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Making Magic -マジック開発秘話-

よりよい怪物の作り方

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Making Magic

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よりよい怪物の作り方

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2013年11月11日


 怪物化特集にようこそ。今週は『テーロス』の新メカニズム、怪物化についてお話しよう。このメカニズムはこんな経緯で誕生したのだ。

 怪物のメカニズムが必要だったので、私はチームに何らかの提案をするように求めた。その次の週、チームはそれぞれのメカニズムの例となるカードを作って来た。ケン・ネーグル/Ken Nagleの構想の1つが、ゲーム中に一度だけ使える起動型能力というものだった。私はそれに見所を感じたので、「よし、それでいこう」と言ったのだった。

 もちろん、これだけでは3000ワードにはならない。ということで今日はもう少し広い話題、マジックにおける怪物のデザインということについて語ることにしよう。具体的には何なのか? メカニズム的に必要なことは? 怪物がゲームにおいて果たす役割は? マジックの怪物について調べるために獣の臓腑に潜り、これらの質問、そしてそれ以上のことに対する答えを今日のコラムでお届けしよう。諸君も最後まで消化されずについてきてくれたまえ。


定命の者の宿敵》 アート:Mathias Kollros

怪物の特徴

 マジックの性質について掘り下げるときに私が好んで使う手法の一つに、一番最初まで戻るというものがある。リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldがこのゲームを作った時、なぜ彼は怪物を組み込んだのか? それは単純な話で、怪物はファンタジーの重要な要素だからである。なぜ重要な要素なのか? それは、英雄には乗り越えるべき障害が必要で、そして、怪物だけがファンタジーの敵役ではないとはいっても(例えば他の人間が敵役になることもある)、怪物はもっとも魅力的な敵役であると言えるからである。

 例えば、好きなクリーチャー・タイプを一般に投票してもらうと、その上位に常にドラゴンが顔を出すのは当然のことだ。私のイメージでは、ドラゴンはファンタジーの怪物の典型例である。ドラゴンは巨大で、強力で、知能が高いこともしばしばだ。言い換えると、彼らはものすごい脅威なのだ。

 さて、これをマジックの話につなげてみよう。マジックはクリーチャーによる戦闘をその中核に置いたゲームである。マナ・システムの性質上、プレイヤーは軽くて小さいクリーチャーから順に重くて巨大なクリーチャーへと進めていくことになる。マジックには、まさに怪物が果たすべき役割が存在しているのだ。

 このことから、次の疑問が導かれることだろう。怪物が果たすべき役割とは何か? これからそれを掘り下げていこう。

恐ろしい

 まずもって、怪物は恐ろしい。ああ、そうとも。現代の物語では子供に優しい、いい怪物がいることもあるけれど(セサミストリートとか)、本来の怪物のイメージ通りだとすれば、諸君も逃げ出したくなるもののはずだ。人類の恐怖を体現しているものなのだ。

 メカニズム的にこれがどういうことかと言うと、クリーチャーに関して恐ろしい部分がなければならないということである。対戦相手がそれを戦場に出したら、不安になるようなものなのだ。威嚇キーワードはクリーチャーの恐ろしさをイメージした能力だ。他にも恐ろしいものにするために押さえておくべきことを列記してみよう。

大きい

 恐れさせるための一番簡単な方法の1つが、巨大であることだ。全ての怪物が巨大だというわけではないが、怪物の性質において中心となるのは大きさである。何倍もある怪物に立ち向かう英雄というのはファンタジーの戦いを描く場合の古典的な構図である。


船壊しのクラーケン》 アート:Jack Wang

 マジックにおいて、これはメカニズム上非常に簡単に描写できる。怪物は大きい。『テーロス』では、最小の怪物でもパワーが3あり(ああ、ゴルゴン以外なら何でも破壊できるゴルゴンのサイズはそれより小さい2/5だな)、ほとんどの怪物は4以上のパワーを持つ。そして、これらのパワーは怪物化能力が使われたならもっと大きくなるのだ。

 もう一つ、『テーロス』では怪物3つの大テーマの1つであり(残り2つは神々英雄だ)、怪物の数はいくらか多くなっている。通常のセットの怪物は数では少ないが、サイズはより大きいのだ。

死に繋がる

 なぜ怪物がそれほど恐ろしいのか? それは、多くの無垢な人々を食べるなどして殺すからである。英雄が怪物に立ち向かうのが勇敢なのは、怪物に立ち向かった人々のほとんどが死ぬからである。実際、古典的なファンタジーの物語では、英雄が怪物に立ち向かうまでに多くの人々が挑み、敗れ、そして死んでいるものなのだ。

 メカニズム的には、これは2つの意味を持つ。怪物は対戦相手をすぐに倒せるので死に繋がる。また、怪物は多くのクリーチャーを倒せるので死に繋がる。その両方であることもある。これを満たすためのもっとも単純な方法は、先に挙げた性質と同じことである。大きなクリーチャーはプレイヤーもクリーチャーも倒すことができる。これはサイズだけでなく他の意味において大きいということもありうる。接死キーワードはその一例である。

 上でも述べたとおり、《残酷なハイソニア》のような怪物は、クリーチャーを破壊する能力を持っている。《触れられざる者フェイジ》のように、プレイヤーを破壊する(今のところはルール的に厳密ではない)能力を持っているものもいる。先制攻撃のような強力な戦闘用能力がパワーの大きなクリーチャーについていれば、これも死に繋がると感じられる。火を吐く能力やパワーを高める能力もそうだ。鍵となるのは、戦場に出た怪物を見て、何も呪文がなければ、止めるためには何体ものクリーチャーを犠牲にしなければならないと思わせるかどうかである。

殺しにくい

 怪物の攻撃は重要だが、防御もまた重要である。怪物のもう一つの重要な性質、それは、英雄といえども簡単に打ち倒すことができないということである。怪物は恐ろしく、大きく、死に繋がり、それだけでなく同時にとてもとても頑強なのだ。英雄の一撃で怪物が倒れることはない。怪物は殺しにくいので、戦いは長く長く続くのだ。

 メカニズム的には、これはいくつかの方法で再現できる。最も単純な方法はもちろん高いタフネスを持たせることである。場合によっては再生などの防御的な能力で表されることもあれば、戦闘が続く間に巨大化していくこともある。あるいは、倒すことはできてもすぐに戻ってくる(『闇の隆盛』の不死はこれを完璧に再現している)ものもある。他によくあることといえば、魔法への耐性が挙げられる。呪禁、プロテクション、あるいはダメージを与えにくくする起動型能力などがこれに分類される。

 怪物を倒すのに重要なのは、複数の手段が必要だということである。

仕掛け

 怪物には、特別で固有の武器を持つという特徴がある。ゴルゴンは見た者を石にしてしまう。ドラゴンは火を吹く。ハイドラは首を切られるたびにそこから2本の首を生やす。英雄にとって難しいのは、怪物がどれも均一ではないということである。怪物それぞれに何か特別なことがあるのだ。

 デザインにおいては、怪物はクリーチャー・キーワード以外に最低1つの能力を持つということになる(いくつものクリーチャー・キーワードを持つ、ということでその代用になることもある。《怒りの天使アクローマ》はその好例だ)。この能力というのは起動型であることも誘発型であることもある。一度だけ使える「戦場に出たとき」の能力であることもあれば、毎ターン使えるような能力であることもある。

 この性質の重要な部分は、各クリーチャーが独特のデザインをされるようにしなければならないということである。怪物は、ゲームのそこかしこに存在するものだ。新しい怪物を出したければ、それが群れの一部ではなく際立つ存在となるようにデザインしなければならない。

 『テーロス』においては、怪物化を持つアンコモン以上の全てのクリーチャーは(コモンは単純さを保つため+1/+1カウンターを置くだけになっている)怪物的になったときに何か独特の効果や能力を持つようになっている。

 これらすべての性質を理解して組み合わせると、怪物のデザインの仕方というものがわかるようになる。鍵となるのは、怪物には存在感が必要だということである。ファンタジーの中では、怪物は英雄の敵という役割を果たしている。ゲームにおいては、マナ・カーブの頂点を占めるという役割を果たすのだ。プレインズウォーカーは次々と大きな脅威を呼び出していくが、その中で最大のものこそが怪物なのだ。

 マジックの歴史について詳しい諸君のために触れておくと、開発部は少しばかりゲームをしている。『アルファ版』では、リチャードは7/7のデーモン《奈落の王》と8/8のエレメンタル《大地の怒り》(ああ、元々は「フォース」だったが、後にエレメンタルに訂正された)を入れた。その2セット後に、『アンティキティ』で、東海岸プレイテスター(スカッフ・エリアス/Skaff Elias、ジム・リン/Jim Lin、デイブ・ペティ/Dave Petty、クリス・ペイジ/Chris Page)は9/9のアーティファクト・クリーチャー《サルディアの巨像》を作ったのだ。

 その後、『ザ・ダーク』でジェスパー・ミルフォーズ/Jesper Myrforsが10/10クリーチャーの《リバイアサン》を作った。返答として東海岸プレイテスターが『アイスエイジ』で作ったのが11/11の《Polar Kraken》だ。そして、私は『ミラージュ』のデベロップとしてバトンを受け取り、《ファイレクシアン・ドレッドノート》をデザインしたのだ(私が充分おもしろいカードを作らなければ、ビルが作っていただろうとビルは言っていた)。その2年後、私は『アングルード』で99/99の怪物、〈B.F.M. (Big Furry Monster)〉を作った(元は100/100だったが、ビルがこれを99/99に改めさせたのだ)。そしてこれで軍拡競争は終わりになったのだ。(ああ、13/13のビースト《クローサの雲掻き獣》が『レギオン』で作られたし、15/15のエルドラージ《引き裂かれし永劫、エムラクール》は『エルドラージ覚醒』で作られたね)。

怪物の仕事

 怪物はマジックにおいてこれほど重要な役割を果たしており、従って開発部は各色に象徴的な怪物を与えるためにかなりの時間を費やしてきた。ここで私が「怪物」と言っているのは文字通りの意味である。象徴の中には、上の条件こそ満たしていても、伝統的には「怪物」と呼ばれないものも含まれている。

 また、「象徴」という語は、その色を代表するという意味も含まれている。象徴的クリーチャーは全てのセットに存在する(そのブロックの世界にそぐわない場合には例外となる)が、その数は少なく、レアリティは高い傾向にある。赤のゴブリンや緑のエルフといった、コモンに存在する小型人型クリーチャーは「特性的クリーチャー」と呼ばれ、今回の話からは外れた存在である。

 伝統的な色の順ではなく、マジックにおいてその怪物が象徴的クリーチャーとなった順番で紹介していこう。

赤 ― ドラゴン
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 街中を歩いて、そこらにいる人にファンタジーの何かを挙げてみるように頼むと、おそらくその上位にはドラゴンの名前が出てくるだろう。ドラゴンとファンタジーは切っても切り離せないものだ。従って、リチャードは《シヴ山のドラゴン》を『アルファ版』の中でもっとも目立つカードとした。リチャードが《シヴ山のドラゴン》を赤に置いたのは、おそらく、火を吹かせたかったからだろう。興味深いことに、飛行は赤がもっとも苦手とするものの一つだ(緑と並んで。そしてその2色は飛行を表す色である青の敵対色だ)が、その特別な例外としてドラゴンと、後に登場するフェニックスが存在する。ドラゴンは赤の自由を希求する性質を体現しているので、赤に相応しい。ドラゴンは望むことを望むときにするもので、制約を嫌うのだ。

白 ― 天使
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 『アルファ版』に《セラの天使》という天使がいるにもかかわらず白を2番目に置いたのは、最初から象徴にしようとして配置されたわけではないからである。公正を期すために言っておくと、色の象徴という構想そのものが初期から存在していたわけではない。リチャードは各色にイカしたクリーチャーを配置しようとしただけである。色の哲学を表すレアのクリーチャーを各セットに入れるという構想は、ずっと後になってからのものである。私が《セラの天使》が現代で言う象徴として作られたのではない、という理由は、単に、それがレアではなくアンコモンだったから、である。

 にもかかわらず、《セラの天使》はすぐにマジックのもっとも象徴的なカードの1枚になり、そして、クリエイティブ・チームが白を象徴するクリーチャーを探したとき、当然のごとく天使がその地位になった。天使は白の平和を希求する性質に合致しており、守護者として働くものであり、そして味方を助ける能力を持つことも多いのだ。

黒 ― デーモン
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 『アルファ版』にはデーモンである《奈落の王》も存在しており、かなり象徴的で、そしてレアだった。なぜこれが3番目なのかというと、長年の間黒には黒だけの問題があった。黒には、象徴の候補として、デーモンと吸血鬼という2種類のクリーチャーが存在していたのだ。どちらも黒の力を求める性質に合致しており、象徴的クリーチャーの候補として相応しかった。最終的には、吸血鬼を特性的種族に格下げにして(興味深いことに、今度はここでゾンビと競うことになった。ああ、黒にはなんて魅力的な存在が多いんだろう)、デーモンを象徴的クリーチャーとすることになった(歴史に興味がある諸君は、デーモンが何年もの間マジックから消えていた理由について語っているこちらのコラム(リンク先は英語)を読んでみてくれたまえ)。

青 ― スフィンクス
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 さて、何年もの間頭痛の種だった2色に入ろう。最初の青の大型レア・クリーチャーは、《マハモティ・ジン》だ。ジンは空を飛び、知性も高い。青の象徴的クリーチャーに求められる2つの条件を満たしているが、クリエイティブ・チームはジンが多くの世界で登場することはできないと判断した。次の候補は海蛇だったが、海蛇は飛行も持っていなければ知性もない。しかもコモンに存在することもある。

 いつスフィンクスにたどり着いたのかは覚えていないが、我々は、スフィンクスが大型飛行クリーチャーで青の情報を希求する性質に合致するということに気がついたのだ。最初はスフィンクスが青らしくないかもしれないと思ったが、プレイヤーはスフィンクスを受け入れてくれた。本当の関門は、それを使い、青に魅力的で強力なスフィンクスを入れて顧客の反応を見ることだった。幸いにして、スフィンクスはプレイヤーたちに肯定的に受け入れられたのだ。

緑 ― ハイドラ
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 そして、象徴的クリーチャーの最大の問題児、緑の話だ。最初は、ワームを検討していた。しかしプレイヤーはワームに魅力を感じなかった。翼を失ったドラゴンであり、赤には翼のあるドラゴンがいるのだ。つまり、緑は赤の下位種を頂いているかのように見えたのだった。その後、マジックのワームは翼のないドラゴンから巨大な地虫へと変貌を遂げた(個人的にはこれは嫌いである。私は古典的なワームが好きで、ワームの「Wurm」と地虫の「worm」は違う単語なのだ。しかし、プレイヤーは巨大地虫――いや、ワームが好きなのだ)。巨大地虫にしたところで、ワームは充分な役には立ってくれなかった。

 次に目を付けたのはビーストだったが、それは普遍的すぎた。象徴的クリーチャーは毎セット存在を認識できるものでなければならず、一定の性質を持つ必要がある。その他にもいくつかの条件があった。まず、象徴的クリーチャーは人々が知っているクリーチャーでなければならない。つまりマジック世界のオリジナルなクリーチャーではだめなのだ。次に、緑を体現しているものでなければならない。緑の成長を希求する性質を示さなければならないのだ。

 この問題を解決することを投げ出していたとき、誰かが(誰だか忘れてしまった)すばらしい構想をもたらした。他の色に割り当てられているカードを、緑に動かしたらどうだろう? ハイドラが最初に存在したのは『アルファ版』で、リチャードはそれを赤に割り当てていた。しかし、ハイドラは成長の体現として申し分ない存在だった。野生のクリーチャーだった。森に棲んでいても何にもおかしくないように思えた。

 今日、スフィンクス同様、顧客がどう捉えるかが鍵となっている。これまでは成功したとは言えないが、それは本当に強いハイドラを作ってこなかったからだ。幸いにして、救世主となり得る状況が訪れていた。そう、ギリシャ神話をモチーフとしたセットである。強力なハイドラがどこかのブロックに存在するなら、それは『テーロス』ブロックだろう。

 5つの象徴的クリーチャーの中で、緑は一番確定していない。しかし、まさに確定しつつあると私は考えている。『テーロス』ブロックはその助けになったのだ。

怪物のエサ

 今日の話はここまで。どうやら生き延びることができたようだ。怪物に関するこの話、またそのデザインについて楽しんでもらえたなら幸いである。いつものとおり、メール、掲示板、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+)で意見を聞かせて欲しい。

 それではまた次回、ローズウォーター・ファイル(私の個人的な歴史とデザインの話を絡めた話題)でお会いしよう。

 その日まで、あなたが怪物を戦場に出した時の対戦相手の顔を見る喜びがあなたとともにありますように。

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