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Making Magic -マジック開発秘話-
カードが駄目になるとき・再び
読み物
Making Magic
カードが駄目になるとき・再び
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2012年10月22日
私はときおり、大きな反響を呼んだコラムを読み返してその内容について現在の視点から再び検討している。今回選んだのは、「カードが駄目になるとき(リンク先は英語)」(あるいは「なぜ我々は駄目なカードを作るのか」)という、私のコラムの中でもっとも読まれているものである。今回のコラムの前提となっているので、読んだことがない諸君は先に読んでおいたほうがいいかもしれない。また、話の繋がりのためには昨年トム・ラピル/Tom LaPilleがデベロップの観点から駄目なカードの問題を再評価して書いたLatest Developmentの「カードが駄目になるとき・その2(リンク先は英語)」を一読しておくのもいいだろう。
《湿原の大河》 アート:Terese Nielsen |
骨の髄まで悪
本題に入る前に、このコラムそのものの歴史について少し語らせてもらおう。「10周年(リンク先は英語)」というコラムで、どうウェブサイトを統合したかという話をした。私は、プレイヤーと制作側の間に、より強い繋がりを作りたいと思っていたのだ。コラムを書きたいと思った理由の1つに、マジックに関するプレイヤーたちが気付いていないことをプレイヤーが理解する助けになりたいというものがあった。
「カードが駄目になるとき」は、「Ask Wizards」の質問から生まれた。「Ask Wizards」は今は不定期連載だが、当時は毎日掲載されていたのだ。このサイトが出来た当初のある日、あるプレイヤーからこんな質問が舞い込んできた。
Q: 「なぜ開発部はひどく弱いカードを印刷するんですか? それもレアで?」 ― エリオット・ファーティク/Elliot Fertik
そして雪玉は転がり始めたのだった。
私は弱いカードの複雑な問題を説明しようと短い答えを書いた(「Ask Wizards」での私の回答は、上でリンクした昔のコラムに書かれている)が、それを読んだネイサン・ウッダール/Nathan Woodallという男性から「馬鹿にしないで下さい」というタイトルのメールが飛んできた。私は、自分がこのウェブサイトに求めていた可能性そのものに直面したと言うことに気付き、そして最初の「問題」のコラムを書いた。その中で、なぜデザイン(やデベロップ)が一目見ても意味のわからないようなものを作るのかについて掘り下げたのだ。
私が(「Making Magic」として)書いた5つめのコラムであるそのコラムは大成功を収め、このウェブサイトや私のコラムの方向性を定めることになったのだ。なぜ「カードが駄目になるとき」を振り返るのにこれだけの時間をおいたかというと、元のコラムがこの問題について素晴らしい働きをしたと感じているからである。そして、この内容を振り返ることに決めたのは、さらに掘り下げていくとさらなる問題があるからである。そこで今回、私はその同じ問題、「なぜ我々は駄目なカードを作るのか」を考えるにあたって、少しばかり違う視点から取り組むことにする。デザインの帽子を被り、悪いカードが良いデザインである理由について説明しよう。
悪い血
元の「良いカードが悪くなる時」では、なぜマジックにおいて駄目なカードが必要なのかについて説明した。今回のコラムではこれを次の段階に推し進めよう。デザインの原則を考察し、駄目なカードがその原則にどう従っているのかを見ていく。元のコラムでは悪いカードが存在する理由を7つ挙げていたので、今回は悪いカードが良いデザインである理由を7つ挙げるのが公平というものだろう。
デザインの原則#1:ゲームはプレイヤーに挑むものだと思われている
ゲーム(やパズル)のデザインは、ほとんどのデザインとは大きく異なる。例えば、ランプをデザインするとしたら、そのランプのあらゆる部品を可能な限りわかりやすくするものだ。点灯スイッチはあると思われるところに置くし、可能な限り単純にしてオンオフがわかるようにする。光をどうやって動かすか、どう接続するかなども可能な限り明瞭に、直感的にする。ランプのデザインの目標は、ランプを使いやすくすることである。
《シンドバッド》 アート:Julie Baroh |
しかし、ゲーム・デザインは、障害物を取り除くことよりも加えることに主眼を置く。ゲーム・デザイナーがゲーム・ランプをデザインすることを想像してみよう。ランプの付け方は一目でわかるものではないだろう。スイッチは普通あるところにはないか、そもそもスイッチの形をしていないかもしれない。ランプの動かし方やつなぎ方も単純ではないだろう。その理由は、ゲーム・ランプというものはユーザーに使い方を見付けさせるためにあるからである(こういったゲームに必要なことについて興味がある諸君は、こちらのコラムを読んでみるといいだろう)。
なぜ悪いカードが良いデザインなのかの第一の理由は、我々ゲームデザイナーは諸君にわかりやすい正解を提供していないからである。そのために、ゲームを解明しにくくする仕掛けをたくさん仕掛けてある。その仕掛けの1つに、誤った第一印象を与えて誘導するというものがある。過去に何が成功して何が失敗したのかを知っているので、我々はプレイヤーがどんな先入観を持つかということもわかっている。つまり、その先入観を活かしてカードを作ることができるのだ。
旧ミラディンのデザインの際に私はこれの非常に良い例を示している。《粉砕》と《恐怖》を両方ともセットに入れたのだ。常識として、《恐怖》は非常に強く、《粉砕》は非常に弱いものだ。しかし金属世界でありアーティファクト・セットであるミラディンではそうではなかった。《粉砕》は非常に強力で、アーティファクト・クリーチャーに効かない《恐怖》は多少弱体化していた(非常に強い、から、まあ強い、に格下げと言ったところだ)。これらを入れた理由は、それまで例の無かった、ドラフトで《恐怖》よりも《粉砕》をピックすべきときがあると気付いてもらうことだった。
セットごとに、意図的に、一見したときに思うよりも強いとわかっているカードを入れ、第一印象よりも弱いカードを作っている。一見して弱くて実際にも弱いカードがなければ、一見して弱いが実際は強いというカードを作ることは難しい。そこで、カードの振れ幅は広くなければならないのだ。
だが、ここで。全てのカードが良い世界を作ることによって、この過程はさらに難しくなるのだろうか? もし全てのカードが実用的であれば、さらなる決定を作ることにはならないだろうか? 実際のところ、そうはならない。なぜかと問われれば、デザインの初期には我々は意図的にカード・パワーを均等にするのだ。その理由は、デザインの初期における目的はバランスの取れた環境を作ることではなく、あらゆるカードをプレイしてどこに楽しさがあるのかを見付けることだからである。
従って、私はパワー・レベルが均等なセットにおける構築の経験を充分に積んでいる。構築が難しくならない理由は、失敗があり得ないからだ。全てのカードが実用的であれば、あらゆるカードの組み合わせが成立する。プロツアーのトップレベルのプレイヤーはより困難な目に遭うだろうか? もちろん! わずかな差を見いだせる能力を持っているかシナジーを理解していれば、無数の決定が存在するのだが、それは観客のごく一部に過ぎない。それにも関わらず、私のデッキとジョン・フィンケル/Jon Finkelのデッキの能力差は通常の環境に比べてずっと小さいものになるだろう。
デザインの原則#2:プレイヤーに働かせる
このデザインの原則は前の項目からの当然の帰結である。これは人間の性質のもう一つの重要な側面である「思い入れ」に関わっている。思い入れの考え方は非常に単純だ。人間というものは、それまでに関与してきたと感じることにより注意を向けるものである。なぜなら、それは自己評価の重要な部分だからである。ひとは自分を重要だと感じたいので、個人的に関与しているものを上位に置くのだ。これは自我の働きであり、ごく当たり前のことなのである。
《不吉の月》 アート:Gary Leach |
これが重要である理由は、プレイヤーに思い入れを持たせたければ、プレイヤーに何らかの寄与をさせるのが良いということである。ゲーム・デザイナーが手を取り足を取り情報を与えたなら、それにはそれほどの意味は無い。しかしプレイヤーが自分で見つけ出したのなら、プレイヤーは思い入れを持つことになる。
例として、開発部が良いカードを隠すためにしている努力を見てみよう。一見して強いと思えないカードを作ることで、プレイヤーにそれを自力で見つける機会を与えている。自分で見つけたのだから、それらのカードに思い入れができる。弱いカードの存在のおかげで発見ができるのであり、思い入れができるのである。
デザインの原則#3:受け手を過大評価するな
何年も前、我々はプレイヤーに自分のプレイスキルを評価してもらうという調査を行ない、以下の5つの選択肢から選んでもらった。
a) 平均よりかなり下
b) 平均未満
c) 平均
d) 平均より上
e) 平均よりかなり上
回答者の8割はDやEを選んだが、ほとんどはDを選んでいた。これの意味するところは何かというと、マジック・プレイヤーの多くは自分のプレイスキルを過大評価しているということである。これを取り上げた理由は、同じようなことがゲーム・デザイナーにも言えると信じているからだ。我々はプレイヤーの技術を過大評価しがちなのだ。我々は自分の周りの狭い世界に思い入れを持ちすぎ、多くのプレイヤーは我々と同じようなレベルでこのゲームについて考えているわけではないということを忘れてしまうのである。
我々は、いつでもマジックには何千何万の新規プレイヤーがいるということを知っている。そしてしばらくプレイしていてもマジックのあらゆる面を理解したわけではないカジュアル・プレイヤーについては言うまでもない。
一言で言うと、ゲーム・デザイナーとして我々は非常に深く研究する必要がある。より上級なプレイヤーに取っては明白に弱いカードであっても、経験の浅いプレイヤーがそう判断するには何ヶ月、あるいは何年もかかることがありうる。そしてトップレベルのプレイヤーだけでなくあらゆるプレイヤーに発見をもたらすことは難しいのだ。
経験が浅かろうが関係なく、誰もが何かを学べるようにすることが、悪いカードのもう一つの重要な働きである。そして、どのセットにも、どんな経験が浅いプレイヤーでも弱いと判断できるカードを1枚か2枚入れておく必要があるのだ。
デザインの原則#4:プレイヤーにやってみさせよ
ゲーム・デザインにおいてもう一つ自明なことは、プレイヤーの求める全てを与えることはできないということである。ゲームは本質的に、プレイヤーが自分に挑めるようにするものである。良いゲーム・デザイナーはプレイヤーに目的を簡単に達成するには不充分な程度の道具を与えるものだ。これは、ゲーム・デザインの目的が、プレイヤーに自分自身の解法を見付けさせることだからである。
《Badlands》 アート:Rob Alexander |
これは2つの理由から重要である。まず1つめに、プレイヤーに必要なものすべてを与えたら、プレイヤーは難しいと感じない。しばしば、ゲーム・デザイナーはプレイヤーのために障害を作るのが役目だと語ってきた。そのための良い方法は、道具を出し惜しみすることだ。プレイヤーに自分の使う道具を見付けさせるのだ。プレイヤーに、そのために汗をかかせるのだ。
2つめに、ゲーム・デザインの目標は楽しい経験をさせることであり、そのために重要なことは、プレイヤーに感情の盛り上がる瞬間を与えることである。その中核にあるのが、プレイヤーに自分の行動を決めさせることだ。先に述べたとおり、もしあらゆるものを与えると、個人的な達成感というのは全く生まれない。ゲーム・デザイナーの仕事は、問題を解決することではなく、プレイヤーが自ら問題を解決できるようにすることなのだ。
それと弱いカードがどう関係するのかというと、プレイヤーに試練を与えるもう一つの方法として、プレイヤーが非常に良いとは言えないカードを使うようにするということがある。ゲーム・デザイナーができることの中で最も技量を試すことの1つに、プレイヤーにドラフトで充分なカードを与えず、普段デッキに入れる「水準以下」のカードを使わなければならなくすることがある。私は、マジック・インビテーショナルの様々なフォーマットを通して、世界最高のプレイヤーたちが無視すべきだと学んでいたカードを評価しなければならないようにしてきた。
大学の二年次に、私の寄宿舎で徹夜でフロートを作った経験について語ったことがある。人も道具も時間も足りない中で何とか成し遂げ、満足感があった。翌年、他の寄宿舎と協力し、多くの人、道具を動員したが、その経験は楽しいものだったとは言えない。
ゲーマーは挑戦を生き甲斐にするものだ。ゲーム・デザイナーの仕事は、その挑戦を小さくすることなく飢えを満たすようにすることなのである。
デザインの原則#5:プレイヤーに何かを愛させよ
時折、私はツイッターにデザインこぼれ話を投稿している。お気に入りのはこんなのだ。
誰もが気に入って、誰も愛さないようなゲームを作ったなら、それは失敗するだろう。
このツイートは、デザインの非常に重要な本質である。プレイヤーがゲームの全ての要素を愛する必要は無いが、何か1つでも愛せなければならない。しばしば言うように、人の決定のほとんどは知性ではなく感情に基づくものであり(青には申し訳ない)、特に感情的反応である楽しみに関する話ならそうなるものである。
《Bad Ass》 アート:Thomas M. Baxa |
誰もが何かを愛するようにするための仕掛けは、作るカードの幅を広くすることである。言い換えると、網を広く拡げるためには多くの異なる種類のカードを作らなければならない。デザインを伸ばすことの利点は、多くの非常にニッチなカードを作ることができることであり、少数のプレイヤーに強くアピールできる。この戦略の弱点は、プレイヤーの一部が悪いカードだと判断するようなカードを大量に作ることになることである。ある人にとっての宝物は、他の人にとってのゴミなのだ。
最終的には、マジックには一部の人に愛され、他の人に憎まれるカードの束が存在することになる。幸いにして、プレイヤーは嫌うことよりも愛することに突き動かされるものなので問題ない。その理由は、まず、嫌われないようにしたいということと違って愛されたいと思うことは物理的な原動力になること。そして、マジックにおいてプレイヤーには愛するものを使い、嫌うものを無視するという自由が与えられていることである。
プレイヤーの「なぜ私の嫌うこのカードを作ったんですか」という質問に対しての私の答えは、「それはあなた向けのカードではないんです」である。
全てのカードは誰かに愛されているものだということを念頭に置いてもらいたい。文字通り、あらゆるカードがである。なぜなら、他のプレイヤーが避けるカードを探し求めるプレイヤーが存在するのだ。誰にでもふさわしいものが存在するということ、これはマジックの最高の性質の1つである。
デザインの原則#6:プレイヤーに自身のものだと言える何かを与えよ
ゲーム・デザインの中核は、プレイヤーの感情的要求に触れることだという話は何度もしてきた。今の話も、ゲーム内に愛せるものをつくることについて語ってきたわけだ。もう一つ、満たすべき感情的要求が存在する。ゲームがプレイヤーに「紐付ける」能力を与えるようにしなければならない。
紐付けるとは、プレイヤーがゲームに心理的な印象付けを行ない、全体として独特な方法で繋がりがあるかのように感じられるようにするということである。この現象をよりよく理解するために、少し説明させてもらおう。人間は不完全さを好む。美学的に、対象や繰り返しと言った同じものに惹かれるものである。しかし、我々の中の一部は、自分だけのものを探したいと思っている。これは心理の根幹に根ざすもので、何かが唯一無二のものであると感じたいのだ。この現象は別の名前でも呼ばれるが、一般に「やましい楽しみ」と呼ばれている。「他の誰も持っていない」何かを求めるのは、人間の生まれつきの欲求なのだ。
このように、人間は自分のものだと言える何かを求めている。この欲求は簡単にゲームに向かうもので、さらに簡単にマジックに向かうものだ。弱いカードが重要な理由は、この現象に気付いているかどうかに関わらず、あらゆるプレイヤーが個人的に繋がりを感じたゲームの部品、マジックにおいてはカードを自分のものだと言いたいからである。人気のあるカードは、自分だけのカードを求める人のこの欲求を満たさない。このカードは弱いが心の奥底であなたが気に入っている、と誰もが知っているのだ。そう心の奥底でないかもしれない。
弱いカードは不完全性に溢れており、プレイヤーがこの繋がりを作れるようにする上で素晴らしい働きを見せてくれる。実際、強くないけど気に入っているからと自分を示すお気に入りのカードを示しているプレイヤーの数に注意してもらいたい。弱いカード(「他のプレイヤーが弱いと判断しているカード」)は、この目的を満たすためには素晴らしい働きをしているのだ。
デザインの原則#7:プレイヤーに生け贄を与えよ
個人のエゴから原則#2が生じたが、もう一つこれもそうである。全てのプレイヤーがたくさん体験することは何か、と言われれば「敗北」である。経験が浅ければ浅いほど、敗北の比率は高くなる。それに対してゲーム・デザイナーができることは何か? いくつかある。負けても楽しいゲームにすることができる。ゲームをもっと接戦にするような仕掛け(逆転要素など)を組み込んで惜敗を演出することができる。負けそのものを楽しめるようにすることができる場合すらある。しかし、この原則は、それらとはまた別のアプローチである。
《黄道の山羊》 アート:Qi Baocheng |
プレイヤーに、敗北の理由となる生け贄を与えるのだ。プレイヤーが望むときに非難できる要素をゲームの中に入れるのである。マジックのマナはこの目的において素晴らしい。「引き運」というのもそうだ。そして、弱いカードというのもまた、生け贄にするにはもってこいである。
プレイヤーが負けについてカードのせいにしている頻度を意識してもらいたい。彼らは自分で負けたのではなく、カードが悪くて負けになったのだ。カードの問題である。カードがもっと強ければ勝てたのだ。
プレイヤーの自我ははけ口を求めることがあり、弱いカードはその目的にふさわしいことがある(負けを自分の責任だと認め、他の何かのせいにしないことが良いプレイヤーになる最短の道だと強調しておくべきだと思う。自分がその対戦に与えた影響を受け入れることによってのみ、本当の成長は見いだせるものである)。
弱いカードは、弱点という役目を立派に果たすのだ。
悪い林檎
今日のコラムは非常に濃いものだった。重要なデザイン上の教訓がいくつも詰め込まれている。諸君が、弱いカードの問題についてのこの異なった見方を楽しんでくれたなら幸いである。いつもの通り、このコラムに関する感想をメール、掲示板、ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+))で募集している。
それではまた次回、アゾリウスのデザインについて語る日にお会いしよう。
その日まで、駄目なものの中のよいものがあなたとともにありますように。
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