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Making Magic -マジック開発秘話-
龍詞に魅せられて その1
龍詞に魅せられて その1
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2015年3月16日
『タルキール龍紀伝』がついに公開され、いよいよカード個別のデザインの話をする時がやってきた。語るべきことはいくらでもあるので、今回も2部作で語らせてもらうことになる。貴重な誌面をこれ以上無駄にするわけにはいかない、早速始めよう。
《待ち伏せの巫師》
《待ち伏せの巫師》は、疾駆メカニズムで可能なデザインの一例を見事に表してくれている。最初から、これの疾駆コストは通常のマナ・コストよりも高かった。これは、このカードが速攻をさらに有効にしている上に、ターン終了時に手札に戻ることがただの欠点ではなくなっていることから可能になっていることだ。このクリーチャーを通常通り唱えた場合、「戦場に出たとき」の効果はほとんど意味を持たない。速攻がないので、+2/+2の修整が意味を持たないことが多い(圧倒があれば話は別だが)。疾駆で唱えた場合、この能力はまったく違う姿を見せる。唱えたターンに攻撃できるので、この一時的強化を活かすことができる。また、疾駆で唱えていた場合には、「戦場に出たとき」の効果を何度も繰り返して使うことができるので、疾駆で唱えた《待ち伏せの巫師》は本質的に4/4ということになるのだ。
この類のカードが非常に重要なのは、プレイヤーが一見して理解したと思っていることを再検討させることができるからである。これはゲームプレイにさらなる深みを与え、新しいメカニズムで可能なことがあるとプレイヤーが認識し始めるというさらなる発見が可能になるというわけだ。
「命令」サイクル
アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheは選択を愛している。私が彼とともに所属したどのデザイン・チームでも、彼は唱えるに際して何らかの選択をさせるカードを作る新しい方法を見つけ出していた。『ローウィン』では、「超魔除け」と彼が呼んでいたカードのサイクルを作った。『ミラージュ』にあった元の魔除けは、3つのちょっとした効果の中から1つ選ぶことができるインスタントだった。魔除けは人気があり、我々は何回も何回も形を変えて作っていたのだ。超魔除けは、3つでなく4つから、1つでなく2つの効果を選ぶというものだった。最終的に「命令」と呼ばれるようになったそれらは、大ヒットを果たした。青の《謎めいた命令》は、多くのフォーマットでの定番カードとなったのだ。
『タルキール覇王譚』のデザイン中に、3色の命令を作ることについて多くの議論が交わされた。問題は、3色で4つの選択肢を作るにはどうしたらいいかということだった。我々が見付けた答えは、各楔には中心色があるのだからその色の効果を2つ入れればいいというものだった。しかし、最終セットのテーマは2色になるということがわかっていて、これまでに多色の命令を作ったことはなかったので、2色のほうが巧く行くと考えたのだ。そうすれば、各色から2つずつの能力を選ぶことになる。
『タルキール龍紀伝』のデザイン・チームはこの枠でいろいろなサイクルを試したが、何度やっても結局のところ命令に戻ってしまった。命令はまさに相応しすぎるのだ。もちろん、この5枚はクリエイティブ的に5体の龍王に関連づけられることになった。
「碑」
『タルキール龍紀伝』のデザインの中でも難関だった1つが、可能な限り多くの龍をセットに入れ込むということだった。結局、龍を詰め込んでいくにつれて、龍を入れる場所が足りなくなっていったのだ。その時こそ、創造性を発揮する時だった。ドラゴンでない、あるいは常にドラゴンではない龍を作る手段はないだろうか?
「碑」サイクルは、最初マナを生み出すアーティファクトのサイクルとして作られたものだ。タップして2色各1点のマナを出し、カードをプレイする助けになるというただのマナ・アーティファクトだった。そして、ゲームの後半でドラゴンにすることができるという発想が生まれた。その効果には大量のマナが必要(各色のマナそれぞれ1点と不特定マナ4点で合計6点)が必要で、ターン終了時までしか残らないが、それでもデッキに入れるドラゴンの数を増やすことはできるようになる。
《エイヴンの陽光弾手》
私のプレビュー記事の中で、変異の変種として最終的に大変異を選んだという話に触れていたが、大変異カードのデザインそのものについてはあまり掘り下げていなかった。変異のちょっとした変更に見えるかもしれないが、実際のデザインは変異とは少しばかり違うのだ。
まず、+1/+1カウンターがあることで、表向きにプレイするか裏向きにプレイするかに大きな変化が出る。変異クリーチャーの場合、表向きにプレイすることができるマナがあるなら、表向きでプレイしない理由はそのカードが表向きになったときに誘発する誘発型能力を使いたいということだけだろう。大変異クリーチャーの場合、裏向きでプレイすることによってそのクリーチャーはいくらか大きくなる。このことにデザインは注目した。例として、《エイヴンの陽光弾手》を見てみよう。
{1}{W}{W}で、1/1で飛行と二段攻撃を持っているというのは悪くはない。しかし、ここに+1/+1カウンターが載ると大きく強化されることになるので、マナがどれだけあろうとしばしば裏向きで唱えることになるだろう。特に「+1/+1カウンター関連」の小テーマを持つ白や緑では、+1/+1カウンターによって追加の意味を持つようになるのだ。
《狡猾な微風舞い》とその仲間
数年前、主席デベロッパーのエリック・ラウアー/Erik Lauerは2色の呪文のサイクルを使ってリミテッドの色の組み合わせを定義するということを思いついた。カードを早くピックすれば、どの色の組み合わせを選ぶかの助けになるのだ。最初、エリックはそれらのカードをデベロップで追加していた。しかし我々がその価値を理解して、デザイン中に追加するようになったのだ。『タルキール龍紀伝』にあたって、我々は「アンコモンの多色サイクルをドラゴンにするというのはどうだろう?」という質問を投げかけた。ドラゴンをゲームプレイの中心に据えたかったので、方針を示すための要素をドラゴンにしない理由はなかったのだ。
これらのドラゴンは緩いサイクルであった。持っている効果は、リミテッドにおいてそれぞれの色の組み合わせが中心とする効果だ。共通しているのは、どれもリミテッドで比較的強く、ドラフトの指針となるということである。
《クローンの軍勢》
私はこのカードを、「大きくなあれ」と呼ぶ技法を使ってデザインした。私は、神話レアをデザインすることになり、その色が通常行なう中から効果を選んだ。そして、その効果を可能な限り大きくしたらどうなるかを自問するのだ。例えば、《稲妻》の最大の効果は、「すべてのクリーチャーとすべてのプレイヤーに3点のダメージを与える」となる。
今回、この技法で取り上げたカードは『アルファ版』に存在する《クローン》だった。その最大の姿は、当然「このクリーチャーが戦場に出たとき、これは戦場にあるすべてのクリーチャーのコピーである」となる。確かに、ルール的に少しばかり意味不明なので、私はこれをコピー・トークンを作るというように変更した。すべてのものをコピーするのは非常に重いので、少し制限をかけることにする。他のプレイヤーのクリーチャーだけをコピーするというのはどうだろう。
我々がここ数年の間に学んだ教訓の1つに、2人戦ゲームでは良いカードだが多人数戦ゲームではやりすぎになるようなカードを作らないように気をつけるということがある。そこで私はこれの能力を他のプレイヤー全員のクリーチャーではなくプレイヤー1人のクリーチャーをコピーするようにした。こうすれば、多人数戦では選択肢は増えるものの無敵になったりはしないのだ。
こうして、《クローンの軍勢》が完成した。
《溶岩との融和》
変わり続けるゲームを作っているので、常に進化し続けることができる。マジックは進化するゲームであり、つまりは、何か問題を見付けたら基本的な要素を弄り続け、解決する方法を探すことができるのだ。マジックがしばらく持っていた問題の1つが、赤の能力の狭さだった。5色の中で、赤の効果はもっとも種類が少なかったのだ(赤を擁護するなら、直接火力は1種類分というには有用すぎるものだ)。
2年前、我々は赤を拡張する方法を探していて、期限を区切って様々な能力を使えるようにするという発想を得た。赤は他の色の効果に触れることはできるが、より衝動的なものなのだ。能力をすぐに使わなければ使えなくなるのが赤なのだ。ここから、衝動的なドローという発想が生まれた。赤でカードを引くことができるが、それはそのターン中に唱えなければならない(赤は当時このメカニズムを少しばかりいじり回していた)。
開発部はこれを「衝動的ドロー」と呼んでいる。我々はまずこれを『基本セット2014』の《紅蓮の達人チャンドラ》に持たせて、そしてすぐに赤の新しい道具として採用した。《溶岩との融和》で、ついにこれのX呪文版が登場したことになる。プレイヤーがそれらの呪文を唱えられるよう、持続時間をそのターンの終了時までではなく、そのプレイヤーの次のターンの終了時までに延長した。これで1回はアンタップでき、呪文を唱えるためのマナが準備できるのだ。
《ドラゴンの餌》
時折、セットを作っていて、新しいカードを作ろうとし、そして必要なこととメカニズム的にまったく同じことをするカードが既に存在することに気付くことがある。そして、そのカードの名前も作っているセットに相応しいと気付くのだ。そうなると、まるでそのセットのために作られたそのカードが、時間旅行のできる開発部員によって過去に持ち去られて使われ、そして自分がそれをコピーしたかのようにされたような気がしてくるのだ。
《ドラゴンの餌》はその一例である。必要だったのは赤のトークン生成カードで、《ドラゴンの餌》が選択肢だと気付いた時には文字通りめまいがしたものだ。『タルキール龍紀伝』にこれ以上相応しいカードはあり得なかった。
《ドラゴンを狩る者》
バランスを取るのがもっとも難しいものの1つが、テーマを助けるカードをセットにどれだけ入れるか、そしてそれへの対策をどれだけ入れるかである。助けるカードが少なすぎれば、プレイヤーはそのセットのテーマを軸としたデッキを組むことができない。対策カードが多すぎれば、そのテーマは日の目を見ることがなくなる。対策カードのあるべき姿は、そのテーマをプレイできないようにすることはないが、そのテーマをより難しくする、というものなのだ。
一例として、《ドラゴンを狩る者》を見てみよう。ドラゴンでこれを倒すのは難しく、到達を持っているので、ほとんどどんなドラゴンでもブロックすることができる。しかし、ここが重要なのだが、《ドラゴンを狩る者》を出しているからといってドラゴン・デッキが使い物にならなくなるようなことはない。もちろん障壁にはなるが、乗り越えることができないようなものではない。また、《ドラゴンを狩る者》はドラゴンを止めることはできるが、ドラゴンを殺すために特に効果的だというわけではないのだ。
「龍王」
時間旅行という構造を定めた時点で、このブロックでは第1セットには人間や人類のカンを表す5体の神話レアの伝説のクリーチャーがいること、第1セットと第3セットに同じプレインズウォーカーの別々の姿がいること、そして氏族を率いる龍王である5体の神話レアの伝説のドラゴンがいることがわかった。そして、『運命再編』について考え始めて、この伝説のドラゴンが1回でなく2回必要になるということに気付いたのだ。
龍は1200年よりずっと長い寿命を持っているので、支配の座につくことになる5体の龍は第2セットでも生きているだろう。2つめの時間線を適切に準備したければ、このことは重要になる。しかし、『運命再編』版のせいで『タルキール龍紀伝』版の龍王を見劣りさせるようなことは避けたかった。そこで、我々は『運命再編』版を多少小さくして、神話レアではなくレアに落ち着けた。こうすることで、最終セットで印象的な龍王を作る余地ができたのだ。
これもまた、非常に緩いサイクルである。色の組み合わせと飛行以外のクリーチャー・キーワードを除いては、各ドラゴンはそれぞれの2色デッキで何らかの形で印象的になるようにデザインされている。ドラゴンのデザインを、それを軸にしたデッキを作らなくてもそれ自体でクールになるようにするため、意図的にそうしているのだ。
《龍王の大権》
「龍のセット」を作ることには、単に大量のドラゴンを詰め込むことだけではなく、龍関連のものを作る方法を探すことも含まれる。セットに入れるドラゴンの数には限界があるので、我々は他に龍の存在感を増す方法を作る必要がある。文章欄に「ドラゴン」という単語を入れるだけでも、龍の重要性を伝えることができるのだ。
そのための方法の1つが、手札にドラゴン・カードを持っていることで有利になる呪文である。ドラゴンは通常重いものなので、ゲームのほとんどの期間手札にあることになる。《龍王の大権》のようなカードがあれば、唱える前からドラゴン・カードが有意義なものになるのだ。このカードは少しばかり重いので、ドラゴンを戦場でコントロールしているときにも強化されることにした。こうすることで、ドラゴンを唱えないでいる必要はなくなったのだ。
《ドロモカの砂丘唱え》
ドラゴンを有用にするもう1つの方法が、他のカード、特にコモンがドラゴンとどのように相互作用するかに特に気をつけるということである。《ドロモカの砂丘唱え》はその非常に良い例だ。通常、白には他のクリーチャーをタップする起動型能力を持つクリーチャーが存在する(多くの場合、そのコストに自身のタップを含む)。問題は、この類のカードはドラゴンに特に有効だということである。大量のマナを支払ってドラゴンを出したのに、それよりもずっと少ないマナで毎ターンタップされてしまうのだ。
ドラゴンを助けるための鍵は、ドラゴンに対抗しうる効果をどれだけ存在させるかを意識するということである。ドラゴンへの対策はもちろん必要だが、通常、1対1で、マナ的にも特に有利ということはなく、そして再利用できないものである。《ドロモカの砂丘唱え》は飛行を持たないクリーチャーをタップすることに長けている。ドラゴンはどれも飛行を持つので、はっきりドラゴンを対象とできないとは書いていなくても、ドラゴンに影響を与えられないようになっているのだ。
《勇壮な対決》(あるいはドラゴン・パンチ)
熊を殴ったのだから、もう引き返せない。別の時間線では、熊パンチに加えるクールなひとひねりを探さなければならないことになる。興味深いことに、どんなひねりを加えるかについての議論が存在し、3つの選択肢があった。
1.龍が熊を殴る
『タルキール覇王譚』の時間線では、スーラクが熊を殴っていた。龍が支配して氏族の指導者になっているということは? 龍に、カンがやったことをさせればどうだろうか。
2.熊がスーラクを殴る
時間線が違えば出来事がひっくり返るのはあり得る話だ。今回は、スーラクが熊を殴るのではなく、熊がスーラクを殴るわけだ。
3.スーラクが龍を殴る
スーラクはどちらの時間線でも変わらない。龍の担当は? それなら、スーラクに龍を殴らせればいいのだ。
上記のどの選択肢もそれぞれ満足できるものだ。2つめの選択肢の問題は、龍が絡んでいないということである。龍王で溢れる「龍のセット」『タルキール龍紀伝』なので、龍が必要である。1つめの選択肢だとスーラクがいなくなっている。しかし、誰かが何かを殴るのであればそれはスーラクであるべきだと思う。ということで3つめの選択肢、ドラゴン・パンチとなったのだ。
《精霊龍の安息地》
デザイン中に、そのセットのテーマを支える土地を作りたいというのはよくあることだ。『タルキール龍紀伝』は「龍のセット」なので、ドラゴンを助ける土地を作りたかった。ドラゴンのマナ・コストは重いので、ドラゴンを唱える助けとなるマナを出すというのはもっとも当たり前の選択だった。また、ドラゴンは5色全てに存在するので、この土地は色事故を防ぐものであるべきだ。ドラゴンが唱えられるようになる前、序盤や中盤にもこの土地が一般的に使えるよう、「タップして不特定マナ1点」が追加された。
まだ少し余裕があったので、デザインの最後のピースがフレイバーのために追加された。サルカンが過去に戻った時、彼の目的はウギンを救うことだった。このカードがウギンの休息の地を表すものにすれば、「ウギンを救う」というフレイバーを漂わせることができる。ドラゴンを墓地から手札に戻すことは、その役目に相応しいように思われた。1つだけ問題があって、ウギンはメカニズム的にはドラゴンではないのだ。物語の上では間違いなく龍なのだが、ゲーム上ウギンはプレインズウォーカーであり、ドラゴンではないのだ。この問題への解決策は、救えるものの選択肢としてウギンを加えるというものだった。
「物語の終わり」
今日はここまで。まだ「H」までしか進んでおらず、この記事は「その1」なので、これを来週も続けることはうすうす予測できていたことだろう。しかしその前に、この記事あるいは『タルキール龍紀伝』に関する感想をもらえたら嬉しい限りである。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、その2でお会いしよう。
その日まで、あなたが『タルキール龍紀伝』のあなたの物語を紡ぎますように。
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