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Making Magic -マジック開発秘話-

あなたの好きな統率者

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Making Magic

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あなたの好きな統率者

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2013年10月28日


 統率者特集にようこそ。今週は、新製品のサプリメント、『統率者(2013年版)』について語っていくことになる。このコラムはデザインをテーマにしているので、それがいかにしてデザインされたかについて語っていこう。どうして作ることになったかを話し、デザイン・チームを紹介し、そしてこのセットのデザインについて掘り下げていくことにしよう。用意はいいかね?

ちょうど1年後に

 2011年の話、我々は『マジック:ザ・ギャザリング 統率者』という商品を発売した。毎年夏にサプリメントを発売することになっていて、この年の商品が『統率者』だったのだ。統率者戦が人気を増してきていたので、それをサポートする商品を発売する価値があると考えたのだ。この商品には、それぞれ100枚のシングルトンで作られ、デッキの統率者として新しい伝説のクリーチャーが1枚入っている構築済みデッキ5つが含まれていた(各デッキには他にも統率者として使える伝説のクリーチャーが2体ずつ入っていた)。5つのデッキをあわせて、新しくデザインされたカードは15枚あった。

 『統率者』は我々の想像以上で、単一の商品では収まりきらないところに踏み込んだのだとわかった。その後、デッキを作るのにそれから1年以上の歳月を費やしていたので、2012年版の新デッキを完成させることはできなかった(そこで我々は『Commander's Arsenal』を代わりに作った。これなら作るのにそれほどの手間はかからない)が、2013年、統率者戦用デッキの新しいセットを作ることができた――それが、今日語っていくセットである。

 最初の統率者戦用デッキを含んでいた夏の商品ラインナップを継続させるため、このデッキ群を秋に移動させることも決定した。こうして『統率者(2013年版)』が作られることになったのだ。

 デザインについて掘り下げていく前に、まずはデザイン・チームを紹介しよう。

マーク・ゴットリーブ/Mark Gottlieb (リーダー)
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 マークはウィザーズで様々な仕事をこなしてきた。何年も前、彼が最初にこの会社に入ったのは編集者としてだった。それから次がもっとも長く務めた役職、マジックのルール・マネージャー。やがてルール・マネージャーの職を辞して、開発部でマジックのデベロッパーになった。この間を通して、彼はデザイナーとしての能力を示し、いくつものデザイン・チームで働いていた。

 やがて、彼は『ミラディンの傷跡』で初めてのリード・デザイナーを務める機会を得た。その後、『ギルド門侵犯』では(私とともに)2回目のリード・デザイナーを務めた。『統率者(2013年版)』は、彼がリード・デザイナーを務める3つめの商品ということになる。

 この間に、マークはデザイン・マネージャーに就任した。彼と私は、彼が人々や日程を監督し、私が商品や技術面を監督するという形で密接に協力している。彼の仕事を次に諸君が目にするのは、2015年の春に登場する『Louie』ということになる(もちろん、『Huey』『Dewey』に続くセットだ)。

 長年にわたり、ルール・マネージャーである彼は主席デザイナーである私の天敵だという冗談を言ってきた。しかし、実際の所はこの2人は協力し合うものであり、そして彼と協力して現在の才能溢れるデザイン・チームを形作るのは楽しい仕事だったのだ。

 また、私は彼をデザイン・チームに入れて協力するのも好きだ。彼はとても創造力に富んだデザイナーなのだ。彼は余暇にパズルを解く(あるいは作る)のが好きで、パズル好きはセットのデザインにも活かされている。統率者戦の1ファンとして、私は彼が統率者戦のファンを楽しませてくれるようなカードをデザインするだろうと信じているし、間違いなくいい仕事をしてくれるマークが『統率者(2013年版)』のリード・デザイナーを務めるのは喜ばしいことである。


イーサン・フライシャー/Ethan Fleischer
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 イーサンが第2回グレート・デザイナー・サーチの結果6ヶ月のインターンシップを勝ち取ったのがまるで昨日のことのように思える。だが、実際はそれはもう2年前のことだ。イーサンはいくつものデザイン・チームに所属し、そして今や初めてリード・デザイナーを務めるまでに至った。彼がリード・デザイナーを務めたセット『ニクスへの旅』は、来年の春諸君の前に姿を現すことになる。

 私がGDS2でイーサンを勝者に選んだのは、彼に大きな可能性を見たからだった。そして、本当に喜ばしいことに、その可能性は現実になった。イーサンを『統率者(2013年版)』に投入したのは、将来、彼が統率者のデザイン・チームを率いることになる可能性を考えてのことである。

 イーサンは統率者戦のファンで、喜んでこのチームに参加してくれた。


ダン・エモンズ/Dan Emmons
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 ダンはこのデザイン・チームで最年少のメンバーである。ダンはGDS2で決勝に残ったわけではないが、トップ8にデザイン面で強く協力した人物の1人であった。イーサンとショーン・メイン/Shawn Mainがウィザーズで働き出してすぐに、ダンは私のところにやってきて自己紹介をした。(当時カスタマー・サービスという名前だった)ゲーム・サポートに就職したばかりの彼は、どんな形でもいいからデザインに協力したいというのだ。

 我々はダンをプレイテストに招き、そしてデベロップ中に必要になった穴を埋めるためのカードを作ることを認めた。ダンは見事にその仕事を果たしたので、我々は彼をデザイン・チームに招くことにした。空席があることに気付いた私は、ダンを呼び、そしてフルタイムのデザイナーとして働かないかと言ったのだ。

 ダンは情熱と熱狂の塊だ。彼が初めて私の席を訪れた日から、彼は自身の全てをよりよいデザイナーになることに費やしてきた。彼は今、『Blood』において私の次席を務めている(つまり、彼はカード・ファイルの責任者であり、私と特に密接に協力しているのだ)。

 カードを作ること、そしてあらゆる問題を解決することに貪欲なダンをデザイン・チームに招くことは、常にプラスである。彼は自分の仕事を全力で楽しんでいて、そしてその興奮は伝播するものなのだ。


スコット・ララビー/Scott Larabee
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 日中、スコット・ララビーはプロツアーの監督を務めるイベント・ディレクターである。しかし、夜になると、彼は統率者戦に関する重要な決定すべてを行うウィザーズ社外のグループ、統率者戦ルール委員会(リンク先は英語)の一員なのだ。スコットは前回の『統率者』のデザインにも関与しており、2回目の参加も自ら申し出たのだ。理由は単純で、ウィザーズ社内全てを見渡してもスコット以上に統率者戦を愛している人間はいないからである。統率者戦は彼が情熱を注いでいるフォーマットであり、デザイン・チームに何かを加えるとなれば、デザインに情熱を持つ人物を加えたいものだ。

 彼は統率者戦に注力しているので、このデザイン・チームで非常に有用なリソースとなった。また、デザイン・チームが統率者戦のルールに直接関与するような新しいデザイン空間に踏み込むときには、統率者戦ルール委員会との連絡役の役目も果たしてくれた。

 私はスコットのことをかなり前から知っている。ロサンゼルスに住んでいた頃、まだウィザーズの一員となる前、スコットが毎週開いていたマジックのイベントに私は参加していたのだ(Costa Mesa's Women's Centerという会場だった)。先日ウィザーズ社勤続15周年となったスコットは、もっとも長く私とともに働いた人物の1人である。『統率者(2013年版)』のデザイン・チームに参加しなかったことで私がもっとも後悔していることの1つが、スコットとともにデザインをするという栄誉にあずかれなかったことである。いつの日かこの不公正を正さなければならない。

スティーブ・ワーナー/Steve Warner
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 私はデザインやデベロップについてかなりの時間を費やして語ってきたが、開発部にはその2つの仕事以外の仕事をしている人物もたくさん在籍している。スティーブはプレイテスターの1人である。最新のカードを取り上げ、最悪の使い方をするのが彼の仕事なのだ。何年もの間、スティーブはいくつもの狂った強力なデッキを作り、それが世に出て諸君の目に触れることを防いできたのだ。

 しばしば、我々はスティーブをデベロップ・チームに迎えてきた。彼がマジックのデザイン・チームに入るのは、『統率者(2013年版)』が初めてのはずである。新しいメンバーをデザイン・チームに加えることで独特の視点を加えることができる。スティーブはマジックや統率者戦にとても馴染んでおり、その一方でチームの他のメンバーと違う方法で物事を見ることができるのだ。

 それにも増して、『統率者(2013年版)』のデザイン・チームは、チームの5人それぞれがデッキを1つずつ作るという形だった。つまり、スティーブの本職である。

ミサイル・コマンダー

 2012年の春、マーク・ゴットリーブはデザイン・チームを結成した。求められる話は単純で、12週間で5つの100枚デッキを組み、その中に合計51枚の新カードを入れる、というものだった。前回の『統率者』に入っていたデッキと同様、それぞれに箱の表紙になる主な統率者が1体、そして他に、デッキに入っているが統率者と交換することもできる伝説のクリーチャーを2体入れることになっていた。

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 チームが最初に決める必要があったのは、どの色を使うかということだった。前回の『統率者』では楔(1色とその敵対色2色を含む3色の組み合わせ)をテーマとしていたので、これは使えない。チームは1色から5色まで全ての選択肢を検討したが、2色は『ラヴニカへの回帰』ブロックの直後だという理由で排除した。テーマがあまりにも被ってしまうのだ。

 5色は5つのデッキを作るという意味で現実的ではない。4色は検討されたが、そもそも4色の伝説のクリーチャーは現時点で存在しない。検討の結果、方針の修正が必要であるということがわかった。例えば、デッキに入り、かつ統率者としても使える伝説のクリーチャーを2体追加するのは、使い物になる再録カードが存在しないので、非常に困難である。1色の統率者はルール上は使えるが、相当捻らなければそれで魅力的なデッキを作るのは困難だろう。

 結果、チームは3色の選択肢を探ることになった。楔がダメなので、断片(1色とその友好色2色からなる3色の組み合わせ)を検討することになる。マークと彼のチームが断片を検討していくと、この部分はデザイン上掘り下げられていない場所だということが明らかになった。もちろん『アラーラの断片』ブロックは断片をテーマにしていたが、それ以来触れられておらず、それ以前もほとんど触れられていなかったのだ。統率者戦コミュニティは3色の統率者を好んでいたので、断片という選択肢を掘り下げるいい機会でもあった。

 断片をテーマにすると決めたチーム、次なる大問題が立ちはだかった。「統率者戦に新しく加えることができるものは何だろう?」

領域の中で

 チームはブレインストーミングにかなりの時間を費やしたが、ブレイクスルーはチーム外の人物からもたらされた。マジック開発部上席ディレクターにして長年の統率者戦プレイヤーであるアーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheである。彼は前回の『統率者』のデザイン・チームにも所属しており、『統率者(2013年版)』のデザインにも時折首を突っ込んでいた。アーロンは、統率領域で有利になる統率者という構想を提示した。

 統率者戦に馴染みのない諸君のために、ここで簡単に触れておこう。統率者戦は99枚のシングルトン(同名のカードは1枚しか入れられない)・デッキと、そのデッキの統率者となる伝説のクリーチャー1枚を使うフォーマットである。統率者の色によってそのデッキに入れられる色が定められる。この議論で重要なのは、統率者がゲームにおいてどういう役割を果たすかである。

 統率者は最初、統率領域と呼ばれる場所に置かれる。その統率者のオーナーは統率者を自分の手札にあるかのように統率領域から唱えることができる。統率者が墓地に置かれるなら、オーナーは代わりにそれを統率領域に戻してもよい。オーナーはその後で統率者を再び統率領域から唱えることができるが、その際には統率者が戻った回数ごとに追加で{2}を支払わなければならない。例えば、《海の神、タッサ》を使っているとしよう。最初に唱える時は、コストは{2}{U}。2回目は{4}{U}、3回目は{6}{U}と増えていくのだ。

 アーロンの発想は、統率領域で有利になるような伝説のクリーチャーを作り、統率者戦にその要素を加えるというものだった。チームがその発想を形にしたものを実際に見てみよう。

 《浄火の戦術家、デリーヴィー》は統率領域で働く起動型能力を持っており、その能力を使えば2回目以降唱えるよりも軽く戦場に出ることができる。

 《老いざる苦行者、アローロ》は統率領域にある間、オーナーのアップキープに誘発する誘発型能力を持っている。

 《ネファリアの災い、ジェリーヴァ》《カーの空奪い、プローシュ》《野生の意志、マラス》は、唱える時に支払うマナの量を参照する誘発型能力を持っている。これは、統率者を唱えるためのコストが唱えるたびに増えていくという統率者戦のルールを楽しむものだ。

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 特定のフォーマットのためにカードをデザインする場合、いつも自分が使えないマジックのカードが作られたことを面白く思わないプレイヤーからの反響を受ける。私は、どんなセットにも様々なプレイヤー向けのカードが入っているものであり、それらのカードは特定の対象以外には魅力的ではないかもしれないが、マジックにおいてカードが別々のプレイヤー向けになっているのは当たり前のことだ、と答えている。また、それらのカードはまさに統率者戦向けにデザインされた商品に入れてあるのだということも意識してもらいたい。

 マークと彼のチームは、このセットのために新しいメカニズムも作った。

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 誘引と名付けられたこのメカニズムは、あなたが何かをしても良い。その後、他のプレイヤーもその同じことをしても良い、が、もししたらあなたはさらにもう1つその効果を得る、というものだ。誘引は、チームが統率者戦の政治的側面に着目したことによって作られた。多人数戦においては非常に複雑な力学が存在し、デザイン・チームはそういった環境で輝くようなカードを作ることに興味を抱いたのだ。

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 さらに、デザイン・チームは呪いのサイクルを作った。これらのエンチャント(プレイヤー)は『イニストラード』ブロックに存在していたもので、統率者戦では他のプレイヤーを望むように攻撃させるという素晴らしい役割を果たす。呪いは、呪われたプレイヤーを攻撃したプレイヤーに利益を与えるのだ。

 さらに、デザイン・チームは統率者戦向けのカードをもう1枚作った。《オパールの宮殿》である。前回の『統率者』では統率者戦で使う専用の、統率者の固有色(統率者の色のカードだけをデッキに入れていいとするルール)をルール・テキスト内で使っている土地《統率の塔》が導入された。デザイン・チームは《統率の塔》を再録するだけでなく、同じように統率者戦専用の土地を新しく作ることにしたのだった。

統率者の師団

 この商品は作るのに通常より長い時間がかかったが、私は、この商品を求めるユーザーがデザインに詰め込まれた労力を評価してくれることを望んでいる。マークと彼のチームは前回の『統率者』の定めた目標をクリアするべく尽力したのだ。

 諸君がこのセットについて、そして、どんな新しいデザインが相応しいかなど、今後の統率者戦に求めるものについて考えていることを教えて欲しい。いつものとおり、ール、掲示板、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+)で待っている。

 それではまた次回、『テーロス』に関する未回答問題に答える日にお会いしよう。

 その日まで、あなたの統率領域があなたとともにありますように。

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