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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

開発部語辞典・増補版

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Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2013年6月10日

 

 8年とちょっと前、私は「開発部語辞典(リンク先は英語)」というコラムを書き、その中で、開発部語を列記し、その定義を記した。それから8年の間に、さらに様々な開発部語が生まれてきた。そこで今回、さらなる開発部語を紹介するためにこのコラムを書くことにしようと考えたのだ。

 前回の記事で出てきた単語を再び書かないようにするので、未読の諸君はそちらを確認してもらいたい。当時の開発部語の中には使われなくなったものもあるので、今も使われている開発部語をここに列記しておこう(訳注:未訳なので、日本語版では翻訳を併記してあります)。

壊れている/"Bah-roken"

 安すぎること、あるいは本質的に強すぎる能力を持つこと。この語はかつて開発部に在籍していたウィリアム・ジョクス/William Jockuschが作ったものだ。この単語が出来た当時、(ちなみに『ウルザズ・サーガ』時代)、この単語は非常によく使われることになった。もうそんなことはない。これは開発部語の中で一般でもよく使われるようになったものの1つである。

C

 特定の色マナを指す開発部語。例えば、「このコモンのサイクルは全て1Cであるべきだ」と言った場合、これは「各色には不特定マナ1点と色マナ1点のカードが必要だ」ということを意味する。

賢いカード/Clever cards

 私は、(『ウルザズ・デスティニー』の《ヤヴィマヤの古老》や『オデッセイ』の《石舌のバジリスク》のような)1枚でコンボのような働きをするカードを作るのが好きだ。そして開発部はこの皮肉なあだ名で私をからかうのが好きだ。

D

 2色目の色マナを指す開発部語。これはCの直後にのみ使われる。例えば、「『インベイジョン』のプロテクション持ちの熊サイクル(コモンの2/2の金色クリーチャーで、共通の敵対色に対するプロテクションを持つ)のコストはCDである」というように使う。

識別用カード/Discriminator card

 ものすごく良いというわけではないが評価は難しいカードのことを指す開発部語。こういったカードが初心者と中級者を分けるのだと我々は考えている。

フリー・テーブル/The Free Table

 開発部のキッチン(フロアー全体のキッチンだが、開発部のすぐ隣にある)のカウンターのこと。このフリー・テーブルに置かれたものは誰でも好きにして良いことになっている。いらないものを処分したり、必要な者を探したりできるのだ。フリー・テーブルに置かれるのは、家具もあれば食器もあれば、ウィザーズの商品が置かれていることも多い。

FFL

 デベロップが翌年のマジックがどうなるか判断するために行っている内部リーグの名前。フューチャー・フューチャー・リーグの略である。なぜ「フューチャー」を2回重ねているのかというと、かつて開発部はFL、フューチャー・リーグと呼ばれるリーグを行っており、これは6ヶ月先の環境であった。6ヶ月では問題を見付けられても解決できないと言うことからこのリーグは解散することになったのだ。その後、FFLという語は元の語からほとんど関係ないものになっている。

ハットトリック/Hat Trick

 3タイプのプレイヤー(「Timmy, Johnny and Spike(リンク先は英語)」参照)全てにアピールするカードを指す開発部語。この語は1人が1ゲームで3回ゴールを決めるというホッケーの用語が由来である。――と以前のコラムで書いたが、ホッケーにおけるこの語はクリケットから借りたものだったそうだ。

追加分/Incrementals

 各セットで、開発部はプレイテスト用デッキを作る時に使うために各カードを何枚かずつ準備する。これはミラージュの頃から始まったので、《Black Lotus》や《Mox Sapphire》は置いていない。

ジョニー/Johnny

 開発部がいろいろなプレイヤーのためのカードを作るべくプレイヤーを分類している3種類の類型の中の1つ。詳しくは、「Johnny, Timmy and Spike(リンク先は英語)」参照。

ジョニー向けカード/Johnny Card

 我々がジョニー的なプレイヤーにアピールすると信じているカードのこと。大まかに言うと、中心にしてデッキを組もうと思わせるような類のカードのことを指す。

ルーター能力/Looter ability

 (主に青に見られる)クリーチャーの起動型能力で、1人のプレイヤーがカードを引くこととカードを捨てることを両方行うもの。由来は『エグソダス』の《マーフォークの物あさり》である。

マルチバース/Multiverse

 ウィザーズであらゆるカードゲームのために使われているデータベースの名前。

蛇能力/Ophidian ability

 クリーチャーが戦闘ダメージを与えた時にプレイヤーがカードを引くというクリーチャーの能力。由来は『ウェザーライト』の《知恵の蛇》。《知恵の蛇》でカードを引く場合ダメージを与えなくなったが、興味深いことにこの語は《泥棒カササギ》のような能力を指すために用いられている。

奈落/The Pit

 TCG開発部(省略しないで言うとトレーディング・カードゲーム調査開発部)の大半が位置する場所。奈落の一部であるthe Caveを除いては、奈落内の壁は低くなっており、対面して話をしやすいようになっている。外壁は1.8メートルあり、このエリア全体がまさに奈落のように見えている。

昇格できる/Promotable

 いつか基本セットにも入れられるだろうと信じているという意味の開発部語。

範囲打撃/Rangestrike

 「{T}:攻撃クリーチャー1体かブロック・クリーチャー1体を対象とする。?はそれにN点のダメージを与える」の開発部での通称。(白のクリーチャーがよく持っている)

ルートワラ能力/Rootwalla ability

 パワーやタフネスを強化する起動型能力の中でターンに1回しか使えないもののこと。

セクシー/Sexy

 プレイヤーの大半に強烈にアピールするだろうと思われる特定のカード。得に、ある種のプレイヤーがずっとこだわりを持つようになるようなカードのことを指す。

スパイク/Spike

 開発部がいろいろなプレイヤーのためのカードを作るべくプレイヤーを分類している3種類の類型の中の1つ(ジョニー参照)。

スパイク向けカード/Spike Card

 我々がスパイク的なプレイヤーにアピールすると信じているカードのこと。大まかに言うと、競技マジックに影響を及ぼすと我々が考えているカードのことを指す。

ステッカー用在庫/Sticker Stock

 全カードを同数ずつ準備しているが、プレイテストでそれほど多く使うわけではないカードも多くある。それらのカードは箱の中に収められ、まだ印刷前のプレイテスト・カードの台紙として使われることになる。

ティム能力/Tim ability

 クリーチャーやプレイヤーに(大抵は1点の)ダメージを与えるクリーチャーの起動型能力のこと。由来は、映画「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」から由来する《放蕩魔術師》のあだ名である。

ティミー/Timmy

 開発部がいろいろなプレイヤーのためのカードを作るべくプレイヤーを分類している3種類の類型の中の1つ(ジョニー参照)。

ティミー向けカード/Timmy Card

 我々がティミー的なプレイヤーにアピールすると信じているカードのこと。大まかに言うと、大きくて強力なクリーチャーや巨大な効果を持つ呪文のこと。

調整/Tweak

 昔のカードにちょっとした変化を1つ加えたカードのこと。これは動詞としても使われ、そういったカードを作ることを意味する。例:「コモンで使えるように《石の雨》を調整すべきだ」。

バニラ・クリーチャー/Vanilla creature

 ルール文章を持たないクリーチャーのこと。例外として扱われているのは飛行である。飛行を持つだけで他の能力を持たないクリーチャーのことを「バニラ飛行クリーチャー」などと呼んだりする。

WUBRG

 発音は「ウーバーグ」。これは各色1マナのことを意味し、「《スリヴァーの女王》のコストはWUBRGだ」というように使う。WUBRGは5色を開発部内でファイルする順番で並べたものである。

ワイルーリー能力/Wyluli ability

 「{T}:クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで+N/+Nの修整を受ける」のこと。由来は『Arabian Night』の《ワイルーリーの狼》である。

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 さてそれでは、いよいよ始めよう。

A/B/C

「もう1枚Aを作る必要があるね」

 デベロップはリミテッドにおけるカードパワーを定めるための道具として、カードをA、B、Cにランク付けする(Aが一番上でCが一番下だ。詳細についてはいずれLatest Developmentで語ってもらえることだろう)。それを踏まえて、奈落では「Aカード」「Bカード」「Cカード」といった言葉が飛び交うことになる。

身近な/Accessible

「コモンの少なくとも半数は身近であること」

 各セットには、そのセットに根付いた新カードがあることは重要である。同時に、単純で、一般的で、そしてそのセットに相応しいと感じられながらも基本セットにあってもおかしくないと思えるようなカードが多くあることもまた重要である。それらのカードのことを「身近な」と呼ぶ。

 開発部がこの語を使うのは、各セットで一定の量のカードが身近であるようにするためである。そうしなければ、そのセットが非常に閉鎖的になり、そのセットの「バイオドーム」の外では何の役にも立たなくなってしまう。我々は、セットで取り上げているテーマを楽しんでもらいたいと思うと同時に、その中からカードを選んで好きなフォーマットで使ってもらいたいのだ。

開封比/As-Fan

「金色の開封比は約1.5だ」

 セットAには金色のコモン・カードが50枚、セットBには金色のレア・カードが50枚あるとする。どちらのセットも入っている金色のカードの枚数は同じだが、セットAのほうがずっと多く感じることになるだろう。その理由は、プレイヤーが感じるのはカード・リストからではなくブースターパックからだからである。セットAを開封したら、ブースターには平均して5枚の金色カードが入っている。セットBのほうは、8パックのうち7パックで1枚入っている、つまり平均すると1枚に満たないのだ。

 これは、ブースターパックの構造が理由である。(平均的な)ブースターパックには、コモンが10枚、アンコモンが3枚、(通常、基本)土地が1枚、レア又は神話レアが1枚入っている。コモン50枚のほうがずっと多く登場するのは、15枚中の10枚がコモン枠であり、レア枠はわずか1枚(しかも8分の1は神話レア枠になる)しかないからである。

 その結果、どちらも同数の金色カードが入っているにもかかわらず、セットAではセットBの5倍以上の金色カードがブースターから出てくることになる。これを考慮した存在確率が「開封比」である。

実用比/As-Played

「青の実用比は低い」

 開封比は、ブースターパックを開いた時にどの程度その種類のカードを目にするかという話だった。実用比は、リミテッドのデッキでどの程度その種類のカードを目にするかに注目した、同じような数字である。実用比を考える必要があるのは、リミテッドで(特に熟練プレイヤーの場合)あらゆるカードが使われるわけではないからである。

 この数字は、開封比を元に、デベロップが熟練プレイヤーがあまり使わないだろうと判断して低く評価付けた(「A/B/C」参照)カードを取り除くことによって得られる。その後、残ったカードだけで再び比率の計算が行われる。これによってデベロップはどの種のカードがよく使われるかを判断し、どの色がリミテッドで強いかを評価するのだ。

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バイオドーム/Biodome

「これがバイオドームの外で働くかどうかわからん」

 「バイオドーム」とは、リミテッドでセットが非常に閉鎖的である、つまり環境がその内部で完結しており、それだけでならきちんと働くが他のフォーマットで使う――「バイオドームを離れる」――時に使えるカードがあまり存在しない、ことを指す。

カード技術/Card Crafting

「白がそれをすべきではないと思う。これはカード技術にかけよう」

 毎週、中核デザイナーと中核デベロッパー(下参照)はアーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheとともに集まり、マジックに関する技術的問題について話をする。この会議は、カラーパイにおける能力の位置を動かしたいかどうかから、デザインやデベロップが直面している大きな網羅的課題をどう解決するかまで議論するので、非常に実践的であることが多い。

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チェスのような/Chessy

「このクリーチャーは3つの誘発型能力を持つべきじゃない。あまりにチェスのようになる」

 隠された情報が存在しないことを意味する開発部語。これは隠された情報を持たないゲームであるチェスに由来している。通常、面白くなくなるというように否定的に用いられるが、これは公開されている情報が多すぎるとそれを全て管理する必要があるからである。

中核デザイナー/Core Designer

「穴埋めをするなら、中核デザイナーが1人欲しいな」

 中核デザイナーとは、マジックのデザインをするためにフルタイムで雇われている人物のことである。現在の中核デザイナーは、私、マーク・ゴットリーブ/Mark Gottlieb、ケン・ネーグル/Ken Nagle、イーサン・フライシャー/Ethan Fleisher、ショーン・メイン/Shawn Main、ダン・エモンズ/Dan Emmonsである。

中核デベロッパー

「このコストは本当だ。中核デベロッパーの1人に確認した」

 中核デベロッパーとは、マジックのデベロップをするためにフルタイムで雇われている人物のことである。現在の中核デベロッパーは、エリック・ラウアー/Erik Lauer、トム・ラピル/Tom LaPille、ビリー・モレノ/Billy Moreno、サム・ストッダード/Sam Stoddardである。(デベロップのインターンは、イアン・デューク/Ian Dukeとベン・ヘイズ/Ben Hayesがいる。)

CQI

「このカードは何も面白くない。CQIしよう」

 「質的向上の継続/Continued Quality Improvement」の略語。カードをCQIするとは、「もっと巧くやれると思う」ということである。通常、CQIしているカードはメモにそう記された状態でファイルに保存され、変更予定であると言うことがわかるようになっている。開発部語にも流行廃りがあり、この語は次第に使われなくなってきている。

クリエイティブ代理/Creative Rep

「誰かこのトップダウンのアイデアについてクリエイティブ代理に聞いたか?」

 「クリエイティブ・チーム代理人」の略。ほとんどのデザイン・チームやデベロップ・チームにクリエイティブから1人メンバーを迎える方針である。これによって、メカニズムについて決定を下す際にその世界のフレイバーや物語の詳細にあったものにできるようになる。

Danger Room, Ivory Tower, Mishra's Workshop, The Helvault, Eye of Ugin, Lost Temple, Grand Central Station, Graceland, Wayne Manor, Ravenloft, The Mana Zone

「Gracelandに行くよ」

 開発部がよく使う(3階にある)会議室の名前。その名前のほとんどはオタク向けコンテンツから取られている。開発部のすぐ近くにあるものは全てマジックに由来したものである。例外はThe Danger Room(これはXマンの舞台のアレだ)だけで、引っ越し前から使われていた名前なのだ。

デザイン代理/Design Rep

「このカードは却下。デザイン代理に何か持ってこさせよう」

 「中核デザイン代理人」の略。各デベロップ・チームには、穴埋めの助けとするとともにデザイナー的感覚を保つために1人中核デザイナーが所属している。

デベロップ代理/Dev Rep

「デベロップ代理はあり得ないと言ってる。何か他のことを探さないと」

 「中核デベロップ代理人」の略。各デザイン・チームには、デザイン中にデベロップ不能なものをデザインしてしまわないようデベロップ的感覚を取り入れるために1人中核デベロッパーが所属している。

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長靴を履いた象問題/Elephant-in-Boots Issue

「新同一性ルールは、新たな長靴を履いた象問題だな」

 これは、ゲーム・プレイをよりよくするためにフレイバー的には多少妥協することがある、ということを意味する。この名前はミラディンの時にあらゆる装備品をどんなクリーチャーでも装備できるようにするという決定の際につけられた。ミラディンには〈早足の長靴〉というカードがあって(後の《稲妻のすね当て》である)、これを象が付けられるのかどうかと言う議論に1時間かけたことから来ている。最終的には、どんなクリーチャーもどんな装備品でもできるようにすることでフレイバー的にはおかしなことがおこるけれども、そうすることでゲームはさらに面白くなると判断した。この問題が起こるたびに、我々はそれを思い返すのだ。


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経験デザイン/Experience Design

「デザインは理解できたから、経験デザインの話に入ろう」

 経験デザインとは、そのイベントを取り巻くイベントで起こることを作り上げる作業のことである。例えば、『アヴァシンの帰還』・プレリリースでの《獄庫》が経験デザインの一例である。これはここ数年で開発部が進化してきた部分である。現在のリード・経験デザイナーはデイブ・ガスキン/Dave Guskinである。

悪印象/Feel-Bad

「これを作るべきではないと思う。あまりに悪印象だ」

 「悪印象」という語は、プレイヤーにポジティブな経験よりもネガティブな経験をもたらすカードだと信じているということを意味する。通常、この語はそのカードを変更するなり却下するなりすべきだという理由付けとして用いられる。

浮く/Float

「でもこれはマナ加速系プレイヤーに浮くかね?」

 ドラフトのデザインにおいて、開発部が意識しなければならないことの1つに、各ドラフト戦略の鍵となるカードをその戦略を採るプレイヤーが手に入れられるかどうかということがある。その戦略で使うカードがどれも一般的に強かったなら、そのカードは序盤でピックされ、その戦略をドラフトすることが難しくなる。つまり、特定のプレイヤーだけが欲しがるようなカードを作らなければならないということだ。カードの中には「浮く」、つまりドラフトの序盤にはピックされないようなカードが必要である。これは、その戦略で使うと他の戦略で使うよりも強くなるカードを作ることによって達成される。

 

フレンチ・バニラ・クリーチャー/French Vanilla Creature

「この枠にはフレンチ・バニラ・クリーチャーが欲しいと思う」

 バニラ・クリーチャーはルール文章を持たないクリーチャーのことである。フレンチ・バニラ・クリーチャーは、(接死、防衛、瞬速、飛行、先制攻撃、速攻、呪禁、土地渡り、絆魂、プロテクション、到達、トランプル、警戒といった)主に常磐木メカニズムであるクリーチャー・キーワードしか文章を持たないもののことである。なお、クリーチャー・キーワードを2つ持つものもフレンチ・バニラ・クリーチャーと呼ばれる。この語を作ったのは、実際にフレンチ・バニラ・クリーチャーを大量に作っているのでそれについて議論する時の呼び名が必要だと感じたからである。

GDS

「第3回GDSをいつやるのかを誰もが知りたがっている」

 「グレート・デザイナー・サーチ」の略で、新人デザイナーを探すためにやるリアリティ・ショーのようなイベントのこと。現在6人いる中核デザイナーのうち4人がGDS出身である(ケン・ネーグルは第1回の準優勝、イーサン・フライシャーは第2回の優勝者、ショーン・メインは第2回の準優勝、ダン・エモンズは第2回の決勝進出者を助けるコミュニティの一員だった)。

共感する/Grok

「デザインは面白いが、ユーザーは共感しないだろう」

 この語はロバート・ハインラインの小説「異星の客」で出てくる、「他の物理的あるいは概念的存在と完璧に同じ事実あるいは思想を共有すること」を意味する語である。開発部はこれを「直観的に理解する」という意味で用いている。通常、プレイヤーがそのカードの意味を「掴む」ことができるかどうかという文脈で使われることが多い。

 

高空クリーチャー/High Flier

「飛行クリーチャーはいるから、これを高空クリーチャーにしたらどうだ?」

 飛行クリーチャーだけをブロックできる飛行クリーチャーを指す開発部内の通称。

超ゲーム/Metagame

「このカードは競技マジックでは使われないかも知れないが、超ゲーム的では有効だ」

 この語は一般に使われている「メタゲーム」と異なるので混乱しやすい。開発部内での「メタゲーム」を意味するわけではない(ただし、開発部内でもメタゲームという語を使うことはある)。開発部語の超ゲームは、ゲームをプレイすることそのもの以外でゲームに含まれるあらゆる要素のことである。マジックにおいては、例えばデッキの作成、トレード、対面での議論やソーシャルメディアでの会話、物語を読むこと、などが含まれる。開発部がこの語を使うのは、「ゲーム」の中でかなりの部分が「ゲーム」外にあるという理解が重要だからである。

新世界秩序/New World Order

「なぜこれがコモンなんだ? 新世界秩序に反するよ」

 これは、アラーラの断片・ブロック中に開発部が策定した新しい理念である。新世界秩序の中核にある考えは、初心者プレイヤーのカードプールにはコモン・カードが多いものなので、コモンを単純化してゲームの入り口を広げ、マジックを学びやすくするというものだ。詳細は、コラム「新世界秩序」を参照のこと。

99する/99ed

「これは好きだったけど、場所がないから99した」

 「カードファイルから取り除く」という意味。カードがファイルから取り除かれると、カードの番号は通常「99」に変更されてセットに入っていないことがわかるようにされる。

レア投票/Rare Poll

「これはレア投票で最下位だった」

 セットのレアや神話レアがどの程度エキサイティングかを計るため、我々は社内のマジック・プレイヤーに調査する。我々はこれによって第一印象でどの程度エキサイティングだと感じたかを知ることができるのだ。

レッド・フラッグ/Red Flag

「コモンを見てみた。レッド・フラッグは3つあるね」

 新世界秩序(上参照)を始めた時に作られた道具である。コモンでは意図的でない限りやるべきでないことを定めた一連のルールを定めた。そのルールを破っているカードにはレッド・フラッグがつけられ、デザイン・チームやデベロップ・チームが特に許可しない限りファイルに残るべきではないということが示される。レッド・フラッグは、我々が自分自身のルールを破ろうとしていることに気づけるようにするための道具である。

 

卑屈/Skulking

「卑屈な高空クリーチャーはどうかな?」

 これは「このカードが呪文や能力の対象となったとき、これを生け贄に捧げる」という能力の開発部内での通称である。由来はミラージュの《卑屈な幽霊》である。この能力はその後、黒から青に移動しており、現在では幻影をメカニズム的に表すためにのみ使われていることから「幻影能力」と呼ばれることもあるが、開発部内ではやはり「卑屈」という呼び名がよく使われている。なお、この能力が「卑屈さ」を表すために作られたのではなく、「幽霊」を表すためにトップダウン的に作られたというのは面白い話だ。

スライドショー/Slide Show

「今日の火曜マジック会議には遅れるなよ。スライドショーがある」

 (配置も終わり、編集も終わって)セットがほぼ完成すると、火曜マジック会議ではスライドショーが行われ、ほぼ完成したそのセットを全員が目にすることになる。スライドショーは下された決定に対して質疑応答が行われる最後の場所でもある(本当に最終盤の話なので、もうほとんど変更はされないのだ)。

順位付け/Stack Rank

「青のアンコモンのクリーチャーを順位付けしよう」

 もっとも強いものから弱いものまで順にある種のカードを並べるという、一群のカードのパワーレベルを決定するためにデベロップが使う技術のこと。

忍び寄り/Stalking

「トランプルはもうやったから、次は忍び寄りで」

 「2体以上のクリーチャーではブロックされない」という能力の開発部内の通称。これはこの能力を持っていたミラージュの《忍び寄る虎》に由来している。

次席者/Strong Second

 デザイン・チームやデベロップ・チームには、それぞれリーダーが存在する。他に、(大抵は中核デザイナーや中核デベロッパーが)次席者として指名され、リーダーの代行を務めるほかにチームの他の人員よりも重い仕事をすることになる。次席者という立場は、より経験の浅いデザイナーやデベロッパーを指導するために用いられることが多い。

粗石文/Trinket Text

「穴埋めチームに、もう少し粗石文を付けて欲しいと伝えてくれ」

 粗石文とは、カードにフレイバーを加えるだけでメカニズム的にはほとんど意味を持たないことが多いルール文のことである。代表例には、ラヴニカの《執念深い群衆》の持つ「執念深い群衆は苗木によってはブロックされない。」というものがある。粗石文が意味を持つことはあるが少なく、デザインやデベロップがそのカードを強くしすぎずにフレイバー感を持たせるために用いることが多い。

火曜マジック会議/Tuesday Magic Meeting

 毎週、開発部でマジックに関わっている全員、また社内の他の部でも関係のある人間は集まり、マジックに関する大きな問題について話し合う。この会議は週例のカード技術会議に比べて技術論に寄らないものである。スライドショーはこの会議で開催される。

バーチャル・バニラ・クリーチャー/Virtual Vanilla Creature

「ここにはバーチャル・バニラ・クリーチャーがあったらいいと思うよ」

 バーチャル・バニラ・クリーチャーとは、戦場に出たそのターンが終わったらバニラ・クリーチャーのように振る舞うクリーチャのこと。「戦場に出たとき」の能力、瞬速、速攻を持つものがほとんどである(それ以外のターンに速攻が意味を持つことがないわけではないが、ほとんどの場合において速攻は最初のターンにしか意味を持たない)。また、「バーチャル・フレンチ・バニラ・クリーチャー」という語も存在し、これは最初のターン以外は実質的にフレンチ・バニラ・クリーチャーであるクリーチャのことを指す。

 

ウォー・ドラム/War Drums

「赤にはもうちょっと回避クリーチャーが欲しいけど、もう威嚇クリーチャーはいる。ウォー・ドラムはどうだろう?」

 「2体以上のクリーチャーによってしかブロックされない」能力の開発部内の通称。『Fallen Empires』の《ゴブリン・ウォー・ドラム》に由来する。

単語!

 今日の単語はここまで。開発部で日常使われている用語を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、メール、掲示板、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+)で待っている。

 それではまた次回、何かの物語でお会いしよう。

 その日まで、あなたが普段使っている言葉をあなたが思い返しますように。

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