READING

開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『灯争大戦』の遂行 その2

Mark Rosewater
authorpic_markrosewater.jpg

2019年4月8日

 

 先週は、私の『灯争大戦』のデザインの話のその1だった。その中で、このセットのプレインズウォーカー・テーマをどう思い付き、どう実装したかという話をした。今日は、このセットの2つのメカニズムのうち1つ、再録のものについて語ろう。ただし、その再録メカニズムは増殖であり、スタンダードの世界への復活は長く曲がりくねった道だったので、単純な話ではないのだ。今日はその話をして、それからて諸君の多くが気に入ると思われる、増殖を持つ新しい伝説のクリーチャーをプレビューしよう。楽しみにしてもらえれば幸いである。

戦争の当事者たち

 だがその前に、プレインズウォーカーの話で手一杯だった先週、触れられなかったことをしておこう。『灯争大戦』の展望デザイン・チームの紹介だ。


ピーター・リー/Peter Lee
MM20190408_Lee.png

 ピーターはテーブルトップ・ゲームの傑出したデザイナーだ。彼は最初、ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ・ミニチュアのチームの一員としてウィザーズに加わった。その後、ロールプレイングゲームを手がけた。幸運にも、我々はしばらくの間、彼をマジックに加えることができた。彼が展望デザイン・チームに加わったのはこれが初めてだが、『ドミナリア』と『ラヴニカの献身』のセットデザイン・チームに参加していた。マジックのプレイヤーには、彼の名はボードゲーム『Explorers of Ixalan』のリード・デザイナーとして一番馴染みがあるかもしれない。ピーターはこのセットでの私の次席者であり、カードファイルを管理していた。このセットは、展望デザインに参加したことがなかったピーターにとって初めての試練のようなものであったが、彼は適任であり、このセットにかなりの貢献をしてくれた。


ジェームズ・ワイアット/James Wyatt
MM20190408_Wyatt.png

 ジェームズは、『灯争大戦』のクリエイティブ連絡係だった。先週言ったとおり、このセットは「イベントのセット」であり、デザインの原動力になるのは世界を具現化することではなくイベントに命を吹き込むことであった。そのため、物語はこれまでやったことのないレベルで融合しているものであり、ジェームズはかなりの労力を必要とした。私は、このセットのプレインズウォーカーの数を増やそうとしていた多くの会議で、「ジェームズ、他に誰か入れられないか? 誰々はここにいられないか?」と言っていたことを覚えている。ジェームズはその時々で最善の推測を返し、クリエイティブ・チームの他のメンバーと確認してくれたのだ。『灯争大戦』のクリエイティブによる統合を楽しんだ諸君には、ジェームスがそれらを組み合わせる上で大きな助けになったということを伝えておこう。(それに、ボーラス・シリーズの物語を構成したダグ・ベイヤー/Doug Beyerも。)


デイブ・ハンフリー/Dave Humpherys
MM20190408_Humphreys.png

 デイブは『灯争大戦』のセットデザイン・リードで、彼はいつも、自分がリードを務めるセットの展望デザイン・チームに入ることを望んでいる。(今は、それをすべてのセットデザイン・リードに要求することになっている。)デイブは展望デザイン中にメカニズムに多くの情報を入れ、そしてセットデザインを通してそれを維持しようとするのだ。『灯争大戦』のあらゆるメカニズム、例えば増殖や動員、さまざまなプレインズウォーカーは、どれも展望デザイン中に作られたり追加されたりしたものである。セットデザイン・リードとして、デイブには展望デザイン中に作った要素や道具が、楽しく、まとまっていて、バランスの取れたセットを作るために正しく揃えることができるように検討して仕上げる責任がある。私はデイブとかなり協力して働いてきたが、いつも素晴らしい楽しみである。


ケン・ネーグル/Ken Nagle
MM20190408_Nagle.png

 ケンは、私の次席者としてデザインを始めたが、2か月後に他のプロジェクトに求められてチームを離れることになった。ケンと私は何年も広範に協力してきて、彼をデザイン・チームに迎えるのはいつでも喜びである。『灯争大戦』のデザインの最初の数か月は本当に特別なもので(詳しくは来週)、ケンもそこに参加していたのだ。


ジャッキー・リー/Jackie Lee
MM20190408_Lee2.png

 ジャッキーは、チームを離れなければならなくなったケンに代わって参加した。ジャッキーと働く上で一番好きなことは、彼女が他のデザイナーと全く異なる視点からの強い意見を持っていることである。彼女はいつも私が考えたことのないことを提起し、尋ねられたことがないような質問を投げかけてくる。特にジャッキーはプレインズウォーカーに関する強い意見をっており、このセットにこれほど多くのプレインズウォーカーを追加する方法を考える上で助けになったのだ。


マーク・ローズウォーター/Mark Rosewater(リード)
MM20190408_Rosewater.png

 デザインのリードを務めるのは27回目となるが、これまでリードを務めてきたどのセットとも似ていないものだった。デザインの開始時から完成品までの距離は、今まで私が手がけたセットの中でも最大のものだったかもしれない。この人物は、つまり私だ。ご存知のとおり。現時点で、諸君の多くは私の過去について私が覚えている以上のことを知っているかもしれない。(私の下の娘は、私のファンである学友から私の身長を訂正されたことがある。)


 さて、それでは、増殖の話に入ろう。

退廃の始まり

 増殖は、たった1枚のカードから始まった。『ミラディンの傷跡』では、かなりの間マジックに登場していなかったファイレクシア軍を再登場させ、マジック最古の悪をゲームプレイに編み込むために尽力した。そのため、私はファイレクシア軍に4つの形容詞を与え、それを軸にデザインするようにチームに言ったのだ。その形容詞とは、適応性、有毒性、冷酷性、ウィルス性、であった。ファイレクシア軍の全体としての雰囲気は、ウィルスのようなもの、だった。そこから我々は、対戦相手に毒カウンターを、そのクリーチャーに−1/−1カウンターを与える、感染能力を作った。

 その後、私は毒や−1/−1カウンターと相互作用するカードをデザインした。それは「病気を広げる」というような名前で、毒カウンターを持つ対戦相手に追加の毒カウンターを1個、対戦相手の、−1/−1カウンターを1個以上置かれているクリーチャーに追加の−1/−1カウンターを1個与えるというものだった。私はこのカードの動きが気に入ったので、それを増やし始めたのだ。やがて、私はそれをキーワード処理にした。マーク・グローバス/Mark Globusはこのメカニズムを気に入ったが、あらゆるカウンターに影響しないことを不思議に思った。『ミラディンの傷跡』には蓄積カウンターが存在していて、彼はそれにも影響したら楽しいだろうと感じたのだ。加えて、あらゆるカウンターに影響するようにすることで後方互換性が生まれ、プレイヤーはそれを使って奇妙なことが起こせるようになるのだ。私はすぐに変更した。

 『ミラディンの傷跡』のデザインには大量の増殖があったが、その多くはデベロップ中に減らされた。このメカニズムはブロックを通して登場したが、カード枚数は14枚だけだった。(後に作られた増殖カードは2枚あり、1枚は『統率者(2016年版)』の統率者で、もう1枚は『Unstable』のものだ。)このメカニズムはプレイヤーに好評で、再録を求める声が上がるのは驚きではなかった。これから見ていく通り、それは想像していたよりも少し険しい道のりだった。

試み#0 − 『ギルド門侵犯』

 『ラヴニカへの回帰』ブロックで、ギルド・メカニズムとして再録メカニズムを採用できるようにすることについて議論していた時期があった。その代表例として、増殖はシミックの素晴らしいメカニズムにできるというものがあった。しかし、再録メカニズムを認めないことにしたので、増殖にも再録の機会はなくなったのだった。

試み#1 − 『カラデシュ』

 『カラデシュ』はプレイヤーにカウンターを与えるメカニズム(エネルギー)と、クリーチャーに+1/+1カウンターを与えるメカニズム(製造)があるセットだった。カウンターが、対戦相手を不利にするものではなく自分を有利にするものであるという点で、『ミラディンの傷跡』の逆だと言えた。つまり、このセットでは増殖が『ミラディンの傷跡』とはまったく異なる働き方をするだろうということになる。再録にまさにふさわしいと思われたため、このセットのデザインの比較的早期に増殖は追加された。

 そのあと、何が起こったのか。最終的に、+1/+1と+2/+2の差はエネルギー1個と2個の差よりもずっと大きかったので、このメカニズムはエネルギー・カウンターよりも+1/+1と強いシナジーを示すことになった。問題は、+1/+1カウンターはこのセットの主なテーマの1つで(クリーチャーが技術を用いることの描写として使われていた)、メカニズムの1つでも使われていたので、規模を縮小することができないことであった。バランスの専門家たちによる激論の末(当時はまだプレイデザインは存在しなかった)、増殖はセットから取り除かれたのだった。

試み#2 − 『霊気紛争』

 シナジーが非常に強かったので、次のセットでもこの論点が生じた。このブロックにはまさにふさわしかったのだ。ドラフト向けに少量だけ入れるとしても、成立しただろう。(『霊気紛争』ははドラフトでは3パック中2パックだけ使われていた。)また、『霊気紛争』には製造能力はなかったので、+1/+1カウンターのこのセット全体での開封比は低く抑えることができた。デザイン・チームは増殖を成立させるためにさまざまな解決策を試したが、どれも成立しなかったのだ。『カラデシュ』とうまく噛み合わなかった理由が、基本的に『霊気紛争』にも当てはまってしまった。しらみ潰しに探した結果、デザイン・チームはこれをセットから取り除いたのだった。

試み#3 − 『ラヴニカの献身』

 再びラヴニカを舞台とすることになり、今回は再録メカニズムをギルド・メカニズムにできることにした。一番最初の会議で、我々はギルドごとに何を再録できるかを話し合い、シミック向けに増殖の名前が挙がったのだ。最初のプレイテストまで、増殖はシミックのメカニズムだった。我々は、増殖を、単色のカードを他のギルドのデッキに散らしたくなるようなものにできるよう、他のメカニズムとバランスを取ろうと尽力した。(その一例として、増殖の多くを、当時のアゾリウスのメカニズムであった「優位/precedence」とうまく噛み合うように、戦場に出たときの誘発型能力につけていた。)今回は、展望デザインの間ずっと増殖は生き残り、そしてセットデザインに提出されたのだった。

 しかし、今回もまた、増殖は少しばかり効果的すぎることに苦しめられることになった。シミックは+1/+1カウンター・テーマを有し(しかもそのギルド・メカニズムの順応は+1/+1カウンターを使っており)、増殖とのシナジーは強力だった……不幸にも、強力すぎたのだ。カウンター・テーマはシミックの特徴において大きな部分を占めていたので、セットデザインが簡単にボツにできるものではなかった。また、セットデザイン・チームはギルド・メカニズムの多くを変更しており、他のギルドとのシナジーは展望デザインのときほど均衡の取れたものにはなっていなかった。セットデザインはそれを成立させようとしたが、最終的には、あまりにも多くの問題を引き起こすことからボツにせざるを得なかったのだ。

パーティへの増殖

 俳優のジョン・クライアー/Jon Cryerは若い頃、短命に終わった多くのTV番組に出演していた。その頻度が高かったので、彼は「番組殺し/Show Killer」と呼ばれるようになった。その悪評のせいで、他の番組人(TV番組を運営する人)は彼を雇うのを躊躇するようになった。私は、これが増殖メカニズムにも当てはまってしまうのではないかと危惧したのだ。何度も成立させようとした結果、私は、これが二度と日の目を見るべきでないメカニズムとして抹消されるのではないかと危惧した。

 この間に、私は日々プレイヤーたちと交流しており、増殖の再録という話題は常々挙がっていたのだ。これは、プレイヤーの多くが再録を望む、楽しいメカニズムなのだ。増殖とシナジーを持ちうるセットが世に出るたび、プレイヤーからはなぜそのセットに増殖がないのかという質問が飛んでくる。ときには、一時期は存在していたがその後でボツになったのだと説明しなければならなかった。「信じてくれ。我々はこのメカニズムを諦めてはいない。これからも挑戦し続ける。」と答えるが、失敗するたび、私はこれの再録の可能性が下がることを危惧していたのだ。

 そして、『灯争大戦』の展望デザインの中期の話になる。その頃、プレインズウォーカー・テーマを確定させ、アンコモンのプレインズウォーカーをデザインしていた。アンコモンのプレインズウォーカーはプラスの忠誠度能力を持っていないので、忠誠カウンターを増やす方法が必要だということはわかっていた。選択肢を検討している中で、明らかに部屋の中の象といえるものがあった。「増殖を検討すべきじゃないか?」

 誰もが増殖の投入を望んでいたが、過去にボツになったのと同じ理由でまたボツにしなければならなくなることを恐れていたので、私はプレイデザイン・チームとの話し合いに向かった。過去のセットすべてで増殖をボツにした、共通のテーマは存在していただろうか。そのすべてのセットで+1/+1カウンターが重要な役割を果たしていて、それがこの効果のバランスを取りにくくしていたのだ。それでは、+1/+1カウンターがあまり重要な役割を果たさないセットはどうだろうか。そうすれば成立するのだろうか。その可能性はある。続いて私は、プレインズウォーカーが多いことは問題になるかと尋ねたが、忠誠度が1増えることは+1/+1と+2/+2の差に比べたら全然弱いので問題ないと言われた。さらに、プレインズウォーカーには節がある。[-1]の忠誠度能力を持っている忠誠度2のプレインズウォーカーと、[-2]で同じ効果の忠誠度能力を持つ忠誠度4のプレインズウォーカーは単体では基本的に同じカードだが、増殖との相互作用は異なってくる。つまり、増殖メカニズムに対して、特にリミテッドでは、カードのバランスを取ることができるというのだ。

 つまり、我々が注意しなければならないのは+1/+1の使い方だということになる。一切使えないということではないが、使う場合には増殖がセットに存在するということを理解してしなければならない。『カラデシュ』ブロックや『ラヴニカの献身』と異なり、+1/+1カウンターは他の戦略の背骨になっているわけでもなければセット内のキーワードでも使われていない。(動員はまだセットに存在していない。それの創造については来週語ろう。)+1/+1カウンターを使うカードは1枚ずつデザインされ、そのパワーレベルを調整する自由度は高かった。

開花を増殖

 次にしなければならなかったのが、『灯争大戦』に合わせて増殖を調整することであった。メカニズムを再録するとなると、それが前回存在したのと少し違う形で作用するような環境を見つけることが必要になる。増殖に関して最大の違いは、『ミラディンの傷跡』ブロックでは対戦相手を傷つけるために使われることが主だったが、『灯争大戦』では自分を助けるために、自軍のプレインズウォーカーに忠誠カウンターを与え、自軍クリーチャーに+1/+1カウンターを与えるために使われることが主になる。これは、このメカニズムが存在する色と、このメカニズムをつける効果、という2つのことに影響を与える。

 『ミラディンの傷跡』では、増殖は主に青とアーティファクトで、単発的効果として使われることが主だった。黒のカード2枚、赤のカード1枚、緑のカード1枚で存在していたが、この3色の中でその緑のカードだけが複数回使える効果を持っていた。再録するにあたり、それをフレイバー的、メカニズム的に(そしてシミック的にも)最も自然な2色である青と緑に持たせたいのは明らかだった。3色目として、今回はこのメカニズムの建設的な面が軸となることから、プレインズウォーカーを助けることに最もふさわしい色である白を選んだ。

 実装に関しては、これ以外に3つ大きな変更があった。1つ目に、我々はこれを低いレアリティに、そして多くのカードに、持たせることにした。『灯争大戦』では、増殖を持つカードは14枚あり、『ミラディンの傷跡』ブロック全体よりも多い。2つ目に、カウンターを生成しない効果に持たせることを増やした。これは、リミテッド環境では充分なプレインズウォーカーや+1/+1カウンターが存在し、ほとんどの場合に増殖は有用になるからである。3つ目に、複数回使える増殖効果も増やした。前回はデベロップ上の懸念から、これには特に注意を払っていたが、プレイデザイン・チームができ、彼らはメカニズムにはより大胆になっている。

 こうして、今回の、4度目となる増殖の再録への挑戦が、成立に到ったのだった。さて、増殖をスタンダードに再録するために必要だったことについて語ってきたのだから、それを使った新しいおもちゃの1枚をお見せしないわけがあるだろうか。

 《混種の頂点、ロアレスク》をご覧あれ。

予想を増殖

 本日はここまで。増殖の再録に関するこの物語を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、今日の記事や『灯争大戦』についての諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、デザインの荒野の旅と、動員メカニズムの背後にある物語について語る日にお会いしよう。

 その日まで、あなたがカウンターであふれた戦場に増殖を使えますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

CATEGORY

BACK NUMBER

サイト内検索