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Making Magic -マジック開発秘話-

アゾリウスのデザイン

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アゾリウスのデザイン

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2012年10月29日


 アゾリウス特集にようこそ。今回はラヴニカへの回帰・ブロックのギルド特集の2つめになる(セレズニア特集はおよそ1ヶ月前のことになる)。セレズニア特集で言ったとおり、旧ラヴニカ・ブロックの間に、各ギルドの色の理念について語るという形で10個すべてのギルド特集を行なった(ギルドに関する私のコラムは、ここ(リンク先は英語)から見ることができる)。今シリーズでは、色の各組み合わせについて、一般的なデザインとギルド特有のデザインについて語っていく。


アゾリウスのギルド門》 アート:Drew Baker

 これら10週の出だしには、各ギルドについて同じ質問を行い、その後で旧ラヴニカ・ブロックおよびラヴニカへの回帰・ブロックそれぞれのギルド・メカニズムのデザインについて掘り下げていく。それでは始めよう。

この色の組み合わせにとって最も簡単なことは何か?

 白と青はどちらも非常に防御的な性質を持っている。従って、それらのクリーチャーは多少防御寄りであり(この2色では、例えばクリーチャーのタフネスの方がパワーよりも大きかったりする)、コントロール性を持ちがちであり(クリーチャーをタップさせるクリーチャーの起動型能力は白と青のものである。青はアンタップもできることが多い)、回避能力を持つことが多い(白と青は飛行の多い色トップ2である)。

 呪文を見てみると、白と青は対応するカードが最も多い。白はプレイヤーやクリーチャーを守るもので、青は魔力を弄んで呪文などを打ち消したりするものだ。しかしどちらも対戦相手が何か行動するまでじっと待っているという点では同じである。メカニズム的な重なりから言うと、白は青よりも緑に近い。しかし全体的な雰囲気で言うと、白は緑よりも青に近いのだ。この2色を互いに近づけるのは難しいことではない。


新プラーフのギルド魔道士》 アート:David Rapoza

この色の組み合わせにとって最も難しいことは何か?

 白と青は完璧に組み合わせられる防御的な性質を持っているが、それぞれの持つ攻撃面は組み合わせられるものではない。白はウィニーの攻撃戦略を有し(青には《秘密を掘り下げる者》がいるが、それでも伝統的にウィニー・クリーチャーは最も弱い色である)、青は白にほとんど存在しないテンポ戦略を有する。つまり、この2色の重なり合うところは他の色の組み合わせのいくつかに比べて小さなデザイン空間に集約せざるを得ないということになる。

 また、この2色を最も巧く組み合わせられる部分は、というと「待ち構えて対応し、起こることを何でも防ぐ」というスタイルになるが、これは楽しいマジックとは言えない。そこで、デベロップはこれを押すのを望まないのだ。つまり、デザインは白青のいいと思えるカード、ゲームを停滞させないカードを常に探し続けるということになる。

この色の組み合わせにとってメカニズム的中心は何か?

 カラーパイの理念から、白はその秩序だった作戦、青はその思慮深い反応を以て最も先を読んだ計画を立てる色である。つまり、白青の中心はコントロールということである。コントロールといっても単に打ち消し呪文だけでなく、より広い意味で使っていることを添えておこう(青が白青に提示するものの1つは打ち消し呪文だが)。

 白と青は、可能な限りのあらゆる側面をコントロールしようとする。戦場にあるものが何をでき、何をできないのかを指図しようとする。何をどのようにプレイするかを支配しようとする。自身が選択肢を持ち、相手が選択肢を失うようにしようとする。白青をデザインするにあたって、特にアゾリウスをデザインするにあたって、デザイナーは常に「ゲームを計画通り進めるために白青は何をするのか」ということを意識しなければならない。

 従って、反応するカードや予防するカードが大量に存在することになる。従って、戦場にあるものは他のものに影響を及ぼしたり、他のものから影響を受けないようにしていたりする。白青は、ルールを定めようとするのだ。

この色の組み合わせの焦点は何か?

 ゲームをコントロールするのは良い戦略だが、それだけでは勝利にはつながらない。焦点というのは、勝利への道である。白青の場合、それはクリーチャーの手によることになる。白青がクリーチャーを使って勝利するには2つの道がある。

 1つめは、回避戦略である。すでに述べたとおり、白や青には飛行クリーチャーが多い。白にはプロテクションもあり、青には「ブロックされない」や島渡りがある。白青の戦略は、ゲームをコントロールし、それから回避クリーチャーで対戦相手を削っていくというものだ。白は予防的呪文を使い、青はパーミッションや呪禁を使って回避クリーチャーを守ることになる。

 2つめは、大型飛行クリーチャーを使った戦略である。白や青には、特に高いレアリティに、天使やスフィンクスといった大型の飛行クリーチャーがある。大型飛行クリーチャーを中盤ないし終盤に出し、それを守ることでその1体だけでゲームを決めてしまうのだ。

 選択に拠らず、コントロール+クリーチャー+そのクリーチャーの保護、が白青の、そしてアゾリウスの勝利への道なのだ。

予見

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 予見をデザインした時、ディセンションのデザイン・チーム(アーロン・フォーサイス/Aaron Forsythe(リーダー)、マーク・ゴットリーブ/Mark Gottlieb、ブランドン・ボッティ/Brandon Bozzi、私)が何をしていたかから話を始めよう。しばしば、首席デベロッパーが私の元を訪れ、あるデッキが強すぎるのでデザインはその方向に推さないようにしてもらえないか、と話してくる。ディセンションの直前、ラヴニカ・ブロック時点での首席デベロッパーであったブライアン・シュナイダー/Brian Schneiderは私の所に来て、白青コントロールが面白くないと感じるほど強くなっている、と言った。ディセンションでその方向に推すのを回避できるだろうか?

 白青のメカニズム的中心については先に言ったとおりだ。ブライアンはデザイン・チームに、アゾリウスには防御的性質(白青のメカニズム的中心)を活かしたものを使わないで欲しい、と言ってきたわけだ。ブライアンはその申し出が奇妙だということを理解していて、重要でなければそんなことを言わなかっただろう。そこで、我々はアゾリウスをあまりコントロール寄りでない白青らしいものに仕上げられるよう手を尽くしたのだった。

 この問題への解決策は、上で焦点として示したものに寄せるというものだった。アゾリウスの飛行という面に着目し、このギルドを攻撃的なものにした。旧ラヴニカ・ブロックの10個のギルドの中で、もっとも想像から離れているのはアゾリウスだったと感じているが、それは想像通りの方法を避ける必要があったからだということは理解できるだろう。この問題については、ラヴニカへの回帰では解消されている。

 そこで、我々はアゾリウスらしく、しかし非常に防御的ではないメカニズムを探すことになった。いくつかの理由から、私の意識は白でも青でもないあるカードに向かっていた。予見メカニズムのネタ元になったそのカードが一体何か、諸君にわかるだろうか?

 考えてみて欲しい。わかったなら、ここをクリックしたまえ。

 手札にある間に働くメカニズムを得て、白青が手札のカードで何かをできるようになったとしたら? このメカニズムのアイデアは、小さな効果を生み出すべきだというものだった。プレイヤーは、小さな効果を何回も使うか、唱えることで大きな効果を1度だけ使うかを選ぶことができるのだ。

 このメカニズムは選択を必要とするものだったが、アゾリウスを選ぶプレイヤーは選択が好きで、どの段階で小さい予見効果を捨てて大きい呪文の効果を使うかを見つけ出すのを楽しむだろうと感じていた。

 チームがギルド・メカニズムとして予見を受け入れたら、次はそれをどう実装するかという話になる。最初は、カードがアップキープに誘発するという計画だったが、ルール上、非公開の領域(全てのプレイヤーは見ることができない領域)からの誘発ということはできない。最終的に、我々はこれを自分のアップキープに1度、と制限した起動型能力にすることにした。

 より重要なデザイン上の問題は、予見が自然な一部と感じられるような予見カードをデザインする方法を探すことだった。最終的に、その方法は主に3つ見つけ出された。

コンボ

 《雲の群れ》のようなカードは、呪文効果とシナジーを持つ予見効果を持つ。例えば、《雲の群れ》の予見を使って飛行を持つ鳥・トークンを出したあとで《雲の群れ》を唱えて+1/+1の強化ができるのだ。これらのカードでは、2つの効果は協力できるという点でしかつながっていない。

弱い効果

 呪文効果をより小さくしただけの予見効果を持つ予見カードもある。これの例は《空中文字》である。《空中文字》の予見を使うと全てのプレイヤーがカードを1枚引く。呪文として唱えれば、全てのプレイヤーがカードをX枚引くのだ。

能力共有

 この最後の例は《ダルのスピリット》である。予見効果は、クリーチャー1体を対象として、そのターンの間、そのクリーチャーにこのクリーチャーが本来持っている能力(《ダルのスピリット》の場合シャドー)を与えるというものである。

 理想的には、デザインの美学上、コンボがもっとも望ましいので、全てのカードがこの1つめの分類に入るべきである。2つめのタイプが存在するのは、それほど多くの巧いコンボ・カードを作ることができなかったからである。最後の分類については、クリーチャーに2つめの分類のものを持たせることが非常に困難だったから存在している。

 完全に後知恵だが、私は予見はただ公正なだけのメカニズムだったと思っている。アゾリウスを予見とシナジーを持ちうるコントロール的なスタイルから外していたのだから、多少無理があった。そして、このメカニズムは非常に限定的で、全てのカードが《雲の群れ》の水準に至りうるものではないと思う。

 最後の問題は、開発部の一般的な問題で「繰り返しのゲーム・プレイ」と呼ばれるものだ。一般に、毎ターン同じことが起こるようにするメカニズムを忌避している。何度でも繰り返せるものの存在はゲームを楽しくないものにし、マジックの長所である多様性を失わせてしまうのだ。

 全体として、私は予見をB?と評価する。これはメカニズムの合格点に達していない。幸いにして、この7年後、多少は巧くできた。


三巨頭の執政官》 アート:David Rapoza

留置

 ラヴニカへの回帰のデザイン(チームはケン・ネーグル/Ken Nagle(リーダー)、アレクシス・ヤンセン/Alexis Jansen、ケン・トループ/Ken Troop、ザック・ヒル/Zac Hill、私)の一番最初のミーティングは、ケンの「前回、アゾリウスは白青と言って想像されるものと違っていた。今回はこの問題を解決しよう」という言葉から始まった。

 忘れている諸君のために言うと、ラヴニカへの回帰とギルド門侵犯にギルドを分割した時、最終的に2つの選択肢があった。私はラヴニカ・ブロックでほとんどのギルドに取り組む機会があったので(私はギルド門侵犯のリード・デザイナーであった。途中でマーク・ゴットリーブに譲ったが)、ケンにどちらの組み合わせをやるかを選んでもらった。ケンがラヴニカへの回帰の組み合わせを選んだ理由の一部には、アゾリウスを正しいものにしたいという意図があったからだという。

 アゾリウスに関する最初のアイデアを出したのは私だった。私もまたアゾリウスを正しいものにしたいと思っていたし、そのための方法にも心当たりがあった。しかし、私のアイデアには2つの問題があった。

 1つめに、それはあまりに孤立的だった。ギルドは「Sinker」の時点で組み合わせてドラフトするので、ギルド間にシナジーがあるようにしなければならなかった。そして、このアイデアは他のギルドと組み合わせては巧く働かなかったのだ。

 2つめに、将来のブロックで探求したいメカニズム的空間を踏み荒らすものだった。これを採用したとして、将来のブロックでは使わなければいいのだが、他の問題と組み合わせるとそのメリットは小さいのに将来を踏み荒らすということが明らかになった。しばらくはこれを試していたが、やがて我々はアゾリウスの最初のキーワードから離れることになった。今語った「将来」がやってきたとき、私が忘れていなければ、これが当時のアゾリウスのものだ、という話をしよう。

 その後、我々はいくつもの別のメカニズムを試したが、どれもしっくりくるものではなかった。このセットがデヴァインに移行して、アゾリウスのギルド・メカニズムを作るためのサブチームが結成された。サブチームについて知らない諸君のために説明するなら、セットがある特定の問題に対処しなければならないとき、その問題専門に取り組むために独立したデザイン・チームを結成する。通常、サブチームは1週間か2週間でその問題に別の観点から取り組むことになっている。

 アゾリウスのサブチームは、マーク・グローバス/Mark Globusがリーダーを務め、デイブ・ハンフリーズ/Dave Humpherys、ビリー・モレノ/Billy Moreno、ケン・ネーグルからなっていた。ケンはラヴニカへの回帰に必要なものを示すために在籍していた。ハンフリーズはデベロッパーの視点を提供するために在籍していた。そして、マークとビリーは多くのカードをデザインするために在籍していたのだ(ビリーはデベロッパーだが、強いデザイン的感性を持っている)。

 サブチームが立ち上がったとき、デベロッパーからの要請を着火点にしていた。デベロップ・チームはラヴニカへの回帰を見て、そしてこのセットにはテンポ寄りのメカニズムが必要だと感じていた。サブチームには2つのアイデアがあったが、1つは少し単純すぎ、もう1つは少し複雑すぎた。複雑な方のアイデアは解決できなかった(私はいずれ解決できると思っているので、これについて話はしない)。

 単純な方のアイデアは、「クリーチャー1体をタップする」というアイデアを元にしたメカニズムを作るというものだった。チームはアゾリウスが対戦相手のクリーチャーを一時的に止めることでアドバンテージを得たいと思っているということを理解していた。ここでの問題は、「クリーチャー1体をタップする」ということをどうやって立派なメカニズムに仕上げるかということだった。最終的に、チームはクリーチャーが実際にタップはされないが、まるでタップされたかのような影響を受けるというアイデアに行き着いた。影響を受けるクリーチャーでは攻撃もブロックもできないのだ。チームはこの能力を「投獄」と呼んだ。

 サブチームがこれを試していると、いくつかの問題が浮かび上がってきた。まず、クリーチャーを投獄することは完全に無力化することであるべきではないか、ということ。同じようなフレイバーを持つ《拘引》という呪文は、起動型能力を防ぐ。チームはこれを取り入れることにした。次に、チームはその有効期間を決めなければならなかった。プレイテストの結果、「あなたの次のターンまで」なら両方のターンに影響を与えてブロックも攻撃もできなくすることができるけれども、忘れてしまうほどは長くないということがわかった。

 3つめに、何を留置できるのかという疑問があった。実験の結果、チームは単色の留置カードはクリーチャーに、多色の留置カードはパーマネントに有効にするというアイデアを得た。このアイデアはそのまま印刷された。

 チームの結論として、このメカニズムを公式提案としてデザイン・チームに提示した。留置はあまりに無味乾燥で魅力的と言えないのではないかという疑念が提示されたが、私はこの能力がギルド・メカニズムに必要な「ギルドの雰囲気をフレイバー的に補強する」「アゾリウスをプレイすることを好むプレイヤーのスタイルに合っている」という条件を満たしていると信じたので擁護に回った。この2つのポイントを満たし、私の疑念全てを晴らしてくれていたのだ。

 そして、留置はアゾリウスのメカニズムとして仕上がったのだった。

最後に?

 ラヴニカへの回帰はケンの「アゾリウスをらしいものにする」という目標を見事に果たしたと感じている。私は膠着状態に持ち込むのでなくゲームを進めるというこの能力のゲームをコントロールするやり方を気に入っている。そして、ギルドが正しく受け取られていることにも満足している。白青は無味乾燥になる能力を持っているので、ギルドがファンに愛されるのを見るのは最高だ。

コントロールとその他

 緑白と同じように、白青は重なりの多い色である。このデザイン上の難関は、ふさわしい呪文を見付けることではなく、フレイバー的でありながら楽しいものを見付けることなのだ。それができれば、ギルドのプレイヤーは味方になってくれるだろう。

 諸君が今回のアゾリウスの話を楽しんでくれたなら幸いである。つも通り、諸君の(メール、掲示板、TwitterTumblrGoogle+などでの)フィードバックを期待している。

 それではまた次回、私の他の仕事がどうこの仕事に影響したかを語るときにお会いしよう。

 その日まで、ちょっとしたコントロールがあなたとともにありますように。

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