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Making Magic -マジック開発秘話-
緑への再訪は簡単ではない
緑への再訪は簡単ではない
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2015年8月10日
この5週間にわたり、13年前に書いた色の哲学に関する一連の記事を振り返ってきた。白(再び大いなる白の道を)から始めて、青(真の青への再訪)、黒(再び訪れた黒の中で)、赤(またまた真っ赤に)。そして今週はいよいよ緑だ。
この5つの記事それぞれで、私は元の記事でも使った同じ6つの質問に、年を経て得た新しい知見をもって答えている。なかでも緑は、元の記事(リンク先は英語)から比べてもっとも変化の大きかった色である。その6つの質問とは、これだ。
- その色の望みは何か? 最終的な目標は?
- その目標を達成するために、その色はどのような手段を使うのか?
- その色が意識するのは何か? その色が表すものとは?
- その色が嫌うものは何か? その色が否定するものとは?
- その色が友好色を好み、敵対色を嫌うのはなぜか?
- その色の最大の長所は何で、最大の欠点は何か?
5つめにして最後の記事なので(将来、13年ぐらいあとにまた再訪するまでは)、さっそく始めよう。
その色の望みは何か? 最終的な目標は?
緑は、受容を求める。
他の色はどれも、世界をよりよくするために世界をどう変えていくかに焦点を当てているが、緑は世界を変えることを望んでいない。緑は、世界の全てのものは正しいのだと確信しているのだ。自然の秩序は美しく、人生のあらゆる問題に対する答えを含んでいる。鍵は、腰を据えて学び、自分の目の前にあるものが何なのかを認識することなのだ。
《Fastbond》 アート: Nils Hamm |
各個人はそれぞれ必要な可能性をすべて持って生まれてくる。楽しい人生を送るための秘訣は、自分が生まれてきた役割を認識し、それを受け入れることである。自分が運命づけられていることをするのだ。世界は精緻なシステムであり、我々それぞれがその一部分を担っている。それは想像しなければならないことではなく、遺伝子に刻み込まれたことだ。ただ自分を省みればいい。
さらに、自分が大局の中にどうやって適合するのかを学ぶ必要がある。自然は美しい構造を持っている。人生の中で、自分の果たすべき役割と、その役割が生命の網にどう繋がるのかを理解するのだ。誰も1人ではない。すべてが相互依存性に満ちた複雑なシステムの一部なのだ。
問題は、あまりにも多くのことが起こっていて、何がすでに存在しているのかを見失いやすいということである。あまりにも多くの個人が、腰を据えて大局を理解することなく些事にこだわって生きているのだ。緑は、他の色は現状を理解するための時間を使っていないだけだと心から信じている。
その目標を達成するために、その色はどのような手段を使うのか?
個人が自然に到る時間を取らないなら、緑が自然を彼らに見せつける必要がある。緑は、人生に提示されたものがあると理解さえすればその利益を受け入れるだろうと信じているのだ。緑が見ているものを他の人にも見られるよう助ける方法を見つけることが鍵なのだ。
緑の、他人に緑が見ているものを理解させるという目的における最大の道具は、自然そのものであり、さまざまな形を取って働いてくれる。
緑はクリーチャー、特に野性の生態系の一部であるクリーチャーとは特別な絆を持っている。つまり、緑は他の色に比べてクリーチャーの色だということである(ただし白には非常に多くの小型クリーチャーがあり、強さのために協力している)。緑は大きく恐ろしいクリーチャーを使えるのだ。緑は野生の動物という武器庫を活用している。
《孔蹄のビヒモス》 アート:Chris Rahn |
緑はまた土地にも深く関わっている。土地はいろいろな形で緑の力になっている。そのおかげで、緑は新しい繋がりを素早く見つけることができ、素早くマナを生み出すことができるのだ。同時に、そのおかげで緑は重い呪文を早く唱えることができ、他の色のマナも比較的簡単に手に入れることができる。
緑はまた生命そのものとも深く関連しており、活性化させる能力を持つ。これと深く関わっているのが、緑の成長との繋がりであり、これもまた他者を圧倒するために用いられるものである。緑の、自然の秩序との密接な繋がりは、普通なら時間のかかる自然の営みを加速させることができるのだ。
これらすべては、緑が自然のできることを示すために自然の要素を用いているということである。繰り返しになるが、緑は、個人が世界の真実を受け入れない理由はただ理解不足だけだと感じているのだ。周りにある現実を受け入れるためには、内的な調和が必要であり、そして緑は誰もがこの調和とともにあることを認めるようになるよう尽力しているのだ。
その色が意識するのは何か? その色が表すものとは?
緑にとって重要な核となるものを列記していこう。
生命(誕生)
自然の持つ最も有力なものの1つが、新しい生命の創造である。緑はこれが中心的な強さだと理解しており、この能力を育て称えるためにあらゆることをする。
成長
緑は何もしない色というわけではない。自然そのものが非常に活発なのだ。他者がのんびりしている間に、世界はゆっくり、しかし確実に成長している。この止められない変化の力は自然の持つもう1つの非常に強力な要素であり、可能な限り緑が活用しようとしているものである。
自然(と自然の存在)
緑は自然の産物と人工の産物との間に大きな差をつけている。前者は世界からの偉大な贈り物で、後者は忌まわしきものである。世界は素晴らしいものを作っている。緑はそれを賞賛し、常にそれを緑の目的のために使う方法を探し求めている。
《境界なき領土》 アート:Cliff Childs |
現実(幻影の対義語として)
真実は世界に存在する強力な力の1つである。緑が真実を宣伝するのは、本当は何なのかをあらわにするからである。他の色は嘘やプロパガンダを用いて個人が真実を見ないように仕向け、生命を誤解させようとする。そのため、緑は現実を曲げるあらゆるものを頑固に拒絶するのだ。
共同体
人間は孤立した個人ではなく繋がりを持った群衆である。緑の理念の中には、それぞれが他人の人生に関わるありかたの重要性を理解することも含まれる。その大きなグループが果たす役割を理解することは、世界がどう回っているかを理解する中で不可欠なものである。
相互依存
単体で存在するものなどない。各個人の行動は、その周りにいる個人に帰結する。緑が世界に広めようとしているメッセージを受け入れるなら、多くの他者とともにあるのだということを理解するのだ。
心霊主義
白のように儀式的ではないが、緑も白と同様に高位の力の存在を受け入れることの重要性は強く信じている。ものごとはただ単に起こるのではなく、理由があって起こるのだ。自然の持つ関連性は、物理的なレベルだけでなく、さらに高位の理解レベルにおいても存在しているのだ。
過去
全ての色の中で、緑はもっとも過去を尊重する色である。これは、未来が過去によって定まっていると信じているからである。
知恵
青は未来を見て知識を求めており、緑は過去を見て知恵を求めている。緑は、今日成功するための秘訣は先人の残した成功や失敗を理解することにあると信じているのだ。
《地図作り》 アート:Donato Giancola |
家系
自分が誰なのかが遺伝子に刻まれているなら、自分のルーツはもっとも重要である。
伝統
緑は、過去に常に寄り添うことが必要で、そのために祖先から伝わってきた行動を続けるという伝統に従うのが素晴らしい方法だと信じている。
本能
自然は、生態を通じて動機付けをおこなっている。たとえば、ほとんどのクリーチャーは、自分がこれから何をすべきか考えたりしない。ただ、自然に突き動かされて行動するのだ。緑の理念を受け入れるには、こうした感覚が動物だけでなくあらゆる生命体にあるものだということを理解する必要がある。
動物
文明化していない方が、自然の役割を本能的に理解できる。動物、特に野生の動物は、賢しい生物が理解しにくい形で自然と繋がっている。
植物
緑の生命体との繋がりは、動物に限られるものではない。緑は動物と同様に植物とも関係している。
その色が嫌うものは何か? その色が否定するものとは?
緑は、変化が自然の流れの一部であることを受け入れている。緑が許さないのは、自然に反する変化、つまり外部の力によって、変化すべきでないなにかを変化させることである。これには2通りある。1つめが、誰かが何か存在すべきでないものを作り出したとき。この人工物への嫌悪は、緑がアーティファクト(やその類型であるエンチャント)を嫌う大きな理由である。自然な創造を阻害しようとする以上の無礼はない。
《秋の帳》 アート:Kekai Kotaki |
2つめは、緑は自然にあるものが不自然に除去されることを許さない。緻密に均衡が保たれている生態系において、その要素が不自然に除去されると全てが駄目になってしまう。捕食者を大量に一時に殺すと、被捕食者の数が増える。その結果、何もしなければ破滅的な結末が訪れうるのだ。
基本的に、緑は現状維持に強い繋がりを感じているので、人工的な方法でそれを変えようとすることは何であれ緑を激怒させるのだ。
その色が友好色を好み、敵対色を嫌うのはなぜか?
緑は白のことを、共同体の重要性を理解する仲間だと見ている。そのため、この2色は最もクリーチャーに依存している色である。また、白は、緑が同意できる、非常に平和的な面を持ち合わせている。緑が白に対して持っている最大の問題は、緑の持つ基本的な本能をもたらしている野性を白が理解しないということである。
それと対照的に、緑は赤のことをその野性を受け入れる色だと見ている。比較すると緑のほうがやや本能的で、赤のほうが衝動的だが、どちらも何かをしなければいけないと感じる内的な動機を理解している。赤はまた、緑と同様に多くのマナを扱えて巨大クリーチャーを安定して扱える色である。最後に、緑は自然の持つ破壊性を認識しているので、赤の破壊的な性質にも同意できる。緑が赤に対して持っている最大の問題は、赤が、欲しいことに集中しすぎて行動が周りにもたらす結果を意識しないことである。
《血編み髪のエルフ》 アート:Dominick Domingo |
緑は自然に傾き、青は助成に傾く。青は、個人は自分が何者であるかに完全な言い分を持っているという誤った意見を持っている。青は内面からのものを認識できないだけでなく、本来の姿でない何かになるために多大な時間と労力を費やす。青は、人工物を作ることにもっとも没頭している色であり。自然の者を完全に無視している。青と緑はどちらも教育を求めているが、緑が過去の知恵を求めるのに対し、青は未知の未来に取り憑かれている。青はただ緑がメッセージを受け取れないようにするだけでなく、人々に誤った道を示すことで人々を常にミスリードしているのだ。
緑は黒のことを、緑が愛するあらゆるものを破壊することに取り憑かれた色だと見ている。黒は力に貪欲で、自制心は持ち合わせていない。黒は理不尽そして危険に殺し、生態系をめちゃくちゃにする。緑は死をそのまま、偉大な生命の輪の重要な要素として受け入れている。黒はそれを武器として扱い、悪用して、緑がもっとも大事にしているシステムそのものを脅かす。黒が自然の世界を壊しているのに、緑はいかにして誰もを自然の世界に招くことができようか。また、黒は各人の人生における意味が定められているということを理解せず、自由意志とやらがあることを証明しようとしている。
その色の最大の長所は何で、最大の欠点は何か?
緑の最大の長所は、その絶対にして揺らぐことのない自然のシステムへの信頼である。緑は自然を愛し、自然との絆を通して繋がって自然のままの非常に強力な形でそれを使うことができる。この繋がりのおかげで、緑は多くの巨大クリーチャーとも繋がることができ、その力を用いて緑の計画を推し進めることができるのだ。
《圧倒する暴走》 アート:Steven Belledin |
緑の弱点は、このシステムを過信することである。たとえば、緑はクリーチャーに特化するあまり、クリーチャーがいなければ緑の手に負えない問題を抱えている。端的に言うと、緑は1つのかごにあまりにも多くの卵を入れすぎており、そのかごに解決策がなければ問題を解決するために失ってしまうのだ。
最近のポップカルチャーの緑の登場人物
ミニオンズ/Minions (『ミニオンズ』)
どこから来たのか誰も知らない、でもこの小さな黄色い生き物は仕えるために生まれてきたようだ。彼らは自分の役割を理解しており、それを満たすために可能な限り全力で働くのだ。
グルート/Groot (『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』)
文字通り樹であるのに加え、グルートは最も落ち着いたガーディアンであり、物事をありのままに楽しんでいる。彼はまた、命ある者の関わりに最も同調する存在でもある。
オーウェン・グラディ/Owen Grady (『ジュラシック・ワールド』)
ジュラシック・ワールドにいるほとんどの人間が恐竜をアトラクションだと思っている中、オーウェンは適切に扱わなければならない命ある存在だと理解している。彼自身のことを最上位の存在として確立できることでも示されるとおり、彼は恐竜と仲が良い。
ホーダー/Hodor (『ゲーム・オブ・スローンズ』)
ホーダーは単純だが力強い男である。ほとんど考えることはしないが、代わりに本能で動く。
ポイズン・アイビー/Poison Ivy (『バットマン』コミック)
アイビーは緑色の仇敵の典型である。彼女の優先することは自然と自然の秩序を守ることであり、植物や自然毒、それに彼女の能力を活用して、現状へのあらゆる変化を防ごうとする。
ダリル/Daryl (『ウォーキング・デッド』)
ゾンビの大発生を生き残った中で、ダリルは最も状況を理解しているように見える。彼が状況を気に入っているからではなく、彼はありのままに新しい生き方として受け入れているだけである。ダリルは彼が果たすべき役割を理解しており、それを理解するための方法を学んでいるのだ。
そして最後に、5人目にして最後のシンプソン。
マギー/Maggie (『ザ・シンプソンズ』)
赤ん坊であり、従ってシンプソンズの中で最も本能的であることに加えて、マギーは家族の現状を最も気に入っている存在であり、変化を防ぐために尽力している。
緑の指
これが緑の考え方だ。毎週そうであるように、今週も私の語ったことについての諸君の考えを聞かせてほしい。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、物語を伝える新しい方法とそれがデザインに与える影響について考察する日にお会いしよう。
その日まで、落ち着いて身の回りの世界を楽しむ時間があなたとともにありますように。
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