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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

分散性 その2

Mark Rosewater
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2020年3月2日


 

 ようこそ諸君。昨年12月に、私は分散性とゲームデザインにおけるその役割についての2部作となる記事を書いた。その2本は、年末休みに入る前の最後の2本にするつもりだったのだ。私は数えるのが苦手で、まだ載せていない記事が何本あるかを計算しそこねていた。その結果、その1は12月に掲載され、その2はプレビューや『テーロス還魂記』に関する記事や『Unsanctioned』に関する記事が終わるまで掲載を待つことになったのだ。しばらく間が空いているので、このその2を読む前に、ぜひその1を読み返してもらいたい。掲載が遅れたことを重ねてお詫び申し上げる。今日の記事が、それだけ待った甲斐があるものになっていれば幸いである。


 昨年12月、分散性と呼ばれる、ゲームデザインのある重要な一面についての話を始めた。前回の記事全体を使って、私は、分散性とは何か、そしてそれがどうして重要になりうるのかという話をした。(ここで繰り返しておくが、まだ読んでいない諸君は今週の記事を読む前に是非是非読んでくれたまえ。)今日は、分散性がどのようにデザインに影響を与えるか、そしてデザインがどのように分散性に影響を与えるかに焦点を当てていく。マジックを24年間デザインしてきた中で、分散性について学んだ教訓があるのだ。

教訓#1 — 分散性は、(ほぼ)全てのプレイヤーにとって心躍るものにする

 マジックをこれほど楽しくしている理由として、ゲームが毎回異なる展開を見せるということが挙げられる。マジックのデザイナーにとって、多様性がマジック(や、おそらくは他のほとんどのゲームを)楽しくする秘密のソースに含まれるということを理解するのは重要である。人間は、自分が快適だと感じる場所にいる限り、驚きを楽しむし、欲しがるものなのだ。特に、精神的に自身に挑戦しようという活動の中では、予想できないことが起こってほしいと思うものなのである。

 私が前回述べたことを読んで、技術に重きを置くプレイヤーは分散性を望まないと結論づけてしまうのは非常によくあることだ。しかしながら、それは間違いである。プロツアーの最高の瞬間の中には、分散性が高いことに依って起こったものがいくつも存在する。例えば、2007年世界選手権準決勝でのパトリック・チャピン/Patrick Chapinとガブリエル・ナシフ/Gabriel Nassifのマッチは非常に有名だ。

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 チャピンは(3本先取の)2-1で有利に立っていた。このゲームで勝利すれば、決勝進出となる。チャピンは《記憶の点火》を唱え、ストームでコピーを5つ作った。ナシフのライフは残り9点で、手札は3枚。点数で見たマナ・コストはそれぞれ5(《記憶の点火》)、2(《ぶどう弾》)、1(《炎の儀式》)だった。チャピンが点数で見たマナ・コストが5のカードを引き当てれば、ナシフの負けになる状況だ。実際に起こったのはこうだった。

 ドラマチックで心躍る忘れられない瞬間になったのは、高い分散性のおかげである。これを取り上げたのは、あらゆるレベルにおいて、分散性はマジックに興奮を加えるということを理解することが重要だからである。

教訓#2 — 分散性が高すぎると、(ほぼ)すべてのプレイヤーにとってゲームはつまらないものになる

 また一方で、プレイヤーが自分がやっているという感覚を持つようにしたいものである。つまり、そのゲームのプレイヤーに、自分の行動には意味があると感じさせたいのだ。プレイヤーがそう感じないようなものにすれば、ゲームは駄目になる。この最高の例となるのが、何度も何度もデザインされては却下されているとあるカードだ。

〈緊急停止ボタン〉
{4}
アーティファクト
{7},{T},[このカード]を生け贄に捧げる:コイン投げをする。表であれば、あなたはこのゲームに勝利する。裏であれば、あなたは敗北する。

 このカードは、つまり、究極の分散性を持つカードである。誰がゲームに勝利するのか。運命に委ねよう。そこには問題がある。《クラークの親指》(コイン投げでいい結果を出す助けとなるアーティファクト)のようなものがなければ、このカードは単に結果を無作為化するだけなのだ。いつこれを使うのか。勝てる確率が50%を切ったときだ。もっともよくあるのは、自分が死ぬ直前のターンまで(つまり次のターンに敗北することが明らかになるまで)待ってから起動することだろう。ゲーム内での勝利確率は基本的に0%なので、このカードは勝率を50%引き上げてくれることになる。負けたとしても問題ない。いずれにせよ負けるのは変わらない。勝ったとしたら、敗北直前から勝利を掴み取ることになる。

 それでは、なぜこのようなカードを作らないのか。それは、主体性を完全に奪い去るからである。それまで何もしなかった対戦相手が半分の割合で勝利をさらうとしたら、勝利に向かって努力する理由はどこにあるのか。ゲームが、人々が安全な場所から自身に精神的な挑戦を課す可能性だとするなら、行動に意味をなくすことはその挑戦を取り除くことになり、ゲームの楽しみをすべて台無しにしてしまう。そして、我々は行動に意味を持たせたいのだ。我々は、ゲーム内の行動がゲーム内で起こることに影響を与えると感じさせたいのである。

 これが、こういった分散性を高めすぎないように注意を払っている理由である。第一の目標が勝利ではない(例えば、友人と過ごす素晴らしい体験をしたい)カジュアル・プレイヤーでさえ、自分の行動が何の意味もないと感じたなら落胆するものだ。

 分散性が低すぎるのも問題だが、その逆もまた問題なのだ。

教訓#3 — 選択性の高い分散性は、選択性の低い分散性よりもずっと心地よい

 プレイヤーは結果が異なるゲームを楽しむが、主体性があまりに低ければ投げ出すものだ。この問題への第1の解決策は、選択性の高い分散性を優先することである。つまり、ゲームごとにプレイヤーが異なる選択をできることで変わるカードやメカニズムを作るということである。

 高い選択性と高い分散性を持つカードは、大量に、高い開封比で(ブースターパック1つから多くの枚数が)現れることがあるが、これはプレイヤーに不快感を与えずに分散性を加えることが多いからである。唯一の欠点は、選択肢を増やすことによって盤面がより複雑になり、経験の浅いプレイヤーにとっては判断に困る状況を生み出して複雑さを増やしてしまうことがあることである。

 これへの解決策は、低レアリティに存在する選択性が高く分散性が高いカードの選択肢を減らすということがある。これは、文字通り選択肢を減らす(コモンではモード2つ、レアではモード4つのカードを作るなど)方法と、選択肢を選びやすくする(モードの1つが他のモードよりもよく使うものになっている)方法がある。ただし、後者の方法を取る場合には、選択肢の1つだけが(ほぼ)いつでも正解になるようなモードを作ってしまうと分散性はなくなってしまうので注意が必要である。開発部は、そういったカードを作らないように尽力している。選択肢を与えるなら、そのどれもが有効になる状況が必要であるが、特に低いレアリティのカードにおいては選択肢の1つが選ばれる頻度が若干高くても問題はない。

教訓#4 — ゲームに高い分散性を与えるためには、それほど多くを加える必要はない

 私が15歳のとき、私はチャリティイベントの資金集めパーティーでブラウニーを焼くことにした。それまでブラウニーを焼いたことはなかったが(それどころか焼き料理をしたこともなかった)、私の母はレシピがあると言い、それ通りにやればいいと言ったのだ。そのレシピは手書きで、読むのには少々骨が折れた。

 そして時間が流れて。妹のアリッセ/Alysseが近づいてきたとき、ブラウニーを冷ましているところだった。彼女はブラウニーを味見していいかと聞いてきた。私は、もちろん、と答えたのだ。彼女は一口食べて、即座に吐き出した。その時の会話がこうだ。

アリッセ:これにどれだけ塩を入れたの?
:4分の1カップ。
アリッセ:4分の1カップ!?
:ああ。レシピにそう書かれていたからね。
アリッセ:レシピにそんなことが書かれているわけないわ。
(私はレシピを掴み、彼女に突き出した。)
:ここだよ。
アリッセ:ここには、小さじ4分の1杯って書いてあるわよ。
:いや、これは「t」じゃなく「c」だ。(訳注:英語では、1カップをcupで「1c.」、小さじ1杯をteaspoonで「1t」と書くことがあります。ちなみに大さじはtablespoonで「1T」です。)曲がっているし、横線もないじゃないか。
アリッセ:ええ、確かに「c」みたいに見えるけど、「c」じゃないわ。これは「t」よ。なんで分かるかわかる? ブラウニーに4分の1カップの塩を入れるなんてことはありえないからよ!
:つまり、これは美味しくないってことか?

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 この日私が学んだことは、ほんの少しでも充分な働きをするものがあるということである。選択性が低く分散性が高いカードは、特にゲームに大きな影響を与えるものの場合、この分類に入るのだ。選択性が低く分散性が高いカードをあまり作らないが作った場合には大きな影響を与えるようにしている理由がこれだ。その理念は単純である。選択性が低く分散性が高いカードは、大量でなくても大きな影響を与えることができるのだ。これはつまり、レアリティと開封比を調整しながら効果を増やすことを意図しているということである。(そして、効果を増やせばその理由でもレアリティは高くなることになる。)

教訓#5 — そのゲームに自然な要素の中に隠れているのが最高の分散性である

 私がゲームデザイン上で当然だと思っているものの1つが、分散性はゲームを楽しくすることが多いが、分散性が明らかになっていると冷めてしまうプレイヤーもいるので、ゲームデザイナーは分散性を注意を惹かない形でゲーム内に隠す方法を見つけなければならない、というものである。そのための一番簡単な方法が、自然に分散性を持つゲーム内の要素に頼ることである。

 マジックにおけるその最高の例が、ライブラリーであろう。リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldはゲームの結果が変わることの重要性を理解していたので、無作為化されたデッキというアイデアをマジックに組み込んだのだった。プレイヤーは使うカードを40枚か60枚か100枚選ぶが、それをゲーム内で手にする順番を決めることはできない。マジックはカードゲームなので、デッキを使うようにするのは非常に簡単だった。初めてデッキを使うゲームであるマジックを知ったとき、あるいはゲームの開始時にシャッフルするように言われたとき、気にする人はいない。ただのカードゲームの一部なのだ。

 マジックのデザイナーは、それを利点として使うことができる。例えばライブラリーはマジックの当たり前の一部なので、分散性を増やすためにライブラリーを扱うカードを作ったとき、プレイヤーは嫌な反応はしないものだ。例えば、「カードを1枚引く。」は非常に高い分散性を持つが、それを問題視されることはないのである。

教訓#6 — プレイヤーが分散性を操作できるようにすると喜ばれる

 分散性を持つカードを心地よいものにするためのもう1つの方法は、分散性を準備するものにプレイヤーが影響を与えることができるようにするそれ以外のカードをセット内に入れることである。例として、セットに続唱を入れるとしよう。続唱とは、特定の点数で見たマナ・コストのカードを見つけるまで自分のライブラリーの一番上からカードをめくり、それをコストを支払わずに唱えるというメカニズムである。このメカニズムは、本質的に非常に高い分散性を持つ。何を手に入れるかは誰にもわからない。しかし、プレイヤーが自分のライブラリーの一番上を操作できるようにするカードをセットに入れておけば、プレイヤーに、得られるものを調整することができるかもしれないという希望を与えることになるのだ。コントロールできるかもしれないという感覚は、分散性に関する不安を大きく取り除くことになる。

 2つ目の使える技法として、これも続唱で使われているものだが、分散性を低減するようにデッキを構築することができるようなメカニズムにするというものがある。例えば、続唱は特定のカード群を探している。選びうる選択肢が1つしかないようにデッキを組めるようにすれば、プレイヤーはそれを基柱にすることができるのだ。ここで言っておくべきことは、経験豊富なプレイヤーが分散性を取り除くためにどんな苦労も惜しまないだろうから、分散性を簡単に回避できるようにしないように注意しなければならない、ということである。分散性を下げれば安定性が上がり、それは競技プレイヤーが望むことなのだ。

教訓#7 — 高い分散性の印に注意せよ

 ここで、この2枚のカードを作ったとしよう。

〈狼の群れ〉(バージョンA)
{4}{G}
ソーサリー
コイン投げを3回する。表表が出た1回ごとに、2/2の緑の狼・クリーチャー・トークンを1体生成する。

〈狼の群れ〉(バージョンB)
{4}{G}
ソーサリー
あなたのライブラリーの一番上のカードを3枚見る。その中から任意の枚数の土地を公開してもよい。この方法で公開した土地1枚ごとに、2/2の緑の狼・クリーチャー・トークンを1体生成する。その後、それらのカードすべてをあなたのライブラリーの一番下に無作為の順番で置く。

 この2枚の中では1枚目のカードのほうが、コイン投げ1回ごとに50%の確率で狼を生成するので、強い。対照的に、2枚目のカードは、構築デッキでほとんどの人々が入れている土地の割合は40%なので、確率もそれだけになる。経験上、2枚目のカードのほうが評判が良いのだ。(単独で見れば。両方を見たら、多くの人々は計算して、そして強い方のカードを良しとするだろう。)この理由は3つあり、そのうち2つは今言ったばかりのものだ。まずそれを説明しよう。

 1つ目に、ライブラリーを使うことは分散性を少し隠してくれる。ユーザーは(コイン投げに比べて)効果を生み出すためにライブラリーを用いることに慣れており、単にマジックがする当たり前のものとして捉えられる。

 2つ目に、マジックにはコイン投げを操作できるカードよりもライブラリーを操作できるカードのほうがずっと多い。常盤木メカニズムである占術もライブラリー操作メカニズムなのだ。それはまた、プレイヤーが実際よりも分散性を低めることを正当化できるようにもする。

 3つ目に、これは新しいものだが、コイン投げは運に大きく結び付けられている。メカニズムをどう実行するかを選ぶとき、その選択の心理的な影響を考えなければならない。コイン投げは、無作為な決定の代表例なのだ。つまり、プレイヤーがコイン投げに言及したカードを目にした場合、彼らの分散性に関する先入観に踏み込んでいるのだ。

 ここでは、高い分散性を良くないものと捉えているプレイヤーの話をしていると明言しておこう。カジュアルなプレイヤーは、比較的単純で楽しそうに見えるかもしれないコイン投げバージョンを好む可能性がある。プレイヤーごとにマジックに望むものは違うので、これは我々が考えなければならない現行のバランスなのだ。

教訓#8 — 選択性が低く分散性が高いカードを構築やドラフトから追い出そう

 分散性に関してプレイヤーによってマジックに求めるものが大きく異なるという事実を扱う方法の1つが、特に低い選択性においてどのようなカードの分散性をどうするかについて注意するということである。つまり、例えば、我々が選択性が低く分散性が高い効果を、競技プレイで実用的だろうと考えているカードには持たせないということである。これにはブースタードラフトが含まれており、つまりコモンやアンコモンにおいては選択性が低く分散性が高いカードには特に注意深くなるということである。

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 そういうことをする場合は、それらがドラフトの定番にならないようなコスト付けをすることが多い。これは結局のところ、そういうことをするのはレアや神話レアですることが多く、競技プレイヤーの目を引かないような強さにすることが通例ということになる。また、選択性が低く分散性が高いカードを作る場合には心理学的分析を意識しているということである。平均して、ティミーやタミーがファンになることが多いのに対し、スパイクは嫌うことが多い。ジョニーやジェニーは、そのカードの効果が何なのかに基づいて判断する。彼らは選択性が低く分散性が高いカードを忌避することもないが、それに引き寄せられることもない。ケースバイケースなのだ。これらすべてを知ることもまた、選択性が低く分散性が高いカードにどのような効果を使うかを決定づけるものである。

教訓#9 — 高い分散性を使う場合、特に高レアリティでは、大胆に

 もう1つ学んだことが、分散性の高いカードを最も楽しむグループは、その2つ(またはそれ以上)の効果の差が大きいほうが喜ぶ傾向にある、ということである。彼らにとって分散性を楽しいものにしている中には起こるべきものへの興奮があり、差が大きければ大きいほどその興奮も大きくなるのだ。また、このグループは他のグループよりも派手さを楽しむ傾向にあるので、我々は分散性の高いカードには可能性が大きい、つまりうまくいった場合には派手なことを起こせる可能性があるようにしようとしている。これは、これらの効果を高レアリティのカードに持たせたいという事実とうまく繋がっているのだ。

教訓#10 — 分散性を理解することは重要な道具である

 大学時代、私はテレビを中心としてコミュニケーション学を学んだ。私は常にメディアに魅了されており、私の人生の目標は当時テレビのシリーズものを作ることだったのだ。私のよくある不満の1つが、テレビを根底から邪悪なものだと見ている人々によく出会うことだった。私はいつも、テレビは道具だと答えていた。そう、他の道具同様、テレビは悪いことをするためにも使えるし、実際そうであることもあるが、根底から邪悪なわけではない。その使い方に依って、良いことにも悪いことにも使える可能性があるのだ。

 ここでこの話をしたのは、分散性がゲームにおいて本質的に悪いものだと思われていることがあるからである。そうではない。それは道具なのだ。ゲームを良くするためにも悪くするためにも使うことができる。使い方に依るのだ。私がこの2部作を書いた理由は、諸君に一歩引いて、そして分散性がゲームデザインにどう影響するのかをより大きな文脈から評価してもらいたかったからである。テレビ同様、正しく使えば素晴らしい可能性を持っているのだ。

十人十色

 本日はここまで。諸君が、分散性とそれがマジックのデザイン(やゲームデザイン一般)にどのような影響を与えているかについての話を楽しんでくれていれば幸いである。もう一度ここで、この2部作に長い間隔が空いてしまったことをお詫びしよう。いつもの通り、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、本年の「基本根本」記事でお会いしよう。

 その日まで、あなたにとって最適な量の分散性が見つけられますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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