開封比。通常、部族を色やデッキのアーキタイプすなわちデッキの種類ごとにどの部族をプレイするかによって分ける。デッキが1つか複数成立するようにするために、部族ごとにクリーチャーを選ぶ必要がある。その部族が例えば完全にアグロ寄りなら、マナ・カーブの低い方に寄せることになるだろう。2つ目が、そのセットの接着剤が何か。接着剤とは、さまざまな部族が相互作用できるようにするものである。デッキに必要なのが単一のテーマだけだったとしたら、プレイパターンは同じことの繰り返しとなり、つまらないドラフト環境になってしまう。使える接着剤にはさまざまなものがあるが、最も一般的なものは多相メカニズムであったり、クリーチャー間で重複するクリーチャー・タイプであったり、複数の部族にメカニズム的に言及するカードだったりする。サブタイプがトークンに依存するものであるなら、そのトークンを生成できるカードが充分あるようにしなければならない。
特殊タイプ
サブタイプと同じ基本的ルールが存在する。特殊タイプだけで意識しなければならないことは、通常存在しない文章を追加するので行の長さだけである。
領域
領域テーマを扱う場合、5つのうちいずれかをするカードがどれだけあるかを監視しなければならない。(例として、『テーロス還魂記』のような墓地セットの場合を挙げる。)
- その領域にカードを置くことができるカード(「あなたのライブラリーの一番上から2枚のカードをあなたの墓地に置く。」)
- その領域にあるカードを他の領域に置くことができるカード(「あなたの墓地からクリーチャー・カード1枚をあなたの手札に戻す。」)
- その領域にある間に作用するカード(脱出メカニズム)
- その領域にあるものをメカニズム的に参照するカード(「この[効果]はあなたの墓地にあるクリーチャー・カードの枚数に等しい。」――『テーロス還魂記』ではこの種のものは使われていない。)
- その領域にあるカードをリソースとして用いるカード(脱出メカニズム)
他のテーマ同様、テーマの開封比が必要なだけ存在するよう、これらのカードが充分にあるようにしなければならない。
その他
テーマに大きく依存する。もちろん、言及するために必要な性質のものがセット内に十分存在するようにしなければならない。よくある「その他」のテーマには、ほとんどのマジックのカードが持っているが通常はメカニズム的に注目されることがない要素を扱うというものがある。
テーマがなんであれ、鍵は、成立するだけの開封比に必要な枚数を把握し、そしてセットが求めているものを理解するためにデザイン骨格を分類することである。先週と今週で取り上げているテーマの1つが、時間を掛けて計算をして、それからデザイン骨格を用いてセットに一番良く収められるところを見つけなければならない、ということである。例えばセットにエンチャントの開封比として3必要だとしたら、各レアリティ・各色に何枚必要かを把握せねばならず、その後、それを成立させるために作業をしなければならないのだ。
《二柱に愛されしユートロピア》 アート:Sara Winters |
ドラフト・アーキタイプ
もう1つ把握しなければならない大きなテーマの問題は、ドラフトの主要なアーキタイプがどうなるかである。通常、セットにはドラフトの主要なアーキタイプが10個、2色の組み合わせごとに1個ずつ存在している。ほとんどのセットには、デッキ・アーキタイプを声高に主張している10枚のアンコモンの2色カードのサイクルが存在する。もちろんセットがこの基本から外れることはあるが、これを例として使うことにしよう。
最初にしなければならないことは、どんなアーキタイプをメカニズムやテーマが推奨しているかを検証することである。『テーロス還魂記』では、星座、信心、脱出というメカニズムやエンチャント、単色、墓地テーマの検証ということになる。今回のこの場合は、セットの主要メカニズムと主要テーマは1対1で対応しているが、それは当たり前ではない。信心と単色はもちろん2色テーマに合うものではないので、例外扱いとする。例外とは、『テーロス還魂記』においては、信心を軸にした単色アーキタイプをいくつかデザインすることになるということである。コモンの信心クリーチャーが白黒緑に存在するという事実は、この3色が単色アーキタイプに強く推されているということを濃く示している。
すべきことは、各メカニズムやテーマを見て、そしてそれがいくつのアーキタイプをサポートできるかを掴むことである。通常、テーマ1つはセット内に占める面積によって1つから3つのアーキタイプを成立させることができる。2つ以上のアーキタイプがある場合、それぞれに異なる特徴を持たせる方法を見つけていかなければならない。そのための最も一般的な方法が、速度を使うことである。アーキタイプが2つあるなら、1つを速く、1つを遅くするのだ。3つあるなら、もう少し幅を広げ、1つをアグロに、1つをミッドレンジに、1つをコントロールにすることが多くなる。
まず、星座とエンチャントを検証してみよう。エンチャントはこのセット内で大きな面積を占めているので、アーキタイプ3つを扱うことができると考えられる。星座は白青緑の3色に存在するので、まず3色の組み合わせ、つまり白青、緑白、緑青を検証することから始める。1つをアグロ寄りに、1つをミッドレンジ寄り、1つをコントロール寄りにするとしよう。それぞれ、どれが一番ふさわしいか。単体で見れば、白青がもっともコントロール寄りの組み合わせだが、どのようなデッキを作りたいかを熟考する必要がある。もっとも楽しいプレイパターンは、その後でオーラをつけられるように飛行クリーチャーを並べるものだろう。これはコントロール・デッキというには少し速いものだ。一方、緑青は大型クリーチャーを大量に出すことができるランプ・デッキとしてプレイするのが楽しそうだ。これは遅いことになるだろう。そうなると、緑白はエンチャント・テーマのアーキタイプの中で最速のものになるだろう。軽いエンチャントをプレイして、素早く誘発させて素早く勝つというプレイになることが予想される。従って、最終的には、緑白が最速のエンチャント・デッキ、白青が中速のエンチャント・デッキ、緑青が遅いエンチャント・デッキとなった。
次は脱出と墓地だ。脱出は5色すべてに存在するが、白には(少なくとも低いレアリティでは)少ない。つまり、可能な2色の組み合わせは、青黒、黒赤、赤緑、青赤となる。脱出はいくらか遅い、つまりミッドレンジやコントロールでは成立するがアグロでは問題があるということである。黒緑がミッドレンジ・デッキに、青黒がコントロール・デッキに採用された。
まだ決まっていないアーキタイプは残り5つ、黒赤、赤緑、白黒、青赤、赤白である。次の工程は、テーマ同士に他のアーキタイプを生み出すような交わりがないか見ることである。墓地セットでは、墓地からカードを戻せる方法が通常よりも多いことになる。黒はクリーチャーを戻すことが得意で、白は小型クリーチャーやエンチャントを戻すことが得意である。(白はアーティファクトやプレインズウォーカーを戻すことも得意だが、それらはこのセットではあまり重視されていない。)墓地からカードを回収することが得意な色の組み合わせを軸としたアークタイプがあるかもしれない。エンチャントやクリーチャー・エンチャントを何度も唱えることができて、エンチャント・テーマと関連している。墓地テーマを扱うため、黒と赤には通常よりも多くの生け贄に捧げる方法が存在している。(赤にはエンチャントを生け贄に捧げるという新しいテーマも存在している。)生け贄に捧げることは一般的な黒赤のアーキタイプであり、大当たりだと考えられる。
最後の3つのアーキタイプには、セットからもう少しサポートが必要であった。つまり、それらが成立するようにするために、デザイン・チームは追加のカード・デザインによってサポートされることを踏まえてテーマを作らなければならなくなったのだ。赤白は通常、アグロ戦略を取る。テーロス特有のものに関連させる方法はないだろうか。5枚(コモンの白に1枚、コモンの赤に1枚、アンコモンの白に1枚、アンコモンの赤に1枚、アンコモンの赤白に1枚)全てが自軍を+1/+0だけ強化するという同じ結果を持つ、非常に狭い形で、英雄的メカニズムを復活させるのはどうだろうか。これは特定のプレイパターンを強く推す、濃いテーマを与えることになる。
赤緑については、大型クリーチャーを出す円滑なマナ加速を持つアーキタイプを用いてアグロとミッドレンジの中間を埋めるというアイデアを採用した。セットデザイン・チームは、このアーキタイプを強化するよう、「4パワー」のテーマを持つカードを作った。青赤については、そのアーキタイプの呪文とテンポ・テーマを扱い、対戦相手のターンにカードをプレイすることで利益を得られるようにするカードを作った。
何が起こったかを見ていこう。まず最初にメカニズムやテーマを使い、セット特有のものを扱うアーキタイプを探した。これによって、テーマを直接プレイするリミテッドのゲームができるようになり、セットに特徴を持たせることができる。次に、主要なメカニズムやテーマが成立するようにするため、セットに入れた前段カードを拡張することでどんなアーキタイプが作れるかを探す。最後に、どんなアーキタイプが残されているかを把握し、それらのテーマの穴を埋める助けと鳴るカードを作ることができる。通常、これらはその色の組み合わせの一般的な役割通りになることが多いが、少し違うと感じられるようなテーマをデザインしてもよい。これが終われば、デッキ・アーキタイプは完成である。
古き良きテーマ
以上が、セットを組み上げ、リミテッドでうまく使えるようにするためにどのようにテーマを使うかである。鍵は、自分が参照しているものを理解し、成立させるために開封比がどれだけ必要かを算出することである。先週言った通り、成功するためのモデルは、他のマジックのセットを大枠のガイドラインとして用いること、デザイン骨格を必要なものの記録のために使うこと、そして数字を正しく調整するために充分なプレイテストをすることである。セットをリミテッドでプレイできるようにすることは、カジュアル構築フォーマットでうまくいくことの素晴らしい目安であり、競技構築プレイのためにセットを調整するための素晴らしい助けである。
いつもの通り、今日の(そして先週の)記事についての諸君の感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
来週月曜日は記事は掲載されないが、『イコリア:巨獣の棲処』の最初のプレビュー記事は木曜日にお目にかけることになる。(編訳注:掲載予定が変更になりました。来週3月23日(日本語版3月24日)には通常の記事を掲載いたします。)
その日まで、あなたのセットに興味深く楽しいテーマがありますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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