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Making Magic -マジック開発秘話-
デザイン演説2018
2018年8月20日
私は、主席デザイナーになって以来ほぼ毎年、アメリカ大統領の一般教書演説になぞらえた、前年のマジックを振り返り、デザインについての感想を分析する記事を書いてきた。これが、私の14本目の「デザイン演説」の記事になる。(2005年に始めたのは、私が管轄したものが世に出る前のデザインについては評価しなかったからである。)過去の13本の記事は以下の通り。
いつもの通り、最初に警告文を載せておこう。1つ目に、これまではデザインとでベロップの間に明確な線引きがあり、この評価を私が直接監督していた仕事だけに集中させることが可能だった。新システム(以下で詳述する)への移行を踏まえて、今後も同じように私が監督していることに集中するつもりだが、過去の「デザイン演説」の記事に比べるとその境界線はいくらか曖昧になる。
2つ目に、この記事を少し変化させることに決めた。過去数年に渡り、私はスタンダードで使えるエキスパンションの話だけをしてきたが、今年は、すべてのブースター商品について触れることにする。それぞれについて、良かったところと教訓を語っていく。しかし、それに入る前に、まずこの1年全体のことについて話すことから始めたい。
それでは、デザイン演説恒例の最初の最初の質問から始めよう。この1年のマジックのデザインはどうだったか、だ。
他の何にもまして、この1年は大変化の年だった、幸いにもその方向は正しかった、と私は思っている。年の初めは旧システム下であり、これから述べる通り、そのシステムは悪い領域に踏み込んでしまっていたと思う。しかし、年の終わりには新システムに移行しており、そのシステムについては私は非常に楽観的である。それを踏まえて、我々がどうだったかについて語っていこう。
マジックのデザイン全体
良かったところ
- 新システムは長足の進歩である
『イクサラン』ブロックと『ドミナリア』の間で、我々は2つの大きな変更を加えた。1つ目が、カードを作る舞台裏の工程を根底から見直したことである。各セットごとにデザインとデベロップをするのではなく、展望デザイン、セットデザイン、プレイデザインからなるシステムに変更したのだ。この新システムによって、無駄になる作業量を大きく減らし、各段階で開発部内のさまざまな部署からの統合を経て成功するようにうまく準備することができるようになった。
2つ目が、大型セット1つと小型セット1つからなるブロックを2つ並べた年間構造から、それぞれ個別でドラフトする大型セット3つと基本セットの復活という構造に移行したことである。この新システムによって、1年間に使う世界の量に大きな柔軟性が与えられ、各セットをさらに触れやすいものにし、工程をさらに一貫したものにし、そしてデザイン資源を管理しやすくすることができたのだ。
これがセット作成工程にどれほどの進化をもたらしたかはいくら評価してもしたりないほどである。『ドミナリア』の成功にはさまざまな要素が存在するが、これは重要なものだと私は考えている。この良かったところで重要な点は、今後のあらゆるマジックのセットにとっても良いことであるということなのだ。
- デザイン上の多くの革新があった
『ドミナリア』の英雄譚や『イクサラン』での「探検」両面カード、『Unstable』のからくりや宿主/拡張、『バトルボンド』の全体的コンセプトと、この1年は革新的デザインにおいて良い年であった。工程を微調整することは重要だが、デザインにおいて可能なことの範囲を押し広げ続ける意図もまた重要である。マジックの製作者としての仕事は諸君を驚かせ続けることであり、そのために我々は我々のできる範囲を広げる意志を持たねばならないのだ。
教訓
- 年の初めの時点では改善すべき余地が多かった
先に、この1年の間での変化とどう改善していったかについて語った。しかし、年の終わりだけを見ていては、この年を正しく評価することはできない。『イクサラン』ブロックには多くの失敗があり(これについては後で詳述する)、そのためこの1年は文句なく素晴らしい年だったとは言えないのだ。
- もっとうまく期待を持たせなければならない
不測の事態によって漏洩したセット(『ドミナリア』)を例外として、我々が事前に正しく準備できたセットは『Unstable』だけだったと感じている。『イクサラン』と『イクサランの相克』の実態と、ユーザーが期待していたものの間には大きな隔絶があった。『基本セット2019』と過去の基本セットの違いについて、かなりの混乱があった。そして、『バトルボンド』がどのようなものなのか伝えるのに時間がかかりすぎた。
これらの中にはマーケティング上の問題もあるが、セットが予測に反するものであれば、その理由の一部はそのデザインの性質によるものなので、かなりの部分はデザイン上の問題である。プレイヤーは恐竜や海賊には大興奮したが、我々はファンが望むものを充分提供できたと言えるだろうか。(私はそうは思っていない。)
『イクサラン』ブロック(『イクサラン』『イクサランの相克』)
アート:Tyler Jacobson |
良かったところ
- 刺激的なテーマだった
我々が測るものの1つが、ソーシャルメディア上での興奮の度合いである。様々な指標を用いて、我々は諸君がセットにどれほど興奮したかをうまく分析的に計測することができている。計測する良いタイミングとしては、発売前のセット内のカードがすべて公開された頃と、発売から1か月経った頃の2回が挙げられる。それによって、このセットの事前評価と、プレイできるようになった時の現実とを評価することができるのだ。
『イクサラン』の事前評価はすさまじいものだった。恐竜、海賊、侵略者である吸血鬼、ひねりを加えたマーフォーク、そして中米風雰囲気は、プレイヤーの大多数を非常に興奮させたのだ。プレイヤーの興味がある場所を見つけることに協力することを仕事としている人間として、事前評価が高いということは諸君が望んでいる何かに触れたという意味がある。特にアーキタイプから離れた世界、すなわち数語で簡単に説明することができない世界に関しては、それは簡単なことではない。(『イクサラン』は「エジプト世界」とか「ゴシックホラー世界」と言ったように一言で説明できるような単純なものではなかった。)
- 「探検」両面カードは好評だった
『イクサラン』ブロックでは、人気のある要素(両面カード)に新しい独自性を加えることができた。第2面を土地にすることと第1面にメカニズム的課題を持たせることの組み合わせによって、カードにクールな「探検」感を持たせ、それまでの変身カードとは違うプレイを可能にしたのだ。これはこのブロックで卓越した新「メカニズム」だった。
教訓
- 部族の「流れを絡ませる」必要があった
これは私が一番責任があると思っている失敗である。私は『イクサラン』に部族テーマを与えることを決定した本人だったのだ。初めの頃、我々は複数の部族でプレイできる、あるいは複数の部族を組み合わせられるようにするカードを作ろうとしていたが、それはクリエイティブ的独自性を無視したもの(例えば恐竜・海賊という存在は想像もできない)になるので、私がボツにしたのだ。興味深いことに、私は(部族テーマを濃く扱った最新のブロックである)『ローウィン』で多く存在した同じような問題への回答として、多相を作り出した本人でもあるのだ。ここでこの話をするのは、私がもっと理解すべきだと示しているからである。
絡み合ったシナジーがなければ、セットの深みは浅くなり、特に2色の陣営(吸血鬼とマーフォーク)におけるプレイは反復的なものになる。クリエイティブ的な要請も理解しているので解決策がどのようなものになっていたか正確にはわからないが、この世界で使える形でこの問題を解決するためにもっと時間を費やすべきだったと考えている。
- 単純さを重視しすぎた
前回と前々回のデザイン演説の記事で、「デザイン全体」の項目で挙げた教訓の1つが「複雑すぎた」であった。この問題を解消しようという欲求から、我々は逆の方向に振りすぎてしまったのだ。我々はコモンに(「パワーやタフネスを変えるコモンのクリーチャーは正方でなければならない」など)新しい規則をいくつか作ったが、そのせいでデベロップ・チームがリミテッドに深みを持たせることは非常に難しくなった。(それ以降、我々はそれらの新しい規則の多くを撤回した。)
- 不均等な(そして4つだけの)陣営は、我々が予想していた以上にシステムに負荷をかけるものだった
3/3/2/2色にしたことには充分な説得力のある理由があった。翌年に来ることがわかっていた『ラヴニカ』と同じカタチにならないような陣営のセットを作ることが必要で、そして注目を集めることになる新しい部族(恐竜と海賊)に重点を置く必要があったのだ。新しいコモンの単純さの規定とまったく同じように、我々は、その不均等な部族が生み出すデベロップ上の問題を完全には理解していなかったのだ。それはバランスの問題を生み出し、サイクルを非常に作りにくくし、そして一般に公開されてからは、このリミテッドで3色を主なテーマにしていないセットであまりにも多くのプレイヤーが3色を志向するようにしたのだ。このような色の割り振りをもう一度するかどうかはわからないが、もしするのであれば、その代償についてずっとよく考えることになるだろう。
『Unstable』
アート:Simon Dominic |
良かったところ
- この商品のユーザーが間違いなくいた
この商品を作るに到るまでの最大のハードルの1つが、上層部に銀枠セットのユーザーがいるのだということを納得してもらうことだった。その議論はもう終わった。『Unstable』は3刷を重ね、『マスターズ』以外では史上最高の売上を示したサプリメント・セットの1つになると思われる。我々の中には、明らかに、マジックのちょっとしたオフザケを楽しむ人たちがいるのだ。そして、これは4つ目の銀枠セットの機会を大きく高めている。
- この商品はそれだけでドラフトをするのが非常に楽しいものだった
『Unglued』や『Unhinged』は、どちらもリミテッドでは黒枠商品と混ぜて使うように作られたものだった。プレイヤーはそのようにプレイしてくれなかったということを踏まえて、『Unstable』のデザイン・チームはそれ単体でプレイするようにデザインした環境を作ることにしたのだ。これによって、『Unstable』はさらに孤立的なものになったが、ドラフト環境の評価は高くなることになった。
- どのメカニズムも好評だった
『未来予知』で《蒸気打ちの親分》が登場して以来ずっと、プレイヤーはからくりを求め続けていた。そこで、実際に作る予定がまったくないという前提で作られたメカニズムであるからくりを期待に応えられるような形では作れないのではないかという危惧があったのだ。その危惧は外れた。からくりメカニズムは大好評だったのだ。宿主と拡張もまた、ユーザーに大好評だった。『Unglued』の反響を踏まえて『Unhinged』で使わないことにしたサイコロを振ることも、人気が出た。そして、内部的には激論を呼んだ「外部協力者」カードは、最終的にプレイヤーからは大好評を得たのだった。
教訓
- この商品にもう少しデベロップ/プレイデザインの手をかけるべきだった
銀枠セットは通常の競技マジックで奇妙なことが起こらないようにするという目的の枠外にあるので、高度なプレイテストはあまり行わないのが普通である。しかし、私が銀枠ルールマネージャーとして1枚のカード(《〈普通の||ポニー〉》)に緊急エラッタを出さなければならなかったという事実は、このセットの失点なのだ。
- 非常に識別しにくい、変種カードを作るべきではなかった
カードの変種バージョンを作るというのはクールなアイデアだった。セットが発売される直前までそれを公開しないというのもまた非常にクールだった(それが数日間混乱を引き起こしたとしても)。その変種がどれなのかを簡単に示せるような方法をカードに持たせなかったのは、クールではなかった。もう一度やるとしたら、コレクター番号にどの変種カードであるかわかるような情報を持たせることにするだろう。
『ドミナリア』
アート:Tyler Jacobson |
良かったところ
- このセットはドミナリアへの帰還をうまく見つけ出した
デザイン上の大きな課題は、この15年間に作ってきた他の世界と矛盾せず、またその世界の歴史にふさわしいドミナリアの特徴を作り出すことだった。ドミナリアを、現在がその広大な過去によって成り立ち定義づけられるという「考古学の世界」にするというアイデアは、大成功を収めたのだ。
- 伝説というテーマはうまくいった
『神河物語』ブロックは、伝説というテーマに挑み、そして大失敗した。『ドミナリア』ではそのテーマに再び挑み、うまく実装することができることを示す必要があった。伝説のクリーチャーの開封比を上昇させ、各ブースターに必ず1枚入るようにしたことで、このテーマが常に存在する目立つものにすることができたのだ。歴史的メカニズムも、このテーマをこの世界の歴史感とメカニズム的につなぐ助けとなっている。
- メカニズムはどれも成功した
英雄譚は大当たりだった。キッカーの再録も誰もが楽しんだ。最初は疑っていたものもいた歴史的も、人々がこのセットでプレイするようになると、すべてを繋ぐ接着剤となっていることが理解されるようになった。
- このセットでは複雑さをどこに置くべきかが正しく定められた
メカニズムはどれも理解するのが特に難しいものではなかった。デザイン・チームは、許容される複雑さを、ほとんどのセットではレアになるような伝説のクリーチャーをアンコモンにすることに使うことに決めた。これによって伝説のクリーチャーには強いメカニズム的独自性が生まれ、特別なものだと感じられるようになった。『ドミナリア』の成功によって、開発部ではアンコモンで認められる複雑さの上限を上げるべきかどうかという議論が生まれたのだ。
教訓
- 伝説の呪文は調整されるか取り除かれるべきだ
『ドミナリア』に関して私が聞いた不満の最大のものは、伝説の呪文のサイクルについてのものだった。一見して思うよりも使いにくく、手札にだぶついてしまうことが多いのだ。それらが伝説のパーマネントと違う形で作用することに不満を覚えたプレイヤーもいた。(とはいえ、伝説の呪文を伝説のパーマネントと同じような形で作用するようにする方法は存在しないということを強調しておくべきだろう。)もしこれを再度行うなら、私はもっと時間を費やして他の方法を探るか、あるいは完全にセットから取り除くかもしれない。
- キッカーをもっとこのセットに深く絡ませるべきだった
このデザインが上々だったということを示しているものの1つが、私が拡大解釈して教訓を探していることである。私は、メカニズムすべてが組み合わさって大きな全体像を作っているありかたを本当に楽しんでいる。キッカーはその要素の1つであり、このセットの重要な役割を果たしているが、他のものに比べるとうまく噛み合わさっているとは言えない。もう少しキッカーをこのセットの本質的なものにする方法を見つけ、歴史テーマとの繋がりを「このメカニズムはドミナリア原産である」ということに頼らないものにすることができたのではなかろうか。
『バトルボンド』
アート:Adam Paquette |
良かったところ
- クールな商品コンセプト
他の誰かと組むというのは楽しいことで、マジックに足りていなかった要素である。私は、商品が(『コンスピラシー』、『アーチエネミー』、銀枠セットのように)マジックの新しい遊び方を示す、革新的なことをするのが好きだ。
- 過去のメカニズムの再利用のあり方が好きだ
○○との共闘を新しいメカニズムにするのは簡単だったが、デザイン・チームが、この商品が統率者戦に使いやすいように過去のメカニズムと合併させる方法を見つけたことが気に入っている。
教訓
- 共闘者は友好色であるべきだった
これには2つの理由がある。1つ目に、友好なクリーチャー同士の共闘者というアイデアは、カラー・パイとテーマ的に馴染むものである。2つ目、もっと重要なことに、そうすればデザイン・チームはこのセットを敵対色ドラフトを基柱に作ることができるようになり、敵対色のデザインを増やすことができていた。デザインは友好色テーマのセットを作りがちになる悪癖があり、敵対色のセットはあまり多くないのだ。共闘者を敵対色にするとセットも敵対色になると思われがちだが、実際のところ、そうするとセットは友好色のデッキをプレイすることがほとんどになるのだ。(少なくとも、ほとんどの人々がこの商品を体験する舞台となるリミテッドでは。)
『基本セット2019』
アート:Magali Villeneuve |
良かったところ
- このセットで初心者向けの最高の商品を作れた
過去の基本セットでは、ウェルカムデッキやプレインズウォーカーデッキ(その前はエントリーセット)、デッキビルダーセットを、そのセットができたあとで作っていた。『基本セット2019』では、ウェルカムデッキ、プレインズウォーカーデッキ、デッキビルダーセットを先に作り、それから必要なカードすべてを基本セットに入れるという手法を取った。その反響は、これまで作った商品の中で最高の初心者向け商品を作ることができたというものだったのだ。
- このセットのテーマは、薄いものではあったが、このセットにメカニズム的特徴を与える助けとなった
このセットは、ニコル・ボーラスというテーマとエルダー・ドラゴンのサイクルのようなデザインを使ったことにより、不必要に複雑化することなく独自の雰囲気を持つことができた。
教訓
- もっとレンズ状のデザインをする余地があったかもしれない
基本セットの課題の1つが、新規プレイヤーの最高の導入路を作ると同時に既存のプレイヤーも楽しめるセットを作らなければならないということである。『基本セット2019』は、初心者向けには素晴らしい仕事をしたと思う。将来の基本セットで検証すべきことは、初心者向けに複雑さを低く抑えたまま、セットに深みを加える方法があるかどうかである。そのためには、私がレンズ状のデザインと呼んでいるもの、つまり初心者の目から複雑さを隠す方法を活用しなければならない。(この概念について詳しくはこちらの記事を参照のこと。)
『基本セット2019』はレンズ状のデザインをいくらか使いこなしていると思うが、さらに多くをセットに潜ませる方法はあるはずなのだ。
年の終わり
今年は、変遷の年であったと振り返られることになるだろう。古い方法はそれほど疑いのない別れを告げ、新しい方法が力強い入場を見せた。しかし、私は、我々が正しい方向を向いていると信じている。
後半の成功が前半の失敗を覆い隠したことで、この1年は平均して、良い年よりも少しだけ上と言ったところだと感じている。
デザイン演説の例のとおり、諸君からのこの1年のデザインと私の受け取り方に注目する諸君の感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、昔の『ラヴニカ』のデザインを振り返る日にお会いしよう。
その日まで、良かったことや人生の教訓があなたとともにありますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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