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Making Magic -マジック開発秘話-
闇の隆盛で踊ろう その2
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Making Magic
闇の隆盛で踊ろう その2
Mark Rosewater / Translated by YONEMURA "Pao" Kaoru.
2012年1月16日
闇の隆盛プレビュー第2週にようこそ。前回はデザイン・チームの紹介と、デザイン上大型セットに続く第2セットでなすべきことについて話し、その後、イニストラードの様々なメカニズムをどうするかという話をした。今回は闇の隆盛で追加された新要素に焦点を当て、このセットがどのようなものなのか解説することにしよう。興味深いことに、私自身最初は少し間違っていたと認めよう。スポイラーを見ないようにしている諸君のために言っておくと、今回はプレビュー・カードを公開するだけでなく、すでに他の場所で公開されているカードを並べて紹介していく。スポイラーを見ないでプレリリースを楽しみたい諸君は、プレリリースの後でもう一度このコラムを読みに来てくれたまえ。
問題点
それではまずデザイン上の立脚点をもう一度見て見よう(前回のコラムと違い、今回は実際のカードに基づいた話ができる)。
闇の隆盛は、イニストラードの続きである。つまり:
さらなる狼男。
クリックで変身します
(ところでこのカードは「その1」で図書館員と言っていたカードだ)
さらなる吸血鬼。
さらなるゾンビ。
さらなる幽霊(スピリット)。
さらなる両面カード。
クリックで変身します
さらにはクリーチャーがクリーチャーになるのではない両面カードも。
クリックで変身します
さらなるフラッシュバック。
さらなる色違いのコストを持ったフラッシュバック(今回は逆回りだ)。
さらには今までなかったフラッシュバック。
さらなる陰鬱。
さらなる呪い。
さらなるトップダウンデザイン。
言い換えると、「さらなる」の山こそが第2セットでやるべきことだということになる。第1エキスパンションが準備したものを引き継ぐのだが、それだけが第2セットの役割ではない。私は、ブロックに3つセットがあることを、よく3章立ての物語に喩える。(物語の構造に詳しくない諸君に言っておくと、全ての物語は3章立てで語られる。3章立ての構造は、物語におけるカラー・パイのようなものなのだ)
私に物語の作り方を教えてくれた先生の言葉を借りれば、3章立てというのは:
第1章:主役を木に登らせる
第2章:主役に石を投げつける
第3章:主役が木から落ちる
というものだという。私は、イニストラードは人間の物語だと考えている。第1章で、人間にとっての障害となるものを示す。アヴァシンという名の守護天使がいて、かつては全ての怪物を防いでくれていたが、突然姿を消した。その後、人間の武器に加護を与えていた彼女の魔力がだんだんと失われていって、それに気づいた怪物たちは人間に襲いかかった――というのが、イニストラードの物語の発端である。
闇の隆盛は第2章だ。人間に石を投げつけるときだ。悪い状況は最悪になっていく。第2章の中核として、私はチームにこのセットがどうあるべきかと伝えた。人間にとって、状況が悪化するのがわかるようにしろ、と。
そのために、私たちはあらゆることをした。手始めに、カラー・パイにおいて人間の属する場所を変えた。イニストラードでは、人間はほとんど白にいて、次に緑、そして青に存在していた。白にいた理由は、白は善なるものの最後の砦だったからである。邪悪が延びてくる中で、白は最後の希望だったのだ。人間がその鍵となる要素だと言うことを示すために、我々は白という色は人間のものにしたのだ。
状況が悪化していくということを示すために、人間に2つのことをさせることにした。まず、白に存在する人間の数を減らし、その分をスピリットで埋めることにした。これは、人間の多くに何が起こったかを暗示するためである。そして2つめは、他の色に人間を散らばらせることだった。ここで示したかったのは、状況が悪化して、人間の結束が失われたと言うことだ。生き残るためにいろいろな手を尽くしたが、結局は強力な邪悪の前に膝を屈するしかなかったという描写である。
さらに、怪物の勝利を示すために強力なカードを作った。人間が怪物になることもその一つだ。まだ全てのカードが公開されているわけではないのでわかりにくいが、両面カードのほとんどは、片面が人間で反対の面が人間でない怪物である。
クリックで変身します
可能な限り様々な方法で、人間が戦いに負けているということを示すカードを作り上げようとした。私が気に入っているものの一つに、人間のリーダーであるミケウスの存在がある。闇の隆盛で彼は帰ってくるのだが、その帰ってくる有様がまさに人間に起こっていることを表しているのだ。ミケウスの行く末を知りたい諸君は、ジェンナ・ヘランド/Jenna Hellandの手による特集記事を読んでみてくれたまえ。
人間の窮状は、このセットでよく見かけられるコストでも表現されている。すなわち、「人間1体を生け贄に捧げる」というものだ。イニストラードにも、他のカードとはまったく異なる意味で人間をデッキに入れたくなるような《村の食人者》[ISD]というカードは存在したが、闇の隆盛ではこのメカニズムをさらに取り上げたのだ。
デベロップはさらにそれを掘り下げ、人間を生け贄に捧げるということを怪物の主要な道具に仕立て上げた。「人間に死を」というテーマはとどまるところを知らず、人間はどんどんと不幸に陥っていった。
この人間にとっての逆境の元で、人間の絶望を表すメカニズムが必要だった。実際、デザイン中には「絶望」と呼ばれていたメカニズムが存在した。そのメカニズムは手を加えられた結果、窮地として諸君の手元に届けられることになった。
このメカニズムは、2つの異なった理由から存在している。まず、人間の絶望を表現したいという目的があったということ。悪い状況から最悪の状況に進んで、崖っぷちに追い詰められた人間というのを描写したかったのだ。カードのトップダウン・デザインについてはしばしば語ってきたが、今回の窮地はメカニズムのトップダウン・デザインの好例だと言えよう。
私は、人間が追い立てられ、だが、極限まで追い詰められたどこかの瞬間に、その逆境に対して立ち上がるというフレイバーは大好きだ。映画「スターマン 愛・宇宙はるかに」の表現を借りれば、「[人間]は、最悪の時にこそ最善の力を出す」のだ。
《スレイベンの破滅預言者》 アート:John Stanko |
2つめの理由は、何年も前に遡る。マナ・バーンを取り除こうとした時のことだ。私はマナ・バーンがゲームにもたらすフレイバーは好きだったが、ただ複雑なだけで利点のないルールだった。マナ・バーンを取り除いたことによって新しいデザイン空間が広がり、特にライフを閾値として用いる能力が作れる様になった。自分のライフを(マナ・バーンで)いつでも減らせるのであれば、ライフ総量がある値以下であることは事実上条件にはならない。ライフを簡単に操作できないようにすれば、ライフ総量がある値以下であるかどうかを見るのはよりエキサイティングになる。残された問題は、この新しいメカニズムをどこで使うかということだけだった。
絶望能力について最初に話題に出たのがいつだったかは覚えていないが、チーム全体がそれに惚れ込んだのは確かだった。死にかけた時にだけ本来の力を発揮する能力というのは、まさに必要な能力だった。しかも、プレイして楽しい。ライフを新しい形でリソースとして活用できるというのだ。
こうして人間は苦難の中にいた。我々は、このテーマを様々な方法で具現化した。問題が1つだけあって、私は非常に重要なあることを忘れていたのだ。幸いにして、闇の隆盛にはトム・ラピル/Tom LaPille 率いるデベロップ・チームがいて、私の失敗に気づいてくれたのだ。
怪物マッシュ
開発部の一員、というだけの立場から、デザインやデベロップのリーダーになるには何が必要か。その道のりは、そう短いものではない。まず、デザイン・チームやデベロップ・チームに外部から協力すること。フューチャー・フューチャー・リーグでデッキを組むとか、レアに投票するとか、プレイテストをするとか。やがて、チームの一員に選ばれることになる。うまく行けば、何度も何度もチームに呼ばれることになる。やがて「頼りになる副官」と呼ばれるようになり、さまざまなことでリーダーを支える立場になる。頼りになる副官を数回勤め上げて初めて、自分自身のセットのリーダーになる機会が与えられるのだ。
《ゾンビの黙示録》 アート:Peter Mohrbacher |
トムはこの長い道のりを踏破しており、闇の隆盛はエキスパート・セットにおいて初めてのデベロップ・リーダーを務める機会だった。私は闇の隆盛のデザイン・リーダーだった。私は、首席デザイナーであることに加えて、最も多くデザイン・リーダーを勤めた経験を持つのでトムが初めてのデベロップ・リーダーの相方としてデザイン・リーダーを勤めるのが最もふさわしいと思われたのだ。
デベロップ・リーダーとして、トムはデザイン・チームがやったことの仕上げをすることになる。その途中で、彼はこのセットの焦点がずれてきていることに気がついた。今まで15回もデザイン・リーダーを務めた相手に、初めてデベロップ・リーダーを務める人間がもの申すことにはためらいがあるものだが、彼はそれをやってのけたのだ。
トムは私に面会を求め、このセットの焦点が何であるべきかについて話し合った。私は人間が陥っている窮地について説明し、人間が主役であること、そしてこれが第二章であること、絶滅の危機に瀕していることを説明した。トムは大きく息をつき、そして問い返してきたのだ。「で、怪物はどうなったんです」と。
トムは、このセットにおいて強いものから目をそらして弱いものにばかり焦点を当てていることに危惧を覚えていたのだ。「Rattle(闇の隆盛の開発コードネーム)は人間が恐怖から逃げ回るセットじゃなく、怪物が暴れ回るセットでしょう」 彼と私は激論を戦わせ、最終的に私は彼の主張を受け入れた。怪物にも焦点を当てることが必要だった。
私は数日を費やして必要なものについて考え、怪物のために使えるキーワード能力を見いだすのが最初だと理解した。奴らはより凶悪に、恐ろしいものになっている。それを強調するような、クリーチャーのキーワードが必要だった。そして、その答えは予想外のところからもたらされた。私の妻、ローラだ。
私の妻への求婚については以前に(リンク先は英語)語ったこと(リンク先は英語)があるが、私たちはウィザーズで出会った。彼女はこの会社で働いていたのでマジックのやり方を学んでいて、出会ったばかりの頃は毎日のように、私が作った初心者向けの特製デッキで対戦していたものだった。ローラはもう何年もマジックをプレイしていないが、今でも少しやれば基本を理解してくれた。
これを取り上げている理由は、しばしば私は何かに取り組む必要がある時に彼女に相談しているからである。彼女は細かいことを知らないからこそ、もっとも基本的にして重要なことを質問してくれるのだ。今回、私たちの語り合いから、闇の隆盛の怪物メカニズムが生まれることになった。
私:うん、ちょっとした問題があるんだ。怪物のメカニズムが必要なんだ。
ローラ:怪物のメカニズム? どういうこと?
私:怪物はどんどん恐ろしいものになってきていて、それを表す様なメカニズムが欲しいんだよ。
ローラ:第1セットでも恐ろしいものだったの?
私:うん。
ローラ:第1セットでの怪物はどんなものだったの?
私:不安になるようなものを詰め込んだ。怪物はより悪いものの先触れなんだ。いろいろな怪物話を詰め込んだよ。
ローラ:まだ触れてない怪物話はないの?
私:あるよ。怪物ものの映画では、主人公達は怪物を倒すんだ。そして倒したと思って防御を解いた時に、がばっ! と怪物が蘇り、より恐ろしい姿で襲いかかってくるんだ。
ローラ:それなら、そういうメカニズムを作ったら?
私:作りたいんだけど、どうやればいいのか思いつかなくてね。
ローラ:そういう雰囲気のメカニズムは今までなかったの?
私:復活というなら、シャドウムーアの頑強がそうだな。クリーチャーが死んだら、一度復活してくるんだ。
ローラ:それを使うわけにはいかないの?
私:ダメだ。そのメカニズムは-1/-1カウンターを使ってて、このブロックでは+1/+1カウンターを使ってる。
ローラ:それが?
私:カウンターを混ぜないことにしてるんだ。前のセットで+1/+1カウンターを使ってたら、このセットでもそうしなくちゃいけない。
(間)
(ローラにキスをする)
私:・・・.ああ! そうだ、それだ!
良いデザインの鍵は、使えるリソースは何でも使うということにある。過去のメカニズムが目的を達成できるなら、それを使うことを考えるべきなのだ。私は頑強について考えてはいたが、使えないと切って捨てていた。見落としていたのは、頑強をこのデザインのために作り直すという観点だった。
+1/+1カウンターに入れ替えるというのは、2つの理由から完璧だった。まず、私が探していたそのものだということ。怪物を強化するメカニズムであるということだ。人間の絶望を表すには、死をも克服した怪物というのは最適だ。次に、+1/+1カウンターを使うことで頑強と違った空気を与えることができるということ。頑強持ちのクリーチャーを殺すのには2回の攻撃が必要だが、1回殺せば相手は弱体化してくれる。つまり、殺せる時に殺しておけば問題ないということだ。不死(デザイン中は「執拗」と呼んでいた)持ちのクリーチャーは、1度殺すと強化され、より恐ろしい存在になってしまうのだ。
今日のプレビュー・カードは不死能力持ちのクリーチャーだ。実際、不死ロードとでも呼ぶべき存在である。それでは、これ以上四の五の言わず、《憎悪縛りの剥ぎ取り》[DKA]を紹介させて貰おう。
クリーチャーを殺したければ殺すがいい。その努力に免じて、+1/+1カウンター持ちで戻ってきたクリーチャーは5点のダメージをクリーチャーかプレイヤーに与えて進ぜよう。
不死の調整が終わった後(バランスを取るのが難しいメカニズムだ。これについてはザックがそのうち語ってくれることだろう)、我々は怪物を強化する方法をさらに探し始めた。各種の怪物がどう振る舞うのかを話し合い、そして、強調したいところを強化する方法を探したのだ。
吸血鬼は人間を生け贄にするようになり、ゾンビには墓地からゾンビを戻す道具を与え、狼男は人間状態と狼男状態の差が激しくなった。スピリットは、イニストラードで始めた仕事を終えてメカニズム的な特異性を与えることにした。白青らしいと同時に幽霊らしい性質、つまり人間を操る系の性質を与えることにした。このセットのスピリットは他のクリーチャーに作用するものが多いことにお気づきだろう。タップしたり、封じ込めたり、コントロールを奪ったり。ポルターガイストは夜通し暴れ、より他者に影響を与える様になったのだ。
《憎悪縛りの剥ぎ取り》 アート: Jana Schirmer & Johannes Voss |
また、我々は、怪物の部族性を取り上げることにした。4種類の怪物は、より有利になっていく。対照的に、人間は闇の隆盛で弱体化し、相対的にはさらに大きな差がつくようになった。もし人間をドラフトするとしたら、それは他の怪物の餌としてだろう。
最後に、イニストラードで取り上げられなかった各種の怪物話を探し、可能な限り取り込んだ。見ての通り、闇の隆盛全体を通して怪物がより強力に、凶悪になっていくのだ。
闇の隆盛を恐れよ
今日の話はここまでだ。闇の隆盛のデザインがどのようになされたか、その一端を楽しんでもらえたら幸いである。
それではまた次回、カードごとの来歴について語ろう。
その日まで、あなたがさらなる真実がどこにあるのかを知らないままに多くの人の話に耳を傾けますように。
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