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Making Magic -マジック開発秘話-
トピカル・ジュース:急な話
トピカル・ジュース:急な話
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2016年12月5日
先週話題にしたとおり、私は大学時代に即興コメディを演じていた。そこでは、観客に提案を求め、そしてそれを元にして寸劇を演じたのだ。2006年のある日、私は記事にそういった即興性を取り入れると面白いだろうと考え、「トピカル・ジュース」というシリーズを立ち上げたのだった。
まず、諸君にマジックに関係する話題とマジックに関係しない話題を提案してもらう(今年はTwitterやTumblrを使って提案を募集した)。そのあと、その提案の中のいくつかを選び(今年はそれぞれ16個ずつ選んだ)、諸君の投票によって1つずつに絞り、そしてその両方の話題を組み合わせて1本の記事に仕上げるのだ。
過去の「トピカル・ジュース」について知りたい諸君はこちらをクリックしてくれたまえ。
今日はトピカル・ジュースの6本目となる。話題を集めるために、私はソーシャルメディア(TwitterとTumblr)を使った。それぞれの分類で16個ずつの話題を選び、Twitterの投票にかけた。4つの選択肢から投票してもらい、その1位になった選択肢を集めて再び投票を行った結果が、以下の表である。
マジックに関連する話題
マジックに関連しない話題
投票を受けて、マジックに関連する話題は「規則を破るとき」、マジックに関連しない話題は「マーベル・シネマティック・ユニバース」と決まった。
ネタバレ注意:これから、マーベル・シネマティック・ユニバースの映画の脚本の話をすることになることを予めお伝えしておく。まだ「アイアンマン」や「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」、「ドクター・ストレンジ」を見ておらず、ネタバレを避けたいと思う諸君には、今週の記事を読まないことをおすすめしておこう。
私の記憶によれば、父が私に初めてコミック本をくれたのは6歳のときのことだった。テレビや映画のおかげでスーパーヒーローのことは知っていたが、原作で読んだことはなかったのだ。6歳の時点ですでに本を読むのが大好きだったので、私はすぐにそのコミック本に没頭し、それ以来今日に至るまで大ファンなのだ。
コミック本に詳しくない諸君のために説明しておくと、コミックの2大メーカーがDCとマーベルである。DCの主なスーパーヒーローにはスーパーマンやバットマン、ワンダーウーマン、フラッシュ、グリーン・ランタン、アクアマン、グリーンアローなどがいる。マーベルの主なスーパーヒーローには、スパイダーマン、キャプテン・アメリカ、アイアンマン、ハルク、ソー、X-MEN、ファンタスティック・フォーなどがいる。子供時代の私はDCの大ファンだったが、思春期を迎えてマーベルの今ミックを読み始めた。子供の頃にもスパイダーマンのコミックは時々読んでいたが、成長してX-MENを知り、そしてそれ以来はマーベル寄りになっていった。他の出版社のコミックも読んでいるが、十代以来一貫して私の興味の中心はマーベルである。
当時、マーベル・コミックスは他のスタジオにキャラクターをライセンスする形で映画を作っていた。例えば、スパイダーマンの映画はソニー・ピクチャーズが作る一方で、X-MENやファンタスティック・フォーの権利はFOXが持っていたのだ。そのため、マーベルの映画ではあるもののそれぞれの作品ごとに別の世界として閉ざされていたのだ。コミックでは、全てのキャラクターは交流しているのでマーベル・ユニバース内の別々の地域にいるキャラクター同士が交流し合う可能性がある。これは映画ではほとんど起こらなかったのだ。
2008年(「アイアンマン」の公開とともに)状況が一変した。マーベルはキャラクターを他のスタジオにライセンスするのを止め、自社のスタジオで映画を作り始めたのだ。映画を自分たちの手で作るようになって、内的に関連した大きな映画の世界を作り、その中でキャラクターやイベントを混ぜることができるようになった(この世界を「マーベル・シネマティック・ユニバース」あるいはMCUと呼ぶ)。ある映画に登場したものが他の映画での出来事に影響を及ぼすことがあり得るようになったのだ。そして、さらには映画にとどまらず、テレビもこの一環に加えられることになった。
さて、これがどうマジックに関係するのか。興味深いことにかなりある。マーベルがコミック・ユニバースをシネマティック・ユニバースに適応させるために必要だった決定の多くが、我々が新しいセットを作る時に必要とする決定と同じである。特に、過去に決定したことを変更すること、すなわち何年も存在していた規則を取り上げて破ることが必要となるのだ。今回の記事では、MCUとマジックの両方を検証し、いつどのようにマーベルやウィザーズが自分たちの規則を破ることを選んだのかということを見ていこう。
理由#1:革新が必要である
創造的な工程の中で重要なことの1つが、何かが起こる余地が必要だということである。偉大な芸術は、その作業そのものが新しい方向に向かい、そして今まで掘り下げたことのない場所へと導かれた時に生まれることが多いのだ。長年使ってきた題材を使って作業をしていると、新しいことが既存の題材とうまくつながらないという不連続性が生じることはよくある話である。
これが起こったとき、もっとも重要なことはその新しいことがそれまでの雰囲気と矛盾しないようにすることである。MCUの場合、そのキャラクター、物体、あるいは出来事が、コミックでのそれまでの姿と全体的に矛盾していないかどうかが焦点になる。コミックのファンが映画で見て、コミックでのあり方の本質部分を再現していると感じるかどうかである。マジックの場合、新しいカード、メカニズム、あるいはテーマがそれまでのセットの同様のゲームプレイを再現しているかどうかということになる。新しい要素が、その元になったものを連想させる何かを作るために存在するのは問題ない。ここでいくつかの例を挙げてみよう。
「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」の製作中、脚本・監督のジョス・ウェドン/Joss Whedonは面白い発想が浮かんだ。アベンジャーズの中に秘密を隠している人物がいるとしたらどうだろう。伝統的なアベンジャーズに比べて、世界に繋がりの深い普通の人間であったとしたらどうだろう。この発想から、ホークアイには他のメンバーに秘密にしている家族がいるということになった。彼は普通の妻と子供がいて、遠くの農場に隠れ住んでいるのだ。
ここで問題がある。コミックでは、ホークアイには家族がいない(ああ、コミックに詳しい諸君。確かにアルティメットの世界では彼に家族はいたが、登場直後に死んでいる)。彼は結婚したことはあるが、その相手は他のスーパーヒーロー(モッキンバード......そう、S.H.I.E.L.D.エージェントのボビィ・モースだ)とであり、不幸な別れを迎えている。彼に家族がいることにするのは、連続性の意味では問題がある。
しかし、ホークアイというキャラクター的には問題はない。ホークアイは常に人間性に重きをおいたスーパーヒーローである。スーパーパワーを持っておらず、平均的な読者により近いのだ。彼に家族がいるとしても、コミックとは矛盾していても、彼のキャラクターとは矛盾していないのだ。
マジックに関しては、『スカージ』の《ドラゴン変化》が例にできる。
このカードの能力のひとつが「飛行を持たないクリーチャーでは、あなたを攻撃できない。」である。この能力で有名なのは『レジェンド』の白単色のエンチャント、《Moat》であり、まったく赤の能力ではない。では、なぜこれがこのカードに与えられたのか。『スカージ』のリード・デザイナーであるブライアン・ティンスマン/Brian Tinsmanはトップダウン・デザインで《ドラゴン変化》を作った。この呪文を唱えることで自分の姿をドラゴンに変えるのだ。飛行を持つクリーチャーからしか攻撃されなくなるのは、自分が飛行を持つから――なぜなら、自分がドラゴンだから!
カード全体のフレイバーは間違いなく赤なので、ブライアンはこの赤くない能力をこのカードに持たせたいと考えた。この能力は赤の弱点を補強するものではないということが重要である。赤という色は、地上のクリーチャーに対処することは得意なので、この能力をもたせることはカラー・パイを危うくするものではないのだ。
このどちらの場合でも、前例違反は普通でない方法にせよそのキャラクターや色の本質を強化するものを作るために必要なものだった。ホークアイは間違いなくホークアイであり、赤は間違いなく赤だったのだ。
理由#2:新しいテーマの強化が必要である
あらゆる創造的な試みにおいて重要なのは、その大テーマが何であるかを認識し、そのテーマが作業の全体を通して表現されるようにすることである。新しいテーマが、それまでに、あるいは現在の文脈下で、掘り下げたことのないものであった場合には、過去からの逸脱が必要となることが多い。
MCUにおけるこの好例が、先月公開された「ドクター・ストレンジ」の映画である。映画の中で、ステファン・ストレンジはエンシャント・ワンのもう1人の弟子であるカール・モルドと友人になる。映画を通して、最終盤で敵対するまでの間彼ら2人は協力して戦っていくのだ。コミックではバロン・モルドと呼ばれているモルドはドクター・ストレンジの友人になったことはない。彼はドクター・ストレンジが登場するコミックの2作目で登場し、それ以来ずっと敵対し続けているのだ。
映画の脚本・監督は、ストレンジとモルドの間により複雑な関係を作りたいと思ったのだ。モルドを非常に厳格な倫理を持つ弟子として描くことで、ドクター・ストレンジが倫理的にグレーゾーンなことに踏み込むことに敵対させることができる。また、関係性を持たせることで今後の作品での関わりに大きな文脈や感情を持たせることができるのだ。一言で言うと、新しいテーマをもたらすために、主要なキャラクターをコミックから離れて再構築することにしたわけだ。
マジックで例を挙げるなら『新たなるファイレクシア』エキスパンションが挙げられる。『ミラディンの傷跡』ブロックはミラディン人とファイレクシア人の戦争を描いたもので、その最終セットでは戦争の結果を描くことになる。我々が前もって第3セットの名前を2つ公開していたので、ユーザーはどちらが勝つかすら事前には知らされていなかったのだ。
このセットをデザインする時点で、我々はファイレクシア人が征服した時に世界がどれほど変化したかを伝えたいと考えていた。そのため、我々は世界がどれほど毒に侵されたかを感じさせられるメカニズムを掘り下げていった。呪文に、対戦相手がライフを失うような副次効果をつけることを試した。通常、プレイヤーのライフを失わせるのは黒だけ(あとは直接火力の赤)である。白、青、緑は伝統的にしてこなかったことではあるが、数語でイメージを伝えることができるのだ。
《はらわた撃ち》 アート:Greg Staples |
《ドラゴン変化》同様、それが色の欠点を補ってしまうようなことがないようにした。ダメージは非常に一般的で、ライフの損失を少量に制限することで長期的に被害をもたらすことなく雰囲気を作り出せると判断したのだ。我々は明らかに通常しないことをしていたが、それはセットに全体として異なった雰囲気を与えるために注意深く行なったことだったのだ。
両方の例において、過去からの変更は大テーマを強化するためのものであった。また、注意深く、その変更が将来的に有意義であるように意識して行われたのだった。
理由#3:過去が複雑に入り組んでいる
歴史あるシステムの一部であることからの利益は多く存在する。衆知の通り、マーベル・コミックスが「Fantastic Four #1」を最初に発行したのが1961年である。マジックは1993年に始まっている。これらのシステムで働いていれば、何年にも渡る伝統から得るものがある。そのほとんどは良いものだが、過去があまりにも複雑に入り組んでおり、それを解決するために変更しなければならないこともあるのだ。
MCUの例として、再び「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」を挙げよう。アベンジャーズの映画2作目で、世界を思うがままに再編しようという悪意を持った人工知性に従うスーパーヴィランのロボットであるウルトロンが初登場した。コミックでは、ウルトロンはハンク・ピムという科学者が作ったものである。ハンク・ピムはスーパーヒーローのアントマンであり、アベンジャーズの創設メンバーの1人でもある。問題は、当時ハンク・ピムはまだMCUに登場していなかったということである(彼は後に映画「アントマン」で登場し、マイケル・ダグラス/Michael Douglasが演じた)。彼をウルトロンの発明者とすることは難しかったのだ。
さらに、ジョス・フェドン/Joss Whedonはウルトロンを直接アベンジャーズと関連付けたかったのだ。ヴィランがヒーローの誰かとつながりを持っていれば物語はより良いものになる。そのため、彼はウルトロンをハンク・ピムでなくトニー・スタークの作品にすることにした。トニー・スタークは衝動的に行動しがちな発明家なので、この変更は物語上の観点から充分ありうるものになった。これはコミックの明白な逸脱だが、これは物語を明瞭で単純なものにするために行われたのだ。
マジックの例は歴史をかなり遡る。初期のマジックでは、青以外の各色にアーティファクト破壊の呪文があった(黒には1枚だけで、しかも非常に弱かったが)。しかし、一番効率的だったのはこのカードだった。
《解呪》は、当時最も効率的にアーティファクトやエンチャントを破壊する手段だった。数年後、私はカラー・パイをメカニズムと関連付けて深く検証するという大プロジェクトを始めた。そこで掘り下げたことの1つが、敵対色間でのさまざまな対立だった(色の対立については先月語っている)。緑と青の対立を見たとき、この2色の対立の根本にあるのは人工と自然の対立だ、と気がついた。青は人工、つまり必要なものを作れることを愛している。緑はその逆で、人間の手によらない自然のものに価値を置いているのだ。
この対立についてさらに研究していくうちに、それが青と緑のアーティファクトとの関係性を定義していると気がついた。青はアーティファクトを愛しているので、アーティファクトともっとも親和性の高い色であるべきである。緑はその逆で、アーティファクトを嫌っているので(中には自然のアーティファクトもあってそれは好きだ)、アーティファクトを最も簡単に破壊できる色であるべきである。これに加えて、青と緑には幻影と現実の対立もあり、緑はアーティファクトだけでなくエンチャントも含む、自然でないものを破壊することに焦点をおいた色であるべきなのだ。
私は、アーティファクト破壊は使われすぎていると感じていたが、カラー・パイの検証結果からアーティファクトやエンチャント破壊の呪文は間違った色に置かれていると気がついたのだ。最も効率的にアーティファクトやエンチャントを破壊するのは、白でなく緑に中心が置かれるべきなのだ。私はそれまでの常識を破り、緑をアーティファクト破壊の第1色に、赤を第2色に(赤はアーティファクトを殴るのが好きだ)、白を第3色にした。そのため、白のアーティファクト破壊の効率を(レアリティ、マナ・コストの両面で)引き下げることになった。
この両方の話で、今後最も筋が通るようにしていくためには、過去を見て、過去の判断を再考することが必要だった。綿密な検証の結果その規則が正しくないと気がついた結果、規則を破ることが必要になることもあるのだ。
理由#4:過去のシステムが時代遅れである
過去のシステムを使うことの副産物には、物事が変わってしまっていて過去の決定は過去のままには通用しないと気づくということもある。
MCUの例は、映画「アイアンマン」の1作目にある。この映画の出だしではトニー・スタークが初めてアイアンマンのアーマーを作ったときのオリジン・ストーリーが描かれている。彼は外国で捕虜になり、脱出するためにアーマーを作った。原作コミックでは、1960年代、トニーはベトナム戦争でベトナムで捕虜になっている。新作映画では舞台を現代(2008年)にしたかったので、歴史的にベトナム戦争は舞台にできない。そこで、映画ではオリジン・ストーリーの場所をアフガニスタンにしている。この変更によって、物語の核を変更しないまま、現代の観客につながりのあるものにしているのだ。
マジックの例では、マジックの初期に遡ることになる。カラー・パイの友好色や敵対色を強調するため、初期のセットでは有効色でプレイすることを強く推奨し、敵対色を一緒にプレイすることを推奨するカードはほとんど存在しないようになっていた。この理念は2色土地にも影響し、すぐに友好色2色土地が敵対色2色土地よりもはるかに数が多くなっていった。
この理念は長年、私が『ラヴニカ』を作るまでそのままだった。『ラヴニカ』に強い個性を持たせるため、私は10組の色のペアすべてについて、色基盤や2色土地も含み、均等に扱うという決定を下したのだ。このブロックの人気を見て、開発部は2色土地に関する理念を振り返り、失敗していたと判断した。カラー・パイ上で友好色敵対色の関係は重要だが、それがデッキタイプの多様性を損なってはならないのだ。そして、「友好色のほうが強い」という理念が捨てられ、2色土地を同じ割合で作るという決定が下されたのだった。
長い歴史を持つ商品を手がけるときは、現代の需要を認識し、過去の決定を覆すことになっても調整する必要があるのだ。
ひと断落
マーベルのコミックと映画を好む層は大きく異なるが、私は両方とも好きだということは面白いことだ。私は新作映画(テレビ放送も。今日の記事ではテレビ放送のことはあまり触れていないが、マーベルはテレビでもすごいことをしている)を見て、彼らがコミックをアレンジするにあたってどんな判断をしたのかを見るのが大好きだ。それによって新しいセットを作るときの考え方のヒントにもなり、今後のマジックのためにこれまでのことをどう変更していくかを考える助けになるのだ。私は、単に規則を破るために規則を破るようなことはしないが、規則を破ることがその商品において最善であれば躊躇なく規則を破りたいと思っている。
これで今日のトピカル・ジュースは終わりだ。これまでのトピカル・ジュースとは少々異なっているので、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、常磐木メカニズムについて違う形で取り上げる日にお会いしよう。
その日まで、あなたが正しい理由に基づいて規則を破りますように。
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