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Making Magic -マジック開発秘話-
3つ目には福がある
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Making Magic
3つ目には福がある
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2013年4月29日
今回は、「ドラゴンの迷路」を検証することになるが、違う角度から見て見よう。前回は、各個別のカードの話について取り上げてみた。今回は、距離を取ってセット全体を時系列的な文脈から見て、ブロックの第3セットとしてどんな働きをしているのかを見ていこう。
そのために、まずこれまでの第3セットがそれぞれのブロックに何を追加しているのか、そして第3セットでのデザインの進化について見ていこう。ブロックの一部であったセットだけを取り上げているので、一番最初に検討するのは――アイスエイジ・ブロックの「第3」セット、アライアンスになる。
アライアンス(アイスエイジ・ブロック)
技術的な意味で最初の「第3」セットと言える、これから始めよう。「第3」をカッコで括っているのは、実際にはこれはアイスエイジ・ブロックの3つめのセットではなかったからである。アライアンスはアイスエイジの続編だったが、2つめのセットにあたるHomelandsは何の関係もなく、ただ時系列的に並んでいるのでアイスエイジやアライアンスと同じグループに入れられているだけなのだ。
アライアンスは大型セットに続く小型セットであり、ブロックを締めくくるものだったので、ここに入れることにした。デザイン上の重要な教訓は、デベロップ中に得られた(アライアンスは私が初めてデベロップ・チームに所属したセットだ。チームには13人ものメンバーが所属していた。当時のマジック開発部のメンバー全員が、アライアンスのデベロップ・チームの一員だったのだ)。デザイン・チームはアイスエイジとのメカニズム的な繋がりをあまり意識していなかった。例えば、デザインが提出したものには冠雪土地を参照するカードは存在しなかった。セット内の数枚はデベロップ中に追加されたものである。このセットの教訓は、デザイナーはそのセットがブロック全体の文脈の中でどういう役割を果たすのかを意識しなければならないということである(アイスエイジ/アライアンスのデザイナーの名誉のために付け加えると、ブロックという考え方自体が当時はまだ存在しておらず、未踏の地に踏み込んだところだったのだ)。
コールドスナップについての指摘があることと思う。あれは第3セットではなかったのか、と問われると、そういう設定だった、と答えることになる。10年後に戻ってきたのと、ブロックの一部として作られたのとは同じではないのだ。
ウェザーライト(ミラージュ・ブロック)
正直に言って、ウェザーライトはミラージュ・ブロックの終末と言うよりもテンペスト・ブロックの先駆けだった。実際の所、ミラージュの物語はビジョンズで終わっており、ミラージュやビジョンズとウェザーライトとの繋がりは、ミラージュの物語におけるウェザーライト号という小さな存在だけだった。ウェザーライトには独自の物語だけでなく、墓地という独自のメカニズム的特徴があった。このセットには側面攻撃を持ったカードが2枚、フェイジングを持ったカードが2枚存在したが、前のセットからの繋がりを示しているだけだった。
ウェザーライトは第3セットでメカニズム的変化を見せる必要があるということを示した。この考え方はそれからしばらくの間の第3セットのあり方を定めることになる。
エクソダス (テンペスト・ブロック)
エクソダスは、その前の2つのセットと同じブロックであると感じさせるための努力を始めた第3セットである。一例を挙げれば、エクソダスでは新しいキーワードは導入されず、ブロックの前半で登場したバイバックとシャドーというメインの2つを進化させるという選択をした。これはウェザーライト・サーガの第2ブロックだったので、エクソダスはより大きな物語にふさわしいようにするためにかなりの時間を費やしたのだった。
ウルザズ・デスティニー(ウルザ・ブロック)
ウルザズ・デスティニーはエクソダスと同じ方針を採った。このセットはブロック内の2つのセットの物語と、既にできあがっているメカニズムをを引き継ぎ、発展させた。同時に、メカニズムを少しばかり進化させている。例えば、ウルザズ・デスティニーで導入されたのが、生け贄にしてカードを引く「場からのサイクリング」を持つカードである(そう明記はされていなかったので、ほとんどのプレイヤーはこの関連性に気付かなかった)。これは戦場にあるパーマネントをカードを引くことに変換できるようにすることで、サイクリングを次のレベルに進化させようとしたものである。
ウルザズ・デスティニーは、同ブロック内で発生した問題に対処しなければならなかった初めての第3セットでもある。ウルザズ・サーガやウルザズ・レガシーには壊れたカードが山積されていたため、ウルザズ・デスティニーのできることは制限されることになった。この問題が再び湧き起こるのは5年後、より酷い状況のミラディン・ブロックにおいてであった。
プロフェシー(マスクス・ブロック)
プロフェシーは、それが含まれるブロックを事実上無視した初めての第3セットである。このセットはリスティック呪文と土地を生け贄に捧げることに特化しており、ブロック内のそれまでのメカニズムとはわずかに繋がりを有するだけだった。プロフェシーは、私の見解では、デザイン史上最低のものの1つ(Homelands以来の最低の作)であり、第3セットでやるべきでないことの博覧会になっている。
アポカリプス(インベイジョン・ブロック)
アポカリプスは、本当に成功した初めての第3セットであった。インベイジョンと組み合わせる時に、ヘンリー・スターン/Henry Sternと私はどちらも同じ考えにたどり着いた。敵対色の金色カードをブロックの最後に入れようと。それによって、先の2セットでは友好色に焦点が当てることができ、第3セットの予想ができるようになる。
私が首席デザイナーになったとき、私が強く推したのはブロック・デザインだった。3つのセットすべてのデザインを、ブロックを計画したときに考慮するのである。ブロック・デザインという考え方は、インベイジョン・ブロックから来ている。インベイジョン・ブロックでブロックの計画というものが発生したのだ。アポカリプスの成功は、私がブロックの計画という考え方を取り入れた大きな要因の1つである。
ジャッジメント(オデッセイ・ブロック)
ジャッジメントでも第3セットのあり方をもう少しシステム的にするという考えは進められた。このブロックの特徴は、第2セットのトーメントで他の色よりも黒のカードが多く、一方で黒の敵である白や緑の枚数は少ないということだった。ジャッジメントではこの偏りを反転させ、白と緑が強調され、黒の枚数が一番少ないということになった。トーメント/ジャッジメントの違いはブロック全体よりもこの2つのセットに注目を集めることになったが、これもまたブロック内の繋がりを強めようという初期の挑戦の一つだったのだ。
スカージ(オンスロート・ブロック)
スカージは、メカニズム的な激しい変化を試した第3セットの1つであった。このセットは「点数で見たマナ・コスト」と、カード数は少ないものの強力なドラゴンがテーマだった。スカージはプロフェシーよりも強くブロックに関連していたが、思い返すとメカニズム的に変化が多すぎたと考えられる。
フィフス・ドーン(ミラディン・ブロック)
フィフス・ドーンは、強烈なメカニズム的転換をした第3セットであった(これはアーティファクト・ブロックの中で、多くの色を使うことを優遇し始めたセットである)。これは開発部が、このブロックにはカードパワーに多大な問題があると判断したからである。第3セットでの転換の多くと同じように、テーマが定められたのはデザインの遅くになってからで、前の2つのセットには充分なサポート・カードは存在していない。
神河救済(神河ブロック)
神河救済もまた、大転換の流れに乗っていた。このセットには「手札のカード」という大テーマが存在し、いくつもの新メカニズムや能力語が導入された。それらはどれもブロックの中でそれまで意味を持っていたものではなかった。
ディセンション(ラヴニカ・ブロック)
ディセンションは私が首席デザイナーとしてブロック全体を見た最初のブロックの第3セットである。ブロック計画が完全に行われ、ディセンションは「パイ」ブロック構築の第3部ということになった。ブロックは全体で1つの塊として計画され、そのあとで3つに分割されるのだ。ディセンションは大転換は全くなかった。想定通りに作られていったのだ。このセットでも多少の変化はあり、その中の最大のものが多色の分割カードだった。しかしそれは新しいメカニズム的地平を切り開くと言うよりもブロックの経験をもたらすためのものだったのだ。
未来予知(時のらせん・ブロック)
未来予知では、ブロック計画の別の方向が模索された。未来予知はそれ自体で未来というテーマを持つ、独立したセットのようなものだったが、ブロック全体を貫く時間というテーマの延長線上にあった。このセットは期待されたものを提供したが、ラヴニカ・ブロックと違い、プレイヤーには何が起こるのか想像もできなかったのだ。
シャドウムーア(ローウィン/シャドウムーア・ブロック)
シャドウムーアを第3セットに数えるかどうか、かなり悩んだ。いろいろな意味で、第3セットとは言えないのだが、それでも重要な部分なので、含めることに決めたのだ。ローウィン/シャドウムーア・ブロックはビル・ローズ/Bill Roseと私の4セットによるブロックに関する会話から始まった。彼はそれが可能かどうかと考え、私はそれよりも繋がりのある2つの小ブロックにするほうがいいと答えたのだった。
2つめの小ブロックにしたことの副次効果で、第3セットは小型セットではなく史上初の大型セットになった。この変更はブロック計画という考え方に波紋を投げかけた。このときまで、ブロックというものは固定だった。どのブロックも大/小/小という構造だったのだ。シャドウムーアの登場により、ブロックの見方がひっくり返り、私の首席デザイナー生活の中でも最大の変革の1つである、「ブロック内のセット構成を弄ったブロック計画」を生み出すことになる。
アラーラ再誕(アラーラの断片・ブロック)
アラーラ再誕では、また別の第3セットのあり方を試した。アラーラの断片のリード・デザイナーにしてこのブロックの創造者であるビル・ローズは、全部金色の小型セットを思いつき、そしてその金色セットで結末を迎えるブロックに着手した。これはアポカリプスやジャッジメントやディセンションとは違い、第3セットがこうなるべきだという予想に応えるためのものではなかった。アラーラの断片・ブロックの第3セットは、もっと驚きに満ちたものになることになった。
このセットが重要なのは、新しい第3セットの見方をもたらしてくれたからである。それまでのほとんどの第3セットのようにそれまでのことを踏まえて定義するのではなく、ブロック全体を構築する基底にできるのだ。
エルドラージ覚醒(ゼンディカー・ブロック)
エルドラージ覚醒は、ブロックの単純なゴールとして始まった。メカニズム的に完全に前2セットと切り離された大型セットになることになった。エルドラージ覚醒は、メカニズム的に、またドラフト的に、リセットになることになったのだ。このセットはドラフトにこだわるコミュニティには気に入られたが、メカニズム的に(クリエイティブ的には関連している)それまでの2セットとの繋がりがないということで多くの批判を受けた。
新たなるファイレクシア(ミラディンの傷跡・ブロック)
新たなるファイレクシアは第3セットのさらに新たなる方向性を模索した。すなわち、対立を描き、そして第3セットでどちらが勝ったかを示すのだ。第3セットの名前を公開せず、ミラディン人が勝った場合とファイレクシア人が勝った場合のそれぞれの名前2つを公開したのはこれが史上初である。そのあと、結果がわかってから、第3セットを使ってミラディン世界がファイレクシアの勝利によってどう変わったのかを描いた。描く空間を確保するため、このセットは伝統的な小型セットより多少大きくなることになった。
新たなるファイレクシアは、第3セットを最終決戦の準備ではなく結果を描くために使うことができるということを示したので、第3セット技術の進歩という意味で重要である。多くのプレイヤーはエルドラージがゼンディカーに現れたことによって何が起こったのかを理解できなかったかもしれないが、ミラディンとファイレクシアの戦争の勝者が誰なのかははっきり理解できたのだ。
アヴァシンの帰還(イニストラード・ブロック)
いろいろな意味で、アヴァシンの帰還はゼンディカー・ブロックの大/小/大モデルへの再挑戦であった。大きな変更点は、第3セットにもメカニズム的繋がりを持たせるということだったが、見返してみるとまだ不充分だった。また、イニストラード・ブロックの大きな対立を解決したアヴァシンの帰還という大転換によって物語的な繋がりも薄くなっていた。
ドラゴンの迷路(ラヴニカへの回帰・ブロック)
そして「ドラゴンの迷路」である。今回の第3セットはこれまでの長年にわたる教訓を新しい形で組み合わせ、活かしたものになっていると感じている。「ドラゴンの迷路」が第3セットとして示しているものの例を挙げてみよう。
期待に応える
長年の教訓の1つに、最高の第3セットというものはユーザーが期待したものだということがある。ユーザーが全てを知っているわけではない(後述)が、ユーザーにはあとで提供されるものを期待するように仕向けたいものである。ギルド構造のおかげで、「ドラゴンの迷路」はこの点を巧くこなしている。先の2セットがギルドを提供し、第3セットはもう少し追加する。先の2セットで足りなかった部分を補うのだ。
驚きを与える
人間というのは気まぐれな動物である。このあとのことを知りたがると同時に、驚きも欲しがるのだ。「ドラゴンの迷路」は旧ラヴニカ・ブロックのブロック構造を調整したことでこれをこなしている。ラヴニカへの回帰・ブロックの「パイ」方式では、最初の2つのセットに分配され(公正のために添えるなら両方とも大型セットだ)、第3セットは何にすることもできた。そう、10個のギルド全てが存在するのだが、全てのサイクルは完結しているので謎の部分が残されているのだ。
何かを追加する
旧ラヴニカ・ブロックは大成功を遂げたが、失敗した部分がなかったわけではない。旧ラヴニカ・ブロックの不満の1つに、自分のギルドを含むセットが終わったら何もそれ以上得られない(ディセンションの分割カードを除く)というものがある。今回、ブロック計画から、旧ラヴニカに存在した全てを供給すると同時に、もう少しだけ何かをプレイヤーに与える機会が残されたのだ。
物語を強調する
「ラヴニカへの回帰」と「ギルド門侵犯」で、世界設定ができあがった。これで、「ドラゴンの迷路」は物語を語ることに集中できる。物語は、それまでの2つのセットで世界になじんでいるプレイヤーを第3セットに引き寄せるための良い働きをする。何が起こっているのか、プレイヤーは知りたく思うのだ。
ダイナミックなドラフト環境を作る
「ドラゴンの迷路」が成したもっともイカしたことの1つに、全く異なるブロックのドラフトをもたらしたということがある。これまでの2つのセットでは、ギルド1つでドラフトするのが基本だった。「ドラゴンの迷路」の登場で、複数のギルドを組み合わせてドラフトすることが可能になった。これによって、デザインやデベロップはこの第3ドラフトが行われるまで気付かれることのないイカした相互作用をブロック内に埋め込むことができた。また、第3セットにこそふさわしいカードを入れることで第3セットに独自性を与えることもできたのだ。
《ギルドとの縁切り》 アート:Daarken |
終わりよければ全てよし
見ての通り、第3セットの扱いについては正解を探すのに多少の時間がかかってきた。そして、今でもなお、第3セットを巧く扱うのは難しい。「ドラゴンの迷路」がこれまでの経験を活かして、かつ独自性を持った形で仕上がったのは喜ばしいことである。我々が作るのを楽しんだのと同様、諸君もこれを楽しんでもらいたい。
いつもの通り、第3セットとしての「ドラゴンの迷路」について、またどの第3セットが好きかという諸君のコメントを心待ちにしている。メール、掲示板、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+)で伝えて欲しい。
それではまた次回、再革新の日に何が起こるかを考える日にお会いしよう。
その日まで、幸せな終わりがあなたとともにありますように。
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