READING

開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

展望デザイン、セット・デザイン、プレイ・デザイン

authorpic_markrosewater.jpg

展望デザイン、セット・デザイン、プレイ・デザイン

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2017年10月23日


 マジックは変化のゲームである。カードは常に変わり続けている。メカニズムは常に変わり続けている。テーマは常に変わり続けている。世界は常に変わり続けている。セットの発売全体の構造も常に変わり続けている。その中で、1つだけ変わってこなかったものがある。我々がマジックを作る方法、すなわち「デザイン」と「デベロップ」であった。これは私がウィザーズの開発部に入った22年前からずっと同じままだったのだ。今回、ついにシステムが変わったその形と理由について説明しよう。

 今日の記事の中で、これまでのシステムを回顧し、我々の新しいパラダイムのもとでの旧システムの問題を説明し、そして新しい工程がどのように働くのかを見ていこう。我々は2年先の仕事をしているので、このシステムは開発部内ではすでに現行のものであることに注意してもらいたい。今回ここで取り上げたのは、『イクサランの相克』が新システムのもとで作られた中で最初の世に出るセットだからである(ただし変化の途中であり、それ以降のセットと手順が同じだとは言えない。この後で説明する独立した各チームが手がけたのは『ドミナリア』が最初になる。『イクサランの相克』では、全システムが単一のチームによって行われた)。

時間のデザイン

 まず最初に、これまでのシステムについて説明しよう。その前に、いくつか明確化しておきたいことがある。

  1. まず、変身1.0(大小小基本 から 大小大小 への移行)の前の話をする。この工程の進化は、この移行によって発生した変化と深く関わっているのだ。
  2. 開発部のメカニズム面に注目する。これは今回主に変わったことだからである。ストーリー・チームとアート・チームからなるクリエイティブ・チームもまたシステム全体には深く関わっている。そちらは今回の変化に影響は受けているが、それほど変化はしていない。

 これまでの状況はこのようなものだった。

 5~7年前の時点で、どのようにしていくかの大まかな計画を立てる。開発部のさまざまな部署が手を入れ、そして舞台となる一連の世界を決めるのだ。

 その後、発売の3年半前に、我々は先行デザイン・チームを立ち上げる。このチームの期間は1年間であり、その間、週2回1時間の会議を行なうのが通例である。1つ目の会議ではアイデアのブレインストーミングを行ない、カードをデザインし、デッキを作る。2つ目の会議はそれらのデッキで私と対戦し、評価する。このチームはカード・ファイルを作ることではなく、さまざまなデザイン空間を掘り下げることが目的であるメカニズムを作ることもあれば、デザインの出発点となる基礎を作ることもある。

 発売の2年半前、デザインが開始される。このチームの期間は1年間である。デザインの仕事は、セットが厳密にどのようなものかを決定し、メカニズムやテーマを選び、カード・ファイル全体を作ることである。

 発売の1年半前、デベロップが開始される。このチームの期間は9か月で、デザインのファイルを受けて大会で使えるような商品に仕上げる責任を負う。この時点でカードの正式なコストが決まり、リミテッドのアーキタイプが完成される。デベロップはセットのあらゆる要素を評価し、我々が考慮するあらゆる目的、特にスタンダードやブースタードラフト、シールドのために必要なことをセットが果たすようにするための2組目の眼である。このセットの何らかの部分に見直しが必要であれば、デベロップはその部分を変更する。そのためにカードを変更することはもちろん、場合によってはメカニズムやテーマを変更することもある。

 先行デザインというのは比較的新しい要素だが、全体としてこのシステムはマジックの始まりからずっと存在してきたものなのだ。

「これに問題があったのか」

デザイン

 『戦乱のゼンディカー』ブロックから、我々は大小小基本のシステムから大小大小のシステムに移行した。この変化によって、我々は年に1つの世界を作るシステムから年に2つの世界を作るシステムに移行したことになる。旧システムの元では、私は秋の大型セットのデザインを担当していた。それだけでブロックを適切に準備することを助ける機会が得られていたのだ。私は世界の全体としての展望を定め、そしてブロックがどう進化するかを計画することができたのである。『ラヴニカ』のようにブロックを部品に分けるのか、『時のらせん』のようにテーマ的に進化させるのか、『タルキール覇王譚』のようにセットの扱いに複雑な関連性があるのか。ブロックの構造がどうであれ、私が大型の第1セットを担当していたときには私が決めていたのだ。

 この変更をしたとき、最初の2つの世界は再訪だった。再訪する場合にはすでにできている展望があるので、状況はいくらか簡単だった。『ゼンディカー』と『イニストラード』にはメカニズム的にもフレイバー的にも定義があった。もちろん新要素もあったが、デザインをゼロから始めるわけではなかったのだ。しかし、イニストラードの後に我々が取り組んだのは『カラデシュ』『アモンケット』『イクサラン』という3つの新しい世界だった。『カラデシュ』には『マジック・オリジン』での先行企画がいくらかあったが、メカニズム的に定義するのに充分とは言えなかった(「アーティファクトで何かする」という以外は)。

 この問題を解決するため、私は斬新なことを思いついた。それらの3セットで、他のデザイナーと共同でリード・デザイナーを務めるのだ。最初の6か月は私が主導する形で展望を定義してメカニズムの準備をし、その後後半の6か月を共同デザイナーに委ねて進化させてもらうのだ。こうすれば、私は毎年両方の世界を手がけることができる。

 この変更の副次効果として、先行デザインが1年から6か月に短縮された。先行デザインは非常にのんびりしたものだったので、工程をそれほど損なうことなく6か月に縮めることができると私は確信していた。

デベロップ

 構築環境、リミテッド環境を作り上げるための技術が進歩するに従って、カードやメカニズムを仕上げる方法に関する制約がどんどん増えていった。デベロップが最初にやることの多くは、デザイン中にされた作業のかなりの部分をやり直すことになっていた。アートを間に合わせるためにはデベロップが始まって短い間にカードのコンセプトを定めなければならないことから、これは問題を生じることになった。つまり、デベロップは不可能なほど短い締め切りの中で多くの重要な仕事をしなければならなかったのだ。

 ここでアートについて触れておこう。マジックのデザインは、アートの割り当て前に行なわれる。デザインのうち半分は、まだ世界構築すら行なわれていない間に行なわれるのだ。つまり、アートはデザインにはほとんど制約にならない。カードがAということをしているがBということをするほうがよければ、変更できるのだ。

 デベロップでは、それが常に可能というわけではない。カードにアートが割り当てられると、そのカードの性質が固定され始めることになる。たしかにまだ変更は可能だが、それはそのカードのために作られたアートにふさわしい範囲に限られるのだ。そして、アートはメカニズム的実装に紐付けられていることも多い(飛行がその最大の例だ)。システム上、遅い時期にもいくつかの変更はできるが、大量に変更することはできない。そのため、カードがクリエイティブ的に示している範囲でどのように変更するかを決定することがデベロップの多くの課題の1つとなる。場合によっては、これは非常に難しいことなのだ。

 何年も前に、我々はこの問題を解決するために(大型セットで)デザインの最後の2か月の間に「デヴァイン」と呼ばれる工程を始めた。デヴァインでは、デザインと一貫する形で問題を解決する機会を与えるため、リード・デベロッパーがリード・デザイナーにメモを渡すのだ。時とともに、デベロッパーはデザインの早い時期から関与するようになり、さらには仕上げ方に影響を与えられるよう、デザイン・チームの一員として協力するようになったのだ。


自然形成師》 アート:Chris Seaman

 もう1つ、デザイン工程について触れておこう。デザインは最初非常に柔軟である。初期には、ほとんどどんな決定でもできて、方向転換も簡単である。しかし時間が経って方向性に基づいたデザインが定まっていくと、それらの判断をやり直すことはどんどん難しくなっていくのだ。

 例えば、我々は『タルキール覇王譚』のデザインの後期になって、あまりにも多くのものを詰め込んでいて、他の部分ともっとも関連性が低いのはどの陣営とも関連付けられていない変異メカニズムであるということに気がついた。問題は、我々は(陣営が定まるよりも前に)変異を出発点としていて、それを軸に作っていたので、この議論が生じたときにはこのセットの中心に変異が据えられており、取り除くことは不可能だったのだ。

 ここでこれを取り上げたのは、デベロップの始まるずっと前に決められたことに基づかなければならない判断があるということに、デベロップが気がつきつつあったからである。

 デベロップにもさらなる問題があった。アートの指定前にしなければならない多くの変更があるため、可能な限り早くデベロップの開始を早くしなければならない。また、環境を仕上げるために可能な限りの現実世界のデータを集めるため、可能な限りデベロップの終了を遅くしなければならない。例えば、特定のデッキが問題であれば、その対策となるカードを加えられるようにする必要がある。

 複数のセットが並行で進行していて、あまりに多くのデベロップ・チームが重複するとリソースの問題が発生し始めることになるので、デベロップの期間をこれ以上伸ばすことなく、そうできるようにするのが目標だった。

 この問題への解決策は、デベロップを2つの期間に分け、間に中断を挟むことだった。この中断期間にはリード・デベロッパーだけがこのセットの担当であり続け、チームメンバーは他の仕事ができるようにする。第1部ではセットの整頓に注力し、第2部ではそのセットがさまざまなフォーマットでどう働くかに注力するのだ。この第2部で、デベロップはそのセットのプレイテストの資料を扱うことになる。

パラダイム・シフト

 ある日、エリック・ラウアー/Erik Lauerが話があると言ってきた。私にも考えてほしい問題があると。我々はセットの受け渡し時期を間違っているのではないかというのだ。彼は、アイデアを見つけ出すチームとそのアイデアを実装するチームという2チーム制は気に入っているが、工程の中で引き渡す時期は正しいものだっただろうかと言ってきたのだ。私は、数日考えさせてほしいと答えた。

 私が問題を精査しようとするときに好んで使うテクニックの1つが、一歩引いてその問題を広い視野から見るというものがある。茂みから出て、問題を高いところから見つめ直すのだ。私は自問した。「そもそも、デザインやデベロップは最初何だったのか」「どんな力がそれらを作り出したのか」「引き渡しのタイミングはなぜあの時点だったのか」と。

 リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldが最初にマジックを作ったときから、彼はマジックにはいずれ拡張セットが必要になるということがわかっていた。そこでリチャードは、『アルファ版』のプレイテストをしてくれていたいくつものグループに協力を求めた。それぞれのグループにそれぞれのセットを作ってもらったのだ。

 マジックが発売されて、ピーター・アドキッソン/Peter Adkisonもまたより多くのセットが必要だと気づき、そしてウィザーズで働くさまざまな人に(興味深いことに開発部員は1人も含まれていない。開発部は当時できたばかりだったのだ)拡張セットを手がけるように言ったのだ。最初の2年間のマジックのセットは、これらの社外のグループによって作られたものである。(内部でデザインされた最初のセットが『テンペスト』で、最初に発売された内部デザインのセットは『ウェザーライト』だ。大型セットを作るほうが時間がかかるのだ。)

 マジックは継続的なデザインが必要な商品であるということが明らかになって、リチャードはウィザーズで働くようになった。彼は何人ものプレイテスターを連れてきて、それが最初のマジック開発部になった。セットの印刷に到るまでの間、開発部はチームを組んで、外部のデザイン・チームから提出されたセットを検分し、2組目の眼となったのだ。

 外部チームはマジックの内部の働きを理解しているとは限らないので、この2つ目のチームがファイルにかなりの変更を加えることもあった。リチャードは各要素が役目を果たしていることを確かめるとともに個人的なデザイナーの気まぐれに頼らないようにする、このシステムがセットを洗練する助けになるあり方を気に入り、ウィザーズの開発部で、マジックはもちろん、それ以外のゲームを作る場合にもこれが定番となったのだ。

 歴史を振り返ってみて興味深かったことは、デザインとデベロップはそもそもほとんどやり取りのない2つのチームというシステムとして作られたということに気づいたことだった。デザイン・チームがファイル全体を作っていたのは、彼らがそのまま印刷されてほしいものを作ろうとしたからである。近代のデザインの目標は少し異なる。我々はデベロップと協力し、全体として素晴らしいセットになるものを作るようになっていた。デザインは完成品を作ろうとはしておらず、デベロップが手をかけて最高のセットにすることができるようなファイルを作ろうとしているのだ。

 ここで私は、すでに存在しない要素によってあの境界線が作られていたのだと気がついた。私はエリックの元に戻り、そして引き渡しのタイミングを変えることに同意したことを伝えた。エリックは、最終ファイルに責任を持つ人々をもっと早くに関わらせてセットを仕上げる協力ができるようにしたいと考えていたが、正確にいつが最適なのかは思いついていなかった。

 そこで私は、デザインを共同リード制にしたことで半分にするという形で新しい線引きをしていたことに気がついた。『カラデシュ』『アモンケット』『イクサラン』では、私がセットの基本性質を定めてメカニズムの原型を作るという6か月の展望期間があったのだ。6か月にすることのもう1つの利点は、毎年2つの世界の展望を重複なく手がけることができるようになることである。

 その内容から見て2つのチームは根本的に違うことをやっているので、我々はそれに新しい名前を与えることにした。どちらもデザインなので(ゲーム業界では我々の仕事全てが「デザイン」と呼ばれているので、商品のクレジットではデザインは「初期デザイン」、デベロップは[最終デザイン」となっている)、我々は各チームのすることに焦点を当てることにした。

 前半部は「展望デザイン/Vision Design」で、私がリードを務める。展望デザインはその世界のメカニズム的焦点が何になるのかを定める責任を負う。例えば『イクサラン』で言えば、最初は「中米風世界と吸血鬼の征服者がいる2陣営の対立」で、展望フェイズの終わりには「海賊と恐竜に焦点を当てた部族セット」だった。展望デザインの仕事は比喩的に言えば建築家で、セットの設計図を書くことである。この新システムに組み込むため(また、新しい先行世界構築チームと連携するため)、先行デザインは3か月に縮められることになった。

 後半部は「セット・デザイン/Set Design」で、エリック・ラウアーがリードを務める。セット・デザインはセットを作ること、比喩的に言えば展望デザインの設計図を元に家を建てることの責任を負う。このチームが、デザインをコンセプトから完成品まで持っていくのだ。彼らが、展望デザイン・チームが作ったアイデアやメカニズムをフィールドテストにかけ、それが全体として働くかどうかを確認し、問題があれば修正したり取り替えたりする。その後、セット・デザイン・チームは全てのカードをデザインするのだ(展望デザインでも反復工程の中でカードを作る。それがふさわしければ、セット・デザイン・チームはそれを採用できる)。

 展望デザイン・チームとセット・デザイン・チームが別々のチームになったのは『ドミナリア』からであり、『イクサランの相克』は展望デザインとセット・デザインを1つのチームで行なっていた。


起源の柱》 アート:Dimitar

3つとあと1つ

 ちょうどこの新システムに合わせていく間に、開発部は大小大小システムから、3つと1つの大大大基本システムに移行することを決定した。このため、すべての世界それぞれに時間を取れるようにしたかったので、展望デザインの期間を調整し、大型セットと小型セットで合わせて6か月だったのを、大型セットそれぞれに4か月にした。基本セットにも展望デザインは関与するが、基本セットでは展望デザインとして定めなければならないことはそれほど多くない。先行デザインは3か月のままにできた。

 このころ、我々はもう1つの問題に気がついた。開発部は時間を充分にかけてトーナメント環境に焦点を当てることをしておらず、チェックしなければならないような問題のあるカードが見逃されていたのだ。この問題を解決するため、我々は後に「プレイ・デザイン/Play Design」と呼ばれることになる第3のチームの必要性に気がついたのだ。プレイ・デザイン・チームの元になった考えは、中心となるフォーマット(スタンダード、ブースタードラフト、シールド)の健全性に注目するとともに他の人気の高いフォーマットにも目を向ける、開発部員のグループというものだった。

 イアン・デューク/Ian Dukeがプレイ・デザイン・チームの技術的アドバイザーとなり、マネージャーとしてダン・バーディック/Dan Burdickを採用した。そして開発部員の中から何人かをプレイ・デザイン・チームに異動させ、プロツアーから新規のチーム・メンバーを採用したのだ。

 プレイ・デザインが関わった最初のセットは『ドミナリア』で、プレイ・デザインの焦点が完全に存在するようになったのは(スケジュールについてはこれから述べる)『Milk』(訳注:2019年春セット)で、展望デザインにもプレイ・デザインの意見が反映された最初のセットは『Archery』(訳注:2019年秋セット)である。

現行のスケジュール

 これを踏まえて、各チームの仕事を見ていこう。

展望デザイン

 各セットは3か月の先行デザインから始まり、4か月の展望デザインがその後に続く(展望デザインは基本セット以外の大型セット3つそれぞれに4か月をかけられるようになっている)。展望デザインは、完全なテーマとメカニズムと、ブースタードラフトやシールドができるようにするためのコモンやアンコモン全体、そして必要なだけのレアや神話レアが入っているファイルを引き渡す。

セット・デザイン

 セット・デザインは2つに分けられている。前半は6か月で、ファイルを編集する。そして3か月の中断期間を挟んで、後半3か月の期間はプレイ・デザイン・チームと共同でカードの数字を仕上げるのだ。

プレイ・デザイン

 プレイ・デザインはプレイ環境ごとに3か月の期間となる(毎年4つのスタンダード・セットが発売されるため、異なるプレイ環境が4つ存在することになる)。それぞれについて、最初の2か月はセット・デザインの最終2か月で、最後の1か月はセット・デザインから引き渡された後になる(ただし、必要があれば数字の調整をできる時期ではある)。

 つまり、セットの先行デザインの開始からプレイ・デザインの終了までは20か月ということになる。

今後のデザイン

 今後、現在の名前で新チームのことを表すことにしよう。今後は、例えば、新セットが発売されたら私は記事で展望デザイン・チームを紹介することになる。数年前に私たちが経験した変更を諸君と共有できることを嬉しく思う。この変更に関する諸君の考えをメール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、22年間に渡って私がマジックをデザインする助けとなっている技術について語る日にお会いしよう。

 その日まで、私が今日語ったことが目に見えることなく、ただより良いマジックを導くものでありますように。

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

CATEGORY

BACK NUMBER

サイト内検索