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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

他ならぬ『テーロス』 その1

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Making Magic

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他ならぬ『テーロス』 その1

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2013年9月2日


 『テーロス』プレビュー第1週にようこそ! ようやく『テーロス』のデザインについて語ることができる。このセットを16ヶ月前に提出したときに大満足していて、今日まで諸君皆にその内容について話せなかったのは拷問と言ってもいいほどだった。喜ばしいことに、今日は私が今までデザインした中でも一番のお気に入りのセットの出来方について語ることができる日なのだ。もちろん、魅力的なプレビュー・カードも用意しているので心配しないでくれたまえ。

はじめに

 この話は何年も前、アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheのオフィスで始まった。アーロンは私に、それから6ヶ年の計画をまとめるように指示したのだ。以前(この内容については既に記事にまとめている)、私の前の上司であったランディ・ビューラー/Randy Buehlerは私に5ヶ年計画をまとめるように指示し、アイデアが有り余っていた私は6ヶ年計画をまとめて提出したことがあった。同様に、アーロンが求めてきたのは6ヶ年計画だったのだが、私が提出したのは7ヶ年計画だった。


アート:Sam Burley

 その部屋には他に、当時マジックのクリエイティブ・ディレクター(つまりクリエイティブ・チームの首席だ)を務めていたブレイディ・ドマーマス/Brady Dommermuthがいた。ブレイディと私は様々なセットで協力してきた。協力して、ミラディン世界を作り、ラヴニカのギルドを作り(私は2色の組み合わせ10個が欲しいと言い、ブレイディがその発想をギルドにし、私がそれをメカニズム的な基礎に仕上げたのだ)、他にも挙げれば切りがないほどだ。

 何にせよ、私はアーロンのオフィスにいて、そこにはアーロンとブレイディがいた。私の7ヶ年計画を提示するときだった。1年目が『イニストラード』で、もうデザインが終わって(6ヶ年計画を作ったときに、7年目にゴシックホラーを計画していたのだ)デベロップされているところだった。2年目は『ラヴニカへの回帰』。これはデザイン中で、大成功を収めたラヴニカに7年越しに戻るのだということがわかっていた。3年目こそがそこでプレゼンテーションを行う、本当の意味での最初の新ブロックということになる。

 3年目に関する私の発想は、私が長年暖めていたものだった。実装をどうするべきかを考えるのには数年かかっていたが、ようやく閃いてどうやって実装するかの鍵を手に入れていた。ここで私はこの発想をアーロンとブレイディに売り込むことになった。彼らが同意すれば、それは実現するのだ。アーロンは提案を気に入り、よさげだと言った。そして、ブレイディは「その構想は気に入ったよ。でも、クリエイティブ・チームにそれを実現するリソースがないと思う」と言ったのだ。

 私は提案を続け、他の4年分の構想は2人の同意を取り付けることができた(いくつかは変更を余儀なくされたが、それはまた将来の話になる)。そして、再び3年目の話に戻ることになった。私は、ブレイディが私の構想を正しく理解していないと思うと言った。確かに問題はあるが、解決はできると。ブレイディはやはり、いい構想ならそれでいいというものではないと繰り返した。いい構想であるだけでなく、実行可能でなければならない。そして、私の提案したブロック構想は却下されたのだった。

 会話は次のようなものだった(いつもどおりさっくりと):

アーロン:オーケー、決まらなかったのはたった1つ、これから2ヶ月後にデザインを始めるブロックだけだ。

私:これを最初に置いたのは、これが最高の構想だと思うからだ。『ラヴニカへの回帰』に負けないようにしなければならないんだ。

ブレイディ:これまでに暖めてきた構想を見てみるべきかも知れません。例えば、ギリシャ神話のセットを作るべきだという話は何年も出てきています。

私:冗談。マジックにはもう大量のギリシャ神話が混じっているから、そのセットを特別なものだと感じさせる方法を見付けなければならないじゃないか。

ブレイディ:ギリシャ神話には夢や夢状態に絡む内容がいくらでもあります。エンチャント・テーマをそういう方向で使えないでしょうか。プレイヤーはエンチャント・ブロックを求めているのです。

アーロン:エンチャント・テーマのギリシャ神話セット。プレイヤーが気に入りそうなものだね。なんとかできるかな、マーク?

私:1週間くれ、考えてみる。


英雄の一隊

 さて、ここで休憩がてらに『テーロス』のデザイン・チームを紹介しよう。

マーク・ローズウォーター/Mark Rosewater(リード・デザイナー)
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 アーロンと私は、少なくとも近い将来に関しては、私がブロックの第1セット全てでリード・デザイナーを務めると定めた。過去4つの第1セットのうち3つでリーダーを務めているので、これは事実上はそれほどの変更ではない。首席デザイナーとして、ブロックの方向性を定める大型エキスパンションを私が形作るのは有用なのだ。

 私が毎回デザイン・チーム紹介に顔を出し、このコラムを書き、ポッドキャストを行い、ブログを書き、コママンガでまで伝記のようなことをしているので、他に諸君に紹介していない話があるかどうか自信が無い。そうだ、私の若い頃とギリシャ神話の関わりについてなどはどうだろう。今回のデザインに関係したわけではないが、今まで話したことはないし、このセットのテーマに合っているし、それに諸君に私についてもう少し知ってもらうことができるだろう。

 中学3年の時、学校でギリシャ神話について学んだ。子供の頃から、何かテーマを見付けてそれに関連するあらゆる本を探しては読んでいた私にとっては、とても簡単なことだった。ギリシャ・ローマ神話はそんなテーマの中の1つだった。ある日、試験があった。アレス/マルスが何の神か、という問いで、回答欄は2つあった。1つが「戦争」なのはすぐにわかったが、2つめの欄に私は戦士と書いた。多くの兵士がアレス/マルスを信仰しており、彼らの第一の神だと信じていたことを知っていたからである。先生はその答えを誤りだとした。私は混乱したので彼女に説明を求めた。私は戦士がアレス/マルスに祈りを捧げていると書いた本をたくさん読んでいたのだ。2つめの欄に何を書いたら良かったのかと先生に聞くと、授業ではアレス/マルスは戦争の神だとだけ教えたのだから、2つめの欄は空欄にするのが正解だと言われたのだった。

 仕事上、いろいろな苛立ちに対処する必要があることがある。私はこういったことを訓練だと考えることにしている。


イーサン・フライシャー/Ethan Fleischer
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 私が自分のセットに手を付けるときにやることの1つが、私の次席者となる中核デザイナー(マジックのデザイナーとしてマーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebと私に指定された人物)を選ぶことである。その人物はカード・ファイルを管理する責任を負う。教えるための最高の方法の1つは、リード・デザイナーでないデザイン・チームにおいてファイルをコントロールさせることだということを学んだ。それによって、そのデザイナーは実践で手順を学ぶことができるのだ。イーサンは『テーロス』のデザイン・チームにおける私の次席者である。

 その役割に加え、私はイーサンにデザイン開始前にある特務を与えていた。(深く掘り下げて調査するのが得意な)イーサンに、ギリシャ神話について調査し、マジックが過去にやったこと、やっていないことそれぞれについての可能性を探るという任務を与えたのだ。これが面白そうだと思った諸君には、この任務についてイーサンが書いた記事「公正な話」を読んでみることをお薦めしよう。

 私がイーサンをチームに入れた3つめの理由は、彼をこのブロックの第3セット『ニクスへの旅』のリード・デザイナーにするつもりで、彼にデザイン・チームのリーダーとしての経験を積ませるとともに、彼が取り組むことになるこの世界やブロックに可能な限り馴染んでおいてもらいたかったからである。

 イーサンは素晴らしいデザイナーで、彼を私のデザイン・チームに迎えられると嬉しく思う。ギリシャ神話の専門家としてのさらなる役割も踏まえて(専門家は彼だけではない――すぐに触れる)、彼は『テーロス』のデザインにこの上なく重要な存在になった。


ケン・ネーグル/Ken Nagle
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 よくやることの1つに、次のセットのリード・デザイナーをそのブロックに馴染ませるということがある。だから我々はその人物をリーダーを務める前のセットのチームに入れるのだ。ケンは『神々の軍勢』のリード・デザイナーだったので、『テーロス』のデザイン・チームの一員になる必要があった。

 私にとって奇妙だったのは、ケンが私のチームの中で(もちろん私を除いてだが)最も経験豊富なデザイナーになっていたということだった。第1回のグレート・デザイナー・サーチの採点会議で、他のメンバーがケンを不合格にしようと言った中で私が「いや、彼には可能性がある」と主張したのは昨日のことのように思える。実際、私は正しかった。ケンはグレート・デザイナーどころか、エクセレントなデザイナーになったのだ。


ザック・ヒル/Zac Hill
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 デザイン・チームにはデベロップ代理と呼ばれる、中核デベロッパーが占めることになっている席がある。デベロップ傾向の質問をしてデザインをいい方向に導いてくれ、また、多くのカードをデザインしてくれ、そしてチームの一員として面白い(デザイン・チームとの会議には多大な時間が費やされるので、一緒にいて楽しいと言うことは重要な要素である)ザックは私のお気に入りのデベロップ代理の1人だった。

 ザックは他のことをするためにウィザーズを離れてしまい、私は残念に思っている。しかし幸いなことに、彼はプロツアーのカバレージを続けてくれているので、定期的に彼と会うことができるのだ。『テーロス』はスムーズにデベロップに渡されたが、それにはチームにおけるザックの功績がある(デザイン・チームにいないにもかかわらず、『テーロス』のリード・デベロッパーを務めたエリック・ラウアー/Erik Lauerが投げかけた質問の功績でもある)。


ジェンナ・ヘランド/Jenna Helland
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 『テーロス』のデザイン・チームにおけるジェンナの第一の仕事は、クリエイティブ代理だった。ジェンナはセットのカード・コンセプト担当(各カードがフレイバー的に何を表しているのかを定める)で、トップダウン・デザインがデザインとクリエイティブの両方の需要を満たすようにしていた。

 ジェンナはまた、ギリシャ神話のもう一人の専門家でもあり、彼女とイーサンは何がギリシャ神話に相応しくて何が相応しくないのか、そしてギリシャ神話ファンのために高いレアリティに忍ばせる微妙なものについて議論していた。それらすべてにも増して、彼女は非常にフレイバーに富んだカードをデザインしていた。


ビリー・モレノ/Billy Moreno
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 ビリーは、デザイン・チームのメンバーですらなかったという面白い話だ。では、なぜデザインの一員として名を連ねているのか? それは、彼がこのセットの中心にあるメカニズム1つを作ったからである。そのメカニズムやその誕生については、来週語ることにしよう。ビリーはデベロッパーだが、デザイン技術に秀でており、いつも異なった観点からのデザインを提出してくるのだ。実際、『テーロス』には解決しなければならない大問題があったが、ビリーのメカニズムがそれを解決する鍵になったのだ。ビリーはまもなく他のことをするために退社するので、寂しくなる。デベロップとデザインの両方に秀でた人材はそういないのだ。

 さて、これがトップダウンでギリシャ神話に生命を吹き込むチームだ。ギリシャ神話とエンチャント・テーマのブロックというのがいい構想だったかどうか判断できるような話を取り上げていこう(ネタバレ:もちろんいい構想だった)。


ギリシャの霧の中で

 アーロンは私に、ブレイディのアイデアを検討するための1週間をくれた。エンチャントをテーマとした、ギリシャ神話のトップダウン世界。私はそれを作り上げられるだろうか?


コンセプト・アート: Adam Paquette

 ギリシャ神話のセットという構想は、マジックのおこりからずっとあった。『Arabian Nights』がペルシャ神話(そのまま。それを元ネタにした世界ではない)を描いていた。もちろん、マジックはギリシャ神話を描くことはできた。結局、ギリシャ神話はマジック中にちりばめられていた。そこがひっかかりだった。ギリシャ神話にはミノタウルスやペガサス、ケンタウルス、グリフィン、ハイドラ、スフィンクス、サイクロプス、その他もろもろが存在する(ところで、この中のいくつかはギリシャ神話では1体しか存在しないのだが、トレーディング・カードゲームではそういうクリーチャー・タイプを作るのは難しかった)。問題は、それら全てがマジックの一部になってしまっているということだった。

 リチャードがマジックに組み込んだものの多くがギリシャ神話に由来するので、ギリシャ神話のセットは充分な独自性を持てないのではないかということが長年にわたって心配されていた。そこで、『イニストラード』だ。『イニストラード』はゴシックホラーを題材にしていたが、そこで我々が使ったクリーチャーのほとんどはマジックに普通に存在していたクリーチャーだった。例えば、5つの部族のうちで4つはマジックに普段から存在していたし、残りの1つである狼男にしても、枚数こそ多くないがマジックで使ったことがあるクリーチャーだった。

 『イニストラード』から得た教訓は、マジックが普段から使っているものをグループ化してフレイバーづければ、普通のマジックと違う感覚をもたらすことができるということだった。だから私は、ギリシャ神話の世界にそれ独自の雰囲気を持たせることができるかどうかについては心配していなかった。実際のところ、私はそのことはそんなに難しくないとわかっていた。私が考えていたのは、できるかどうかではなく、どうやってできるかだった。どうすればそのブロックをそれらしくして、しかも楽しいプレイパターンを持たせることができるだろうか?

 ブレイディの提案したエンチャント・テーマというのはさらに重要だった。マジック史上に存在したエンチャント・ブロックはたった1つで、そのセットのパワー・レベルから全体として悪評を受けることになった(わからない諸君のために言うと、ここで言っているのは『ウルザズ・サーガ』ブロックのことだ)。挙げ句の果てに、当時のブランド・チームはそのブロックを「アーティファクト・サイクル」と命名した。その結果、エンチャント・テーマが認識されるなど期待できることではなかったのだ。

 私はエンチャント・ブロックをやりたいと思っていたが、他の「カードタイプ・テーマ」のブロックと違う形でそれを実現する方法を模索していた。私はギリシャ神話とエンチャントの両方に興奮していたが、どちらも難関で、何か特別なことをする手がかりが必要だった。私は方法を探すのに1週間かかったのだ。

ある魔法の夜に

 ブレイディが最初にエンチャントの構想を提案したとき、彼はギリシャ神話と夢には強い繋がりがあると言っていた。神々はしばしば夢の中に訪れ、神々のやることはまるで夢のような性質を持つ。ギリシャ人はギリシャ神話の振る舞いを考えるときに、夢の中で会ったときのことから決めているという主張さえできるぐらいだ。

 私が何か難問を解こうとしているとき、私はしばしば他のことに答えることにしている。『テーロス』におけるエンチャントの役割を考えているときに、私はこのカードに思いを巡らせていた。

 『未来予知』のデザインにおける最大の挑戦は、マジックにありうる未来からのカードであるミライシフト・カードのデザインだった。その多くはマジックが既にしてきたことの延長線上、まだ到達していないところにあることだった。マジックには一番最初からアーティファクト・クリーチャーが存在していたので、いつかクリーチャー・エンチャント(訳注:当時の日本語訳はエンチャント・クリーチャーであり、混乱を招いていたので『テーロス』では順番が変更になりました)も存在することになると決めたのだ。

 《輝く透光》の初稿は、クリーチャーでないエンチャントの持つような能力を持っていた。『未来予知』のリード・デベロッパーだったマイク・チュリアン/Mike Turianは、あまりにも複雑だとして単純化のために取り除いたのだ(このセットにはまだまだ複雑なことがあったのは事実だ)。エンチャント部分をなくしてしまうとそのカードには何の意味もなくなるとして、私はマイクのその決定に抗った。ただのクリーチャーで、全然エンチャントらしくない。クリーチャー・エンチャントは両方らしくなければならない、と(これはこの後のその2で重要になる話だ)。マイクの決定が通ったのは衆知の通りである。


輝く透光》 アート:Eric Fortune

 《輝く透光》が世に出て以来、私はいつかクリーチャー・エンチャントを仕上げたいと頭の片隅で考えていたが、そのためには理由が必要だった。エンチャントだからという理由でエンチャントにしたくはなかった。デザイン上、フレイバー上で重要な意味を持たせたかった。エンチャント部分がメカニズム的にもフレイバー的にも有意義でなければならない。答えが自分から現れるまで、ずっと頭の中にあった問題だったのだ。どうやら、今こそその時だ。

 クリーチャー・エンチャントが神々の創造物であればどうだろう? それによって、カードにおけるエンチャントの役割となる、現実そのままではないという性質を与えることができる。このことから、いくつかの構想が生まれてきた。クリーチャー・エンチャントに関連する新しいメカニズムの1つについて来週取り上げる。後になって、このクリーチャー・エンチャントが神々の創造物だという構想は、クリエイティブ・チームの作った神々の住処であるニクスとも繋がってくることになる。

 この構造について考えれば考えるほど、私は興奮を抑えきれなかった。ギリシャ神話に似た、それでいてマジックのひねりを利かせた世界を作ることができるだろう。また、クリーチャー・エンチャントをエンチャント・ブロックの背骨に据えれば、エンチャント・ブロックの最大の課題だった「黒や赤はテーマにどう絡むか」を解決できる。

 私は翌日にアーロンのところに赴き、そして言った。「ギリシャ神話のブロックをやろう」と。

「神話。神話。」

 このころ、私はイーサンにギリシャ神話について調査するように言った。デザイン開始予定の7週間前のことだったことは書き添えておこう。私は毎週彼と連絡を取り、彼が構想をリストアップしているのを見ていた。ギリシャ神話はマジックの中核に相応しかった。ビジュアル的にも、クリーチャー的にも、世界観的にも申し分なかった。マジックのセットに必要な全てが揃っていたのだ。


参考資料に夢中のイーサン。イーサンの書いた記事を読んでみるといい。

 そしてある日、私は子供たちと図書館に来ていた。一番下の娘のサラ/Sarahが本を探すのを手伝っていたところ、偶然子供向けのギリシャ神話の本を見付けた。その本のタイトルは思い出せないが、サブタイトルは「神々、英雄、怪物」だった。私は、その子供向けの本はギリシャ神話の最も魅力的なところを示すのに最高の素材だと判断し、その本を借りた。その本、並びにそのサブタイトルは、デザインで非常に重要な役割を果たしたのだった。

 『テーロス』のデザイン初日、私は『イニストラード』のデザインの初日にやったのと同じことから始めた(『イニストラード』のデザインを『テーロス』の手本にしたのは、どちらもトップダウンでフレイバー優先のセットだからである)。チームに、ギリシャ神話で必要だと思うものをブレインストーミングするように言ったのだ。

 ここで閑話。私が「ギリシャ神話」と言う場合、実際はギリシャ・ローマ神話を指している。デザインの初期を通して、私はその両方からの連想を使っていると仮定していた。クリエイティブ・チームは、ギリシャ文化とローマ文化は異なるので、ローマ文化を将来のセットで使えるようにするために(ローマ神話のセットとは限らず、例えば剣闘士や戦車などのローマ文化に関連するセットを作れるように)ギリシャ神話だけに注視することはできないかと言ってきた。

 チームはホワイトボードを埋め尽くした。ギリシャ神話はとても奥深いものだった。全体を通してみると、そこに挙げられたものはいくつかのグループに分けられると気付いた。最大のグループはクリーチャー、ほとんどは怪物だ。次は神々や神々に関連するもの。3つめは神話の物語、特に英雄譚に関するもの。最後の1つはギリシャ関連、衣類や武器、技術などだった。歴史上のギリシャ関連のものを除くと、残りのグループは3つ。神々、英雄、怪物。これが我々のひらめきとなった。

神々よ

 2回目のミーティングで、私は「結論が出た。ギリシャ神話をやるなら、神々は必要だ。ギリシャ神話の中心は神々の神殿だ。我々自身のギリシャ神話を作るなら、神々の集まるところが必要となる。そして、神々の神殿を作るのであれば、それはマジックの中心、つまりカラー・ホイールと関連しなければならない」と告げた。


アート:Zack Stella

 私は自分の計画を説明した。15柱の神がいる。5柱の単色の神が大神で、10柱の2色の神は小神となる。色は書く紙に独自性を与え、その独自性で神々の神殿とマジックに関連が生まれる。デザイン・チームがこの構想を気に入ったので、私はこれをクリエイティブ・チームに渡した。ブレイディが承認してくれたので、我々はこれで仕事を始めることになった。

 5柱の大神は『テーロス』に存在し、10柱の小神は『神々の軍勢』や『ニクスへの旅』に存在する。クリエイティブ・チームはギリシャ神話の神々の持つ様々な側面を切り出し、それを組み合わせて、ギリシャ神話らしくまたマジックのカラー・ホイールにあったテーロス世界の神々を作り上げてくれた。テーロス世界の神々はギリシャ神話の神々のコピーではなく、色の理念に基づいて組み合わせられた別の組み合わせなのだということを忘れないでもらいたい。そして、クリエイティブ・チームが神々にクールな構想を組み込んでくれたので、全ての選択があたりまえのものではないのだ。

 今日はここまでで、デザイン・チームが神々や英雄、怪物を実現するためにどんな選択をしたかということについては来週まで待ってもらうことになる。中途半端なまま放置するつもりはないので、ここで神々のうちの1柱をご紹介しよう

 なぜ神々が最終的にこういう形になったのか、質問はあることと思う。そんな諸君には、来週の「その2」で、神々、そして英雄や怪物をどうやって再現したのかということについて語る日にお会いしよう。

 その日まで、神々があなたとともに――戦場に、ありますように。

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