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Making Magic -マジック開発秘話-

懐かしの君へ

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Making Magic

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懐かしの君へ

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2012年7月2日


 マジック関連の仕事をしたいと思う諸君は、英語版記事末尾にある告知を確認のこと。

 通常、セットの発売後にはカードごとの話をするコラムを設け、セットを縦覧して様々なカードのデザインについての話をしている。これまでは、基本セットではこれをしてこなかった。それは、私が基本セットのデザイン・チームに加わってこなかった(基本セット2010を除いて、もう何年も関わっていない)からである。だが、基本セットの新カードについてでなければいくらでも話すネタがあるということに気がついた。そう、基本セットには再録カードがたくさん含まれており、その中には私がデザイン・チームの一員として働いたものもたくさんある。そこで今回は新カードではなく懐かしのカードたちに関するカード別記事をお送りすることにしよう。

 始める前に、一言。ここで取り上げる話の中には、これまでに話したことのあるものもある。10年以上も繰り返しなしで書くのは難しいのだ。また、新しいプレイヤー諸君にも、これまでの500回以上にのぼるコラムを検索することなく面白い話を楽しんでもらいたい。すでに読んだことのある諸君のために、すでに話したことのある話には新しい要素を付け加えるつもりだ。

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 このカードはオデッセイが初出だ。ほとんどの諸君は気付いていないことだが、このカードはブロック全体を通したサイクルの一員である。そのサイクルとは、例外的勝利条件を含むエンチャントのサイクルだ。そのメンバーを紹介しよう。

 オデッセイより

 トーメントより

 ジャッジメントより

 なぜこれをブロック全体を通して配置したのか? その答えは、1つのセットに5種類の勝利条件カードを入れるのは多すぎると感じたからだ。なぜこういう分け方をしたか? セットについて考えれば、その答えは自ずと分かってくる。トーメントは黒のセット(知らない諸君のために言っておくと、このセットには他の色よりも黒のカードがかなり多かったのだ)なので、黒のカードが配置された。ジャッジメントは白と緑のセット(トーメントとのバランスを取るために、黒の敵対色である白や緑のカードが多かった)なので、白と緑のカードが配置された。青と赤は残りのセット、つまり第1セットに投入されることになったのだ。もう1つイカしたことを挙げるなら(オデッセイのカード名を決める責任者が私だったことにも注目して欲しい)、これらのカード名にはそれぞれ「duel」の言い換えが入っているのだ。

 で、なぜ《機知の戦い》だけが残っているのかというと、これだけがサイクルの中で飛び抜けて評価されたからだ。

 デッキの中核となった楽しいカードとなり、プレイヤーが群がったので、サイクルから抜け出して単一のカードとして存在するようになったのである。

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 どのセットも、あらゆる種類のマジック・プレイヤーにアピールするものであろうとしているが、やはりセットごとにもっとも気に入るタイプのプレイヤーというのは存在するものである。私はセットを組み合わせ、同じ方向に向くことがないように留意している。しかし、フィフス・ドーンはミラディン・ブロックの最後のセットだったので、大量のアーティファクトが入るのは必然だった。

 ミラディン、ダークスティールは少しばかりティミーやスパイク寄りになっていたので、フィフス・ドーンにはいかにもこれを使ってデッキを組みたくなるような雰囲気を纏ったアーティファクトを大量に入れて、ややジョニー寄りにしたほうが楽しいと考えた。そういう観点から、《前兆の時計》をデザインしたのである。

 《前兆の時計》は、何らかのリソースを他のリソースに変換する効果を持つ、いわゆる「エンジン・カード」である。この場合、アンタップ状態のアーティファクトをタップ状態のアーティファクトと変換することができる。強さを制限するために、2対1変換にした。いいジョニー・カードにやってほしいことをやってくれるようにできたので、私はこのデザインをとても気に入っている。無限の可能性を秘めているが、何に使えとは言っていない。可能性は示されているが、その成果は諸君が自分で掴まなければならないのだ。

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クローン

 ほとんどのプレイヤーが知らない裏話をしよう。6年ほど、《クローン》はルール上処理できなかったのだ。もちろん、カードはアルファ版から存在していたのだが、誰もルール上正しく処理できなかったのだ。解決策は、印刷するのをやめることしかなかった。それが、リヴァイズド版まで存在していたこのカードが長年リストから消えていた理由だ。

 ウルザズ・サーガの時に、私はこのカードを再び世に戻そうとしたが、当時のルール・チームは無理だとしてギリギリのタイミングでカードを変更するように伝えてきた。イラストはすでに出来ていたので、そのイラストにふさわしいメカニズムのカードをデザインしなければならなかった。そして、その結果生まれたのがこれだ。

 このイラストは、アルファ版の《クローン》のイラストの焼き直しだ。

 やがて、ルール・マネージャーがこのカードをルール上で処理する方法を見つけ出し、オンスロートで復活を遂げることになった。

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 プレイヤーは、カードについて知っていることはその完成形だけなので、それだけを見る。デザイナーは、完成形だけでなくその開発中の情報を見ることがある。私にとって、《空虚への扉》はそんなカードの一例だ。このカードはフィフス・ドーンに入っていたもので、5色すべてを使うというテーマを持ったアーティファクト・ブロックの最後のセットである。このブロックは強力になりすぎたので、「何か別のこと」に中心を移す必要があったのだ。マジック開発部ディレクターのアーロン・フォーサイス/Aaron Forsythe(フィフス・ドーンは彼が初めてデザイン・チームに参加したセットである)は、烈日メカニズムを使った5色テーマというものを示唆した。

 5色テーマに決たので、5色全てを使って起動するアーティファクトを入れるというのは当然に思えた。結局、我々は各色2マナずつを起動コストとし、ゲームに勝利するという効果を持つ起動型能力を思いついたのだった。少しばかり魅力的にしたかったアーロンと私がデザインしたカードは、こんなものだった。

〈殺戮機械〉
{4}
アーティファクト
[このカード]はタップ状態で戦場に出る。
{W}{W}{U}{U}{B}{B}{R}{R}{G}{G},{T},[このカード]を生け贄に捧げる:クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とし、それを破壊する。


 アーロンも私もこのカードが気に入った。完璧だった。たった1つ、ルール上で「プレイヤー1人を対象とし、それを破壊する」という表記が認められていないという問題を除けば。「いや、できるだろ。プレイヤーは読んだら理解するさ」と私は言ったんだ。

「ダメです」ルール・マネージャー(マーク・ゴットリーブ/Mark Gottlieb)は答えた。「他のプレイヤーを敗北させる効果なら、『プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはこのゲームに敗北する』と書かなければなりません。それがテンプレートです」と。

 私は地団駄を踏み、どっちでも似たようなものに見えるが雰囲気がまったく違うじゃないかと主張した。アーロンと私の作ったものは風変わりで楽しい。マジック史上にない何かをやっているというわけでもないのに、世界を覆しているかのように見えたのだ。

 私はしばしば、何度も何度も何度も戦って戦い抜いて私の思うようにした、という話をする。これは、そうならなかったという話だ。できる限りの抵抗はしたが、「プレイヤー1人を対象とし、それを破壊する」という表記は実らなかったのだ。

 今日に至るまで、私は、このカードを見るとこの戦いのことを思い出し、今でもこのカードは私の中では失敗作だと残念に思う。しかし、実際のところ、このカードには人気が出(て、そして再録にまで至っ)たのだから、私が間違っていたのかもしれない(私の理性はそう言っているが、感情の部分ではそれを受け入れられないのだ)。

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強迫

 今日は、カードが諸君が認識する以上に大きな絵の一部であることがあるということをちょっとしたテーマとしている。実際、《強迫》はウルザズ・サーガ・ブロック内のペアとしてデザインされたカードなのだ。それを広げるために、《強迫》をウルザズ・サーガに、そして、その鏡像をウルザズ・レガシーに入れた。その鏡像とは、このカードだ。

 これら2枚はともに第7版に再録されたが、その後、より人気のあった(そしてたまたまより強力だった)《強迫》だけが用いられることになった。

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熱情

 プレイヤーは、私がデザインするにあたってデッキからイメージを得ているのはどれぐらいあるかということをよく尋ねてくる。答えは、ほとんどデッキからイメージを得てはいない、となるが、中にはそういうものもないわけではない。《熱情》はその一例だ。このカードはウェザーライトで印刷されたものだが、私がデザインしたのはテンペストの時だった。着想の元になったのは、このカードだ。

 レジェンズのカード、《調和の中心》。タイプ行に「Enchant World」と書かれている(今の用語ではワールド・エンチャントだ)が、これは新しいワールド・エンチャントが戦場に出るとそれまでのワールド・エンチャントと入れ替わるというメカニズムだ。これまでに何度も話してきたが、私が最初に使っていたデッキは青緑ウィニー大群デッキだ。

Mark's Little Deck[MO] [ARENA]
6 《
4 《
4 《Tropical Island
4 《ミシュラの工廠
1 《ペンデルヘイヴン

-土地(19)-

4 《極楽鳥
4 《ラノワールのエルフ
4 《空飛ぶ男
4 《スクリブ・スプライト
2 《アルゴスのピクシー
2 《エルフの射手

-クリーチャー(20)-
1 《Black Lotus
1 《Mox Emerald
1 《Mox Sapphire
1 《太陽の指輪
4 《調和の中心
4 《巨大化
4 《不安定性突然変異
1 《Berserk
1 《Ancestral Recall
1 《Regrowth
1 《Time Walk
1 《回想

-呪文(21)-

 私は《調和の中心》が好きで、これを、全てのクリーチャーに速攻を与えるべき色、赤に入れたいと思っていた。《熱情》を作るにあたって加えた変更は、自分のクリーチャーだけに影響を及ぼすようにしたことだ。そうでなければ、相手よりも速いデッキでなければ意味がないカードになってしまうからである。

 《熱情》をテンペストのファイルに入れて、私は非常に満足していた。ここで、1つ、今まであまり触れてこなかった「早い者勝ち」ルールというものが存在する。早い者勝ちルールとは、先に世に出るセットは後に世に出るセットからカードを奪ってもいいというものだ。なぜなら、後のセットはその後でも交代要員を探すことが出来るからである。なぜウェザーライトで《熱情》が必要だったのかは知らないが、彼らはファイルからこのカードを持って行ったのだった。何にせよ、このカードがこれだけ時を経てからも存在していることは嬉しいことだ。

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帰化

 諸君も、ルール・グルというものについて耳にすることがあるだろう。ルール・グルとは、マジックのルールについて最もよく知っている人たちで、新しいルール問題が発生したときに相談する相手だ。彼らのルールに関する飛び抜けた知識は、ルールが実際にどう働くかに一貫性を持たせた新しい裁定を決めるために役に立つ。私は、「カラー・パイ・グル」と呼ばれる存在のうちの1人だ。ルール・グルがメカニズムに対して取るのと同じような立場を、私は色の理念について取るのだ。基本的には、誰かが、ある効果をその色でやってもいいかどうかを知りたいと思ったとき、私に聞きに来ることになる。

 何年も昔になるが、私は、カラー・パイ・グルとして、カラー・パイを見直し、理念上の問題を見つけるという仕事をしていた。メカニズムと色の理念がそぐわないところはないかどうか探して、私はある問題を見つけた。

 青と緑の対立点は、天然と養殖である。青は、あらゆるものが空っぽの状態で生まれてきて、必要な道具を使って教育して進化させることが出来ると信じている。緑は、あらゆるものがそのあらゆる性質を内包して生まれてくると信じている。青は教育を愛する。緑は宿命を愛する。そこで、青は道具を生命の重要不可欠な一部として見るし、青はそれを自然の摂理に反するものとして扱う。従って、青は技術を愛し、緑はそれを嫌うのだ。

 マジックの世界において、技術といえばアーティファクトである。色の性質から言うと、青は最もアーティファクトに近しくあるべきで、緑はもっともその敵であるべきだ。この前者は言うまでもなく真である。青はもっともアーティファクト寄りのメカニズムを有する色である。緑は、もっともアーティファクトを破壊する色、ではなかった。他のグルとも相談して、アーティファクトを最も嫌う色は緑、次いで赤、それからずっと離れて3番目に白であるべきだという結論に至った。白は必要であればアーティファクトを破壊することができるが、それは緑や赤のように根源的なものではない(緑は破壊すべきだと信じ、赤は破壊することを楽しむ。青や黒はアーティファクト寄りで、強力なシナジーを持つ。どちらも破壊することに長けてはいない)。

 そこで、緑に優秀なアーティファクト対策を入れることを提案した。赤には《粉砕》があり、それ以上の物を緑に提供することは難しかった。ここで問題になったのが《解呪》である。《解呪》がある限り、白がアーティファクト除去の第一人者であり続けてしまう。私は腰を下ろし、考えを巡らせた。アーティファクト除去において、緑が第一人者で、次いで赤、白は三番目である。エンチャント除去において、白が第一人者で、次いで緑である。エンチャントは除去しにくいものであるべきなので、破壊に長けている色は2つだけにすることに決めていた(青には打ち消し呪文があり、黒には手札破壊がある。物理的にどうにもできないエンチャントはそもそも赤の大敵だ)。

 計算は簡単だ。両方を破壊するのに長けている色は、緑であり、白ではない。そしてアーティファクト除去を赤のコモンに、エンチャント除去を白のコモンに、アーティファクトとエンチャントの両方を除去できる手段を、白と赤の友好色である緑のコモンに入れるというのが一番すっきりする。最終的に、《解呪》を緑に移すことで、緑をアーティファクト除去の第一人者にできるという判断から、そう変更することにした。《解呪》は《帰化》に生まれ変わったのである。

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忘却の輪

 このカードはローウィンが初出だ。このカードは、白に独特の除去を入れようとして色々考えた末に生まれたものだ。私はそもそも、{W}だけで「クリーチャーを何でも破壊する」と書いてあるようなもので、しかもその弱点があまりに弱い《剣を鍬に》が嫌いである。対戦相手のライフが多少増えたから何だというのだろう? 最大のクリーチャーを除去したのだから、あとは簡単に乗り越えてダメージを与えられることになる。

 《平和な心》や《拘引》は、他の色の除去と違う白らしい対策という意味で面白い方向性だと感じていた。どんなクリーチャーにも有効だが、それへの対策が存在している。これらの対策カードへの対策ができれば、再びクリーチャーを取り戻せるのだ。白においては、対策には対策が存在するものなのである。

 私は、いかにも白らしさをもたらしているこれらのカードが大好きだ。白は、何かを殺すことを好む色ではない。殺さずに無力化させる方法を探す方が白らしい(《剣を鍬に》もそういうフレイバーで作られている)。永続的でない方法で除去しているので、舞い戻ってきて再び猛威を振るう可能性があるのだ。

 そこで、より白らしい手法を探すことにした。私が目を付けたのはこのカードである。

 私はフレイバー的にもゲーム的にもすばらしい、《Oubliette》が大好きだった。もし白にこういうものがあったら? オーラ、装備品、カウンターを考慮しなくしたのは、それだけのことを書くスペースを取る価値が見いだせなかったからだ。クリーチャーだけでなくパーマネントを除去できるようにするというアイデアをくれたのは、確かローウィンのデザイン・リーダーだったアーロンだったと思う。

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 私がよく受ける質問に、マジックのデザイン空間がどれぐらい残っていて、カードのアイデアが尽きるまでにどれぐらい保つかというものがある。《クウィリーオンのドライアド》は、デザイン空間にまだまだ余裕があることのなによりの証明である。理由をこれから説明しよう。

 《クウィリーオンのドライアド》は、2つの要素を組み合わせようとしているときにできあがった。インベイジョン・ブロックの時なので、可能な限り多くの色をプレイすること(インベイジョン・ブロックの大テーマだ)を推奨しようとしていた。同時に、緑には成長という強いテーマがあり、緑には成長するクリーチャーを入れるのがいいと考えていた。このカードは、この2つの要素を組み合わせたところから生まれたのである。

 私が、将来にわたってデザイン空間があると革新している理由は、新しい制約ができればできるほどに、新しい答えが生まれてくるものだからだ。

 私がおもしろがって作ったカードが巧く働いたとき、自分でも驚くことがある。巧く働くわけがないと思っていたからではなく、私がカードを作る際には諸君が思っているように「構築環境で強いだろう」と思って作ったのではないからだ。

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怨恨

 このカードはウルザズ・レガシーで最初に印刷された。諸君の多くは、これがサイクル出身だと知らないだろう。

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 そして、ウルザズ・レガシーのこのサイクルが、ウルザズ・サーガの別のサイクルの後を追ったものだと言うことはさらに知る人は少ないだろう。

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 面白いのはここからだ。これらの2つのサイクルは関連している。諸君は、どう関連しているかわかるだろうか?

 なかなか難しい問題だろう。各色には2枚ずつ「死んだら戻る」メカニズムつきのオーラが存在する。1枚は自分のクリーチャーにつけて強化するもので、もう1枚は相手のクリーチャーにつけて弱体化させるものだ。全てを強化するものにしたり全てを弱体化させるものにしたりするのではなく、2つのサイクルの間で混ぜ合わせた。そしてそれを隠すために、サイクルの1つをウルザズ・サーガからウルザズ・レガシーに移したのである。

 《怨恨》は元々《落胆》の対照としてただの+2/+0を与えるオーラとしてデザインされたが、弱かったのでデベロップ段階でトランプルが与えられたと記憶している。《怨恨》はもともと{1}{G}だったが、ミスによって{G}になり、印刷するまで気付かなかったという話がまことしやかに語られている。これが真実なのかただの都市伝説なのかという質問を何度も何度も受けた。

 この問題にピリオドをうつ日がやってきた。さて、これは真実なのか、それとも都市伝説なのか?

 真実は、こうだ。

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巻き直し

 このカードはウルザズ・サーガが初出だ。開発部の用語で言うところの「フリー・メカニズム」を使っている。充分なマナがあれば、実質上マナを支払わずに唱えられるというものだ。フリー・メカニズムは、キャントリップの代わりとして開発された。ビル・ローズはキャントリップを使いすぎだと(当時、キャントリップは常磐木メカニズムではなく1回限りのメカニズムだったのだ)判断したので、私は同じようなものを開発しようとしていた。カードを使わないカードの代わりに、マナを使わないカードを作るのはどうだろう?

 フリー・メカニズムは、開発部曰くの「ぶっ壊れた」もので、ウルザズ・サーガ・ブロックを強すぎのブロックに仕立て上げた立役者である。私が今までデザインした中でも、もっとも壊れたメカニズムだと確信しているが、史上もっとも壊れているのはこれではないと思っている(史上もっとも壊れているで賞は、ブライアン・ティンスマン/Brian Tinsmanの手によるストームに進呈したい)。

 何がそんなにやばかったのか? このカードを見てもらおう。

 これは一見するとなんでもないカードに見える。1/1の飛行クリーチャーで、コストが{1}{U}だ。これは当時、多くの構築イベントで使われていた。なぜか? それは、フリー・メカニズムがその名に反していたからだ。《フェアリーの大群》はタダだったのか、というと、逆に、唱えることで利益を得ることができていたのだ。ウルザズ・サーガ・ブロックには、2マナ以上を出す土地がたくさん存在していた。《フェアリーの大群》と組み合わせて使われていたのは、《トレイリアのアカデミー》(これももっとも壊れたカードで、青マナを出すものだったからだ)だった。しばしば、《フェアリーの大群》はプレイヤーに4マナ、5マナ、6マナ以上も与えていたのだ。

 我々は、このメカニズムが壊れている理由を解明した。《フェアリーの大群》が強力だったことを踏まえて、どうやって弱体化できるか? 伝統的には、マナ・コストを上げればそれでよかったが、ここには問題があった。《フェアリーの大群》のコストを{2}{U}にしたら、より強くなってしまう。さらに多くのマナを生み出すことができる。マナがカード・パワーを制限できないのであれば、メカニズムには大きな問題があることになる。

 この話の面白いところは、《巻き直し》がこのセットに入ったということだ。なにが起こったのか? 対応して使うフリー・スペルは、使えるタイミングが限られるので、能動的に使うものに比べて問題が小さいのだ。マナが必要なときに《フェアリーの大群》を唱えることができるが、《巻き直し》はそうはいかない。それによって充分安全になったので、今回収録できたのだ(それに、2マナ以上を出せる土地もずっと少なくなっている)。これが、マジック2013にフリー・メカニズムが帰ってきた理由である。

温故知新

 諸君が古いカードの話を楽しんでもらえたなら幸いである。こういった古いカードの、カードごとの話をもっと聞きたいかどうかを教えて欲しい。

 それではまた次回、マジック2013に関する諸君の質問に答える日にお会いしよう。

 その日まで、あなたの思い出が他の誰かに届きますように。


マジック基本セット2013

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