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Making Magic -マジック開発秘話-
デザイン演説2013
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2013年8月26日
首席デザイナーになった年から、私は毎年前年のデザインの価値を振り返り、自分たちのやってきたことを批判的に見直すコラムを書いている。この「デザイン演説」というコラムは、合衆国大統領が毎年行う一般教書演説になぞらえたものだ。これを毎年行っている理由は、自分たちのデザインに対して非常に公正でありたいと思っていて、何がいいことで何が悪いことかについて語りたいからである。また、私はこのコラムの中でそれから1年間の目標を定めている。これまでの8年間のデザイン演説も公開されている。2005年、2006年、2007年、2008年、2009年、2010年、2011年、2012年(2009年までは英語のみ)。
毎年、同じ質問への答えから始めることにしている。「マジックのデザインにおいて、去年はどんな年だったか」だ。点数付けをしなければならないのであれば、「B+」となる。ギルドは巧く行って、1回目から比べてほとんどは改善された。新しいブロック構造である大-大-小の形を導入して、これによってブロックの使われ方や受け取られ方が大きく変わった。いいカードやメカニズムを作り、顧客は楽しんだ。これら全ての結果として、昨年はマジック史上最も売れ行きの良かった年となった。マジックはよくプレイされ、楽しまれたのだ。
しかし、私はB+で満足はしていない。目指すはAである。今年は多くの成功があったが、まだ向上の余地は残されていた。『ラヴニカへの回帰』ブロックがA評価を得られなかった理由は? もっとも単純な答えとしては、私の目から見たら充分な革新を遂げたとは言えない、ということである。我々は確かにラヴニカを再訪したが、ラヴニカを再発明してはいないのだ。
ところで、もし保守的になるべきセットというものがあるとしたら、これがそうだった。史上でも最も人気の高い次元に戻るのだから、プレイヤーが愛した世界をそのままに再現しなければならないという重圧はあった。従って、このブロックに取り組むにあたってもう少し冒険的であったらよかった、と願うことしかできない。
マジックのデザインにおいて、去年はどんな年だったか? 良かった。実際、非常に良かった。しかし、首席デザイナーとして、最高でない限り満足することはできないのだ。
総論はこれぐらいにして、ここから各論に入ろう。2012年/2013年の良かったところ、悪かったところだ。
2012/2013年のハイライト
ギルドを活性化させた
旧ラヴニカの隠し味はギルドだった。我々は、クリエイティブ面のみならずゲームプレイの上でも各ギルドの一貫性が保たれていると感じられるようにするためにかなりの時間を費やした。回帰にあたって、デザイン上の焦点は同様にギルドであり、このデザインが特に秀でているのはそこだった。旧ラヴニカでプレイヤーたちがギルドを愛していたのを知っていたので、我々は回帰にあたってそこをさらに掘り下げたのだ。
私が、我々が特に秀でていると感じているデザイン上の部分の1つがここである。各ギルドには、そのギルドの雰囲気を掴んでいて、かつ旧ラヴニカの同ギルドのメカニズムと組み合わせてもうまく動くメカニズムが与えられている(まだ向上の余地があることは認める。それについてはこの後で触れる)。
今回のギルド・メカニズムは、旧ラヴニカ・ブロックのギルド・メカニズムよりもほとんどの面で上回っていると考えている。旧ラヴニカのメカニズムの中で再利用しようと思うものは少ししかかないが、『ラヴニカへの回帰』ブロックのメカニズムのほとんどは再利用されうると思う。
もう一つ、心から満足していることは、各ギルドがリミテッドでも構築でも独自性を持ち、ギルドの根本方針に則っているということだ。
ブロック構造
このブロックは、実際、1つの大きな革新を遂げていて、それこそがこのブロックの最大の長所の1つである。私が最初に『ラヴニカへの回帰』の企画を立てたときは、大-小-小の4/3/3構造をただ組み合わせを変えて再利用するつもりだった。ブライアン・ティンスマン/Brian Tinsmanが5/5/10構造を使う方法を見付けてくれて、それを元に私は大-大-小という構造という発想に至ったのだ。
このブロック構造にはいくつものいい点があった。
- どのギルドもドラフトできるようになった。旧ラヴニカ・ブロックでは、第1セットに存在した4つのギルド(ボロス、ディミーア、ゴルガリ、セレズニア)にだけしかその機会はなかった。
- 各セットごとに独特のドラフトができるようになった。どのセットも他のセットと根本的に異なる新しいドラフト環境を作ることができた。
- 後では混交されることになるが、各大型セットそれぞれに注目を集める期間があった。通常は、1つめ(場合によっては3つめも)だけに注目を集める特権が与えられていた。
- 第1セットが一旦休み、その後でブロックに帰ってくるという特異性があった。
このブロック構造では史上初の様々なことを試したと思うが、その多くは巧くいったので今後のブロック計画において再活用することを計画している。
ギルドの折り合わせ
デザインの細微の中でも私がもっとも気に入っているのは、各ギルド個別のデザインではなく、組み合わせたときに巧く働くようにデザインしたことである。各ギルドが何を提供し、それが他のギルドにどう使われるかということが一番のお気に入りなのだ。
まずは『ラヴニカへの回帰』や『ギルド門侵犯』のドラフトにおいて単色カードでこのシナジーが見られ(隣接したギルドで各メカニズムが働くよう細心の注意を払った)、その後ブロック全体のドラフトでギルドが組み合わさったときには多色カードでも見られるようになった。どの2つのギルドを選んでも(2つというより実際は3つになるが)、素晴らしく働いたのだ。
2012/2013年の教訓
ギルドのあら
ギルドの雰囲気を表す素晴らしい仕事をしたと確信しているが、向上の余地はあったと思う。そのいくつかを挙げてみよう。
イゼット
メカニズム的に再現したとは言えないギルドである。ギルドのインスタントやソーサリーに強いという面は表せたが、余りにメルヴィン寄りでありヴォーソス的でないと感じている。イゼットは絶え間ない革新者であり狂ったアイデアに満ちており、そして全てのギルドの中で最もジョニー的なのだが、これが充分に表されているとは言えない。イゼットをプレイしたら、自分がイゼットであると感じられるようにしたいのだ。何度も言ってきた通り、私は徹底的にイゼットなのだ。私がこのギルドをプレイして興奮していないということが、何かが足りないという何よりの証拠なのである。
グルール
湧血は面白いメカニズムで実用的だと思うが、グルールをプレイしたいようなプレイヤーにとって最適なものだとは確信できていない。グルールはもっとティミー的なギルドであるべきなのに、湧血はスパイク的なメカニズムである。見ての通り、そのギルドのファンの多くがそのギルドのプレイ・スタイルを楽しんでもらうことが重要だと私は考えている。全てのプレイヤーが全てのギルドを好きになる必要はないが、プレイヤーには自分のギルドを気に入って欲しいのだ。
セレズニア
居住は、トークンを生み出すカードと居住を行うカードが必要だという意味でトリッキーなメカニズムである。様々なサイズのトークンを作り出すだけのカードをもっと入れたかったし、トークンを生み出して居住するカードを低いレアリティに入れたかった。言い換えると、現在の割合には少々問題がある。この3つのギルドへの不満の中で、これが一番解決しにくいものである。全体としては、私はセレズニアを楽しんだし、居住も好きだ。しかし、セレズニアのファンの多くが使いこなすには少々トリッキーすぎたと感じているのだ。
こんな揚げ足取りのような批判をしているという事実が、素晴らしい仕事をしたという証明だと書き添えておこう。
『ギルド門侵犯』のリミテッド
これはいろいろな問題があった。まず、『ギルド門侵犯』を『ドラゴンの迷路』と差別化するために、『ギルド門侵犯』の環境を速くするという判断をした。速くしすぎたのだ。遅いギルドを使うのが難しいほどに速くなり、リミテッドをプレイする上での選択肢を減らしてしまった。また、速すぎて面白いことが起こる間もなかったこともしばしばだった。これによって、リミテッドを楽しめなかったプレイヤーもいたと思う。
2つめの問題は、1つめとも関連するが、色同士のシナジーに強弱の差があった。ここから、色、そしてギルドのプレイ上のバランスが失われていた。
『ドラゴンの迷路』
『ドラゴンの迷路』の最大の問題は、ブロック構造が内包しているものだった。10個全てのギルドを扱い、その全てを表し、それでいて必要以上に複雑にならないこと。最終的には、『ドラゴンの迷路』が私の願っていた通りにこなせたとは思っていない(し、それがそもそも不可能だったのかも知れない)。結構な数のプレイヤーにとって複雑すぎた、というフィードバックが届けられている。
もう一つの問題は、『ドラゴンの迷路』はリミテッドでギルドの組み合わせができるよう3色のプレイを推奨していると受け取られたことだ。これは我々の願っていたような形ではなかった。『ギルド門侵犯』の速度も『ドラゴンの迷路』のデザインとともにこの問題に影響している。
得点はいかに
この1年のデザインにおける長所欠点について述べてきたが、ここらで昨年定めた目標がどうなったかについて判定してみよう。毎年言っている通り、この質問は「目標を達成したか」ではない。なぜなら、私は達成できる目標を定めることができてしまうからだ。質問は「プレイヤーの反響に基づき、我々の目標はどうだったか」となる。我々は取り組んだが、それが成功したかどうか、プレイヤーがそれを楽しんだかどうかが論点なのだ。
2013年度目標#1: ラヴニカのやってきたことを進化させられると示す
この目標の判定は、どう解釈するかが大部分となる。ギルドを巧く扱えたかということであれば、この目標は達成できたと言える。メカニズム的なギルドの扱いは全体として旧ラヴニカ・ブロックから見て大きく進化している。ギルドの概念はこのブロックを動かしたと言えるが、今日の目で見るとその実行の多くには様々な穴があった。例えば、旧ラヴニカ・ブロックのボロスは大きな穴で、オルゾフは全体として複雑で、アゾリウスは白青らしいとはとても言えないものだった。一方、『ラヴニカへの回帰』ブロックは、各ギルドをメカニズム的に巧くやった(上記の通り、イゼットが唯一のミスだと私は思っているが、それでも旧ラヴニカ・ブロックで描かれていたギルドを再現していた)と言える。
我々がラヴニカにどう取り組んだかをより大きな視点で、何ができ得たのかという点から再評価するなら、失敗したということになる。最初に言ったとおりなので、これについて繰り返しては述べない。
私は、ほとんどの人はこの目標を1つめの意味で捉えると考えている。ギルドは存在し、それはほとんどの人が期待したとおりに前回よりも巧くいった。そう考えているので、私はこの目標に合格点を出したいと思う。
2013年度目標#2: 大/大/小セットが有用であると証明する
この目標も合格だ。私はこのブロック構造を昨年の最大の成功の1つだと考えており、いずれまた大/大/小の構造を使うことができると確信している。最後のセットを作る上では問題になる部分もあったが、それは次の話であり、この目標に関する失点ではないと考えている。
これは我々が切り開き革新した領域であり、私は今年のデザインのこの部分が成功したことに非常に満足しているのだ。
2013年度目標#3: 「Sinker」を巧くやる
2つの合格のあとだが、ここは不合格だ(惜しかったと言える、このセットは様々な面で巧く行っていたのだ)。この目標はただ「Sinker」のデザインだけでなく、ブロック構造全体によるものだと述べておかなければならないだろう。
このブロック構造は、第3セットに様々な責任を負わせるものだった。10個の異なったメカニズムを持つ10個のギルド全てを扱わねばならず、すべてに新しいものを与えなければならない。様々な面で成功していたし、3つめの合格点を与えてもいい部分もいろいろとあったのだが、批判的に見るというこの「デザイン演説」の趣旨を鑑み、深く掘り下げていくと、このセットは私が望んでいたほどには成功していないと言わざるを得ない。
この問題は『ドラゴンの迷路』のデザインを否定するものではなく、むしろ私の責任であるブロック全体の構造にこそ原因があるのだということは強調しておかなければならない。
合格2つ、不合格1つ。及第点だが満点ではなかった。それでは来年の目標について話をしよう。
2014年度目標#1:トップダウン・デザインの方法を理解していることを示す
マジックはこれまでに2回、トップダウン・デザインによるブロックを経験してきた。『神河物語』と『イニストラード』である。1つは大成功を収め、1つは――『神河物語』だった。この目標はつまり、「トップダウン・デザインの方法を理解したのか、それとも『イニストラード』が特別だったのか」ということである。
この目標で合格するとは、単に人気のあるブロックを作るというだけではなく、その元ネタの感覚を再現していると顧客が感じるようなブロックを作るということである。これまでもこれからも言う通り、トップダウン・デザインとは、何か現実世界のものを元にしたマジックの世界を作るということである。単にもう一度作るというのではなく、その元ネタを元にした自分たちの何かを作るのだ。例えば、今回、ギリシャ神話の神々(ゼウス、ポセイドン、ハデスなど)を使うのではなく、カラー・ホイールに従った我々の神々を使っている。
2014年度目標#2:エンチャント・ブロックを作れることを示す
『テーロス』ブロックは、ギリシャ神話を元にしたトップダウン・デザインでもあるが、メカニズム的にはエンチャントの可能性に切り込んでいる。このブロックのデザイン上における目標の1つは、これまで他のもの(アーティファクトとかね)をテーマにしたのと違う形でエンチャントをテーマとすることができるかだった。この目標は、「この実装は面白かったか」そしてさらには「この実装は楽しかったか」ということになる。
2014年度目標#3:メカニズムに再び生命を吹き込めることを示す
『テーロス』ブロックでは、これまであまりやってこなかったことをしている。かつて失敗したメカニズムを取り上げ、(ルールの調整や新しい名前、フレイバーといった)仕立て直しをして再導入している。これは、可能性を発揮できなかったアイデアを再挑戦させるという大実験なのだ。私は、是非この目標を達成して、そして再挑戦させる方法について学びたいと思っている。
今年の目標はこの3つである。来年、どうなったかを確認することにしよう。
時のデザイン
本日はここまで。昨年のデザインについて少しばかり批判的だったので、諸君が賛成するか反対するかを是非知りたいと思う。メール、フォーラム、各種ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+)で教えて欲しい。
それではまた次回、いよいよ『テーロス』のプレビューで『テーロス』のデザインについて話す日にお会いしよう。
『テーロス』のプレビューと言えば、最近新セットの先触れクイズをやっていなかった。是非やろう。うん。
『テーロス』先触れクイズ
ここで伝える情報はどれも断片的なものだということを最初に断っておく。私は真実しか言わないが、言ったことだけが真実ではないのだ。
『テーロス』で期待できるものは:
- 運命カウンターを使う3つの能力を持つ3/3
- 「ゴルゴンでない」という記述のある複数のカード
- クリーチャーでも土地でもない強力な伝説のパーマネントのサイクル
- (英語で)ルール・テキストが「プレインズウォーカー」を含む5語だけのレア・カード
- 大きな木馬を描いたアーティファクト・クリーチャー
- {G}{G}で唱えることのできる5/5の蛇
- 多色のミノタウルスのロード
- 『Modern Masters』に入っていたはずのカード
- 人間に火をもたらした巨人
- パワーナインの1つであるサボタージュ能力(戦闘ダメージを対戦相手に与えるなら効果を持つ能力)を持つクリーチャー
『テーロス』に入っているカード名:
- 〈神々の憤怒/Anger of the Gods〉
- 〈岩への繋ぎ止め/Chained to the Rocks〉
- 〈迷宮での迷子/Lost in a Labyrinth〉
- 〈死の国からの救出/Rescue from the Underworld〉
- 〈死の国のケルベロス/Underworld Cerberus〉
- 〈魔女の目/Witches' Eye〉
最後に、『テーロス』で目撃するクリーチャーの一部(クリーチャー・タイプでないものもある)
- カトブレパス/Catoblepas
- キマイラ/Chimera
- サイクロプス/Cyclops
- ハーピー/Harpy
- 海馬/Hippocamp
- 百手巨人/Hundred-Handed One
- クラーケン/Kraken
- ニンフ/Nymph (アルセイド/Alseid, ドライアド/Dryad, ランパード/Lampad, ナイアード/Naiad, オリアード/Oread)
- ペガサス/Pegasus
- サテュロス/Satyr
- セイレーン/Siren
- トリトン/Triton
これが諸君が会話をするネタになれば幸いである。『テーロス』の最新情報に妙味がある諸君は、(訳注:原文記載時点での)今週末のソーシャルメディアに注目して欲しい。土曜のPAXで、マジックに関する大規模な展示が予定されているのだ。
それでは再び、また次回、『テーロス』のプレビューが始まる日にお会いしよう。
その日まで、自分の成し遂げたことに内省的になる能力があなたとともにありますように。
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