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Making Magic -マジック開発秘話-
オルゾフのデザイン
読み物
Making Magic
オルゾフのデザイン
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2013年3月25日
ラヴニカへの回帰・ブロックのギルド特集群その10、最後の1つであるオルゾフ特集へようこそ。今回は、これまでの9つのコラム(セレズニア、アゾリウス、イゼット、ゴルガリ、ラクドス、ボロス、シミック、グルール、ディミーア)と同じく、ある特定の2色のデザインについて検討していく。その2色とは、言うまでもなく白黒だ。オルゾフ、あるいは他の色の組み合わせ9種の理念に興味がある諸君は、旧ラヴニカ・ブロック時に私が書いた10個のコラム(リンク先は英語)を参照してくれたまえ。
今回のコラムも、このシリーズの他のコラムと同じように進行していく。いつもの4つの質問に答え、そして新旧両ブロックのギルド・メカニズム、すなわち憑依と強請について語っていく。ふう! これでこの説明も最後だと思うとせいせいするね!
《オルゾフのギルド門》 アート:John Avon |
この色の組み合わせにとって最も簡単なことは何か?
理由はどうあれ、青赤だけを除けば、敵対色の組み合わせには共通する部分が多いものである。テーマ的な意味で、敵対色同士は自分の中に相手と似た部分を見るものだからかもしれない。物語(や、場合によっては人生)のもっとも典型的な対立である光と闇を表す色である白黒は、最も芳醇な敵対色の組み合わせであると言えるだろう。
白黒は、共通点(絆魂、飛行など)とはっきりした違い(白は構築して守り、黒は破壊する)がバランスよく存在するので、多色カードをデザインするのはメカニズム的には非常に簡単である。
この色の組み合わせにとって最も難しいことは何か?
最も難しいことは、マジックの中でもっとも敵対している敵対色だという上述の点から生じている。光と闇の対立というのは、ファンタジー世界の中核をなすものだ。リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldは対称的デザイン、すなわち2枚のカードで対立しているそれぞれの面を表すというデザインの大ファンである。リチャードはアルファ版で多くの対称性を導入したが、そのなかでも顕著なのがこれだ。
《白騎士》と《黒騎士》。黒は先制攻撃の第3色であり、白と対称な騎士にしかほとんど見受けられない。騎士道、名誉、高潔さと、利己主義、闇、陰謀との対立以上にファンタジーらしいものがあるだろうか?
リチャードは青、赤、緑の魔法も考案したが、白と黒の魔法という考えはマジックが存在するずっと前から存在していた。それが問題になるのだろうか? 両方の色を持つ1枚のカードを作ろうとすると、メカニズム的には可能だが、その意味は何なんだろうか? 不倶戴天の敵同士が手を結ぶのはなぜなのか?
デザインにおいてフレイバーの占める部分はもとより大きかったが、ここ5年でさらに大きくなっている。白黒のカードを作るにあたっては、そのカードの持つ意味を考え、そしてそのメカニズムに説得力を持たせる方法を考えなければならない。白黒を扱うのは簡単ではないのだ。
オルゾフはこの問題に関する過去最高の解決策の1つである。黒の目標と白の手段を兼ね備えた組織を作り、その組織が必要とする一連の呪文を可視化したのだ。いつの日か、白の目標と黒の手段を兼ね備えた組織を考える日が来るだろうが、それは少しばかり難しそうだ(もちろん可能だが)。
この色の組み合わせにとってメカニズム的中心は何か?
このコラム最後の2つであるディミーアとオルゾフがもっともメカニズム的中心がストレートでないというのは面白いことだ。白黒はシステムの最適化が中心である。つまり、システムを試験し、その悪用方法を理解することに最も長けた色の組み合わせということになる。ゲーム・プレイという話になると、各要素をどうやって悪用するかということになる。
白黒は2つの目的を持つカードを使うときにこそ輝くのだ。新旧ラヴニカ・ブロックから例を挙げてみよう。
《不眠の晒し台》も《千叩き》も、攻防両用のカードである。白黒は、ゲームに勝つためのカードを使って自分を守ることができるのだ。このテーマは白黒全体を通して貫かれている。なぜなら、白黒は我慢強いからである。白黒は、防御的カードを攻撃的に使うことができれば勝てると言うことを理解しているのだ。
この色の組み合わせの焦点は何か?
最も典型的な白黒デッキは、開発部内で流血デッキと呼ばれているものだ。流血デッキの前提となる考え方は単純で、まずゲームのコントロールを得て、それから対戦相手をゆっくりと死に至らしめるのだ。そのために、白黒は2つのやらなければならないことが存在する(そして、既に見てきたとおり、その2つは同じカードで達成されることが多い)。
白黒は脅威を取り除かなければならない:この色の組み合わせはシステムの最適化に長けているので、勝利の鍵はまずもって負けないことであるということを理解している。重要なのは対戦相手の戦略を分析し、相手が勝利のために必要とするカードを取り除いてしまうことである。戦場以外の領域にあるカードも含むあらゆるカードに対処する道具を備えた白黒は、個別除去にも全体除去にも優れているのだ。
白黒は除去の難しい小さな大量の脅威を使う:それから、白黒は自身の持つ脅威を除去されにくくするために尽力する。そのための鍵となるのはやはり忍耐である。勝利のためにどれだけの時間がかかろうと気にせず、脅威を増やしていくのだ。白黒は全ての道具をひとまとめにしたりしない。白黒を止めにくいのは、巨大な脅威1つや2つに頼るのではなく、細かな脅威を大量にもたらすからである。白黒に巨大な脅威が存在しないというわけではないが、それらが除去されても大丈夫なように二の矢を用意しておかなければならない。
白黒はこの計画を以て、ゆっくりとだが確実に勝利を収めるのだ。
憑依
私は憑依メカニズムについてはっきりした見解を持っているが、その話をする前に憑依のおこりについて語ることにしよう。このメカニズムを作ったのはアーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheで、ギルドパクトのデザイン中のことだった(ギルドパクトのデザイン・チームは、リーダーがマイク・エリオット/Mike Elliottで、メンバーがアーロン、デヴィン・ロー/Devin Low、ブライアン・シュナイダー/Brian Schneiderだった)。
《叫び回る亡霊》 アート:Terese Nielsen |
ギルドのあるセットをデザインするときには、必ず問題のあるギルドが1つ存在する、という話はいつもしている。ギルドパクトでの問題児は、オルゾフだった。イゼットは呪文のギルドで、グルールはクリーチャーのギルド。この2つのギルドのメカニズムは比較的速やかに決まった。オルゾフはそうではなかったのだ。
デザイン・チームは、取引と商業というテーマを掘り下げることから始めた。何も見つからなかったので、チームはオルゾフのプレイヤーがゲームの開始時に1色を選び、その色を否定するという「抑圧」メカニズムを試すことになったが、これはあまりにも不安定だった。フレイバーに基づいて探している途中で、アーロンはクリエイティブ・チームがオルゾフに割り当てたテーマを弄り始めた。そのテーマとは、幽霊だった。
憑依と名付けられたアーロンのメカニズムは、死んだ後にも幽霊としてそのあたりに残るクリーチャーを表していた。アーロンがデザインした、そのメカニズムを持った最初のカードがこれだ。
〈憑依の騎士/Haunting Knight〉
{2}{W}
クリーチャー ― 騎士・スピリット
2/2
先制攻撃
憑依(このカードが死亡したとき、クリーチャー1体を対象とし、これをそれに憑依した状態で追放する。憑依されたクリーチャーが死亡したとき、この呪文をこのマナ・コストを支払うことなく唱える。)
クリーチャーが何度も戻ってくるという最初の版は非常に強力だった。〈憑依の騎士〉を例にして、その動きを説明しよう。〈憑依の騎士〉は2/2の先制攻撃持ちクリーチャーである。これが死亡すると、戦場にあるクリーチャーに「憑依」する。その後、その憑依されたクリーチャーが死亡すると、〈憑依の騎士〉はあなたのコントロール下で戦場に戻る。この〈憑依の騎士〉を単に殺したところでクリーチャーに憑依して、やがてまた甦ることになるので、これを除去するのは非常に困難だった。
デザイン・チームもデベロップ・チームも全体のイメージは気に入ったのだが、いくつか変更する必要がある点があるのは明らかだった。
効果は2回しか発生しないようにする:アーロンの元の版だと、憑依持ちのクリーチャーは生と死を繰り返し、何度も何度も戦場に出ることができた。呪文が最初に唱えられたとき(あるいはクリーチャーであれば戦場に出たとき)と、憑依されたクリーチャーが死んだときの2回だけ効果を持つようにした。
クリーチャーだけでなく呪文にもこの能力を与える:もう一つ大きな変更は、クリーチャーだけでなく呪文でもこのメカニズムが働くようにしたということである。そのために、このメカニズムはインスタントやソーサリーとクリーチャーで違う働きをするようになった。すぐにわかるが、これはこのメカニズムの大きな欠陥の一つであった。
デザイン・チームとデベロップ・チームは憑依のいろいろなバリエーションを試してみた。自分のクリーチャーだけに憑依するものや、対戦相手のクリーチャーだけに憑依するものもあった。憑依する効果が異なるものも試してみた。最終的には、一番単純な形だと思われるものになったのだ。
《処刑人の一振り》 アート:Karl Kopinski |
何にせよ、私は、ラヴニカ・ブロックのギルド・メカニズムの中で憑依が一番嫌いである。光輝はボロスにふさわしいものではなかったが、それを利用できるセットというのは存在しうる。では、私が考える憑依の問題点とは? そのいくつかをこれから説明しよう。
1. プレイヤーには理解できなかった
このメカニズムは一見すると素晴らしく思える。私のクリーチャーが死んで、他のクリーチャーに憑依するのだ。非常に芳醇である。問題はただ1つ、ほとんどの人がこのメカニズムの全体のイメージを掴めるが、プレイヤーの多くはその効果を覚えていられないのだ。この問題を私は「記憶不能性/unstickiness」と呼ぶ。記憶不能なメカニズムとは、その文章を読んでからすぐに「で、これは何をするんだっけ」と自問自答するようなもののことである。
メカニズムが記憶不能になるのは、直観的ではない空間を散らかしているからである。つまり、創造していたことをしないということだ。メカニズムが観客の想像通りに動くようにすることの重要性については常々語っている通りで、記憶不能性はその重要性を見失ったときに生じるのだ。
おそらく、これを読んでいる諸君の多くが「憑依はわかりやすいよ。誰が理解できなかったっての?」と思ったに違いない。私にはほとんどのプレイヤーが理解しなかったという充分すぎる量のデータが届けられている。なぜ理解できなかったのか、その理由をこれから明らかにしよう。
2. 単一のメカニズムではなかった
呪文とクリーチャーでの働きを違うようにしたのが、この問題の大部分だった。どちらも憑依と書いてあったが、働きはまったく異なっていたのだ。呪文は解決されてから憑依したが、クリーチャーは戦場に出たときの効果を持っていて、そして死ぬまでは憑依しなかったのだ。呪文がメカニズム的には比較的よく働いたのは、直後に処理され、そして憑依されたクリーチャーが死んだときにはその効果が明確だったからである。一方、クリーチャーは、死んだ後で幽霊になって憑依するのだから、よりフレイバー的だった。呪文とクリーチャーの両方に対応しようとした結果、わかりやすさもメッセージ性も失われてしまったのだ。
3. 弱かった
最終的に、これが最悪だった。プレイヤーは、使いたければより複雑なメカニズムでも理解するものだが、憑依はその起こっていることを記録するほどのエネルギーを引き起こすだけの価値がなかったのだ。ほとんど見返りなしで、手間だけがかかったのである。
他の失敗同様、憑依は将来のデザインにおいて注意すべきことを間違いなく教えてくれた価値ある教材であった。
強請
ギルド門侵犯のプレビュー記事中で触れたとおり、強請は最初に作ったオルゾフのメカニズムではなかった。実際のところ、1つめどころか2つめでも3つめでもなかった。それどころか、デザイン・チームのメンバーが作ったものでもなかったのだ(ただしデザインしたショーン・メイン/Shawn Mainはこの強請と大隊を作ったことによってデザイン・チームの一員として名が記されている)。強請はギルド門侵犯の「デヴァイン」(デザインとデベロップの間で、デザインがファイルをコントロールするがデベロップがフィードバックをつけはじめる時期)の開始時に結成された、デザイン・小チームの手でデザインされたのである。
小チームは強請をオルゾフのメカニズムとして推薦したが、デザイン・チームの意見は割れた。マーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebと私(共同リーダーである2人)は気に入った。小チームのリーダーであったデイブ・ハンフリー/Dave Humpherysは決定に私情を挟まないため中立を保った。イーサン・フライシャー/Ethan Fleischerとジョー・ヒューバー/Joe Juberはこのメカニズムに懐疑的だった。マーク・ゴットリーブと私が気に入ったので、ファイルに入ることになったのだ。
心配の1つは、このメカニズムが充分かどうかだった。興味深いことに、我々が最初にプレビューしたときのプレイヤー諸君の反応と同じだったのだ。これが間違っていることを証明するため、私はそれから数回、ドラフトするたびに可能な限り強請カードを集めた。ただフレイバー的なだけでなく、メカニズム的にも面白いが、当時のコストでは非常に強いと確信していた。そこで、私は流れてきた強請カードをすべてピックした。初めてのドラフト・デッキには14枚の強請カードが入っていたと記憶している。私はその日全勝を収め、懐疑論者も多少は認めざるを得なくなったのだ。
《ヴィズコーパのギルド魔道士》 アート:Tyler Jacobson |
最終的にチームはまとまり、強請がオルゾフのメカニズムになることになった。次の鍵は、どんなカードに強請を持たせるかである。最初は、強請はクリーチャーに持たせるのが一番だと決まっていた。強請は対戦相手を少しずつ削る能力だが、それを持つカードにもゲームを進行させるための他の機能を与える必要があった。レアのエンチャント《盲従》がデザインされたのは、強請を活かせるように対戦相手の速度を落とすためである。
次に、我々は強請を軽いクリーチャーに与えることにした。4マナより重いのは、多色クリーチャー2体だけである。そして、それらのクリーチャーのほとんどをバニラまたはフレンチ・バニラにした(強請以外にはテキストを持たないか、クリーチャー・キーワード1つだけを持つクリーチャーのことである)。これは、強請には3行のルール・テキストが必要であり、コモンやアンコモンの強請クリーチャーにそれ以上文章を持たせたくなかったからである。強請を持つクリーチャーは単純なもので充分強く、充分面白いと、プレイテストで証明されていたのだ。
デベロップは2つの重要な変更を施した。まず、ショーンの版では強請コストは{1}だった。デベロップはここに色の関与が必要だと感じた。デベロップは白のカードを{W}、黒のカードを{B}にしてみたが、注釈文を同一に(そして短く)するために白黒混成シンボルを使うことにしたのだと思う。これによってもう1つの問題が解決されている。対戦相手からライフを吸収する能力は黒のものであり、白単色では多少奇妙に見える。混成マナを使うことで、そこにドクロマークが入った。白単色のカードにも、黒マナが絡んでいるように見えるようになったのだ。
もう1つデベロップが施した変更は、多人数戦に向けての調整である。デザインの版では「対戦相手1人」からライフを吸うことになっていたが、最終版では「各対戦相手」から吸うようになった。これによって多人数戦でこの能力は多少強力になったのだ。
このメカニズムのためにデザインに必要だったのは、デザイン上のサポートで、その手法には以下のようなものがあった。
軽い呪文:強請デッキをドラフトし始めてすぐに気付いたことの1つに、軽い呪文をデッキに入れることの重要性があった。4体も5体もの強請クリーチャーを戦場に並べると、それら全ての強請コストを支払えるような呪文をプレイしたくなる。それを可能にするために、我々は軽い呪文の数を多少増やしたのだ。
防御的カード:流血デッキには2つ必要なことがある:1つめに、時間をかけて少しずつダメージを与えていく手段。強請はこの役目を果たす。2つめに、ゲームを遅くし、上記1つめが役割を果たせるようにするカード。幸いにして、オルゾフはゲームの展開や対戦相手の動きを遅くするものなので、これもそう難しいことではなかった。
ダメージを与える他のちょっとした方法:流血デッキを推しているとはいえ、オルゾフのプレイスタイルはこれ1つではない。より攻撃的なスタイルもあり、それはボロス出身の軽くて速い白のクリーチャーと、ディミーア出身のひっそり躱す黒のクリーチャーを使って可能な限り早くダメージを与え、最後の数点を削るために強請を使うというものだ。このデッキのためには、主導権を握っている間に相手を傷つける他の方法が必要である。
こうして、憑依にフレイバー的にも劣っておらず、同時にずっとわかりやすい、ずっと出来のいいと言えるメカニズムが最終的にできあがったのだ。
《債務の騎士》 アート:Ryan Barger |
白黒かくあるべし
各2色の組み合わせのデザインについての全10部作となるコラムはこれで完結となる。諸君が楽しんでくれたなら幸いである。いつもの通り、この記事についての感想を聞かせて欲しい。メール、掲示板、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+)で待っている。
それではまた次回、新しいものが古くなることについて語る日にお会いしよう。
その日まで、手を汚すことのない罪があなたとともにありますように。
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