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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

英雄譚の英雄譚

Mark Rosewater
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2018年5月7日

 

 セットに関するデザイン記事を書くとき、よく私はそのセットのあらゆる側面を語ろうとする。そのため、特定のメカニズム1つについてはそのデザインのハイライトを取り上げ、何が起こったかを要約して伝えることになることが多い。

 しかし、1記事全体を使う必要があるだけの変更を経ているメカニズムが存在することがある。英雄譚はそんなメカニズムの1つだ。今日は、一番はじめから順に、展望デザインだけでなく印刷に到るまで、セットデザインも含め、このメカニズムが進化していった各段階を説明していこう。

むかしむかし……

 英雄譚は最初メカニズムですらなく、テーマ要素だった。最初、ドミナリアは歴史の世界であるという発想に我々が集中していた中で、過去が現在を定義する世界においてはストーリーが重要でなければならないという考えが何度も私の頭をよぎっていた。マジックはカードの中でストーリーを伝えようとしてきたが(注目のストーリー・カードが最新の取り組みだ)、メカニズムを通してストーリーを伝えようという試みは非常に新しいものだ。

 私は、カード・デザインの中でストーリーやそれを伝えることについてどれだけ触れてきたかを振り返ってみた。大量の本は作ってきたが、私はもっとストーリーそのものに注目することにした。

 ストーリーを伝える人物を描いたカードも何枚かある。《遊牧の民の神話作家》(『ジャッジメント』)、《伝承の語り部》(『神河物語』)、《神河の歴史、暦記》(『神河救済』)、《ハートウッドの語り部》(『未来予知』)、《寓話の賢人》(『モーニングタイド』)。

 物語を想起させるような場所や物品もある。《伝承の樹》(『ミラディン』)、《神話の水盤》(『コンフラックス』)。

 ストーリーを参照しているカードもある。《物語の円》(『メルカディアン・マスクス』)、《嘘か真か》(『インベイジョン』)、《真実か詐話か》(『時のらせん』)、《神話送り》(『未来予知』)、《狼と梟の寓話》(『イーブンタイド』)、《神話の超者》(『イーブンタイド』)、《神話実現》(『タルキール龍紀伝』)。

 しかし、これらのどのカードもストーリーになるというアイデアを描いたものとは言えず、メカニズム的にはストーリーが語られることそのものを再現したものではなかった。

 実際、私が思い出せる範囲で何かをしたことと言えば、『ウルザズ・サーガ』ブロックのアンコモンとレアそれぞれにあったエンチャントのサイクルぐらいである。

 

 これら10枚のカードは、コントローラーのアップキープごとに自身の上にカウンターを1個置く。そして、後でそれを生け贄に捧げて(マナの支払いが必要なこともある)、その上にあるカウンターの数に応じた大きさの効果を生むのだ。我々はこれらのカードに歌というフレイバーを選んだ。歌を長い時間かけて歌えば、魔力も高まっていくという発想だった。歌はストーリーそのものではないが、何かが語られ/歌われていく時間に応じた効果という感覚を伝えたのだ。

 この調査から、私は、ストーリーをメカニズム的に再現することには非常に大きな可能性があるということを知った。『イニストラード』がメカニズム的に狼男を定義する機会になったのと同じように、『ドミナリア』はストーリーについて同じような契機になりうるのだ。

はじめからはじめよう

 興味深いことに、我々が最初に狙いをつけたのはフラッシュバック・メカニズムだった。

 フラッシュバックにはストーリーを語ることだというフレイバーを与えられてはいないが、そう考えることもできる。「ストーリーがある。それをこれからもう一度語ろう。」フラッシュバックを再録メカニズムとして、語られるストーリーというフレイバーをそれらのカードすべてに持たせるのはどうだろうか。そのとき、我々は『ドミナリア』と同じスタンダードに存在する『アモンケット』にはフラッシュバックの変種である余波があったことを思い出した。

 次に我々は、『テンペスト』の《焚きつけ》を元にした《焚きつけ》メカニズムに目をつけた。

 《焚きつけ》カードは同名のカードをプレイするたびに強くなるのだ。そのストーリーを語るたびに、それに関連した魔法が強くなっていくというのはどうだろうか。しかし、『アモンケット』(と、その2つ前のブロックである『イニストラードを覆う影』)で墓地というデザイン空間はかなり扱っていた。墓地ではなく戦場で、ストーリーを伝える方法はないだろうか。そしてパーマネントに目を向けることになった。

 パーマネント・タイプは5つあるが、そのほとんどはすぐに除外することができる。プレインズウォーカーとクリーチャーは明らかなフレイバーを持っており、そしてそれらを通してストーリーを伝えるということはそれらをストーリーにすることではなく語り手にすることになる。アーティファクトもクリーチャーと同じような問題を抱えており、それらをストーリーにしようと思っても入れ物(本など)になってしまいストーリーそのものにはならない。土地はマナ・コストを持たず、マナを生成するものである必要があるので、連続した効果のために使うことは難しい。残るはエンチャントである。

あるところに……

 この時点で、我々は別の方法を試すことに決めた。ストーリーを定義するものは一体何なのか。それに必要な性質は何なのか。それを識別することで、我々がメカニズム的に再現しようと思っているものが一体何なのかがわかることだろう。いくらかの議論の結果、次のような結論が得られた。

連続性がある

 ストーリーをストーリーたらしめているものは、何かが起こり、それから次にそれを前提とした他の何かが起こること。そして、結末に連なる一連の出来事があることである。これをメカニズム的に言うと、ストーリーを表すカードは複数の効果を生み出さなければならないということになる。

期間に渡って起こる

 ストーリーの重要な性質はもう1つ、伝えるのに時間がかかるということである。ストーリーの本質を再現しようと思うなら、単一の効果ではなく、ある期間に渡って起こる一連の効果でなければならない。これをメカニズム的に言うと、複数ターンに渡って何かをするエンチャントである必要があることになるだろう。

要素がお互いに関連している

 ストーリーの要素は組み合わさってその合計よりも大きな何かを生み出す。ストーリーを表すカードは、ただ複数の効果が複数ターンに渡って起こるというだけでなく、それらの効果がお互いに繋がりを持っていなければならない。メカニズム的に言えば、シナジーが必要なのだ。

序盤と中盤と終盤がある

 ストーリーには継続期間がある。メカニズム的な表現には、始まりと、複数ターンに渡ってやることと、終わりが必要である。終わりがない持続する効果は、ストーリーではない。カードにも持続期間が必要だ。

男が1人……

 セットについて語るとき、私はそれが単体であるものとして語ることが多い。しかし実際は、マジックを作るということは試行錯誤であり、つまり多くの良い発想が、最初に作られた時点では状況に合わなかったという理由で、放置されている。問題への解決策を探るにあたっては、我々は過去に作った中で使われなかったものが解決策になりうるかどうかを探すことがよくあるのだ。

 ここで思い起こされたのは、最初のプレインズウォーカーのデザインであった。『ドミナリア』のデザイン記事で語ったとおり、我々は、設定された順番で効果を発生させる初期版のプレインズウォーカーを試したことがある。毎ターン効果が1つずつ、常に同じ順番で起こり、永遠にその効果を繰り返すのだ。

 これはプレインズウォーカーに主体性がないと感じさせたのでボツになった。プレインズウォーカーが、ゲームの局面において意味がなくても指示された通りのことをするだけのロボットのように感じられたのだ。(例えば、ガラクは戦場に狼がいない時に狼すべてを強化するためにターンを浪費することがあった。)しかし、ストーリーが主体性に動く必要はなく、同じ一連の出来事をすることが必要なのだ。ここに何かがあるかもしれない。

 ここで私は展望デザイン・チームに向かい、この種の時間とともに進化するストーリーというようなデザインを作るように言ったのだ。私が出した条件は、上記のものだけだった。全員がデザインを作ってきたが、中でもリチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldがこの発想を最も進化させていた。

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 ボードゲームのように感じられる時間とともに進む道筋があるという発想に、リチャードは興味を示した。文章量が増えてしまうという問題を、アイコンの利用によって乗り越えたのだ。狼のアイコンは「2/2の緑の狼・クリーチャー・トークンを1体生成する」。狼のアイコンが2つあれば「2/2の緑の狼・クリーチャー・トークンを2体生成する」となる。そして、カードの下の方に、そのアイコンが示す内容をマジックの表現で定義した文章を書いてある。アイコンを複数書くことで、それ以上文字数を増やすことなく複数の効果を生み出すことができるのだ。

 しかし、リチャードはそれだけにとどまらなかった。彼は次のマスに進めるようにするために満たさなければならない条件のある鍵付きの道筋という発想を掘り下げた。また、何が起こるかを決定づける選択を求める、分岐した道筋も試していた。そして、彼はさまざまなマスの数を試していた。物語の中には短い(3~4マス)ものも、長い(確か最大8マス)ものもあった。

 もう1つ、リチャードがこだわったのは物語の伝え方だった。彼のデザインはどれも、起こることを明確に示しており、そしてその効果全体を組み合わせて全体として1つの物語を伝えていたのだ。決めるべきことが大量にあることはわかっていたが、それでもリチャードのデザインは我々の選んだ道が何か素晴らしいものに繋がっていると確信させてくれるものだった。

ある日……

 最初のプレイテストに向けて、我々は文章の量を抑えることができるかどうか確かめるため、少し内容を絞ることにした。ここで我々は英雄譚でなく「ストーリー」と呼んでいて、最初の実験ではそれは新しいカード・タイプだったのだということに注意してほしい。もう1つ、イラスト欄には短い軌跡が描かれていた。

 こんなものだった。

〈ファイレクシア戦争のストーリー〉

(始まり - マス - マス - 終わり)
{B}
ストーリー
あなたのアップキープの開始時か、クリーチャーが1体死亡するたび、ストーリーを進める。
結末 ― 対戦相手がコントロールしているクリーチャー1体を対象とする。[カード名]を生け贄に捧げる。それを破壊する。

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 この初期版では、ストーリーは結末に向かって進むが、それを加速するためにテーマ的なことをすることができるというものになっていた。そして、終わりにたどり着いたら、そのストーリーを生け贄に捧げてテーマ的な効果を得ることができるのだ。しかし、これを試してみたところ、充分物語らしいと言えるものにはなっていなかったので、我々はリチャードが示したものをもっと掘り下げていった。

〈苗木の反乱のストーリー〉

(始まり ― マス[*] ― マス[**] ― マス[***] ― 終わり[!])
{3}{G}{G}
伝説のエンチャント ― ストーリー
あなたのアップキープの開始時か、ソーサリーとして{3}を支払うことで、ストーリーを進める。
* 1/1の緑の苗木・クリーチャー・トークンを1体生成する。
! ターン終了時まで、あなたがコントロールしているクリーチャーは+2/+2の修整を受け、トランプルを得る。

 

 わかりにくいかもしれないので、このカードで何が起こるかを説明しよう。このカードをプレイしたターンは何も起こらない。次のターン、1/1の緑の苗木・クリーチャー・トークンを得る。第3ターン、苗木を2体得る。第4ターン、苗木を3体得る。そして最後の第5ターン、そのターン終了時まで、自軍のクリーチャーすべてが+2/+2の修整を受け、トランプルを得るのだ。その後、このストーリーは墓地に置かれる。

 このバージョンではいくつかの変更がなされていた。まず、新しいカード・タイプではなく、伝説のエンチャントになった。ストーリーはエンチャントのサブタイプになったのだ。我々はリチャードのアイコン方式を使い、文章欄に何が起こるかを説明する文章を置いた。さらに、軌跡を長くすることも試した。そして、プレイヤーにストーリーを進める手段を与えた。マナを支払うことで進めることができるのだ。この時点では、コストは3点だった。

 プレイテストの結果は上々だったので、次の工程での変更は少なかった。

〈奈落同好会の英雄譚〉

(始まり ― マス[*] ― マス[*] ― マス[*] ― マス[!])
{3}{B}{B}
伝説のエンチャント ― 英雄譚
(あなたのアップキープの開始時と、ソーサリーとして{4}を支払うことで、物語を進める。)
* 1/1の黒の人間・クリーチャー・トークンを1体生成する。
! 飛行とトランプルを持つ7/7の黒のデーモン・クリーチャー・トークンを1体生成する。それは「あなたのアップキープの開始時に、人間1体を生け贄に捧げる。そうできないなら、これはあなたに7点のダメージを与える。」を持つ。

 

 このプレイテストでの最大の変更点は、「ストーリー」から「英雄譚」にしたこと(「ストーリー・カード」という書き方は「注目のストーリー・カード」の省略形として使っていた)と、マナで英雄譚を進めるコストを{3}から{4}にしたことである。

 この時点で、我々はカードのレイアウトについての議論を始めた。つまり、開発部のグラフィック・アーティスト、ジェームズ・アーノルド/James Arnoldと相談した。我々はまだ軌跡という発想が気に入っていたが、何種類もの軌跡を存在させるためにはあまりにも多くのカード枠が必要となることが明らかとなったので、4マスと6マスの2種類だけに絞ることになった。ほとんどの英雄譚は4つの「章」を持つが、比較的長くて壮大な数編だけは6章を持つ、という発想だった。

 我々が『ドミナリア』のファイルをセットデザイン・チームに引き継いだのはだいたいこのあたりであった。

聞いたことがあるか教えてほしい

 『ドミナリア』が引き継がれた時点で、エリック・ラウアー/Erik Lauerがセットデザイン・チームのリードを務めていた。広範なプレイテストを経て、エリックが最初にやったのはマナを支払うことをできなくすることだった。文章欄の中でそれが占める量に見合うほどは使われていないということに気がついたのだ。2番目に彼がやったのは、英雄譚の章を4つから3つにすることだった。エリックが懸念したのは、物事が起こるのに時間がかかりすぎることだった。我々のデザインの中には、何も起こらないマスがあるものがあった。エリックはこれを変更し、各章で何かが起こるようにした。これにはもちろん、章の数を3つに減らしたことも助けになっている。6章立ての英雄譚はボツになった。

 エリックは『ドミナリア』のストーリーの責任者であるケリー・ディグス/Kelly Diggesとも協力し、どの物語が語られるべきかを決め始めた。展望デザインは概念を証明するためにいくつかの英雄譚をデザインしたが、英雄譚は最初からドミナリアの重要な物語に合うようにデザインされることを意図したものだったのだ。ケリーがどの物語であるべきかを具体化していったので、セットデザインは語られるべき物語にメカニズム的に一致した英雄譚を作り上げていくことができた。

 一方で、ジェームズはまだカード枠をどのようなものにすべきかという問題に取り組んでいた。軌跡を持つものも試したが、レイアウト的、アート的な問題があったので、彼は他の方向性を模索していた。最大の制限は、複数のターンが同じ効果を持つようにして空間を節約したいという狙いだった。ジェームズは、効果のためにアイコンを使うのではなく、章をアイコンで示すことを試していた。こうすることでカードの文章欄を1つにでき、同じ効果が2回起こるときに章アイコンで示すことができるのだ。唯一の問題は、第1ターンと第3ターンに同じ効果が起こるときに上手く表現することが出来ないということだった。とはいえ、デザイン上その柔軟性が必要なことはなかったので、問題なく使えた。この発想から生まれたのが、縦長の文章欄とアート枠である。

 ここで英雄譚のアート枠について触れておこう。展望デザイン中にセットを組み上げたとき、このセット内でどうやって歴史を伝えるのかということについて時間をかけて議論した。そこで出た発想の1つが、その世界にある絵を使って、ドミナリアの人々が過去についてどう感じているかを表すというものだった。ケリーとマークはこの発想を非常に気に入ったので、これを英雄譚で使うことにしたのだ。14種類の英雄譚にはそれぞれ違う種類のアートが使われているが、それらのアートはその物語を伝えるであろう人々のフレイバーに合ったものになっている。例えば、協会を中心とした社会であるベナリアの物語は、ステンドグラスを通じて伝えられている。私は英雄譚のアートの出来栄えに非常に満足している。

 ここでエリックが『Spaghetti』から離れて『Meatballs』に注力することになり、セットはエリックからデイブ・ハンフリー/Dave Humpherysに引き継がれた。歴史的が2つではなく3つのものを参照するようにしたいと伝えに行ったとき、デイブがこのセットの担当者だった。英雄譚を直接参照するようにすることで、デイブは英雄譚を伝説の存在でなくすることができ、それはまさに彼が望んでいたことだったのだ。

 デイブは英雄譚に、他にもいくつか目立たないが重要な変更を加えた。すべての効果を誘発型能力にした(この時点で既にほとんどはそうだったはずだ)。軌跡ではなく章が存在するようになったので、カウンターを置くことで今がどの章なのかを記憶できるようにした。(これによってカウンターを扱うカードで英雄譚を扱えるようになった。モダンで影響があるかもしれない。)最後に、デイブは章が誘発するのをターンの開始時からドロー・ステップの後にした。その理由は、英雄譚を使う前に引いたカードの情報が得られるようにしたかったからである(戦闘前メイン・フェイズの開始時でなくドロー・ステップの後なのは、機能的には非常に似ているので、カードに書く文章が短かかった方を選んだのである)。

 そしてこの一番最後の変更が、英雄譚のテンプレート化にも影響した。英雄譚に関するルールすべてをカードに書くか、それともサブタイプに関するルールを定めるかの決定をしなければならなかった。いくつかの理由から、我々はその後者を選んだ。1つ目に、この文章すべてがルールの文章欄に収まるとは思えなかった。2つ目に、新しいカード枠は何が起こるのかを伝えるのには非常に有用で、このカード枠でわかることを書き下す必要は感じなかった。3つ目に、注釈文のほうが通常のルール・テキストよりも柔軟なので、わかりやすい表記ができた。

めでたしめでたし

 こうして、ちょっとした発想だった英雄譚がエンチャントの新しいサブタイプになったのだった。私はこの仕上がりに非常に興奮していて、諸君が私と同じようにこれを楽しんでくれることを期待している。いつもの通り、諸君からの反響を楽しみにしている。この記事のこと、英雄譚のこと、『ドミナリア』に関することなら何でも結構だ。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『ドミナリア』に関する質問にお答えする日にお会いしよう。

 その日まで、あなたがいいストーリーを楽しみますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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