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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

献身の作り方 その1

Mark Rosewater
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2019年1月2日

 

 いよいよ『ラヴニカの献身』のプレビューの始まりだ。このセットのデザインについて語らい、そして何枚かのカードをお見せしよう。(その中には諸君もすでにご存知のサイクルを完成させるものも含まれている。)

 過去のプレビュー記事と少し異なっているのは、最終的に採用しなかったメカニズムについてもいくらか掘り下げるということである。これまで、使わなかったメカニズムについて語らないようにしていたのは、もしそれを後で再利用した時の興奮を削ぐことになりうると考えたからである。しかし、私のブログでのやり取りを経て、すでに聞いたことがあるメカニズムであっても興奮してくれるのだということに思い至ったのだ。

 例えば『未来予知』のミライシフト・カードは、将来のメカニズムを伝えてくれていたが、その結果、それらのメカニズムが登場することを諸君すべてがさらに強く待ち望んだのである。少し開放的になることによって、諸君に舞台裏の工程についてもう少し見せることができるようになるだろう。それではさっそく、本題に入ろう。

 通常、私はこの記事のはじめにデザイン・チームの紹介をしていたが、両『ラヴニカ』セットの展望デザイン・チームは共通であり、『ラヴニカのギルド』のプレビュー第1週(まだ見ていない諸君はこちらを参照)にすでに終わらせている。覚えておらず、読み返す気もない諸君のためにチームのメンバーを挙げておくと、ジュール・ロビンス/Jules Robins、ジャッキー・リー/Jackie Lee、アリ・レヴィッチ/Ari Levitch、サム・スタッダード/Sam Stoddard、ブライアン・ホーレイ/Bryan Hawley、そして私だ。

 『ラヴニカの献身』には2つの基本的な目標があった。1つ目が、『ラヴニカのギルド』の鏡写しのセットを作り、すべてのギルドに渡る10枚サイクルをすべて完結させること。2つ目が、残り5つのギルド(アゾリウス、ラクドス、グルール、オルゾフ、シミック)について新しいメカニズムを作ることだった。まず1つ目の目標から始めよう。

 多色セットを成立させる上で重要なのは、適切な量のマナ基盤を入れることである。最終的に、サイクル3つとなった。1つは最初の『ラヴニカ』ブロックで初登場したもの、1つは『ラヴニカへの回帰』ブロックで初登場したもの、1つは『ラヴニカのギルド』で初登場したものである。

 つまり、「ショックランド」から始めたのだ。

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 私がこのサイクルを初代『ラヴニカ』のためにデザインしたのは、ペインランド(『アイスエイジ』や『アポカリプス』で登場した、タップするときにダメージを受ける2色土地)とタップインランド(『インベイジョン』や後の『イニストラードを覆う影』で登場した、タップ状態で戦場に出る2色土地)の間となる土地を見つけるためだった。ペインランド部分の目標は、先にライフ喪失を終わらせて、記録の問題が生じないようにすることだった。この土地に基本土地タイプを持たせたのは、基本土地タイプを持つ2色土地はあまり存在しておらず、楽しいシナジーが生じるのではないかと考えたからである。(そして私は正しかった。)

 開発部の第一印象はこの土地は複雑すぎるというものだったが、私は、さまざまな要素は心理的なひとまとまりとなって単純な質問、つまりこの2色土地を戦場にタップ状態で出すかアンタップ状態で出すか、に集約されると主張したのだ。そうであれば、ちょっとした一時的なコストで済む。開発部はやがて同意し、この土地が印刷されたのだ。

 これらの土地は他のセットでも使いたいようなものだと感じたので、私は、これらに次元固有でない名前をつけるように頼んだのだった。(皮肉なことに、これらが作られて以来、これらはラヴニカ以外の世界で登場したことはない。)興味深いことに、『ラヴニカへの回帰』と『ラヴニカのギルド』の両方において、我々はショックランドを再録しないことについて議論した(ラヴニカのセットの前年のセットに再録することを提案することが多い)が、どちらの場合も、それらを収録するという結論に到ったのだ。

 次はギルド門だ。

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 ギルド門を『ラヴニカへの回帰』で作ったのは、コモンの2色土地のサイクルを作ろうと考えたからである。明白な選択肢はタップインランドだったが、「ショックランド」がその完全上位互換なので奇妙に感じられた。セット内の高レアリティに完全上位互換のカードを作ることはあるが、サイクル全体をそうするのはあまりにもひどいと感じられたので、タップインランドに追加できる何かを探すことにしたのだった。ライフ獲得や対戦相手のライフ喪失、その他さまざまな小さな利益を掘り下げてみたが、最終的にそのほとんどはコモンというよりもアンコモンらしいものだった。

 解決策は、クリエイティブ・チームから、大きな物語の一部としてのギルドのそれぞれの門を表す土地を作れないかと聞かれた時に生まれた。コモンの2色土地はそのための場所としてふさわしいものに感じられたので、我々はこれらの土地に門のサブタイプを与えることにした。単体で見れば、これらはタップインランドだが、フレイバー的に門を参照するカードを作ることができるのだ。これによって、コモンの2色土地を単純なものに保ったまま、ゲームプレイに新しい要素を加えることができたのだった。『ラヴニカのギルド』の展望デザインを始めた時、ギルド門は再録されるものだと仮定していた。(最終的に、各セットでメカニズム的に門を参照するカードの枚数を増やしている。)

 そして最後のサイクルとなる、ロケットである。

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 ラヴニカのセットにおける色基盤の課題の1つが、必要であるけれども5色すべてを簡単にプレイできるようにしてはならないということである。2色だけをプレイする方向に推す色基盤のサイクルを作るにはどうすればいいだろうか。『ドラゴンの迷路』で、我々は3マナのアーティファクトで、タップすると2色のどちらかのマナを1点出せて、2色のマナを各1点ずつ支払って生け贄に捧げることでカードを1枚引ける、導き石を作った。我々は導き石の調整版を作りたいと考えたのだ。最終的にたどり着いたのは、初代『ラヴニカ』で登場し、ラヴニカの各セットで使われている混成マナを使うことだった。2マナで1枚引くのではなく、ロケットでは4マナ(すべて混成マナ)を支払って2枚引くようになっている。

 ところで、ここでギルド・メカニズムについて語ろう。通常なら、順番はコレクター番号で使っている順番(アゾリウス、ディミーア、ラクドス、グルール、セレズニア、オルゾフ、イゼット、ゴルガリ、ボロス、シミック)つまり、まず友好色の組み合わせを最初に印刷されているマナ・シンボルのWUBRG順、それから敵対色の組み合わせを同じ順、となる。つまり、『ラヴニカの献身』については、アゾリウス、ラクドス、グルール、オルゾフ、シミックという順になる。

 しかし、今日は2つの理由からその逆順にしようと思う。まず1つ目に、名前のアルファベット順で後ろになりがちな人間の1人として、私は、いつも同じ順番で並べることの不公正さを知っているということ。2つ目に、今日のプレビュー・カードがシミックのカードなので、今日中に公開しなければならないということである。

シミック

 『ラヴニカのギルド』『ラヴニカの献身』の展望デザインを始めた時、最初に私がしたことは、10個のギルドのいずれかにふさわしいと感じられる、既存のキーワード・メカニズムや能力語のリストを作ることだった。

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 間違いなく明白なものは、シミックの増殖だ。

 増殖は、『ミラディンの傷跡』でファイレクシア軍のウィルス性を表すために作られ、さらに「疫病としてのファイレクシア軍」を表す形で用いられている。このメカニズムの自由度、そして楽しいゲームプレイから、これは非常に人気のあるメカニズムになった。あまりにも人気だったので、私はこれを−1/−1カウンターや毒を使わないセットで再録しようと考えた。そうすれば最初の姿とは違う形を見せてくれることになるだろう。

 『カラデシュ』は再録するのに最適の場所だと思われた。そのセットには(エネルギー・カウンターを使う)エネルギーと、(製造メカニズムを含む)+1/+1カウンター・テーマが存在していた。その後、エネルギー・カウンターと+1/+1カウンターの差があまりにも大きいことがわかり、残念なことに展望デザイン中に取り除くことになったのだ。『霊気紛争』のデザイン・チームは再びこれを取り上げ、増殖が成立するようにしようとしたが、残念ながら、それも無理だった。

 シミックは+1/+1カウンターに重点を置いていたので、我々は今回こそ成立させることができることを期待していた。実際、他のものも試したが、展望デザインが公式にセットデザインに提出したのは増殖だったのだ。そしてどうなったのか。ギルド・セットの必要条件の1つが、色が重なり合うギルド同士のシナジーが存在することである。シミックの場合、このセットでは、アゾリウスとグルールがそれにあたる。展望デザインから提出した段階では、この2つのギルドはどちらもギルド・メカニズムにはカウンターを用いていなかった。我々はそれを低減するため、個別のカード・デザインで使っていた。

 諸君には来週お見せすることになるが、アゾリウスは戦場に出た時の効果に重点を置いたメカニズムがあった。我々はその中の多くで(青では自身に、白では他のクリーチャーに)単に+1/+1カウンターを置くようにした。グルールもそのメカニズムで、自身に+1/+1カウンターを置くようにしていた。グルールのメカニズムはラクドスに移され(これも来週)、セットデザイン・チームが作った新しいメカニズムは+1/+1カウンターを用いるものだった。素晴らしい。シナジーが増えたのだ。問題は、少しばかりシナジーが強すぎることだった。『ラヴニカのギルド』でボロスとセレズニアのシナジーが強くなりすぎがちという問題があったが、シミックとグルールにも同様の問題があったのだ。

 最終的に、ラヴニカのセットにはすでにバランスの問題が大量に存在しており、環境をかなり微調整しなければいいバランスを取ることができない増殖は問題のあるギルド・メカニズムだと判断されることになった。増殖は、他のギルドと連動し、プレイヤーが楽しくプレイできるような形に整えるのがあまりにも難しいメカニズムだったのだ。我々が一番望まないのは、それを再録して、我々が作れる類のカードをプレイヤーが楽しめないことである。そういうわけで、増殖はボツになったのだった……今回も。しかし私は諦めてはいない。いつの日か、再録するにふさわしいセットを見つけてみせる。それが『ラヴニカの献身』ではなかったというだけのことなのだ。

 こうして、セットデザイン・チームはシミックの新しいメカニズムを探さなければならなくなった。彼らは新しいメカニズムをいくつか試したが、それと同時に過去のメカニズムにも目を向けていた。特にシミックには既存のキーワードと多くのシナジーが存在していた。かなり探した結果、彼らは怪物化に目をつけた。

 怪物化は、『テーロス』で怪物のフレイバーを示すために作られた。そのセットはトップダウンのギリシャ神話的セットであり、初期から神々と英雄と怪物を中心としたものに決めていた。神話のフレイバーを再現するため、そのセットには全体を通して積み上げるというモチーフが存在していた。神々はエンチャントに関連付けられており、授与メカニズムのおかげでデッキにはクリーチャーを強化するオーラを大量に詰め込むことができたのだ。神々には、該当する色のパーマネントが戦場に多ければ強くなる、信心メカニズムも存在していた。

 英雄は、自軍のクリーチャーを対象にすることで、それ自身が強化されるなどの利益を得る英雄的メカニズムと関連付けられていた。同様に、怪物にも時を経て成長する方法がほしかったのだ。我々の答えが、怪物化であった。怪物は、巨大になるとともに他の能力を与えることもある1度限りの強化を持っていた。このメカニズムは最初、「ゲームに1度限り」という制限がついていたが、後にはクリーチャーが「怪物的である」、つまりこの能力を使ったかどうかを参照するようになった。この能力が常に+1/+1カウンターを置くので、このカウンターを記憶のために使うことにした。カウンターが他の方法でなく怪物化の効果で作られたものであることがわかるように、『テーロス』ブロックで+1/+1カウンターを他のクリーチャーに置く方法を激しく減らした。このセットでは、ほぼクリーチャー自身に+1/+1カウンターを置くことしかできなくしたのだ。

 怪物化は『テーロス』で使われた。『神々の軍勢』では、他のメカニズムの枠を空けるために怪物化を取り除いた。『ニクスへの旅』では、我々は間違いに気づき、怪物化を再録したのだった。(私の覚えている限り)これが唯一の、ブロックの第1セットと第3セットに存在し、第2セットでは存在しないキーワード・メカニズムだったと思う。怪物化は後に、『統率者(2015年版)』と『コンスピラシー:王位争奪』でも使われた。

 セットデザイン・チームは怪物化を使いたかったが、いくつかの問題があった。1つが、+1/+1カウンターの問題である。シミックは+1/+1カウンターを生み出すことを中心にしたギルドであった。+1/+1カウンターを他のクリーチャーに置けないようにするという制限は、ギルドのあり方そのものと対立するものである。2つ目の問題は、「怪物化」という名前だった。ラヴニカの他の住人はシミックのクリーチャーを怪物だと見ているかもしれないが、シミックにとってはそうではない。ギルドがそれ自身を指して使わない単語を使うのは妥当とは思えなかった。

 この問題への解決策は、メカニズムを微調整し、名前を変更することだった。怪物化は順応になった。クリーチャーが「怪物的」である(つまり、この能力が起動されたことがある)かどうかを参照するのではなく、単にそのクリーチャーに+1/+1カウンターが置かれているかどうかを見るようになった。これによって、2つの新しい相互作用が生じる。1つ目に、カウンターをそのクリーチャーから取り除いたなら、もう一度順応能力を起動することができる。そして2つ目に、順応クリーチャーに何らかの方法で+1/+1カウンターを置くことができれば、その能力を起動することを防ぐことができるのだ。こうして、順応はシミックのメカニズムとなった。

 次に進む前に、プレビュー・カードをお見せしよう。これは順応を使っていないが、シミックのテーマには非常に深く関わっている。それでは早速、公式に、この《ハイドロイド混成体》をご紹介しよう。

 すべてのシミック・ファンが、この新しいクラゲ・ハイドラ・ビーストを楽しんでくれたなら幸いである。

オルゾフ

 展望デザインが提出したオルゾフのメカニズムは、「負債/debt」というものだった。その働きは次の通り。特定の呪文によって、負債カウンターが対戦相手に置かれる。対戦相手は自分の終了ステップに、負債カウンター1個につき1マナを支払うことで望む数の負債カウンターを取り除くことができる。その後、負債カウンターが残っていれば、1点のライフを失う。(負債カウンター1個ごとに1点ではなく、いくつ残っていようが1点だけである。)

 これの使われ方としては、まず、プレイヤーは序盤はマナを最大に使うために負債カウンターを無視することが多い。そして、負債がゆっくりと積もっていき、継続的なライフ喪失が実際に問題になって負債を支払わなければならなくなるころには、ゲームに影響を与えることなく支払えるような量ではなくなっていることが多い。負債で直接死ぬことはあまりないが、その支払いによる深刻なアドバンテージの喪失から負けにつながることが多いのである。

 セットデザイン・チームは負債メカニズムを成立させるために尽力したが、それにはいくつもの問題があった。1つ目に、これと一番シナジーを持つメカニズムはシミックの増殖であり、共通の色が存在していない。(そして後にはセットから除かれている。)2つ目に、このメカニズムを微調整するための節が存在していない。セットデザイン・チームはこれを調整しようとさまざまなことを試みたが、どれも大成功したとは言えなかった。3つ目に、これは数が多い時に最もうまく働くメカニズムである。ギルド構造は、タッチで入れたときにも働くメカニズムを求めているが、負債メカニズムはその条件を満たしていなかった。最終的に、負債メカニズムはフレイバー的には素晴らしかったが、このセットがギルドのメカニズムに求めているような働きはしなかったのだ。

 セットデザインは、その代替物を探すことになった。条件がいくつかあった。1つ目に、フレイバーに富んでいてオルゾフのメカニズムらしいものであること。2つ目に、オルゾフの自然減形のゲームプレイにそぐうものであること。3つ目に、周りのギルドと重なりがあるものであること。

 1つ目の条件を満たすため、セットデザイン・チームはクリエイティブ・チームと相談した。オルゾフが物語上ですることの本質は何だろうか。オルゾフは、ボーラスの影響下にあるギルドの1つである。ケイヤはボーラスの任じた監視者としてオルゾフに参加し、自身の能力を使ってオルゾフをボーラスに従わせるのだ。それ以外の面では、オルゾフはオルゾフであり、ラヴニカの住人を利用して、その能力を使って人々を死後にも負債で縛るのである。

 チームは死後にもプレイヤーに仕えるクリーチャーという発想を手に入れた。死後に、スピリットとして戻ってこさせるメカニズムというのはどうだろうか。『アモンケット』の不朽メカニズムと違う方向に推すため、チームは、クリーチャー・トークンを生成するメカニズムにし、能力に数字をつけることで生成するクリーチャー・トークンの数を調整できるようにした。最終的にそのトークンは、フレイバーとゲームプレイの両面から、飛行を持つ白黒の1/1のスピリットとなった。

 この死後という能力により、実質的にクリーチャーに2つの機能を持たせることができた。これは2回ブロックできたり生け贄のために使ったりできるので、自然減形のゲームプレイに直接貢献するものになった。このクリーチャー・トークンが1/1の飛行クリーチャーであることも、オルゾフが好む、少しずつ相手のライフを削っていくための少量のダメージを生む助けになった。

 そして最後に、死後メカニズムは色の共通するギルドとうまく噛み合った。ラクドスのギルド・メカニズムは回避能力とうまく作用し(詳しくは来週語る)、アゾリウスは飛行クリーチャーと元来相性が良いのだ。チームは数を調整するのに少し時間をかけたが、最終的には3つの条件すべてを満たすメカニズムを作り上げたのだった。

秩序あるギルド

 本日はここまで。他の3つのギルド(グルール、ラクドス、アゾリウス)については来週語ろう。(賢明な読者諸君は記事のタイトルを読んだだけで気づいていたかもしれない。)いつもの通り、この記事、あるいは私が話題にしたギルドやメカニズムについての諸君の感想を聞かせてほしい。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、その2でお会いしよう。

 その日まで、あなたが新たな5つのギルドを楽しく掘り下げられますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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