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Making Magic -マジック開発秘話-
グルールのデザイン
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Making Magic
グルールのデザイン
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2013年3月4日
グルール特集へようこそ。これは2色の組み合わせをデザインすることについての10連コラムの8番目である。これまでに、緑白(セレズニア)、白青(アゾリウス)、青赤(イゼット)、黒緑(ゴルガリ)、黒赤(ラクドス)、赤白(ボロス)、緑青(シミック)について語ってきた。また、旧ラヴニカ・ブロックの際には、各ギルドの色の理念に関する10部作のシリーズ(リンク先は英語)を書いた。
このシリーズのコラムは、それぞれ同じ4つの質問に答え、それからそのギルドの旧ラヴニカ・ブロックのメカニズム、ラヴニカへの回帰・ブロックのメカニズムそれぞれの創造について掘り下げていく。このコラムも8回目になるので、熱心な読者諸君はもうこの手順を覚えていることだろう。
《グルールのギルド門》 アート:Randy Gallegos |
この色の組み合わせにとって最も簡単なことは何か?
赤と緑には共通の狙いが存在する。共通の敵である青が身構えてあらゆる選択肢を考えてから行動するのに対し、赤や緑は実行することに重きを置くのだ。攻撃したい。クリーチャーを出したい。呪文を唱えて相手の顔に叩きつけたい。この共通の性質から、赤と緑を同じ方向に向けるのは簡単である。
赤と緑はトランプル能力を共有しているし、パワーを上昇させるし、土地を破壊するし、マナ加速もできる(緑の加速は永続的で、赤の加速は一時的という差はある)し、速攻能力も(緑は稀にだけれども)あるし、格闘能力もあるし、コモン・クリーチャーのパワーは最も高い。赤ともっともよく重複しているのは黒であって緑ではないけれども、片方だけが持っている能力も組み合わさってうまく働く傾向にある。例えば、赤の直接火力と緑の《巨大化》系を組み合わせると、邪魔なクリーチャーを確実に破壊できる。赤の直接火力や《恐慌》効果を使ってブロック・クリーチャーを除去し、緑の巨大クリーチャーが直接対戦相手を攻撃できるようにするのだ。
赤緑と、赤白や黒赤との差は、赤緑はそのマナ加速を生かして大型クリーチャー寄りになるということだ。赤緑は攻撃最速のギルドではないが、最大の攻撃力を持つ。強大なクリーチャー群が登場すれば、それを止める手段はそうそうないのだ。
この色の組み合わせにとって最も難しいことは何か?
赤も緑も単純な性格をしているので、様々な手段を尽くすということが苦手である。もちろん、赤緑は格闘に勝ったり多大なダメージを与えることはできるが、そういったわかりやすいことのほかにはメカニズム的空間は他のどの色の組み合わせよりも早く尽きてしまうのだ。
赤緑を成立させるための技は、その2色が協力できるような領域に持たせる意味合いを増やすことである。赤緑の戦略を助ける方法はいくらもあるが、それをデザインするにあたっては、区分することに細心の注意が必要となる。
もう一つの問題は、フレイバー上非常に鈍くなるということだ。グルールはものごとについて一番考えないギルドなので、トップダウン・フレイバーに従うと、鈍いカードを大量に作ることになる。プレイヤーに興味深い戦略的選択の余地を与えたまま、このグルールらしさを再現するということは難しい問題だ。私は湧血はこのバランスを取っていると思っているが、この方向のデザインというものは簡単ではない。
《スカルグのギルド魔道士》 アート:Aleksi Briclot |
この色の組み合わせにとってメカニズム的中心は何か?
赤緑のメカニズム的中心は、クリーチャーにある。より厳密に言えば、赤緑のメカニズム的中心は攻撃クリーチャーにある。赤緑はクリーチャーで勝つだけでなく、クリーチャーで殴り勝つのが目的なのだ。他の色の組み合わせなら待つこともあるだろうが、赤緑にはそれはない。赤緑の焦点は戦闘を通した勝利への無慈悲な追求にこそあるのだ。
赤緑をデザインするにあたって、それは、常にクリーチャーとそれがどう攻撃するかの両方を考えなければならないということを意味する。グルールのメカニズムはどちらもクリーチャーを巨大化させるだけでなく、攻撃させるように仕向けていると言うことにも注目してもらいたい。
この色の組み合わせの焦点は何か?
メカニズム的中心は、攻撃クリーチャーを軸にしている。一方、この色の組み合わせの焦点は、殴り勝つための戦力を如何にして整えるか、にある。ここに問題があるのは明らかだ。赤緑は高速な色の組み合わせではない。これは、緑のクリーチャーは量より質だという事実から来ている(白は量を重視するクリーチャーの色だ)。
緑は巨大クリーチャーを呼び出すこと、それにマナを加速してそれを唱えられるようにすることに長けている。赤は直接火力があり、時間稼ぎができる色である。それに加えて、赤には多少のマナ加速と、高パワーのクリーチャーがあるので、この2色には共通のゴールが存在する。赤緑は先手を取って勝つのではなく、止めようのない攻撃力で勝つのだ。
これらを踏まえると、赤緑をデザインする場合、この色の組み合わせが本領を発揮するようになるまでの序盤、どうやって加速し、どうやってしのぐかを考えなければならない。この点で、この鈍い色の組み合わせにも少しばかり賢いデザインが必要になるのだ。
デザイナーとして、私はグルールがとても微妙だとわかった。なぜなら、グルールの求めるものと、赤緑という色が必要とするものとは完全には一致しないからである。すぐに説明するが、グルールのメカニズムをデザインすることには細心の注意が必要――そう、グルールの持ち合わせていない細心の注意なんてものが必要なのだ。
狂喜
狂喜のおこりを話すためには、タイムマシンに乗って2004年、ギルドパクトのデザイン当時に戻らなければならない。リード・デザイナーはマイク・エリオット/Mike Elliott(この名前に聞き覚えがない諸君のために説明しておこう。彼はこの私の次に多くのマジックのセットでリード・デザイナーを務めてきた男だ)で、チームにはアーロン・フォーサイス/Aaron Forsythe(マジックの現ディレクターにして元首席デベロッパー)、デヴィン・ロウ/Devin Low(元首席デベロッパー)、ブライアン・シュナイダー/Brian Schneider(やっぱり元首席デベロッパー、この当時の首席デベロッパーである)がいた。
このチームはグルールのギルド・メカニズムを探すという難題に取り組んでいた。難題だというのは、すでに説明したとおり、グルールのとても単純な性質を持ち、同時に面白い戦略的ゲームプレイをもたらすメカニズムを作らなければならなかったからである。
チームはまず、作らなければならない他のギルド、すなわちイゼットとオルゾフを確認していった。イゼットがインスタントやソーサリーに焦点を当てるのは当然である。オルゾフは対戦相手をじわじわと痛めつけるような遅いプレイスタイルだった(開発部は流血デッキと呼んでいた)。つまり、グルールがこのセットにおけるアグロを担うことになる(対照的に、ギルド門侵犯でのグルールが最も攻撃的なギルドではないことはこのあとに述べる)。
チームはすぐに、グルールはクリーチャーで攻撃することを主軸にする、すなわちそのメカニズムはクリーチャーによる攻撃によって有利を得るものにすると決定した。少々のプレイテストの後、このメカニズムはもう一段踏み込むことが必要だとわかった。ただ攻撃によって有利を得るだけでなく、攻撃したいように仕向ける必要があると。このメカニズムの最初のバージョン、痛み投げ/paincast(この名前はラヴニカへの回帰でのラクドスのメカニズムのデザイン名と同じだが、まったく違うメカニズムであることは明記しておこう)はイニストラードの陰鬱とかなりよく似た動きをしていた。対戦相手がそのターンの間にダメージを受けているかどうかを見て、もし受けていたらその能力を持つ呪文が強化されるのだ。
初期デザインのメモを私は持っていないので、その働きを説明するために仮のカードを提示してみよう。
〈さらなる痛みは私の利益/More Pain, My Gain〉
{G}
インスタント
クリーチャー1体を対象とする。ターン終了時までそれに+2/+2の修整を与える。
痛み投げ ― 対戦相手1人がこのターンに既にダメージを受けていた場合、代わりにそのクリーチャーに+4/+4の修整を与える。
ただし、この能力を呪文につけることには2つの問題があった。
対戦相手にダメージを与えるため、このメカニズムを活かすにはデッキに大量のクリーチャーを入れる必要がある。このメカニズムをインスタントやソーサリーに持たせるとすると、デッキ内のクリーチャーの数が減るという矛盾が生じる。
イゼットのメカニズムが呪文に焦点を当てており、イゼットのメカニズムである反復(デザイン・チームが最初に作ったメカニズムである)はインスタントやソーサリーにだけ存在している。
この2つの点から、痛み投げ能力はクリーチャーに持たせるべきだということになる。チームはこれを強調して(ギルドパクトで唯一色が重複しているギルドである)グルールとイゼットの差別化ができると感じたのだ。問題は、クリーチャーに果たしてどんな能力を持たせるべきかということであった。
チームは様々なバージョンを試してみたが、結局のところ、効果を1種類に統一するのが一番だとわかった。それによってグルールらしさは強調できる(グルールは単純な性格をしているのだ)し、複雑さも押さえられる。最もわかりやすい選択は、得られる見返りを+1/+1カウンターにすることだった。チームはコストを減らすということについても議論しただろうが(そういえばラヴニカへの回帰のラクドスの方の痛み投げも最初はそうだった)、デベロップ的には恐ろしい話だし、グルールらしいとは言えないほど複雑だったのだ。
さらにプレイテストを重ねて、デザイン・チームは狂喜クリーチャーには本質的に2つの性質があると気がついた。1つは平均のちょっと下、1つは平均のちょっと上である。ダメージがどんなダメージでもいいのか、それとも戦闘ダメージだけであるべきかということについても議論があったが、直接火力を擁する色なのにそれがメカニズムに活かせないのは良くないと判断された。
デザイン・チームはまた、自身のパワーを参照するクリーチャーに狂喜能力を持たせると面白いということも見付けた。これは+1/+1カウンターだけではなく、赤にも緑にもあるパワー強化呪文とも相互作用するのだ。
最後に、狂喜の存在によってデザイン・チームは組み合わせてインパクトを与えられるようになった。1マナのクリーチャーのようにリミテッドでは伝統的に弱かったカードが、狂喜と組み合わせると強くなるのだ。
《捕食者の関係》 アート:Matt Stewart |
湧血
ギルド門侵犯のデザイン・チーム(イーサン・フライシャー/Ethan Fleischer、マーク・ゴットリーブ/Mark Gottlieb、ジョー・ヒューバー/Joe Huber、デイブ・ハンフリー/Dave Humpherys、それに私)も、ギルドパクトのデザイン・チームと同じようなところから始めることになった。赤緑はクリーチャー中心であり、相手よりも大きなクリーチャーを出して勝つのだということがわかっていた。ギルド門侵犯には「ウィニー速攻」のボロスも存在していた。つまり、問題はどうやって赤緑が大型クリーチャーを出すことにメリットを与えるかということであった。
1つめの回答は、格闘だった。念のために言うなら、格闘はイニストラードの時期にマジックに追加されたキーワード行動であり(その機能そのものを持った最初のカードは1994年、マジックの初期の本につけられたプロモカードの《闘技場》であるが)、2体のクリーチャーを戦闘のような状況にしてお互いにそのパワー分のダメージを与えあわせるというものだ。
格闘はいくつかの意味で魅力的だった。まず、グルールのフレイバーにふさわしかった。2つめに、格闘は緑が第1色、赤が第2色であり、完璧にグルールの色に合っていた。3つめに、洗練された方法でサイズを活かしていた。次は、この格闘を使ってどんな新しいキーワードを作るかである。
しばらく考えた後、チームは、乱暴/rowdyと呼ばれるグルールの最初のメカニズムを作った。乱暴とはこういうものである。
〈乱暴な熊/Rowdy Bear〉
{2}{G}
クリーチャー ― 熊
乱暴 ― [カード名]が他のプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えたとき、[カード名]はそのプレイヤーがコントロールするクリーチャー1体と格闘を行ってもよい。
このメカニズムはうまく働いた。実際の所、うまく働きすぎた。対戦相手のクリーチャーを殺すのに有効だった。グルールのプレイヤーが一旦有利になってしまうと、乱暴のせいで逆転はほぼ不可能になった。デベロップ代表としてチームに参加していたデイブ・ハンフリー(このセットのリード・デベロッパーでもあった)は懸念を表明した。このメカニズムは少々強すぎ、楽しくない局面を作るし、対戦相手はクリーチャーを出すこともできなくなることすらあった。
キーワードを格闘絡みにしようとして、我々は次なるメカニズムを作った。それが蹴撃/kickboxingと呼ばれるメカニズムである。
〈蹴撃の熊/Kickboxing Bear〉
{1}{G}
クリーチャー ― 熊
蹴撃 ― {1}{G}
[カード名]が戦場に出たとき、クリーチャー1体を対象とする。あなたは蹴撃コストを支払ってもよい。そうしたなら、このクリーチャーはそれと格闘を行う。
蹴撃は格闘とキッカーを非常に単純に組み合わせたものだ(キーワード名はイカしてるけど)。蹴撃コストを支払ったなら、そのクリーチャーは「戦場に出たとき」の効果として格闘を行う。蹴撃は乱暴ほど破滅的ではなかったが、この能力を持つクリーチャーはどれも一石二鳥の可能性を持っていた。新世界秩序の一環として、一石二鳥になりうるカードはアンコモン以上にすることになっていた。ギルド・メカニズムはコモンにも必要なので、これもボツになったのだ。
その後、攻撃を推奨するいくつものメカニズムを試してみた。中には有望なものもあったが、どれもグルールらしいとは言えなかった。このあたりで、デヴァインと呼ばれる工程に入っていた。デヴァインはデザインとデベロップの中間地点で、デザインがファイルをコントロールするが、デベロップは問題の指摘を始めるという時期である。これによってデザインはデベロップ中に指摘される可能性のある問題に対処する時間がもらえるのだ。早期に発見されれば、デザインはデベロップが見付けたその問題を解決するためにどうするかを考えることができる(デザインの仕事がその問題を解決することでなく、問題として指摘されたことがなぜ必要なのかをデベロップに説明することだということもしばしばあるが)。デザイン・チームはグルール用のいくつもの考えをブレインストーミングし、それらをデベロップに渡した。デベロップの目にとまったものが、当時は奇襲/Ambushと呼ばれていた、湧血である。
《巨大化》として投げられるクリーチャーという基本概念は固まっていたが、ふさわしいものにするためにはいくつかの調整が必要だった。その後になされた決定を並べてみよう。
クリーチャーのパワー/タフネスと、得られるパワー/タフネスは常に同じになった。これによって2つの能力に繋がりがあると感じられるようになった。
クリーチャーにキーワード能力がある場合、その能力もまた「呪文」効果の対象となったクリーチャーに与えられるようになった。トランプルを持つクリーチャーは、トランプルを与えるのである。
さまざまな理由から、湧血クリーチャー2種類が同じパワー/タフネスの値を持つことはなくなった。
一般に、「呪文」効果はクリーチャーとして唱える時よりも軽くなった。この例外は2つある(《不毛の地のバイパー》と《破壊のオーガ》)が、どちらも必要なマナの量は同じである(《破壊のオーガ》は赤マナが1つ多い)。
新世界秩序から、コモンは全てバニラ・クリーチャーになった(湧血以外のルール・テキストを持たないという意味である)。アンコモンは全てフレンチ・バニラ・クリーチャーである(湧血以外にはクリーチャー用キーワード能力を持つだけである)。レアも1枚の例外(《瓦礫鬼》)を除いてはフレンチ・バニラ・クリーチャーである。バニラやフレンチ・バニラに絞った理由は、湧血が3行のルール・テキストを必要とするもので、文章を増やしたくはなかったからである。
赤の「呪文」はタフネスよりもパワーが大きく、緑の「呪文」は全体を網羅するようになった。これは、各色の《巨大化》効果の位置づけを反映している。
「呪文」のコストを軽く保つようにした。これは「呪文」を構えているということが簡単に予想されないようにするためねんえある。
最後に、与えられるキーワードはパワー/タフネスの強化と関連するもので、かつ戦闘中にインスタントとして唱えられるものであるように注意した。例えば、緑は警戒を使うことができるが、これは《巨大化》と組み合わせてもうまく働かない。与えた警戒を有効にするということは、対戦相手が身構えることができるということである。
適正なパワー/タフネスとキーワードの組み合わせを決めるのにはかなりの時間がかかった(し、デベロップ中にも続けられた)。一見すると単純に見えるカードだが、その雰囲気やゲームプレイがうまく仕上がっているのは数知れないプレイテストを繰り返してきた結果なのである。
《瘡蓋族の突撃者》 アート:Rob Alexander |
グルールこそ全て
今日の話はここまで。赤緑らしさのデザインについて、諸君に何らかの知見を与えられたなら幸いである。いつもの通り、この記事についての感想を聞かせて欲しい。メール、掲示板、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+)で待っている。
それではまた次回、トーナメントでお会いしよう。
その日まで、余計なことを考えずにやることの楽しみがあなたとともにありますように。
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