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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

戦乱に向けて その1

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戦乱に向けて その1

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2015年9月7日


 『戦乱のゼンディカー』プレビュー第1週にようこそ。いよいよ次なる大型セットの話をするときがやってきた! 『戦乱のゼンディカー』のデザインには非常に面白い話があるが、これはデザインの記事なので、それを話していくべきなのだろう。それだけではなく、私がデザインしたクールなプレビュー・カードもお披露目しよう。気になるかね? それではさっそくはじめよう。

 『戦乱のゼンディカー』のデザインの起点を理解するために、旧『ゼンディカー』ブロックに遡らなければならない。土地メカニズムにはかなりの可能性があるという感触を得たことから、『ゼンディカー』のデザインは始まった。この構想は当時は特に好意的に受け入れられたわけではなかったが(「他に何があるんだ?」というのがほとんどの反応だった)、私が時間をかけて多くの証拠を積み上げた結果、開発部は私の展望を示す機会を与えてくれたのだ。

 『ゼンディカー』のデザイン・チームは1ヶ月以上かけて土地のメカニズムを作り、そして上陸やそのほかにもいくつもの土地関連のカードやサイクルを作りあげ、大量に生み出されることになるマナを使い切るためにキッカーを再録する必要があると理解した。このメカニズムの組み合わせから、クリエイティブ・チームはゼンディカーを冒険の世界にするという構想を得たのだ。そして、それを反映して、我々は同盟者や罠、探索など冒険の世界らしさを表すメカニズムをデザインしたのだ。

 開発部は私率いるデザイン・チームの作品を気に入ったが、それで3セットが作れるかどうかは懐疑的だった。そこで第3セット(となる大型セット)はメカニズム的に独立したもので、別の世界を舞台にするという構想が生まれた。クリエイティブ・チームは2つめの世界を作る余裕がなかったので、ゼンディカーを舞台としたままでメカニズム的な大変化を正当化できるような過激な物語上の変化をもたらすということにした。

 次元の内側に何かが封印されており、それが大地の強烈な反応を生み出しているのだ。ゼンディカーには巨大な古の無色の巨人が封印されており、ニコル・ボーラスが糸を引く一連の出来事を経て、エルドラージが解放されているのだ。第3セットは『エルドラージ覚醒』となり、この奇妙で危険な怪物たちの存在によって世界がどうなったかを描いていた。何千年も封印されていた、計り知れないエルドラージはついに解放され、そして......そ こ だ!

 そう、『ゼンディカー』ブロックはいかにもここからというところで終わっている。エルドラージは解放された。それがゼンディカー、そしてゼンディカー人にとって何を意味するのか? 多元宇宙にとって何を意味するのか? 3体の巨人はゼンディカーに残るのか? それともどこかに行くのか? それは――将来語られることになる。これが重要なのは、私が『戦乱のゼンディカー』のデザインを手がけることになったとき、なによりもまずこの続きを描かなければならないということがわかっていたからである。


真っ逆さま》 アート:Clint Cearly

世界の衝突

 この続きを考えるにあたって、4つの可能性があるということに気がついた。

  • 結果#1: エルドラージは、ゼンディカーに多少被害を与えてどこかに行った。
  • 結果#2: エルドラージ(あるいはその一部)は残ったが、ゼンディカー人は何とか耐えきって一見勝った、が、実際は......?
  • 結果#3: エルドラージ(あるいはその一部)は残り、今もゼンディカー人と戦い続けており、決着は見えない。
  • 結果#4: エルドラージ(あるいはその一部)は残り、ゼンディカーを制圧した。ゼンディカー人は全てを失いつつある。

 これを1つずつ検討していこう。

結果#1: エルドラージは、ゼンディカーに多少被害を与えてどこかに行った。

 これはどうも不満だ。戻ってきたら危険はなくなっていた。そうなればゼンディカーを元にした楽しい新セットを作るのは簡単だろう、しかしエルドラージ抜きでは、前回のヒキは何だったのかということになる。

結果#2: エルドラージ(あるいはその一部)は残ったが、ゼンディカー人は何とか耐えきって一見勝った、が、実際は......?

 この結果について感じるのは、「あって、やった」というところだ。気付かれないうちに世界がゆっくりと支配されている、というのはミラディンでやったことだ。一ひねり加えることはできるだろうが、物語の展開やメカニズム的な実装がそっくりになってしまう危惧がある。

結果#3: エルドラージ(あるいはその一部)は残り、今もゼンディカー人と戦い続けており、決着は見えない。

 マジックは常時戦っているものだ。構造的にはこれで間違いないが、これではエルドラージの恐ろしさが足りないのではないかと考えられた。ゼンディカー人が生き残るために抵抗できるなら、エルドラージはそんなに恐ろしいものではないのではないか?

結果#4: エルドラージ(あるいはその一部)は残り、ゼンディカーを制圧した。ゼンディカー人は全てを失いつつある。

アート:Jung Park

 この4つめの結果は、いわば「反乱軍の選択肢」だ。外部からの侵略者などの悪党が戦いを制し、小さな反乱軍へと追い込まれた善人たちが自分たちの住処を守るために必死に戦うというものだ。

 どの結果もそれぞれ違うデザインになるだろう。ということで、私はクリエイティブ・チームに、どの結末が物語的に望ましいかを尋ねることにした。もちろん私は4つめの選択肢が好きだが、他の選択肢(1つめ以外なら)も可能だと感じていたのだ。そして、クリエイティブ・チームも、エルドラージが支配したゼンディカーへの帰還が一番筋が通っていると同意してくれた。

エルドラージの帰還

 全体の構造を踏まえて、次の問題は、何を再録すべきかだ。かつて訪れた世界を再訪するブロックを手がける場合、帰還らしさを感じられるように充分なだけのメカニズム的要素を再録し、同時に、前回の焼き直しだと感じられることがないように充分なだけの新しいものを入れるというバランスが大事なのだ。

 ゼンディカーの次元を再訪するということは、メカニズム的には、2つの擬ブロックを再訪するということである。『ゼンディカー』『ワールドウェイク』は土地メカニズム、冒険の世界、ゼンディカー人が主だったが、『エルドラージ覚醒』はエルドラージとそれを止めるための抵抗が主だった。我々はこの両「ブロック」のメカニズムを、両面から入れなければならないのだ。

 当時のメカニズムを見てみよう。

(「フルアートの基本土地」を載せている。このセットに関する市場調査をおこなったところ、「フルアートの基本土地」はこのセットで人気の高い「メカニズム」だったのだ。実際にはメカニズムではないが、プレイヤーが期待している内容なのは間違いない)

『ゼンディカー』
  • フルアートの基本土地
  • 上陸
  • キッカー
  • 同盟者
  • 探索
『ワールドウェイク』
  • 多重キッカー
『エルドラージ覚醒』
  • 滅殺
  • Lvアップ
  • 反復
  • 族霊鎧
  • 無色呪文
  • エルドラージ・落とし子

 最初にすることは、これを再録可能なものと、再録できないあるいはしたくないもの、に分けることだった。

再録できるもの
  • フルアートの基本土地
  • 上陸
  • キッカー
  • 同盟者
  • 探索
  • 多重キッカー
  • 族霊鎧
  • 無色呪文
  • エルドラージ・落とし子
再録できないもの
  • 滅殺
  • Lvアップ
  • 反復

 まず、再録できないものについて1つずつ見ていこう。市場調査によると、滅殺は非常に嫌われているメカニズムだった。結局のところ、これは決められたら負ける類いのものなのに、ゆっくりと苦しめられながら、逆転の可能性も残さずに負けさせてくるものである。また、滅殺によってゲームの展開は同じになり、デベロップ的にも思いクリーチャーに持たせる以外の使い方は難しかった。

 市場調査ではLvアップは賛否両論だった。カード枠は格好悪くてごちゃごちゃしていた。そして、この非常に複雑なメカニズムの存在が、『エルドラージ覚醒』が「新世界秩序」導入以後で唯一「新世界秩序」に従っていない現代セットになった原因の1つでもあった。2つの「ブロック」を詰め込むという複雑さの問題を既に抱えている状況で、このような複雑なメカニズムを使う余裕は残されていないのだ。

 反復は『タルキール龍紀伝』で最近使ったばかりだ。『タルキール龍紀伝』のデザイン・チームは私のところにやってきて反復について相談してきて、私はかまわないと言ったのだ。反復はフレイバー的に、エルドラージにもゼンディカー人にもほとんど重要ではないからである。

 再録するメカニズムはフレイバーに富むものであることが重要なので、次は、再録できるもののリストを「エルドラージかゼンディカー人にとってフレイバー的に重要なもの」と「フレイバー的に重要でないもの」の2つに分けていこう。

フレイバー的に重要
  • フルアートの基本土地
  • 上陸
  • 同盟者
  • 探索
  • 無色呪文
  • エルドラージ・落とし子
フレイバー的に重要でない
  • キッカー
  • 多重キッカー
  • 族霊鎧

 フレイバー的に重要でないものを見ていこう。キッカーや多重キッカーは、メカニズム的な意味で、ブロックとして「土地テーマ」要素のためにプレイヤーが大量のマナを抱えることになる旧『ゼンディカー』ブロックでは有意義だった。キッカーというメカニズムそのものには何もフレイバー的なものはなく、ただの機能だけである。族霊鎧はプレイ感の良い安定したメカニズムだったが、ゼンディカー人をフレイバー的に再現するために役に立ったとは言えない。また、大量のオーラを必要とすることになるが、そもそもオーラをそれほど取り上げる必要はない。

 それでは次に、この残されたメカニズムを再び2つに分けよう。エルドラージとゼンディカー人だ。

エルドラージ
  • 無色呪文
  • エルドラージ・落とし子
ゼンディカー人
  • フルアートの基本土地
  • 上陸
  • 同盟者
  • 探索

 こうして見てみると、簡単に再録できるエルドラージの要素はそう多くないことがわかる。無色、特に無色の呪文(通常、無色の呪文は存在しない。無色のパーマネントならアーティファクトがある)と、エルドラージ・落とし子だ。エルドラージにはもちろん巨大クリーチャーがいる(エルドラージの印象的な特質だ)、それを唱えられるようにするために何らかの手段が必要になるのだ。無色呪文とエルドラージ・落とし子は採用。

 ゼンディカーは土地をテーマとした世界なので、フルアートの基本土地が再録されることは強く期待されている。これを再録するのは簡単だ。デザインやメカニズムに実際上の影響はないが、初期に(アート・チームと相談してから)採用を決めた。次は上陸だ。ゼンディカーで最も象徴的なメカニズムは上陸なので、これは絶対に再録したい。

 次は同盟者。もちろん、このクリーチャー・タイプは再録する。問題は、同じメカニズム(ただし、同盟のメカニズムは『ゼンディカー』では名前がついていない)を持たせるか、違うメカニズムを持たせるかだ。デザインは、同じような感覚を保ったままで少し違うことを試してみる余地があると判断した。『ゼンディカー』の同盟者と『戦乱のゼンディカー』の同盟者を同じデッキに入れたとき、両方ともうまく働くようにしようと考えたのだ。

 探索や罠についてもかなり議論した。これらを旧『ゼンディカー』ブロックに入れたのは、冒険の世界というテーマを引き立たせるためだった。問題は、今回の物語のテーマがエルドラージとゼンディカー人であり、背景のデザインに割く余裕があまりないということだった。先入観を持たず、探索や罠を入れるのにいい場所ができたなら入れることを検討しよう、と決めた。しかし、最初の段階では、どちらもこのセットには入れないということになったのだ。

 こうして検討した結果、次のものが残った。

  • 無色呪文
  • エルドラージ・落とし子
  • フルアートの基本土地
  • 上陸
  • 同盟者(新しい、同じぐらいフレイバーに富んだメカニズムつきで)

計り知れないものを計る

 エルドラージをメカニズム的に定義することの問題を理解するため、『エルドラージ覚醒』を振り返る必要がある。当時のリード・デザイナーだったブライアン・ティンスマン/Brian Tinsmanは、エルドラージを生命にすると決めた。クトゥルフ神話の長年のファンだったブライアンは、古の、巨大な、異質な、世界を喰らう何かをデザインすることになった。さて、どうやって古のものだと示す? 彼は、マナが色に分かれる前の存在であると示すため、無色に決めた。 どうやって恐るべきサイズだと示す? 単純にデカくした。では、それほどに重いものをどうやってプレイできるようにする? ここで、ブライアンは環境全体が遅くて巨大なエルドラージでさえプレイされうるような「大艦巨砲マジック」を思いついたのだ。

 ブライアンは、エルドラージをプレイできるようにするための方法をもう1つ思いついた。最初は、プレイヤーにいつでも無色1マナに変換できるカウンターを与えるというメカニズムだった。このカウンターは毒とあまりにも似ていて、毒は次のブロックで帰ってくる予定だったので、ブライアンはその重なりを回避するためにカウンターを0/1のクリーチャーにした。このエルドラージ・落とし子は非常におもしろく、カウンターよりもおもしろくプレイされることになった。エルドラージの貪欲さを表すために、彼は滅殺メカニズムを作った。エルドラージは対戦相手のパーマネントをごっそり「食べた」のだ。

 ブライアンは最終的にエルドラージを生命に仕上げたが、代償があった。上記の通り、新世界秩序は既に登場していた。ブライアンはマジックのデザインに専念してはいなかったので、これが新世界秩序採用後に初めて彼が手がけたセットであり、彼は新世界秩序に慣れていなかったのだ。彼の展望が実現できるような別の歴史の流れがあれば、彼は新世界秩序で弾かれることになった内容を採用していたかもしれない。

 最終的には、他の何とも似ていないリミテッド環境ができあがることになった。何が起こっているのかを把握できていれば、あらゆる特殊なゲームプレイがあり得た。把握できていなければ、デッキを組み上げることすらできないような罠がそこかしこに潜んだリミテッドとなったのだ。2マナ2/2クリーチャーのような単純なものをデッキに入れるのは普通なら有効だが、駄目なのだ。これらの結果、『エルドラージ覚醒』に関するプレイヤーの評価は見事に二分した。リミテッドが大好きなプレイヤーは、このセットが大好きになった。違っていて、予測不能で、技術が活かせるのだ。リミテッドがそれほど好きでないプレイヤーは、このセットを大嫌いになった。何がどうなっているのか理解できず、いつでもこれっぽっちも楽しくない局面に追い込まれて負けてしまうのだ。


ウラモグの破壊者》 アート:Todd Lockwood

 私率いるチームには、多くのプレイヤーを切り捨てないようにしながらエルドラージの楽しい部分を再現する、という課題が課せられた。これは本当に難問だった。滅殺を使いこなせるとは思えなかった。「大艦巨砲マジック」が使えるとは思えなかった(プレイヤーがマナ加速して巨大エルドラージを出せない、という意味ではない。普通のマジックもできるようにする、という意味だ)。入れられる巨大クリーチャーの数も、そのレアリティも考える必要があった。

 1つだけ明らかだったことがあった。エルドラージの特徴で採用できるものが1つある。無色だ。エルドラージの最も印象的な特徴の1つが、無色で、無色の呪文を唱えられるということだった。『エルドラージ覚醒』を振り返ってみると、エルドラージの中には無色でないものもあった。黒、赤、緑にあったのだ。しかし、人々の記憶には残っていない。エルドラージに統一した特徴を与えるのであれば全てのエルドラージを無色にする必要があった。

 ただし、全て無色のエルドラージには問題がある。『ミラディン』のデザインのときに苦労して学んだことだ。エルドラージを力強い戦力にするのなら、充分な枚数のカードが欲しい。しかし無色のカードを増やしすぎると、カラー・パイが台無しになってしまう。カラー・パイを無視しないで無色性を持たせる方法はあるだろうか? ――その方法が見つかったのだ。

 『未来予知』のミライシフト・カードの1枚、《幽霊火》。これは唱えるのに赤マナが必要な直接火力呪文だが、無色なのだ。当時は白のプロテクションがあふれており、赤の呪文から白が守られていたので、それを回避するために作られたものだ。《幽霊火》はまったく違う目的で作られたものだったが、ここではこの問題を解決するのに使えるものだった。エルドラージは、唱えるのに色マナが必要であっても無色なのだ。

 デザインの間を通して、我々はこれらのカードにただ無色だと書いていた。当時は、枠だけで充分無色だとわかるので、それをキーワードにする必要があるとは信じていなかったのだ。デベロップ中に、これらのカードに特別な枠をつける必要があると明らかになり、そしてどうなっているのか示すためにキーワードにすることが必要になった。こうして、これらのカードには欠色というメカニズムが与えられることになったのだ。

 これによって全てのエルドラージにメカニズム的繋がりができたことを気に入っている。さらに加えて、もう1つ大きな利益があった。全てのエルドラージを無色にして、「無色テーマ」を作ることができた。部族というカード・タイプはもう使わないが、これでクリーチャーでないエルドラージのものを参照する手段ができた。すべてを無色にすることで、メカニズム的に参照できる方法で関連づけることができるようになったのだ。また、前のブロックでは変異を大きなテーマにしていたので、「無色テーマ」はスタンダードでこの2つのブロックをつなぐ働きもしてくれることになる。

 1つの問題を解決したが、ジグソーパズルはまだ完成にはほど遠い。来週は、エルドラージをメカニズム的につないだ方法について、またゼンディカー人のメカニズムについても語るとしよう。

 終わる前に、プレビュー・カードを公開せねばならない。エルドラージ・カードだ。まずはカードを見て、それからそのデザイン秘話を聞いてもらおう。

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 面白いことに、このカードは最初緑の欠色ソーサリーで、10/10の無色のエルドラージ・トークンを2体出すというものだった。デベロップ中に、10/10のエルドラージで、唱えたときに誘発して双子を出すように決定された。つまり、打ち消し呪文で止められるのは両方ではなく1体だけなのだ。

 《荒廃の双子》から、このセットのエルドラージの恐怖がどんなものか感じてもらえれば幸いである。

 それではまた次回、『戦乱のゼンディカー』のデザインの話の続きをする日にお会いしよう。

 その日まで、多くの無色のものがあなたのプレイを彩りますように。

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