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Making Magic -マジック開発秘話-

迷路にめろめろ その2

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Making Magic

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迷路にめろめろ その2

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2013年4月15日


 『ドラゴンの迷路』プレビュー第2週へようこそ。先週は、ドラゴンの迷路のデザイン中に生じた問題について語った。その中で、1つの問題については1記事分の面白みがあるとして残しておいた。今回はその1記事にあたる。それでは、ドラゴンの迷路の11個目のメカニズムについてのちょっとした話を聞いていただくとしよう。

問題は何か?

 先週言ったとおり、ドラゴンの迷路には多くの期待があり、それすべてを詰め込むのに充分なスペースはなかった。このセットには10個のギルドの分のカードが必要で、10個のギルド・キーワードを使う。そして、ドラフト環境ではラヴニカへの回帰とギルド門侵犯の橋渡しをしなければならない。それでもまだ足りず、期待されているのはもう一つある。ドラゴンの迷路のみならず全てのマジックのエキスパンションに必要なもの、つまり、何か新しいもの、だ。


アート:Steve Prescott

 プレイヤーはいつも、ブロックの後半のセットでそのブロックの前半に出てきたメカニズムがどう変化・進化していくかを見るのを楽しみにしている。ストーリーの進展や、カードでの出来事の描かれかたを見るのも好きだ。しかし、セットでそういった続編的な話はあるにせよ、プレイヤーは新しいものを見たいのだ。新しいメカニズムは? このセットで手に入る、今まで見たこともなかったものは?

 通常のセットでは、これは問題にはならない。セットを組み上げる中に、新しいメカニズムやテーマを探求する余裕がちゃんと確保されているのだ。このブロック特有の問題は、ドラゴンの迷路には通常よりずっと多くの続編部分が含まれるということである。ギルドは10個、そしてそれぞれに満たすべき需要があり、もちろんキーワード・メカニズムは言うまでもない。どうすれば、ドラゴンの迷路のように混み合ったところに新しい要素を詰め込むことができるだろうか? この問題のいくつもの条件から見ていくことにしよう。

#1: 精神的空間を食いつぶさない

 これは既に説明してある内容である。精神的空間とは、プレイヤーが消費する精神的エネルギーの量のことである。プレイヤーはいくらかの複雑さは管理できる(ここで、複雑さには何種類かあることを思い出してもらいたい)が、それにも限度がある。プレイヤーの精神的空間を押しつぶしてしまえば、プレイヤーは混乱し、何もできなくなるものだ。ドラゴンの迷路は既にかなりの精神的空間を消費している。つまり、新メカニズムは非常に直観的でなければならない。プレイヤーが目にすればすぐにわかるものでなければならないのだ。

#2: 特定のギルドに所属しない

 ドラゴンの迷路では贔屓をしてはならない。全てのギルドは同等に扱われなければならず、一部のギルドにだけ有用なメカニズムを追加するということはできない。従って、このメカニズムは必ず5色全てに存在しなければならない。

#3: ギルドという枠の外には出ない

 各ギルドに14.5枚分しかカードがない中でギルドを表さなければならないという話は先週したとおりである。カードに余裕はない。つまり、ギルドという枠の外に存在するメカニズムを作ると、各ギルドが手に入れられるカードの枚数はさらに減ることになる。14.5枚の中に全てを入れ込むだけでも難しいのだから、その枚数をさらに減らしたくはない。

#4: 新メカニズムの各ギルドでの使用は均衡を保つ

 上のルールで、このメカニズムはギルドという枠の中に存在しなければならないと言った。つまり、ギルドはこのメカニズムを使うということである。均衡を失わせないためには、全てのギルドが均等に使えるものでなければならない。色という面から見て、均衡を保っていなければいけないのだ。

#5: ラヴニカにふさわしい

 これはもう一つややこしい問題である。ラヴニカへの回帰(そして旧ラヴニカ)は、フレイバーに溢れたブロックである。存在するものすべてがふさわしいものだ。この新メカニズムも、存在するのが自然なものでなければならない。

#6: 魅力的である

 新メカニズム1個分しか空間がない(しかし、これから見ていくが、いくつかの新テーマを忍び込ませた)ので魅力的でなければならない。誰が見ても目を惹き、プレイヤーを興奮させるものでなければならないのだ。

#7: しっくりくる

 これは一番難しい制限なので、最後の項目にした。上記の全てに加えて、これをセットに入れるにあたって、しっくりこなければ意味がないのだ。

 それで全てだ。これらが必要な条件なのである。


 アングルードのデザインの初期に、私は、左右の境界を破りたいと思った。グラフィック・デザインと製造の人たちとミーティングし、実際にカードの印刷のされ方を弄れるかと聞いた。ダン・ゲロン/Dan Gelon(マジックのアーティストでウィザーズの社員で、アングルードのグラフィック・デザイナー)は、「シート上で隣り合っているなら、カード2枚にわたるイラストを使うことはできる」と答えてくれた。

「それじゃ、例えば、2枚を組み合わせて1枚のマジックのカードにするようなことはできるかな?」

「できない理由がないね」

 私はすぐさま、その部屋を出る前に、《B.F.M. (Big Furry Monster)》のデザインを仕上げていた。

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 内部の誰もがアングルードを気に入ったので、その発売前から私はアングルード2に取りかかることになった。大問題は、今までやったことのない方法で何もかもをしてきたセットを超えるためにどうしたらいいかだった。

 私はアングルードの市場調査を見直し、そしてもっとも人気の高かったカードが《B.F.M. (Big Furry Monster)》だったということを知った。それなら同じような魅力的な方法は? 3枚組のクリーチャー? 4枚組? いやいや。そこで思いついたのはその逆を行くことだった。《B.F.M. (Big Furry Monster)》は2枚組で1枚分。では逆に、2枚のカードが1枚に入っているというメカニズムはどうだろう?

 私の創造魂に火がつき、アングルード2のために5枚のカードを作った。その後、アングルード2はボツになった。


 私はタホの実家にいた。ビル・ローズ/Bill Rose、マイク・エリオット/Mike Elliott、私が、インベイジョンの初期デザインのためにそこに集まっていたのだ。多色のブロックになることは既に合意が取れており、ありとあらゆるイカした多色デザイン空間を探したいと思っていた。私はビルに近づき、そして言ったのだ。「このセットに良いアイデアがある。奇妙に見えるけど、私を信じてもらいたい」(分割カードがインベイジョンに導入されるまでの話を詳しく聞きたい諸君は、こちらの記事(リンク先は英語)を読んでくれたまえ)

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 私は深夜に目覚めた。私は旧ミラディンの激務のさなか、問題のまっただ中にいた。当時首席デザイナーだったビル・ローズは、このセットにはまだメカニズムが足りないと感じていて、私はそれを見つけ出すことに取り組んでいた。頭の中がそれで一杯で、夢の中にまで浸食してきていたのだ。

 ある夜、私は解決策を見つけた夢を見た。見つけたと思っただけでなく、実際にその解決策を夢の中で目にしていたのだ。完全に斬新で、すぐにも使えるものだった。私は飛び起きてペンを掴み、手早くそれを書き記した。それが、双呪のデザインである。


 旧ラヴニカ・ブロックの第3セット「ディセンション」にも、固有のちょっとした問題があった。第3セットで、何か魅力的でサプライズになるようなものを必要としていた。ブロックの構成上、ディセンションに関しては多くのことが既に予想されていた。何か、ふさわしくて、かつ未知のものを必要としていたのだ。

 並行して、我々はもう一つの問題に取り組んでいた。ラヴニカを去るにあたって、全てのギルドに1つか2つの贈り物をする良い方法はないだろうか?(そう、当時は去るつもりだったのだ) 正直な顔でズルをする、10個のギルド全てへのちょっとした贈り物としてふさわしいものは?

 その答えが、金色の分割カードだったのだ。インベイジョンにも分割カードがあり、それぞれの半分は単色だった。その後次元の混乱では同一色(赤)の両半分を持つ分割カードがあった。しかし、それぞれの半分が多色であるものは存在しなかった。これこそが必要なものだったのだ。

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 分割カードは、再び我々の助けになってくれるのだ。この問題への解決策をお見せするとともに、それがなぜ上記の問題を解決してくれるのか解説していくとしよう。

 それでは早速ご紹介しよう、これが新しいキーワード「融合」だ。

 解決策を見てもらったところで、それが上記の各問題をどう解決しているのか見ていくとしよう。

#1: 精神的空間を食いつぶさない

 直接的で直観的でなければならないのだが、私が分割カードを作った瞬間からずっと大好きな理由は分割カードが直観的だからである。目にした瞬間には奇妙なものに感じるだろうが、使ってみた人なら誰もが(そう、誰もが)その働きをすぐに理解したのだ。

 今回、融合がさらなる層を付け加えた。実際、我々は最初に分割カードを作った時点で両方の側をプレイする能力を分割カードに組み込むかどうかについて話し合っていたが、私はそれが一目でわかるとは思わなかったので否定したのだった。幸いにして、分割カードは既に何回か登場し、そしてカードにキーワードと注釈文を入れる機会を得た。今なら、プレイヤー諸君はこれをすぐに理解できることだろう。

 分割カードの優れているところは、カードを見たらすぐに把握でき、選択という考え方はマジックの根幹に存在しているので、精神的空間はほとんど消費しない。

#2: 特定のギルドに所属しない
#3: ギルドという枠の外には出ない
#4: 新メカニズムの各ギルドでの使用は均衡を保つ

 分割カードはまさにあるギルドそのもののもの(片側がそれぞれ単色のアンコモン)も、半分があるギルドのもの(片側がそれぞれ多色のレア)も作れるという点が美しい。また、5枚と10枚のサイクルを作れば、ギルド全てに均等に割り振ることもできる。

#5: ラヴニカにふさわしい

 分割カードは旧ラヴニカ・ブロックの時代からラヴニカに存在している! 実際、我々が最初にこのブロックを想定したとき、混成カードと分割カードはどちらも旧ラヴニカ・ブロックに存在していたので、両方を使うつもりだった。議論の後、1つをラヴニカへの回帰とギルド門侵犯で、もう1つをドラゴンの迷路で使うことになった。分割カードをドラゴンの迷路に入れることになった理由は、分割双呪/splitwine(融合のデザイン名)を新しいものとして使いたかったからなのだ。

#6: 魅力的である

 分割カードはまさに魅力的そのものだ。ルールを書き換えながら直観的に働き、プレイヤーも使っていて楽しい。さらに加えて、今回の一ひねりはずっと語り合ってきたことであり、プレイヤーも望んでいたことだ。これまでになくふさわしいタイミングであり、最高の機会なのだ!

#7: しっくりくる

 もう一つ、分割カードには素晴らしい点がある。ギルド・カードになるので、無駄な空間を消耗しない。今まで取り組んできたことに自然にすっぽりと収まるのである。

 ドラゴンの迷路・チームは、分割双呪という発想にかなり早期にたどり着いていた(デザイン・チームが公式に編成される前かもしれない。アレクシス/Alexis Jansonと私はラヴニカへの回帰のデザインで名を並べていたのだ)が、問題解決のための他の方法がないか探すのにかなりの時間を費やしていた。他の答えは見つからなかった。融合つきの分割カードこそが唯一の正解だと思われる。


〈享受〉 アート:Steve Prescott

まだ終わりじゃない

 融合は唯一の新メカニズムかもしれないが、他に新しいものを見付けて取り込むことができなかったというわけではない。

多色テーマ
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 ドラゴンの迷路は、分割カードだけがディセンション譲りなのではない。ディセンション(や、全てが金色のアラーラの再誕セット)には「多色テーマ」が存在する。多色であると言うことは数少ない全ギルドの共通項の1つであり、多色を考慮することは全てのギルドを差別せずに扱うことになるので、今回にまさにしっくりくる。

 他の新メカニズム(名前はないにせよ)も、上記の条件を考えなければならない。多色テーマはギルドにふさわしく、ギルドという構造を踏まえた単色カードを1つのギルドに縛られない形で作ることができるようになるのだ。

導き石
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 このサイクルについては先週も話した。色マナを安定させる方法がもっと必要で、土地よりもアーティファクトのほうに余裕があるように見えた。生け贄に捧げてカードを引くというメカニズムは昔からあり(例えば、名前はなかったが、戦場からのサイクリングとも言うべきウルザズ・デスティニーの小テーマだった)、2色の石にふさわしいものに思えたのだ(2色の石、とはタップすると色マナの出るアーティファクトのことを指す開発部名である)。

門テーマ
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 ブロックを通して、門の重要性は少しずつ増してきている。ドラゴンの迷路はギルド門を渡る競争を中心に据えているので(だからこそ我々は新イラストつきでドラゴンの迷路に再録しているのだ)、メカニズム的にもテーマとして据えるべきだと考えたのだ。

 我々は様々な方法を試したが、最終的には、2つを必要とするという単純さがいいと判断した。ラヴニカへの回帰やギルド門侵犯では1つあるかないかだけを意識していたので、門の重要性が増したと感じられるだろう。実際に、メカニズム的な重要性は間違いなく増しているのだ。

出口を探せ

 諸君がこの迷路巡りを楽しんでくれたなら幸いである。見ればわかるとおり、通常以上にさまざまな制約のある中でのデザインだったが、常々言うとおり、制約は創造の母なのだ。私はこのセットの出来に満足しており、カードを手にした諸君が描くドラフト環境を見るのを楽しみにしている。

 幸い、諸君にはドラゴンの迷路プレリリースが待っている。プレリリース入門を読んで、お店のドアを開けたときに何を選ぶかを考えておいて欲しい。

 いつもと同じように、諸君からの反響が欲しい。メール、掲示板、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+)で待っている。

 それではまた次回、個別カードの話を掘り下げる日にお会いしよう。

 その日まで、「または」を「かつ」に変える方法があなたとともにありますように。

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