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Making Magic -マジック開発秘話-
踊る芳醇さ
2019年3月18日
長年の読者諸君は、私が芳醇さのことをゲームデザインの重要な一部であると感じていることをご存知のことだろう。例えば、「芳醇さは重要である」は2016年の「Game Developers Conference」で私が語った20の教訓の1つであった。(そのスピーチをまとめた記事がその1、その2、その3、動画形式でも公開されている。)しかしある日、私は芳醇さについて特に取り上げた記事を書いたことがなかったことに気がついたので、それを今日改めようと決めたのだった。それについて語る前に、なぜ私は芳醇さがそれほど重要だと考えているのかを説明し、マジックを作る中における芳醇さのさまざまな使い方について語っていく。
芳醇さとは
まず最初に、ここで私が言う「芳醇さ」とは何なのかの定義から始めよう。芳醇さとは、ゲームの部品を、ユーザーがすでに親しんでいる情報をもとにして作り上げるということである。例えば、リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldが最初にマジックを造ったとき、膠着状態を打開する助けとなる回避メカニズムが必要だと考えた。彼は現実世界を見て考えた。「どうすればクリーチャーは他のクリーチャーを通り抜けることができるだろうか。」他のクリーチャーの上を飛び越えられるのではないか。そしてリチャードは飛行という概念を採用し、それを軸にしてメカニズムを作り上げたのだ。こうすることには、芳醇さを用いることの本質である利点がいくつも存在している。
馴染みがある
誰でも鳥や飛行機のことを知っているので、誰でも飛行とは何かを理解できる。空中を通るという考え方は、我々に馴染み深いものだ。既に知っている考え方をマジックでも使っているので、安心感が生まれる。(なぜ人は安心を求めるのかについて詳しくは私のコミュニケーション理論に関する記事を参照のこと。)リチャードがこれと同じメカニズムを、架空の名前を使って作っていたとしたら、プレイヤーの最初の反応は「知っているよ」ではなく「これは何だ?」というものになっていたことだろう。そうなると、既知の世界に存在するものに対する安心感ではなく、それが何なのかを判断しなければならないという不安感が生まれることになる。ゲームには、覚えなければならない新しいものが大量にあるのだ。ユーザーが最初から知っているものに頼ることができるものがあればあるほど、そのゲームをとっつきやすいものにすることができるのだ。
フレイバーに富んでいる
マジックには多くのクリーチャーが存在する。我々は、それらがお互いに違うものだと感じられるようにしたい。そのための方法の1つが、小分類を作ることである。飛行クリーチャー、といえば、それは何らかの意味を持つことになる。他のクリーチャーとは違うものだと考えさせることができるのだ。そして、これは我々が持っている知識に基づくものなので、それぞれの心の中にあるデータベースとそのクリーチャーをつなぐことができるようになる。例えば、ここで、あるセットに1/1の黒の飛行クリーチャーがいると言ったら、諸君はカード名や絵を見る前に、それが何なのかという可能性を考え始めることだろう。単語1つに過ぎないが、ユーザーがその単語とマジックから得られる関連情報を組み上げるので、いろいろな意味を含むことになるのだ。
《湿地の飛び回り》 アート:Wayne Reynolds |
機能的である
学ぶことは難しい。ゲームデザイナーとして、プレイヤーが何かを早く学ぶことを助けられるのなら、ゲームが理解しやすいものになる。飛行は、既存の知識をうまく活かしたものだ。つまり、プレイヤーは飛ぶという概念について知っていることから、そのメカニズムの働きを予想することができるのだ。こちらには飛行クリーチャーがいて、相手の側には飛行を持たないクリーチャーがいる。攻撃する。どうなるか。飛行を持たないクリーチャーは、頭上を飛び越えていく飛行クリーチャーをブロックすることはできない。飛行を持たないクリーチャーが攻撃した場合、飛行クリーチャーでブロックはできるだろうか。飛行クリーチャーは地上に下りてブロックできるから、できる。誰かにマジックのプレイの仕方を教える場合、飛行についてはこのように解説している。どうなると思うか尋ねると、ほとんどの人は直感で正しい答えを返してくる。つまり、飛行の概念は、プレイヤーにそのメカニズムの働きを理解させる上で大きな助けになっているのだ。
ゲームを学ぶことは、受け入れの問題である。そのゲームについて何も知らない(あるいはほとんど知らない)プレイヤーが、それを体験しようと判断したのだ。結果は2つ考えられる。1つ目が、その体験がポジティブなもので、それをまたプレイしたいと考えるというもの。2つ目が、その体験がネガティブなもので、もう一度プレイしようとは考えないというものだ。この後者になってしまうと、ほとんどの場合は、そのゲームを二度とプレイすることはないだろう。ゲームデザイナーとして、前者の結果を導く可能性を高めるためにできることは何だろうか。
できることは3つ存在する。
#1:情緒的に繋がりを持たせることができる
プレイした時にゲームから受ける感覚を楽しんだなら、もう一度プレイしたいと考えることだろう。そのためにはどうすればいいか。安心感を与えることでゲームの新しい体験に積極的になれるようになるので、まずは安心感を与えることである。コミュニケーション理論の記事で書いたとおり、人間は驚きを楽しめるようになる前に安心感を必要とするものなのだ。それでは、安心感を与えるための最善の方法は何か。なじみ深さを感じさせることである。
#2:クリエイティブ的に繋がりを持たせることができる
新規プレイヤーを攻略するもう1つの方法が、そのゲームの世界に惚れこませることである。クリエイティブ要素が充分に訴えかけるものだったなら、それで引き入れることができるのだ。そのための鍵は何だろうか。それは、関連性である。人々が絆を感じるのは、それによって現実世界で好きな何かが思い出されたときである。そのものは文字通りに現実世界のものである必要はないが、現実世界のものを思い出させるものでなければならない。例えば、プレイヤーが自分と同じような人をゲーム内に見かけ、つながりや絆を感じることになる可能性を高めることが、我々がマジックで多様性を強く押している理由の1つである。これらすべてはフレイバーに、そしてプレイヤーが最初から楽しんでいるものを直接間接に活用する要素に帰着するのだ。
#3:メカニズム的に繋がりを持たせることができる
プレイヤーを引き込むための3つ目の方法は、そのゲームの機能そのものを楽しませることである。その動き方やそのゲームですべきことを気に入れば、プレイすることが楽しみになるのだ。ただし、それが可能になるには、プレイヤーがメカニズムを理解しなければならない。理解するのに苦しんだり、楽しい要素に気づかずに見落としたりすれば、ゲームを楽しむことは難しくなる。つまり、機能こそが本質なのである。可能な限りあらゆる手段を使って、理解しやすくする必要がある。
つまるところ、芳醇さはゲームデザイナーにとってかけがえのない手段なのだ。芳醇さは、プレイヤーに情緒的な繋がりを感じさせる助けとなり、クリエイティブ要素をさらに楽しませ、そしてゲームのメカニズムを学び楽しむことを可能にする。
芳醇さがあれば
さて、芳醇さが重要な理由について説明してきたので、ここからは我々が芳醇さをマジックのデザインに組み込んでいる方法について語ろう。ここでは、非常に広いことから話して、それから各論へと進めていくことにする。
世界
我々がセットを作る上で一番最初にすることは、それが何についてのものなのかを決めることである。その中で大きな部分を占めるのが、それが舞台とする世界は何なのかを決めることである。単純化しやすくするため、ここではそれをトップダウン(クリエイティブ的な発想から始めること)とボトムアップ(メカニズム的発想から始めること)の2つに分けることにする。ここで、現在のデザインでは、クリエイティブ的なものとメカニズム的なものをかなり初期から往復しているので、どちらかから始めてはいるが、ほとんどのデザインはこの2つの側面の間で激しく意見交換しており、最終的にはセットがどちらか一方から始めたものであると断言することは難しくなっている、ということを記しておきたい。また、世界を再訪することもよくある。その場合には、ここで語ることの多くは、その世界を最初にデザインした時に起こっていることになる。
#1:トップダウンの世界
まず、現実世界のものに影響を受けた世界を考えることから始めることがある。影響するのはポップカルチャーのジャンル(イニストラードのゴシックホラー・テーマなど)であったり、既存の神話(テーロスのギリシャ神話など)だったり、文化に基づくもの(『タルキール覇王譚』の氏族への影響など。『タルキール覇王譚』はボトムアップで始まったものではあるが、ある意味では氏族から始まったとも言えるのだ)だったりする。それらのどの場合でも、我々はユーザーが知っている要素に基づいて世界を構築していく。芳醇さは世界に練り込まれているのだ。
トップダウンの世界に期待されるのは、我々がその芳醇な元ネタにどう向き合ったのかをプレイヤーが知りたいことから生じる、強く惹き付ける力である。
「ゴシックホラーの世界というのは面白そうだ。彼らがどうやってそれを具体化したのか知りたいな。」
したがって、トップダウンの世界をデザインする上で重要なのは、芳醇さへの予測をメカニズム的なデザインへの道標として使うことである。例えば、『イニストラード』では、狼男を具体化するために両面カードを導入することになった。狼男のクールなところは、あるときは人間、あるときは狼として存在しており、その狼男側のほうがずっと恐ろしい状態であるというところだということがわかっていたのだ。
この場合、芳醇さはセットを作り上げる基となる構造である。
#2:ボトムアップの世界
またあるときは、最初にメカニズム的なヒキを考えることがある。セットがゲームの要素(ゼンディカーの土地のメカニズム)に基づくこともあれば、テーマ(『時のらせん』の時間と郷愁)に基づくこともあれば、構造(ラヴニカの10陣営の枠組み)に基づくこともある。このいずれの場合も、我々はそのメカニズム的世界に生命を吹き込む、芳醇な世界の概念を見つけなければならない。大抵の場合、そのメカニズム的実装のクリエイティブ的な制約を決めることによって見つけ出されることになる。例えば、『ゼンディカー』は土地のメカニズムを扱っていたが、そのためには風景が描かれているカードが大量にある必要があった。また、セットのテーマから、物語の構造の基礎として人々と土地の対立が必要だとなった。この2つの要素を組み合わせることで、豊かで敵対的で宝物に溢れた世界である冒険世界を掘り下げるという発想につながったのだ。
ボトムアップの世界はトップダウンの世界とは異なり、芳醇さによって構造が定められるわけではない。つまり、これらの世界における芳醇さは、メカニズムに注目を集めるための味付けのようなものだということになる。そのため、メカニズムそのものが芳醇だと感じられるようにするためのさらなる努力が必要になるのだ。再び『ゼンディカー』を例に取ってみよう。上陸はメカニズムとして気に入っているし、そのプレイされ方を楽しんでいるが、濃い芳醇さを持っているわけではない。そのため、それを濃い芳醇さを持つメカニズムやテーマで囲わなければならなかったのだ。探索、罠、同盟者は、このセット全体の芳醇なテーマを売り込む助けとなる、非常にフレイバーに富んだ要素としてデザインされたものなのである。
トップダウンとボトムアップの比較についての良い考え方として、トップダウンのセットはカード個別の芳醇さが強い(既存の芳醇なアーキタイプや元ネタを再現している個別のカードがある)傾向にあり、ボトムアップのセットではメカニズムの芳醇さが強い(その世界のテーマを売り込むメカニズムがある)傾向にある、というものがある。ここで重要なのは、どちらの方法で世界を作ったとしても、最終的にはプレイヤーをセットに引き込むことができる、濃い芳醇さを持つテーマに行き着くということである。
メカニズム
世界と同様に、メカニズムもトップダウンかボトムアップのどちらかの出自を持つことが多い。これらそれぞれについて見ていこう。
#1:トップダウンのメカニズム
トップダウンのメカニズムとは、概念を再現することから発想が始まっているもののことである。例えば、忍術は忍者の密かさを再現するものだった。不朽は、古代エジプトの文化的側面を再現するものだった。英雄譚は、物語という発想を再現するものだった。これらのメカニズムは、どれもメカニズム的実装から始まったものではなく、デザインが狙ったテーマから始まったものである。その後で、我々は時間をかけて、そのテーマを実行する最高の方法を探したのだ。トップダウンの世界と同じく、トップダウンのメカニズムは本質的に芳醇さを内包しているのだ。
#2:ボトムアップのメカニズム
ボトムアップのメカニズムは、うまく働くものが最初にある。その原動力は、発想を再現することではなく、興味深いメカニズム空間を掘り下げることにあるのだ。ボトムアップのメカニズムでは、我々はそれらにその機能を補強するフレイバーを与えるために時間をかけることになる。可能な限りフレイバーに富んだものにしたいが、それよりも重要なのは、そのメカニズムを概念として売り込む助けになるものであることである。
好例として、エネルギーを取り上げよう。このメカニズムは初代『ミラディン』のときに、アーティファクトの起動型能力に多様性を持たせるためにデザインされたものである。アーティファクトAを3回起動できて、アーティファクトBを3回起動できる、ものだったのが、合わせて6回起動できる、ようになったのだ。このメカニズムは『ミラディン』では枠の問題でボツになり、特定のフレイバーを持たない気の利いたメカニズムとして出番を待つことになったのだった。『カラデシュ』に到り、我々は技術に関するセットはふさわしい場所になるかもしれないと思われたので、モスボールからそれを掘り出した。
その後、クリエイティブ・チームはかなりの時間を費やして、その世界に、エネルギーがその世界のエネルギー源であるというフレイバーを強化する宇宙論を組み上げたのだ。これが成立してから、我々はその芳醇なテーマを扱うカードをデザインし始めた。興味深いことに、メカニズムは世界よりも少し遅れて動き出したのだ。
トップダウンのメカニズムでは、我々は芳醇さに広く焦点を当てることが多く、そのメカニズムを持つカードはそのフレイバーを扱うことが保証されている。一方、ボトムアップのメカニズムでは、そのフレイバーのネタを売り込むような個別のカードをデザインしようとすることが多いのだ。言い換えると、不朽は不朽カードすべてが同じようなフレイバー的ヒキを持つ(全てのカードが、そのクリーチャーがミイラ化したことを示すトークンを使う)ことによって売り込まれているが、エネルギーはエネルギーに関する異なるネタを描く個別のカードで売り込まれているということである。
カード概念
マジックのカードには、アートが必要である。つまり、そのカードのメカニズムがクリエイティブのレンズを通してフレイバー的にどう描かれるかを理解しなければならないということになる。本質的な問題は、そのカードが具体的に何を表すのかである。それは何なのか、あるいは、それは何をしているのか。これには、クリエイティブ・チームのメンバーの1人が腰を据えてそれぞれのカードが示すものを決める必要がある。その後、それがアーティストに送られるアート指示書になるのだ。カード概念が重要なのは、カードに芳醇さがまだ内包されていなかった場合に、芳醇さを付け加える機会になることが多いからである。
例えば、ここに、クリーチャー1体に直接ダメージを与えるカードがあったとする。ダメージは現実世界にも存在するものなので、このカードにもわずかな芳醇さが内包されているが、ダメージにはいろいろな種類が存在する。
カード概念とは、そのダメージが一体何なのかを定義するものである。何種類かの方法で決めることができる。そのカードには、フレイバーを微調整する助けとなりうる追加のメカニズム要素があるかもしれない。ここでは、「そのクリーチャーが死亡するなら、代わりに、それを追放する」という文があるとしよう。これは、その直接ダメージ呪文が、クリーチャーの肉体の痕跡を残さないということを暗示している。それによって、カード概念は特定の方向に向くことになる。
もう1つの方法は、世界を補強する方向を見ることである。例えば、カラデシュでは、魔法の呪文は技術に基づくものだというフレイバーづけられていた。そこにある直接ダメージ呪文は、魔術師の指先よりも機械から発せられることになるだろう。この2つの要素を組み合わせて、カード概念は特定の方向に向かう。
《溶接の火花》 アート:Raymond Swanland |
カード概念がどのような方向に向かおうとも、常に、芳醇さが求められていることには変わりない。呪文が起こっていることを正当化して描写すればするほど、それは受け取られやすくなり、そしてプレイヤーが正しくプレイする助けとなる。例えば、クリエイティブ・チームは、飛行クリーチャーすべてがいかにも飛びそうな姿を、飛行を持たないクリーチャーすべてがいかにも飛べなさそうな姿をするようにするために尽力しているのだ。
名前(カードとメカニズムの両方)
名前は、カード概念と深く関わり合っている。通常、カード概念が先にできるが、カードがカード名からトップダウンにデザインされることもある。(『イニストラード』ブロックにはこの例が多い。)アートが全体のカード概念を完全に売り込んでいない場合には、カード名が芳醇さにおいて重要になることも多い。(この最大の理由は、カードがアーティストに発注されたあとでメカニズム的な変更を受けることがあることである。)アートが芳醇さを充分にもたらしていれば、カード名はさらにフレイバーに富んだ刺激的なものにすることもできるが、カードに助けが必要であれば、カード名はそのカードが示すものを単刀直入に示すものにすることができるのだ。
フレイバーテキスト
フレイバーテキストは、芳醇さをもたらすための最後の砦だ。メカニズム、アート、カード名で充分に示されていなければ(そしてカードにフレイバーテキストがあれば)、そのカードが何をしているのかを示すためにフレイバーテキストを用いることが多い。カード名同様、カードの他の部分で充分に示されていれば、説明するよりも楽しませることに重点を置く自由が発生する。
芳醇さのために
これが、芳醇さが重要な理由と、芳醇さを各セットに組み込む方法である。今日の記事を楽しんでもらえたなら幸いである。そして、それに関する諸君の感想をメール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、ストーム値の新しい記事でお会いしよう。
その日まで、あなたがあなたを楽しませた方法でゲームと絆を結びますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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