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Making Magic -マジック開発秘話-
ただ『イクサラン』のために その2
ただ『イクサラン』のために その2
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2017年9月11日
『イクサラン』プレビュー第2週にようこそ。先週は、デザインの期間にこのブロックのメカニズム的テーマがどのように進化したかについて語った。今週と来週は、このセットの全てのメカニズムの生成に焦点を当てることにしよう。これから見ていく通り、それらのメカニズムはかなりの変遷を経てきた。また、このセットの最もクールな部分の1つをお見せするプレビュー・カードも用意している。楽しみにしてくれたまえ。
へ、へ、へ、変化
セットによっては、初期にメカニズムを見つけ、デザインやデベロップのほとんどの期間をその調整に充てることもある。例えば、エネルギーと機体が最初に試されたのは、どちらも『カラデシュ』の先行デザインの最初の週だった。一方、『イクサラン』はその正反対に位置する例であり、工程の間ずっとメカニズムには大きな変更が加えられ続けた。今週と来週で、メカニズムの進化をその工程の一番最初から追っていき、そして激動したデザインとデベロップがどのようなものだったのか、最前列でお目にかけよう。
説明のために、この工程を4つに分けることにしよう。
先行デザイン
この工程では、そのセットがメカニズム的にどうなるかどんどんアイデアを出し始める。期間は4か月半ほどだった(うち1か月半は2人戦マジックにおける優勢メカニズムの可用性を掘り下げるためのものだった。詳しくは先週の記事を参照)。
デザインの前半
このセットは私とケン・ネーグル/Ken Nagleが共同リードを務めた。この工程はデザインのうち私がリードを務めた部分であり、期間は6か月だった。
デザインの後半
この工程はデザインのうちケンがリードを務めた部分であり、こちらも6か月間だった。
デベロップ
デザインの後で、このセットはデベロップに委ねられた。『イクサラン』のリード・デベロッパーはサム・ストッダード/Sam Stoddardだった。この工程はおよそ9か月間かけられた。
先行デザイン
先週説明したとおり、「Vampire: the Eternal Struggle」というトレーディングカードゲームの「優勢」メカニズムが2人戦マジックに適用できるかどうかを調べるために先行デザインを早く始めた。プレイテストの結果、可能だとわかったが、『コンスピラシー:王位争奪』にそのメカニズムが必要だったので、我々はそれを引き渡した。そのため、我々はこのブロックをメカニズム的にどのようなものにすべきか決めることから、先行デザインの本来の期間を始めることになったのだ。
先行デザインは発見というコンセプトに焦点を当ててかなりの時間を費やした。先週説明したとおり、この次元の仮名は「発見の時代の世界」で、そしてストーリーの始まりから大量の発見が待っているというところに焦点が当てられるのは明らかだった。
アート:Florian de Gesincourt |
我々は、各陣営をメカニズム的にどう表現するかを決めるのにもいくらかの時間を費やした。この時点では、陣営は3つだった。吸血鬼の征服者、中米風の戦士、そして海賊だ。この時期には、それぞれの陣営がどの色にふさわしいかを決めるのにも時間をかけた。吸血鬼はストーリー的にも原動力になるリソースを奪うものであるべきで、つまり高速のアグロなデッキではなく低速のコントロール・デッキということになる。戦士はチーム中心で、並べる戦略に集約すべきだ。海賊は個人的で、アグロで、ただし相手を妨害できる方法も必要だ。
先行デザインは、デザインに影響する4つの重要な結論を導いた。1つ目が、「発見」というテーマを掘り下げていくと両面カードへと繋がるということ。2つ目が、部族セットになるであろうということ。3つ目が、各陣営がメカニズム的に目指すべき方向性。4つ目が、陣営を3つにするのは正しくないのではないかということである。
両面カードについては、ケンが非常に詳細まで踏み込んだ記事を書いているのであまり深くは掘り下げない。ここで重要なのは、カードの全体としてのコンセプトをかなり早期に見つけていたということである。オモテ面は発見のある要素を表現していて土地でないカードで、道具であったり方法であったり物語であったりする。そして、そのカードの裏面は土地で、戦場にあると非常にエキサイティングなものであることが望ましい。
オモテ面には達成すべき任務が定められており、それを達成すると土地を「発見」する(そのカードを土地に変身させる)のだ。 これをメカニズム的にどうするのが最善かを考えるのにかなりの時間を費やしたが、アイデアそのものはずっと変わらなかった。今回のデザインにおいて、ずっと同じまま残った唯一のメカニズム的要素である。
さて、クールでフレイバーに富んだ両面カードのデザイン、ということで、プレビュー・カードをお見せしよう。これが《探査の短剣》と《失われた谷間》だ。
このカードは、まさにこのメカニズムの好例である。初期から、「《Black Lotus》」土地(ただし生け贄に捧げなくてよいもの)が必要だとわかっていた。そこに到るための最適な方法を見つけるには何度もの反復工程が必要だったが、最終的にこのちょっとした輝きを見つけることができたのだ。
なんにせよ、先行デザインは終わった。いくつかの方向性は見つかったが、決めるべきことはまだまだ多い。
デザインの前半
デザインを開始した時に私が最初にしたことは、陣営を3つから4つにしたことだった。陣営を3つにすることには多くの問題があったが、その中でも最大のものが3つの部族だけで部族セットを成立させるのが難しいということだった。4つも少ない方ではあるが、それでも成立しうる数字なのだ。
陣営を4つにすると決め、『タルキール覇王譚』で5つ目の氏族が追加される前に私が作った3/3/2/2モデル(3色の陣営2つと2色の陣営2つ)を採用した。このシステムではさまざまな組み合わせが可能だったので、最初に決めたのは各陣営の色をどうするかだった。
すべての陣営の中で、吸血鬼がもっとも明確なフレイバーを持っていた。海賊と戦士は戦うことが予想された。吸血鬼は、強い宗教的要素を持つという非常に強い特徴を持っていた。そして、白黒であるべきだということが明らかになった。さて、これまでに白単色の吸血鬼というのはやったことがない(ああ、厳密に言えば『オデッセイ』の《悔悟せる吸血鬼》がスレッショルドを満たしたら白になる)。しかし、白黒の吸血鬼なら何度もやったことがある。私はクリエイティブ・チームと話し合い、白黒がふさわしい選択であるという同意を得た。これによって吸血鬼の新しい方向性を見出すことができ、プレイヤーが新しい吸血鬼デッキを作れるようになると私は喜んだのだ。
海賊は、青黒赤でうまく成立し、緑や白ではうまくいかないということは明らかだった。海賊と聞いてプレイヤーは興奮するだろうとわかっていたので、海賊を3色使う陣営の1つにすることに決めた。2つの陣営が決まったところで、他の選択について決めることにした。例えば、もう1つの3色陣営はこれと1色だけ重なるものになるが、黒を重ねることはできない(黒は2色陣営で使われている色である)。つまり、もう1つの3色陣営は、緑白青か赤緑白となる。緑白青にすると、もう1つの陣営は赤緑。赤緑白にするならもう1つの陣営は緑青だ。
それでは、中米風戦士にふさわしい色は何だろうか。戦闘を中心にした広く並べる戦略、と言えば、いかにも緑白っぽい。つまり、これがもう1つの3色陣営となる。我々はクリエイティブ・チームを訪ね、2つのことを尋ねた。戦士は青か赤かどちらが近いか。そして、赤緑と緑青のどちらがもう1つの陣営を作りやすいか。彼らの答えは、赤、緑青、だった。そこで陣営はこうなった。
- 吸血鬼 - 白黒
- 海賊 - 青黒赤
- 戦士 - 赤緑白(恐竜は戦士に合流し、そしてデザイン開始後、数か月で入れ替わって部族要素になった)
- 未定 - 緑青(この部族は、現地の精霊術師、そして恐竜を扱う獣使い、さらにマーフォークへと変わっていった。この部族の成り立ちについて詳しくは先週の記事を参照してくれたまえ。)
各陣営の色の組み合わせが決まったところで、次の大きな問題はそれぞれの陣営をどうメカニズム的に雰囲気付けるかだった。ただし、大量のメカニズムを使うわけにはいかない。『アモンケット』ブロックのメカニズムが平均よりもいくらか多かったので、それを引き下げようとしていたのだ。さらに、探検テーマ絡みで何か魅力的なことをすることになるし、海賊船なしで海賊というわけにもいかないので機体の再登場も決まっていた。そうなると、各陣営それぞれにキーワード・メカニズムを持たせるわけにはいかなかったのだ。
私はこの問題を解決するために、陣営が4つであることを利用しようと考えた。2つのメカニズムをそれぞれ2つの陣営で、いくらか異なる形で使うようにしたらどうだろうか。そしてその違いがそれぞれのメカニズム間で似ていれば、陣営を新しい形で関連付けることができるのではないか。
そこで我々は、4つの陣営を四角形の角に置くことにした。上下に並んでいる2つの陣営が、同じメカニズムを使うのだ。何かを求めて訪れたよそ者である吸血鬼と海賊は、略取/plunderというメカニズムを持つことにした。
これは『ギルドパクト』のグルールのメカニズムで、後に『基本セット2012』で再録した狂喜が元になっていた。これらのカードを唱えたとき、対戦相手にダメージを与えていたのであれば、そのカードは何らかの利益を得るのだ。この利益を部族ごとに独特のものにすることで、フレイバー的、メカニズム的な同一性を持たせようとした。吸血鬼は対戦相手に2点ドレイン(ライフを2点失わせて、自分のライフを2点回復させる)、海賊はルーター能力(カードを1枚引いて、カード1枚を捨てる)だった。
原住民である戦士と獣使いに持たせるのは、募兵/enlistというメカニズムに決めた。これは、追加のマナを支払うことでクリーチャー・トークンを作れるというものだった。ここでも、それぞれの陣営の独自性を出すためにトークンを違うものにする必要があった。戦士は白の1/1の戦士・トークンを、獣使いは緑の3/3で「ブロックできない」恐竜・トークンを作ることにした。「ブロックできない」という能力をつけたのは、そうすることでトークンをいくらか軽くすることができ、また恐竜らしく攻撃的にすることができると考えたからである。戦士・クリーチャー・トークンのほうが小さいので、生成するための追加のマナは少なくした。
次に、この4つの陣営をもう1本の軸で分けた。それぞれのメカニズムごとに、1つの陣営ではクリーチャーの戦場に出たときの効果でだけ存在するように、もう1つの陣営ではインスタントやソーサリーでだけ存在するようにしたのだ。これは、同じメカニズムを共有する部族の間でメカニズムの違いを際立たせるもう1つの方法だった。また、こうすることで同じタイプのカードを参照する2つの陣営をつなげるカードを作ることもできるようになったのだ。
《秘儀での順応》 アート:Mark Behm |
白はクリーチャー・呪文で重複しているので、クリーチャー中心のデッキを促すことになった。青はインスタントやソーサリーで重複しているので、呪文中心のデッキを促すことになった(募兵でトークンを作れることが、デッキ内のクリーチャーでない呪文の枚数を増やす助けとなった)。黒は略取メカニズムで重複しているので、対戦相手に戦闘ダメージを与えることに注力するようになった。緑は募兵メカニズムで重複しているので、マナ加速から次々とクリーチャー・トークンを作ることになった。
3色陣営2つで共通している唯一の色である赤は、部族を選べる部族カードが与えられ、複数の部族を組み合わせることができるようになった。場所や両面カードを使った探検のメカニズムはこの四角形とは別である。白青は部族とかかわらない2色のペアなので、これを場所関連の組み合わせにすることにした。(もう1つの部族にかかわらないペアである黒緑にもまた別のテーマが与えられることになった)。
ここまでで、ケンにデザインを任せる時期がやってきた。
デザインの後半
一歩引いてこの四角形を見てみると、全ては素晴らしく見えた。各色に中心があり、各部族に他の部族とのつながりがある(ただし、2色部族は例外だが、それは色でも重なっていないのだ)。陣営の面でも色の面でも、バランスが取れていてシナジーもあり、差別化もできていた。一種の美であった。しかし不幸にも、それは成立していなかったのだ。
デザイン空間の面でも、ゲームプレイの面でも、問題があった(特に略取)。そして全体の構造というのは基本的にプレイヤーには見えないものなので、紙の上では美しくて秩序立っていても、実際には全く美しくなかったのだ。そのため、ケンは何か別のことを試さなければならなかった。
彼が最初に手を付けたのは、略取の駆除だった。そのデザイン空間はあまりに狭く、またフレイバーを再現したものでもなかった。一方で募兵のことは気に入っていたので、ケンは4つの陣営を1つのメカニズムだけで表すというアイデアを思いついた。各陣営ごとに、独特のコスト支払いと独特のクリーチャー・トークンを割り当てたのだ。
部族 | 支払い | クリーチャー・トークン |
---|---|---|
吸血鬼 | ライフ2点 | 1/1絆魂 |
海賊 | カード1枚を捨てる | 2/2威迫 |
恐竜 | 3マナ | 3/3「ブロックできない」 |
マーフォーク | 土地1枚をバウンスする | 1/1果敢 |
例えば、吸血鬼の募兵呪文を唱えたなら、追加で2点のライフを支払うことで白の1/1で絆魂を持つ吸血鬼・クリーチャー・トークンを出せるのだ。
わずか1回のプレイテストで、ケンは彼のデザインの欠陥に気がついた。それぞれ異なる入力と出力を持つ4種類の募兵は、複雑さを減らすどころか増やしていたのだ。同じ単語で4種類存在すると、そのカードが何をするのかがわからず、いちいち読まなければならなくなるのである。
そのため、ケンは何か別のことを試すことになった。キーワードを2つにするための方法は、3色陣営2つだけにキーワード・メカニズムを持たせることかもしれない。陣営の流転は終わっていて、集中させるべき2つの陣営は海賊と恐竜だった。吸血鬼とマーフォークは、キーワードなしでメカニズム的テーマを持たせることができるかもしれない。つまり、キーワードを海賊に1つ、恐竜に1つ見つけなければならないということになった。
「デヴァイン」の始まりが迫っていた。デヴァインとは、デザインの最後に、デベロップがファイルに目を通して指摘を送るための時期である。大型セットでは、デヴァインの期間は2か月となっている。
ケン率いるチームはさまざまな海賊のメカニズムと、また別のさまざまな恐竜のメカニズムを試した。主たる目的は、それぞれの陣営ごとにフレイバーに富んでいて、そしてゲームプレイも良いメカニズムを作ることだった。
恐竜に関して最も興味深い失敗が、「喚起/call」というメカニズムだった。喚起を持つ恐竜は、通例大型の恐竜で、マナ・コストは非常に軽くなっていた。喚起持ちの恐竜は、その起動コストを1回支払うまで攻撃もブロックもできないのだ。これらのクリーチャーのほとんどは戦場に出たときの効果を持っていて、攻撃やブロックができなくてもその巨体を活かす方法は存在した(例えば、そのクリーチャーで格闘させることはできた)。
しかし、喚起は大不評だった。とにかく不愉快なのだ。大きくてエキサイティングな恐竜だ(よし!)。軽いコストでプレイできる(よし!)。使い物になるまでそれから何ターンも何ターンもかかる(えー!)。プレイヤーはエキサイティングな恐竜のメカニズムを望んでいて、欠点だと感じられるようなものは望んでいなかったのだ。
興味深いことに、この喚起をいじっていたのと同時期に、チームは呪文につけるおまけを検討し始めていた。このおまけは「土地旅/landtrips」と呼ばれていた。自分のライブラリーの一番上のカードを公開し、それが土地なら手札に、それ以外ならライブラリーの一番上か一番下に置くというものだ。
マーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebは後にこのおまけを呪文ではなくクリーチャーにつけるようにして、土地でなかった場合に+1/+1カウンターを置くようにして、これをキーワード化することを提案した。これは、この能力を持つクリーチャーが、新しい土地を見つけたり探す間に自分を高めたりする探検者であるというアイデアから、「探検」と呼ばれるようになった。
デヴァインが終わって、まだチームが気に入るような海賊のメカニズムも恐竜のメカニズムもできていなかった。一方、探検はプレイヤーからかなりの好評を受けて採用されることになった。このパズルを解き、海賊と恐竜のメカニズムを見つけるのは、サム・ストッダード/Sam Stoddardの手に委ねられることになったのだった。
何をデベロップすべきなのか
今日はここまで。来週、『イクサラン』のデザインについて、全てのメカニズムがどうやってできたのかという話を続けていこうと思う。いつもの通り、諸君がデザインの話をどう楽しんでくれているか聞かせてもらいたい。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、我々が強襲し激昂する日にお会いしよう。
その日まで、求める答えを得ることにこだわり続けられますように。
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