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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『Unstable』のスクラップ その1

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『Unstable』のスクラップ その1

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2017年11月27日

 

 『Unstable』のプレビューが終わり、カード個別のデザインの話をする時期が訪れた。このセットのカードは特に例外的なので、話にも例外的なものがあることになる。落ち着いて、文字通り『Unstable』(不安定)な物語を楽しんでくれたまえ。


〈動くライブラリー〉》[UST]
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{4}{U}{U}

エンチャント ― オーラ

エンチャント(あなたのライブラリー)

エンチャントされているライブラリーは、それに含まれるカードの枚数に等しいパワーとタフネスを持って戦場にあるアーティファクト・クリーチャーである。それはライブラリーでもある。

エンチャントされているライブラリーが戦場を離れるなら、代わりに動くライブラリーを追放する。

// しばしば本が殴り返してくる。

 

 銀枠カード・デザインの最高の元ネタの1つが、黒枠セットである。これは、何か可能で何が不可能かという線引きが常に明瞭だとは言えないことがその理由である。どれだけデザインがおかしくても、私は最初それを黒枠で使おうとする。なぜなら、過去に実際にできたことで驚かされたことがあるからだ。アイデアがそのまま使われたこともあれば、いくらか修正を経て使われたことも、まったく違う内容で使えるデザインのもとになったこともある。しかし、不可能だと言われることはよくあることで、そうなったら私はそれを「次の銀枠セット用」ファイル(「Un-published」)に入れるのだ。

 この一例が《〈動くライブラリー〉》である。私がこれをデザインしたのは何年も前のことだ。どのセットのためだったかは思い出せないが、初期の頃、つまり『ミラージュ』『テンペスト』『ウルザズ・サーガ』ブロックあたりだったと思う。私が最初に作ったバージョンは、『Unstable』で印刷されたものと基本的に同じだった。ライブラリーに実際にエンチャントして、それをクリーチャーにするのだ。第1の問題は、ライブラリーを実際に戦場に出すことはできないということだった。ライブラリーも領域であり、領域を他の領域に置くことはできないというのだ。ここでは黒枠マジックの話をしている。銀枠マジックなら、ロシアのマトリョーシカ人形のように領域を重ねることができる。問題ない。

 これを受けて、私はパワーとタフネスが自分のライブラリーの枚数によって定義される★/★のクリーチャーというバージョンを作った。このバージョンはルール的には問題なかったが、何度も数える必要があった(「えっと、こいつの今のサイズは?」)これは、デザイン・チームの他のメンバーを不安にさせ、このカードについて長い討論が発生することになった。私は他のカードよりも注意を払うだけの魅力があると考えたのだが、そんな私は少数派で、このカードはファイルから削除されたのだった。

 そして長い年月が流れ、『Unstable』はデベロップに入っていた。『Unstable』でない普通のセットのシールドのプレイテストをしていた私は、困った状況に陥っていた。次のターンにも負けてしまうような状況で、なんとか生き残る方法はないかと探していた。手札には何枚かのオーラがあって、それをつけて助かるようなものがないか探していたのだ。何もないことを確認して、私はこんな冗談を言った。「生き残る手は、このライブラリーにエンチャントするぐらいしかないね」

 そのとき、過去の記憶が突然蘇った。私は《〈動くライブラリー〉》のことを完全に忘れていたのである。あれを作ったのは15年以上も前の話で、それ以来全く考えることもなかったのに、この冗談がふと思い出させてくれたのだ。私は当時の『Unstable』のりード・デベロッパーであったデイブ・ハンフリー/Dave Humpherysを呼び(デイブ、ビリー・モレノ/Billy Moreno、ベン・ヘイズ/Ben Hayesは『Unstable』のリード・デベロッパーを務めたことがある。デベロップ期間は何年にも及んでいたのだ)、そして叫んだ。「デイブ、『Unstable』の新カードがあるんだ!」

 このカードは、私がかつて作った最初のバージョンと基本的に同じ形で印刷された。違いは、ライブラリーをアーティファクト・クリーチャーにするようにしたことである。『Unstable』には多くのアーティファクトのシナジーがあって、フレイバーもクールに思えたのだ。我々は、そのライブラリーがダメージを受けることにそのライブラリーからカードを削る(ライブラリーの一番上から墓地にカードを置く)ということも検討したが、このカードはすでに文章量が多かった。我々は最後の1行を入れるかどうかという議論もしたが、ライブラリーが破壊された次のターンにゲームに負けるというのはひどすぎると思ったので、そのままにした。こうして、《〈動くライブラリー〉》は長年の時を越えて印刷に到ったのだった。


〈カウント男爵〉》[UST]
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{1}{B}{R}

伝説のクリーチャー ― 人間・悪人

3/3

カウント男爵は破滅カウンターが「5」の上に置かれた状態で戦場に出る。

あなたが指定された数字をマナ・コストか文章欄かパワーかタフネスに持つ呪文を唱えるたび、破滅カウンターを1個左に動かす。

破滅カウンターが「1」から動いたとき、プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーを破壊し、その破滅カウンターを「5」の上に置く。

 

 『フィフス・ドーン』で、私とアーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheは《空虚への扉》というカードを作った。確か、最初のデザインは(現行テンプレートで)次のようなものだった。

〈殺戮機械/Killing Machine〉
{5}
[カード名]はタップ状態で戦場に出る。
{W}{W}{U}{U}{B}{B}{R}{R}{G}{G},{T}:クリーチャーやプレイヤー合わせて1つを対象とし、それを破壊する。

 我々はこのデザインに満足していた。魅力にあふれていた。ここで、当時のルール・マネージャーであったマーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebとのやり取りをドラマ調で再現してみよう。

ゴットリーブ:

 これは魅力的ですね。カードにこういうことは絶対書けませんけど。

私:

 なぜだ?

ゴットリーブ:

 プレイヤーがゲームに負ける場合のテンプレートがあるんです。「プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはこのゲームに敗北する。」というのが。

私:

 だから? テンプレートが2つあってもいいだろう。

ゴットリーブ:

 ルール上、プレイヤーを破壊するなんてことはできません。

私:

 破壊できるさ。

ゴットリーブ:

 その理由はなんですか?

私:

 そのほうがかわいいだろう。

ゴットリーブ:

 それはすでにテンプレートが存在する効果を表す新しいテンプレートを作る理由にはなりませんよ。

私:

 プレイヤーは理解してくれるさ。混乱なんて生じない。それに、「クリーチャー1体とプレイヤー1人を対象とする。その前者を破壊するか、その後者はこのゲームに敗北する。」じゃあ意味がわからないだろう。

ゴットリーブ:

 それなら、クリーチャーを破壊する部分を削除しましょう。ゲームに勝利できる選択肢があるのに、もう一方の選択肢を選ぶなんてありえません。

私:

 プレイできるかどうかの話じゃない。プレイヤーが見て楽しくなるようにすることもある。面白いからな。

ゴットリーブ:

 ありえませんね。

 

 この『フィフス・ドーン』のテンプレートの話はかなり遅い時期だったので、『Unhinged』に入れることはできなかった。しかし、次に銀枠セットを作る機会があれば、「プレイヤー1人を対象とし、それを破壊する」カードを入れようと誓ったのだ。

 それから時が流れて『Unstable』のデザインのとき。我々は陣営を決定し、その中の1つ(卑怯な破滅軍団)がスーパーヴィランのものものになると決まった。「プレイヤー1人を対象とし、それを破壊する」ことができるのは、この陣営だろう。私が時間を費やしたことの1つが、各組織が異なった動きをするようにすることだった。卑怯な破滅軍団がスーパーヴィランの結社に運営されているというアイデアが気に入ったので、私はそれ独自のアーキタイプを作り始めた。

 その中の1つが、(スーパーマンのレックス・ルーサー/Lex Luthorや、ジェームズ・ボンドの悪人の多くのように)自分の発明品を使って世界を支配しようと考える狂った発明家というものだった。我々は彼が破滅の日の機械を作り、その機械はプレイヤーを殺すことがあるというアイデアを気に入った。あとは、どうやってそれができるのかを決めるだけだ。一方、我々はそれと全く関係なく、プレイヤーが唱えたカードの数字を参照するというデザインを手がけていた。アートを記録のために使い、さまざまな数字を埋めていくという『Unhinged』の《〈オ・オ・ア・タ・リ〉》[UNH]と似たものだった。

 ある日、デザイン・チームの誰か(ダン・エモンド/Dan Emmond、モンティ・アシュレー/Monty Ashley、ビリー・モレノ/Billy Moreno、イアン・デューク/Ian Duke、それに私のうちの誰かだが、残念ながら誰のアイデアだったか思い出せない)が、カウントダウンにすればこの2つのアイデアを組み合わせられるのではないかと言った。破滅の日の機械というフレイバーとカウントダウンは完璧だったので、我々は降順に数を参照することにした。こうして、「プレイヤー1人を対象とし、それを破壊する」はたった13年で印刷に到ったのだ。


〈すごいアイデア〉》[UST]
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{4}{R}{R}

伝説のクリーチャー ― 鬼才・悪人

4/4

{2}{B/R}{B/R}, {T}:6面体サイコロを1個振る。赤の1/1の鬼才・クリーチャー・トークンをその出目に等しい数生成する。

あなたがコントロールしていてアンタップ状態の鬼才を3体タップする:あなたが次に6面体サイコロを振るなら、代わりに6面体サイコロを2個振り、その出目の合計を使う。

 

 卑怯な破滅軍団の伝説のクリーチャーは、それぞれ有名なスーパーヴィランを元ネタにしている。《〈すごいアイデア〉》[UST]の元ネタがわかるだろうか? これは結構ひねりを加えているので、難しいだろう。

 このセットの鬼才たちの元ネタは、ミニオンズだ。道化師のヴィランが混沌寄りだというアイデアが気に入っていたので、彼らはすべてサイコロを振ることと関連している。道化師の代わりに、我々は彼らに独特のクリーチャー・タイプをデザインした。鬼才は、世界構築中に作られたものだ。このカードが単体でも働くが、子分たちと一緒にプレイすれば加速するという特徴を気に入っている。ちなみに、私はミニオンというクリーチャー・タイプの復活作戦には失敗している(黒枠においては既に廃語になっている)。

 《〈すごいアイデア〉》[UST]の起動コストに混成マナを使ったのは、統率者戦に向けて固有色を黒赤にするための意図的なものである。


〈ぼやけたビーブル〉》[UST]
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{U}

アーティファクト・クリーチャー ― サイボーグ・ビーブル

1/1

ぼやけ(このクリーチャーは、これが唱えられるに際して防御プレイヤーがメガネをしていたときにのみブロックされうる。)

ぼやけたビーブルがプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、あなたはカードを1枚引いてもよい。そうしたなら、カード1枚を捨てる。

 

 このカードは2つの理由から作られたものだ。

 まず、ビーブルをこのセットに入れたかった。ビーブルは「The Duelist]誌の表紙でジェフ・ミラコラ/Jeff Miracolaが描いたのが最初である。指示されたのはスクイーを描くことだったが、ジェフは面白みを増すためにスクイーがビーブルの群れに「攻撃されている」絵を描いたのだ。

223_duelist.jpg

 プレイヤーはビーブルを面白がったので、我々はセット内のカードにも入れることにした。ほとんどはジェフ・ミラコラの筆によるものだ。ある時点で、通常のマジックとしては少し馬鹿げているという判断がされて、ビーブルは銀枠セットへと追い出されることになった。ビーブルのいちファンとして、私はビーブルをセットに1匹は入れなければならないと考えた(ビーブルの歴史について詳しく知りたい諸君は、こちらの記事(リンク先は英語)を読んでくれたまえ)。ビーブルはメカニズム的にはブロックされないことと関連している。このことから、次の目標ができた。

 2つ目に、『Unglued』の《Hurloon Wrangler》を似た、ただしプレイヤーにズボンを脱がせないで済むようなカードが欲しかった。

 人々がただ変えることができないような性質が必要だった。私が選んだのは、髭だ。元のカードは、〈もさもさビーブル/Hairy Beeble〉で、髭渡りを持っていた。つまり、髭が生えた人にはブロックされないのだ。これはそう簡単に変えられないものだと考えた。ブロックするために髭を剃る人はいるだろうか。いるかもしれないが、まあ、多くはないだろうし、それはそれで面白い。

 そしてある日、エレイン・チェイス/Elaine Chase(グローバル・ブランド戦略とマーケティング担当副社長)がプレイテストをしていた。彼女のメモの中に、髭は基本的に男性にしか生えないので参照するべきではないものだ、と書かれていた。私は、髭が生えているのは不利になることなので問題はない、髭が生えないことでゲーム上不利になることはない、と答えたが、彼女は、不利になることだとしても女性には関われないことだから歓迎されていないと感じる、と強く主張した。それは私が気づいていなかった非常にいいポイントだったので、髭の有無を参照するカードはメガネの有無を参照するカードに変わったのだった。

 ところで、これは多くの視点を得るために多くの人々にプレイテストしてもらうべきだという重要な理由の1つである。自分にとっては明らかでないことが、他の人にはこの上なく明らかだったりする。そしてそれがその洞察を得るための鍵なのだ。プレイテスト中に私の失敗に気付かされる方が、商品が世に出てから気づくよりずっといいことなのである。


〈うるさいいたずら叩き〉》[UST]
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{4}

アーティファクト

うるさいいたずら叩きが戦場に出るに際し、あなたと対戦相手1人はそれぞれ秘密裏にいたずらか叩きかを選ぶ。その後、それらの選択を公開する。選択が一致していたなら、うるさいいたずら叩きはその能力を得る。そうでなければ、うるさいを得る。

  • いたずら ― {T}:プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは2点のライフを失う。
  • 叩き ― {T}:あなたは3点のライフを得る。
  • うるさい ― {2}, {T}:カードを1枚引く。
 

 このカードは、プレイしたときにちょっとしたミニゲームをするカード、というアイデアにデザイン・チームが魅入られていたときにできたものだ。2つ必要なことがあるのはわかっていた。

 1つ目に、このカードがプレイされたときに各プレイヤーが何かを選択し、その選択の組み合わせによってカードの効果が変わるということ。

 2つ目に、各プレイヤーが他のプレイヤーの行動を読もうとする要素が欲しいということ。心理戦というアイデアが気に入っていたのだ。

 最初のバージョンでは、パワーレベルが異なる3つの起動型能力があった。その中から秘密裏に1つ選び、対戦相手も1つ選んで防ぐのだ。自分と相手が同じものを選んでいたら、このアーティファクトは生け贄に捧げられる。そうでなければ、自分の選んだ起動型能力を使う。プレイ感はよかったのだが、生け贄に捧げるというのは少し厳しすぎるようにと思われた。

 そこで我々は、両プレイヤーの選択の結果、3つのうち1つの結果が生まれるような方法はないか探すことにした。そして、見つかった。2つのうちどちらかを選ぶ。一致したら、その選んだ能力が得られる。一致しなかったら、3つ目の能力が得られる。ゲームの動きがよくなるように、これらの3つの能力はパワーレベルが異なるものにする必要があった。3つ目の能力が一番強いのだ。こうして、ミニゲームは、唱えたプレイヤーから見ると対戦相手と違う答えを選ぶものに、対戦相手は逆に唱えたプレイヤーの選択を当てるものになったのだ。

 すべての選択が意味を持つようにしたかったので、我々は時間をかけて能力を選んだ。これはマジックに別の要素を加えるものだ。現在のゲームの局面において2つの選択のどちらかが唱えたプレイヤーに有利になるものであれば、その結果を得る可能性があるのでそちらを選ぶことが多くなるだろう。実際、我々が最初に決めたのは3つ目の能力だった。いつでも有効でかなりの動機になりうる、カードを1枚引くこと、である。

 1つ目と2つ目の能力に関しては、短くて(このカードはすでに文章が長い)、かつお互いに異なるものを探した。我々は、1つが攻撃的でもう1つが防御寄りというアイデアが気に入っていた。最終的に、自分のライフを増やすことと対戦相手のライフを減らすことを選んだ。数字を決めるにはいくらかのプレイテストが必要だったが、最終的なものには非常に満足している。これを作るのに我々が楽しんだのと同じぐらい、諸君もこれをプレイすることを楽しんでもらえれば幸いである。


〈大文字犯罪〉》[UST]
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{2}{B}{B}

インスタント

クリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、そのクリーチャーは-x/-xの修整を受ける。xはそのルール・テキストに含まれる大文字の数に等しい。(注釈文とフレイバー・テキストは無視する。)

// のろまを分ければ、全部小文字。

 

 銀枠のカード・デザインで少し違うところの1つが、カード全体の考え方だ。通常は要素1つだけを作るのではなく、関連性のある全体を作ろうとするのである。これは黒枠のマジックでもある程度はあることだが、銀枠ほど強く結びついているわけではない。そのため、カードの独自性の鍵となるカードの名前を作ることは非常によくあることである。実際、カード名を決める前に私がしなければならなかったことの1つが、「本当にこの名前が必要なのだ」という判断だった。

 この話をここでしているのは、このカードのデザイン名が〈大文字懲罰/capital punishment〉(確か全部小文字)だったからである。大文字を使うことを罰するカードなのだ。この名前と効果は組み合わせて始めて成立する。このカードには他の名前はありえない。『コンスピラシー:王位争奪』で《極刑》というカードができるまでは(実際、我々は頭文字が大文字のものとそうでないものをルール上別のカードとして扱えるかどうかという議論までしたのだ)。

 このカードをボツにしてファイルから削除することも検討したが、ケリー・ディグス/Kelly Digges(このフレイバーを作った本人)が私に他の選択肢がないか検討すべきだと言ったのだ。それで「capital」でGoogle検索をかけたところ、驚くほど多くの選択肢があった。「capital offense」が最善だと思ったので、それをケリーに見せた。このカードはプレイしてとても面白いものだったので、他の解決策が見つかったのは嬉しいことだった。


〈カウントダウン残り1〉》[UST]
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{3}{R}{R}

ソーサリー

プレイヤーは、初期ライフ総量1点でそれぞれのライブラリーをそれぞれのデッキとしたマジックのサブゲームをプレイする。メインゲームの残りの期間、発生源がこのサブゲームで勝利しなかったプレイヤーにダメージを与えるなら、代わりにそれはそのダメージの2倍をそのプレイヤーに与える。

 

 私がやろうとして黒枠セットではできないと言われたこと、という分類のものがどの銀枠セットにも何種類か存在する。その1つが、サブゲームだ。リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldは最初のエキスパンションである『アラビアンナイト』で、プレイヤーに現在のゲームのプレイを止めて別のゲームを始めさせる《Shahrazad》というカードを作った。このサブゲームの勝者は、もとのゲームで有利になるのだ。(ちなみに、リチャードは《Shahrazad》のことを自分のデザインしたカードの中の個人的なお気に入りだと言っている。「千夜一夜物語」を知っていれば、特にフレイバーに満ちているからだ。)

 《Shahrazad》は大会ではあらゆる問題を引き起こし(ゲームの時間が長くなるなど)、その結果として禁止された。そして、開発部は黒枠セットにおいてサブゲームは作らないというルールを決めた。そこで、『Unglued』を作るにあたって私は、サブゲームは私が使える場所だということに気がついたのだ。最終的に、私は、本質的にゲームに勝てるようなサブゲームをプレイさせる《Once More with Feeling》を作った。元のゲームに戻らないこれをルール的にサブゲームと呼んでいいかどうかは分からないが、《Shahrazad》の影響を非常に強く受けたものである。

 そして、『Unhinged』で、私はもっとサブゲームらしいサブゲームを作りたいと考えた。ゲームが長引かないよう、ライフ5点から始めさせることにした。また、楽しいフレイバーのために、そのサブゲームはテーブルの下でプレイさせることにしたのだ。『Unstable』でもまたサブゲームを作ろうと思ったが、さらに時間がかからないものにしたかったので、《〈ダンジョン突入〉》[UNH]で5点だったライフを1点に減らした。この能力を赤のものにしたのは、最も早くこのサブゲームに勝って有利を得られる色だと感じたからである。フレイバーを《〈カウント男爵〉》[UST]とその破滅の日の機械に合わせたのは、ケリーの素晴らしいアイデアだったのだ。


〈窮屈な隠れ家〉》[UST]
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{4}{R}{G}

エンチャント

各対戦相手のアップキープの開始時に、そのプレイヤーは自分がコントロールしているパーマネント1つを窮屈な隠れ家だけに接するように動かす。それができないなら、そのプレイヤーがコントロールしていて窮屈な隠れ家に触れていない各パーマネントをそれぞれ破壊し、その後、これを生け贄に捧げる。

 

 このカードはリチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldがデザインしたものだ、いや、しかし、リチャードは『Unstable』のデザイン・チームには参加していない。彼が参加してこのカードを提供したのは『ドミナリア』のデザイン・チームであった。私はこれを会議で見て、そして「これはここには入れられないよ、リチャード。でも、入れるべきところを知っているよ」と言ったのを覚えている。


〈カラスの嵐雲〉》[UST]
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{2}{U}

ソーサリー

「嵐雲のカラス」という名前で飛行を持つ青の1/2の鳥・クリーチャー・トークンを1体生成する。

ストーム(あなたがこの呪文を唱えたとき、このターンにこれより前に唱えられた呪文1つにつきこれを1回コピーする。)

// 嵐雲のカラスは孤独、鳥狩りの恵み。

// 嵐はともに鳴く、まるで殺し屋のように。

 

 『Unstable』にストームつきカードがあることを予想した諸君はいるだろうか。おそらくそうそういないだろう。このカードは、チームの複数のデザイナーが提案したことによって生まれたのだ。これはずっと流行っていた冗談で、その冗談を現実のものにするのは銀枠が一番ふさわしいに決まっている。このカードに関する興味深い質問は、なぜこれが黒枠ではなく銀枠セットで作られたのか、というものだ。

 答えはそう明確ではない。「ストーム値」がはっきり示すとおり、ストームをスタンダードで使えるセットに入れることはまずありえない。スタンダードで使えないセットにしても、ストームという能力は強力すぎて問題になるのだ。そして《嵐雲のカラス》がどれだけおかしく聞こえようが、これは実用的な勝利条件なのだ。我々が最初に《〈カラスの嵐雲〉》[UST]をセットに入れたとき、私は当時のデベロッパー(今はプレイ・デザイナーと呼ばれている)のもとを訪れ、これを黒枠に入れることはできるかと尋ねた。答えは、入れるつもりなら非常に保守的にする必要があり、プレイヤーが見て最悪だと思うようなカードを作ることになるだろうというものだった。

 『Unstable』では、より挑戦的になることができ、このカードをプレイヤーが望むような形で提供できた。また、これを銀枠に入れたことで、我々はこれをおもちゃにして、クリエイティブ的にも最大限弾けることができたのだ。

『Unstable』な世界

 今日はここまで。これらの話を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、『Unstable』について、また今日の記事についての諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『Unstable』のカード個別の話の続きでお会いしよう。

 その日まで、『Unstable』の楽しみがあなたとともにありますように。

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