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Making Magic -マジック開発秘話-
宿命のねじれ
宿命のねじれ
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2014年3月10日
運命特集へようこそ。今週は、宿命と『神々の軍勢』の宿命的サイクルについて語ることになる。正直なところ、私はこの記事を書くにあたって何を書くべきかわかっていない。宿命的サイクルにはそれほど細やかなデザイン上の話はそんざいしないのだ。実際、デザイン・チームはそれを作ってすらいない。トム・ラピル/Tom LaPilleと彼のチームがデベロップ中に作ったものなので、語るべきことはそれほど存在しない。と考えていて、あることに思い至った。
知っての通り、私は自分のことをマジックの歴史家と考えるのが好きだ。歴史というのはマジック関連の要素だけでなく、マジックそのものも歴史である。宿命的サイクルを見て、私はカードのデザインの長い歴史を感じたのだ。そこで今回、私が書くべきは、このサイクルを取り上げ、このカードに到ったデザイン上のすべての要素を見ていくことだと思った。色々な意味でこれは歴史に関する記事だが、取り上げるのは人ではなく、デザインだ。そう、これはデザインの記事なのだ。
宿命は隠されている
まず最初に宿命的サイクルを取り上げ、今日の記事で取り上げる歴史を思い起こせるようにしよう。『神々の軍勢』にある5枚の宿命的カードが、これである。
早いものと遅いもの
このデザインの心臓部から始めよう。この5枚のカードは、プレイヤーに選択させるものである。これらの呪文を相手のターンに突然唱えてもいいし、自分のターンにしっかり唱えてもいい。自分のターンに唱えることにすれば、占術2というボーナスを得ることができるのだ。
このデザインの中核は、戦略的な意味で、大抵の場合インスタントは相手のターンに、しかもその最後に唱えたいものだ、という事実である。その理由は、そのタイミングに唱えるのが一番隙を小さくするからである。自分のターンがもうすぐ始まるので、土地がアンタップでき、相手の行動に反応できるようになる。呪文を自分のターンに唱えると、相手を驚かせることができなくなり、戦略的な不利益となることが多い。マジックをプレイし始めて最初の山場の1つが、インスタントや起動型能力をもっとも有利に使えるタイミングがいつかを認識することである。
このタイミングによって有利を得る最初のサイクルは、『ミラージュ』に存在した。
この5枚のカードはどれもコモンのオーラで、「あなたは[カード名]をインスタントとしてプレイすることを選んでもよい」と書かれている。今のテンプレートでは「あなたは[カード名]を瞬速を持つかのように唱えてもよい。あなたがこれをソーサリーを唱えられないときに唱えたなら、これがなるパーマネントのコントローラーは次のクリンナップ・ステップの開始時にこれを生け贄に捧げる。」となる。このサイクルの背後にある構想は、通常はオーラとして唱えるこの呪文を、ターン終了時までしか効果が残らないインスタントのように唱えることを選ぶことができる、というものであった。
宿命的カードと同じように、このサイクルも同じような提案をするのだ。この効果をいつでも得ることができるが、自分のターン(オーラを唱えられるタイミング)に使えばその効果がずっと残るというボーナスが得られる。この最初の形は多くのことをなしとげ、我々は多くの「べからず」を学んだ。
1つめに、我々は、より効率的な形でやることを罰するのではなく、より非効率な形ですることにボーナスを与えるようになった。2つめに、カードのカード・タイプを明確化した。例えば、『ミラージュ』のオーラをインスタントとして唱えた場合、これはインスタントなのか? インスタントを打ち消す呪文で打ち消せるのか? 曖昧だったのだ。3つめに、サイクルの扱いがより一貫したものになった。例えば、《茨の鎧》は黒のクリーチャーに唱えることはできなかった。これは唱える上で制約がある唯一のオーラである(多分これはデベロップ上の理由なのだろうが、デベロップ技術もまた進化してきているのだ)。また、このサイクルの全てのカードは2マナだが、そのうち4つは1Cで(不特定マナ1点と色マナ1点のこと)、《光の護法印》だけは{W}{W}だ。以前、4/1の規則について語ったことがある。もしサイクルの中で4枚が何か同じことをして5枚目だけが違うことをしているのなら、それは美学に反するので受け手は不満に思う。従って、もし一貫できないなら、3/2または2/2/1、あるいはすべてばらばらにするのだ。最後に、もし細かいところを拾うなら、これらのオーラは《光の護法印》以外、パワーやタフネスを強化する効果を持っている。
このオーラのサイクルはリミテッドで存在感を示した。後に『インベイジョン』のサイクルに影響を与えた(『ミラージュ』のサイクルは後に瞬速持ちのオーラを生み出すことになるが、それはまた別の話だ)。
このレアのサイクルは全てソーサリーで、追加の{2}を払うことでインスタントが唱えられるときならいつでも唱えられるという追加の能力を持っている。これはインスタントにする(そのためのルールは複雑になる)わけではなく、インスタントが通常プレイできるタイミングで唱えられるようにするというものだ。
「インスタント」としてプレイすることを罰するのではなく、このサイクルでは追加のコストを要求することになっている。これは『ミラージュ』のサイクルよりもいい点だが、特にマナが余っている場合には、自分のターンに唱えたいと思わせる効果はない。また、マナ・コストを3枚/2枚に割り振って、3枚はマナ・コストに色マナを2つ含んでおり、2枚は1つだけとなっていた。カードを見渡すと、《ギトゥの火》のせいでこのサイクルの色マナをすべて2点にすることができなかったのだと言い切れる。
このサイクルのうち何枚かのカードはイベントで使われ、強力なサイクルだった。レアのサイクルだったので、効果がより大きなものになったというのもある。また、オーラでないことも利点だった。
このデザインに関して一番言いたいことは、選択が面白いものになっていないということである。自分のターンに唱えるのは、マナが充分にないか、他の呪文のためにマナを取っておきたいかのどちらかの場合だけだ。マナが充分にあるなら、これをインスタントのように扱っていた。このサイクルから、『時のらせん』のサイクルが生まれることになった。
これは『時のらせん』ブロックのコモンのインスタントのサイクルである。全ての呪文が、自分のメイン・フェイズに唱えた場合により大きな効果を持つようになっている。「早い」プレイを罰したり追加のコストをかけたりするのではなく、「遅い」プレイにボーナスを与えるというデザインの始まりだ。このデザインの古い点は、自分のターンに呪文をプレイすれば、ではなく、ソーサリーが唱えられるときにプレイすれば、となっている点である。これは、よりソーサリーのようにするための方法だったのだ。
私の中の純粋主義者は、5枚のうち4枚が色マナを2点必要としているということを指摘している。《古きクローサの力》はこのサイクルの規則を破っているが、それはコストが1マナだから必要な色マナを2点にできないからである。もし今日このサイクルを作るなら、他の呪文のどれか1つの色マナを1点にすることだろう(ちなみに、それはデザインの仕事である。デベロップは、カードが構築で使われてコストが妥当でないと感じたなら美学を無視することはよくあるのだ)。
これまで語っていない一面として、これらのデザインは自分のターンであれ相手のターンであれ唱える価値がなければならない。選択を興味深いものにするため、「インスタント」であることによってボーナスを失ったとしても意味がなければならないのだ。これは一見して思うよりもずっと難しいことである。
そして『神々の軍勢』の宿命的呪文に到ることになる。このサイクルは『時のらせん』のサイクルから見ていくつかの点で向上している。
1つめに、メイン・フェイズかどうかではなく、自分のターンか相手のターンかを見るようになった。これにより、『時のらせん』で必要だった語彙がいらなくなり、より理解が簡単になった。初心者は「メイン・フェイズ」を知らないのだ。また、これによっていくらかの柔軟性が得られ、この呪文を自分のターンであればインスタントしか唱えられないタイミングでも唱えられるようになったのだ。
2つめに、「遅いプレイ」へのボーナスが揃った。これはカードの効果を覚えることを簡単にするので重要である。
3つめに、マナ・コストが全て統一され、全てがマナ・コストに色マナを3点含むようになった(3点にしたのは、この呪文をその色の濃いデッキにしか入れられないようにし、パワー・レベルを少しばかり押し上げるためにデベロップがしたことである)。
占術
占術のデザインについては記事1本(リンク先は英語)を書いたことがあるが、ここで短くまとめておこう。『フィフス・ドーン』のデザイン・チームは、私、ランディ・ビューラー/Randy Buehler、グレッグ・マーカス/Greg Marques(後にウィザーズの社員になったが、この時点ではまだ社員ではない。この話はここ(リンク先は英語)で読める)、それにアーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheであった。当時、アーロンはマジックのウェブサイトを運営しており、良い記事になりそうだと感じたのでチームに招いたのだ。アーロンは実力を発揮し、開発部のマジック・チームの一員となり、そこで活躍した。アーロンが『フィフス・ドーン』のチームに残した様々な実績の中でも、もっとも印象深いのは占術のデザインだと言えるだろう。
私はチームに呪文系のメカニズムを求め、アーロンは10個の提案を返してきた。その7つめがこれだ。
7.流動
流動の成長
{1}{G}
インスタント
クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで+3/+3の修整を得る。
流動(この呪文の解決の一部として、あなたのライブラリーの上から3枚のカードを見、その中から任意の枚数をゲームから取り除き、残りを好きな順番であなたのライブラリーの上に戻す。)
これは完全にスパイク向けのカードで、スパイクにとっては至宝です。これの働きは気に入っています。これは「純粋にプレイ向け」メカニズムで、何もフレイバーは冠されていません。
私は最初「流動」を却下したが、アーロンは最低限プレイテストはすべきだと言ってきた。私は承諾したが、名前を変えなければならないと告げた。私は占術/scryという単語に当時のマジックの雑誌と同じように「e」をつけてscryeと命名し、魔力で未来を見るというフレイバーに合うようにした。アーロンの言ったとおり、このメカニズムは巧く働き、『フィフス・ドーン』に入ることになったのだ。
『フィフス・ドーン』では9枚のカードが占術を持っていた。すべてが占術2だったが、2という数字をつけたのは将来他の数字で使う可能性があるということが明らかだったからである。(インスタントやソーサリーをプレイするたびに{1}を支払って占術2を行えるエンチャントの《見張る者の目》を例外として)『フィフス・ドーン』に入っていた占術カードはインスタントかソーサリーであり、占術は基本的な効果のオマケとしてついていたのだ。
3年後、『未来予知』のリード・デザイナーであった私は、再び占術を使うことになった。
『時のらせん』ブロックは時間をテーマにしており、3つのセットで順に過去、現在(ああ、異なる現実である現在)、未来を表していた。各セットで、そのセットのテーマを表すメカニズムを再録しようと考えた私は、『未来予知』に関して、未来を覗き見るメカニズムである占術が最適だと感じたのだ。
『未来予知』は占術の可能性もう少し掘り下げ、新たな9枚のカードを作り上げた。先に占術をしてからそのカードを引くとか、他のメカニズムと組み合わせるとか、マジックの歴史から拾い上げたメカニズムのサイクルの一部として使われるとか、そして2以外の数字の占術も登場することになったのだ。
それからさらに3年が経ち、占術は『基本セット2011』で再登場を果たすことになる。
『基本セット2010』は基本セットを再定義し、そして新規のカードを初めて含むことになった。『基本セット2011』は、リード・デベロッパーのエリック・ラウアー/Erik Lauerがその独自性を求めて、占術を再録して新カードを作る、と決めたのだ(占術カード5枚のうち4枚が新規のカードであった)。占術がこのセットに入ったことで、それ以降の基本セットでは常磐木でないメカニズムを再録するようになった。エリックが占術を選んだのには2つの理由がある。1つめが、カードの流れをよくする助けになるということ。2つめが、それを使って、《水晶球》などの非常に芳醇でトップダウンなデザインができるということだ。
エリックはそのさらに3年後、『テーロス』のデベロップ中にもまた占術を採用した人物の1人である。
エリックは再びカードの流量を増やす方法を探していた。『テーロス』のメカニズムの多くはカードの組み合わせを必要としていたのだ。占術はセットのメカニズム的需要に完全に応えているだけでなく、ギリシャ神話を元としたフレイバーにも完全に合致していた。
そうして、宿命的カードの話に戻ることになる。『神々の軍勢』はデザインからデベロップに渡され、『神々の軍勢』のリード・デベロッパーだったトム・ラピルはこのセットにはティミーやジョニー向けのカードは大量に存在するもののスパイク向けのカードが足りないと判断し、彼と彼のデベロップ・チームはスパイクを意識したレアのサイクルを作ることにしたのだ。
トムと彼のチームは、以前のスパイク向けのレアのサイクルを調べていった。目にとまったサイクルの1つが、『インベイジョン』のレアの「インスタントに強化できるソーサリー」のサイクルだった(上記の《総くずれ》系サイクルのことだ)。トムは、いつプレイするかをプレイヤーに選択させ、より柔軟性の低い選択肢にボーナスを与えるような呪文にするという構想を気に入った。占術は既にこのセットに入っていて、人気の高いスパイク向けメカニズムだったので、トムはこれを呪文の付加価値としていい選択だと考えた。こうして、宿命的カードが生まれたのだ。
関連したサイクル
このサイクルの最後の要素は、プレイヤーがあまり興味を示さない一方でデザイナーやデベロッパー、クリエイティブ・チームが強く意識する部分である。サイクルがセットに加えられると、もう1つ重要なことがなされる。このサイクルに繋がりがなければならない。何かを注目されるものにするなら、プレイヤーがそれに気付くようにしなければならないのだ。
開発部で働く間に学ぶことの1つに、何週間、何ヶ月、あるいは何年もかけることの中にはそれほど明らかにならないものもあるということがある。そのため、我々は関連性の重要性を学んだのだ。サイクルのある要素を同じにすることで関連させ、プレイヤーがサイクルだと気付けるようにするのだ。
サイクルを関連づけるためにはいくつもの方法がある。もっとも明白なものをいくつかあげていこう。
名前
これはもっとも確実にプレイヤーに関連性を気付かせる方法である。カード名を何らかの形で関連させるのだ。もっとも一般的な方法としては(宿命的カードがまさにこれだ)同じ単語や単語群をすべてのカード名につけるのだ。カード名が同じような構造を取るようにするという手もあるが、プレイヤーが気付かないことが多くなる。その一例が、『オデッセイ』の勝利条件サイクルだ。《忍耐の試練》《機知の戦い》《死闘》《偶然の出合い》《勇壮な戦闘》――(訳注:英語で見ると、)どのカード名にも「戦い」という意味の言葉が入っている。
マナ・コスト
マナ・コストに関連性を持たせるには、多くの場合、コストを色違いで統一することになる。宿命的カードの場合にそうであるように、この関連性は全体ではなくその一部だけであることもある。宿命的カードの場合、そのすべてが色マナ3点をマナ・コストに含んでいる。一般的に、マナ・コストは比較的わかりにくい繋がりとなる。
イラスト/アーティスト
カードの中でもっとも目を惹く要素はイラストであろう。イラストを通してカードを関連づける方法は色々と存在する。イラストに描かれたカードのコンセプトを似せることもできるし、イラストの構図が同じようにもできる。同じアーティストが描くというのでもいい。いくつかの手法を同時に使うこともできる。
カード・タイプやサブタイプ
この関連性の鍵は、サイクル内の全てのカードが同じタイプやサブタイプを持つことである。通常、それは何か特別なものである。『テーロス』の神々の武器は、全てが伝説のアーティファクト・エンチャントであり、このカード・タイプの組み合わせは史上初のものである。サイクルのカードすべてが何らかの同じカード・タイプを持つというのは非常によくある話で、宿命的カードはどれもインスタントである。
レアリティ
サイクルのカードすべてを同じレアリティにするというのはわかりにくいが、これも1つの共通性ではありうる。
キーワード/能力語
もう1つ関連づけるためによく使われるのが、サイクル内のカードが全て持つキーワードや能力語である。宿命的カードの場合、全てが占術2を持っている。
テンプレート
サイクルを関連づけるために、これも文章欄の中で、同じテンプレートを用いるという手法がある。例えば、宿命的カードは全てが「あなたのターンであるなら」という文章を含んでいる。
パワー/タフネス
クリーチャーのサイクルであれば、パワーやタフネスが同じである場合もある。組み合わせが特殊でなければ、他に共通の値が存在しなければ気付かれないことも多い。
それでは宿命的サイクルについて見てみよう。すべてが同じ単語をカード名に含んでいて(宿命的)、マナ・コストが似ていて(色マナ3点)、カード・タイプが共通で(インスタント)、キーワードが共通で(占術2)、テンプレートが共通している(「あなたのターンであるなら」)。これらの1つ1つには見落とされやすいものもあるが、これだけ揃っていれば、これは誰が見てもサイクルである。
魅力的な宿命
今日の目的は、我々のデザインを背後からどれだけの歴史が支えているかを示すことだった。宿命的サイクルはクールだが、それは過去何年にも渡るデザインやデベロップの進化の結果なのである。今日の記事から諸君がこの息吹を感じてもらえたなら幸いである。マジックの歴史家として、私はこれを非常に魅力的だと思う。
今日はここまで。いつもの通り、何か意見があるならメール、掲示板、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、文章の書き方について語る日にお会いしよう。
その日まで、あなたの運命が煌めきますように。
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