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メカニズムレビュー
『ミラディン包囲戦』メカニズムレビュー:装備品
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メカニズムレビュー
By 三田村 和弥
見渡す限りの溶鉄の尖鋒を潜り抜け、The Finals 2010を制したのはミラディンの傷跡産・装備品を搭載した白単装備品ウィニーでした。
デッキに採用された装備品は2種。
《精神を刻む者、ジェイス》が幅を利かせる現スタンダード環境でプロテクション(青)が効果的に刺さり、前評判通りの強さを見せてくれた《肉体と精神の剣》。莫大なコストながらゼンディカーブロックの装備品サポートカード《聖なる秘宝の探索》と《コーの装具役》でそのコストを踏み倒して使われた《アージェンタムの鎧》。
さすがに・ゼンディカーブロックとミラディンの傷跡という強力に装備品をプッシュした2ブロックにまたがったカードを使っていることもあり、装備品をテーマにしたデッキとしては歴代でも最も美しいシナジーを形成したデッキに仕上がっていると思います。
20 《平地》 -土地(20)- 4 《メムナイト》 4 《羽ばたき飛行機械》 4 《きらめく鷹》 4 《闘争の学び手》 4 《石鍛冶の神秘家》 4 《コーの装具役》 4 《戦隊の鷹》 4 《コーの空漁師》 -クリーチャー(32)- |
4 《聖なる秘宝の探索》 2 《肉体と精神の剣》 2 《アージェンタムの鎧》 -呪文(8)- |
4 《未達への旅》 4 《真心の光を放つ者》 4 《コーの火歩き》 3 《白騎士》 -サイドボード(15)- |
ファイレクシアのバイオテクノロジーによって開発された細菌兵器と、それを打ち破るため遂にお披露目されたミラディン伝家の宝刀。ミラディン世界の風景を彩る装備品は、ミラディンの傷跡に続きミラディン包囲戦でも登場しています。
本コラムではミラディン包囲戦で登場した意欲作の数々を取り上げて紹介していこうと思います。
ミラディン包囲戦に収録された装備品は全11種。カード総数155種類の小型セットとしては異常としか言いようのない多さです。
このようなアンバランスが許されたのは、今回の新キーワード能力「生体武器」によるもの。
生体武器とは装備品が持つ「この装備品が戦場に出たとき、黒の0/0の細菌・クリーチャー・トークンを1体戦場に出し、その後これをそれにつける。」という誘発型能力で、装備品の修整値そのままのサイズと能力を持ったクリーチャーとして戦場に出ることになります。
ファイレクシアの先端研究により生み出されたこの装備品シリーズは、実質的にはクリーチャーであるためセット全体のクリーチャー数を減らすことなく、バランスよく新メカニズムを詰め込むのに一役買ってくれています。
装備品の強みというのは、せっかく装備して強化したクリーチャーがたとえ殺されてしまったとしても、次のクリーチャーにその修整値を受け次ぐことができるという点です。
これは、装備品と同じようにクリーチャーに何かしらの修整を与えるエンチャント(クリーチャー)を使う場合にどうしても不可避である、カードアドバンテージを失うリスクを再利用可能なシステムにして低減したものです。使いきりのエンチャント(クリーチャー)では付いた先のクリーチャーが殺されると、まとめて墓地送りになってカードアドバンテージを失う羽目になりますが、装備品ではそうはなりません。
ただ、ここで低減と表現したのは装備品にもリスクが全くないというわけではないからです。再利用可能とはいってもそれは装備品の装備コストに当てられるマナがあってこそのこと。せっかくマナを支払って装備品を装備したクリーチャーが破壊されてしまうと、その装備コスト分が全く損になってしまいます。装備するのに対応して何かしらの、例えば《稲妻》のようなトリックで捌かれてしまうと、そのマナを使った分、時には丸々1ターンを費やして何もできなかったことにされてしまうのです。
装備品には装備コストだけでなく装備品自体を唱えるコストがあるわけで、装備品が付いたクリーチャーが戦場で活躍するまでに手間取ってしまうようではうまく装備品を扱えていることにはなりません。
実際に先ほど挙げたデッキ、The Finalsの優勝デッキではこの装備品が抱える本質的な弱点を、装備コスト、時には唱えるコストですら踏み倒してしまおうというコンセプトで補っています。
また、装備品の弱点とも言える点はこれだけではありません。
先ほどは装備に使えるマナは無限ではないということに起因した欠点であったのに対し、今度は装備する先のクリーチャーも無限ではないということを欠点としてあげることになります。
装備品それ自身が戦闘に参加してはくれません。アーティファクトである装備品を金属術の頭数合わせに使えたならまだしも、装備先のクリーチャーが戦場に出ていなかった場合、装備品は何もしないただの置物に成り下がってしまうわけで、これでは実質的にカードアドバンテージを失っているのと同等であると言えます。
構築戦ならば《戦隊の鷹》のようなカードでクリーチャーを切らさないようにすることは比較的容易ですが、リミテッドではそうではありません。装備品ばかりを引いて戦線を支えられないという事態がなるべく起こらないよう、リミテッドにおける装備品は3枚程度に押さえるのがセオリーにならざるを得ません。この枚数では装備品があることを前提にしたクリーチャー、《王の摂政、ケンバ》などが使いにくく感じると思います。
ファイレクシア科学の結晶たる生体武器は装備品が持つこれらの問題点を見事に解決して見せてくれました。生体武器はなんと最初の一回は装備コストが無料です。しかも、0/0クリーチャー・トークンがセットで付いてくるので、わざわざ前もってクリーチャーを用意する必要もありません。
装備コストを払う必要もなく戦場に出した瞬間から戦ってくれて、たとえ生体武器ばかり引いてもクリーチャー不足に陥ることもない。装備をはずしてしまうと0/0なので死んでしまいますが、それで有利になるなら構いません。取ることにできる選択肢が多いという柔軟性はゲームの勝利へ近づくアドバンテージです。いい事ずくめの新能力は装備品を新たなステージに引き上げてくれるでしょう。
生体武器は全部で5種類。個々のカードについて評価してみましょう。
《皮剥ぎの鞘》
最も基本的な能力しか持たない生体武器です。プレイするためのコストは{1}マナで修整値も+1/+1。クリーチャーとしては単なる1マナ1/1です。
1マナ2/2速攻などのクリーチャーがそこら中を何食わぬ顔で闊歩する時代に、1マナ1/1などいまどき構築レベルとは決していえないのは明らか。生体武器であることの利点を使わなければいけません。
《皮剥ぎの鞘》は生体武器の中で最も大したことのない能力を持つ、逆に言うと最もコストが軽く設定されているということになります。1/1クリーチャーとしては全く期待せず、クリーチャー呪文ではないがクリーチャーとして扱えるとか、1枚のカードで2つのパーマネントが戦場に出せるという点に対してのみ注目するなら、最も軽い生体武器《皮剥ぎの鞘》に白羽の矢が立つわけです。このような使い方の例として、エクステンデッドの《苦花》+《変身》デッキに生体武器の居場所があるのではないでしょうか。
4 《忍び寄るタール坑》 4 《闇滑りの岸》 2 《水没した地下墓地》 4 《島》 2 《カルニの庭》 4 《霧深い雨林》 1 《つぶやき林》 4 《変わり谷》 2 《沈んだ廃墟》 -土地(27)- 2 《引き裂かれし永劫、エムラクール》 -クリーチャー(2)- |
4 《苦花》 4 《謎めいた命令》 3 《精神を刻む者、ジェイス》 4 《マナ漏出》 4 《変身》 3 《思案》 4 《定業》 2 《呪文貫き》 4 《思考囲い》 -呪文(32)- |
2 《深淵の迫害者》 2 《ワームとぐろエンジン》 3 《蔓延》 1 《墓所のタイタン》 2 《燻し》 1 《破滅の刃》 3 《強迫》 1 《漸増爆弾》 -サイドボード(15)- |
スタンダードでも《集団変身》で代用が利きます。ミラディン包囲戦では生体武器以外にもクリーチャーになる非クリーチャーカードがいくつかあり(《墨蛾の生息地》、《主の呼び声》)、選択肢には事欠きません。《集団変身》デッキはトライする価値があると思います。
《迫撃鞘》
いわゆる《モグの狂信者》装備。修整値は+0/+1なので《モグの狂信者》とはちょっと違いますが。
こちらは二番目に軽い生体武器ではあるものの、《皮剥ぎの鞘》のように装備としての能力は期待しないという使い方では、あえてこのカードを使う意味はありません。相手のタフネス1のクリーチャーに良いようにやられてしまうデッキ、例えばエルフデッキが相手の《狡猾な火花魔道士》を殺すためにサイドから投入するなどの使い方が最も有用な使い方のように思います。
《骨溜め》
一方こちらは「しまった! 逃げろ、ハンス! ルアゴイフだ!」で有名な《ルアゴイフ》装備。タフネスが1低いものの、無色で、しかも同じ4マナで元祖《ルアゴイフ》と同じ効果が得られるようになるとは時代を感じます。
この装備品はクリーチャーデッキの4マナ域として、元祖と同じように使えるはず。装備コストが{2}と意外に軽く、装備の移し替えをしながら戦うことも可能ですし、6マナあれば元々戦場にいたクリーチャーに装備させ擬似速攻付き《ルアゴイフ》のような使い方もできます。特殊な使い方を考える必要がないという意味では、今回の生体武器の中で最もカードパワーが高いと言えます。
《皮羽根》《縒り糸歩き》
明らかにリミテッド用。生体武器全5種ともリミテッドでは使えるカードですが、この2種は構築ではさすがにお呼びがかかりません。
リミテッド的な視点で見ると、どちらかというと《縒り糸歩き》よりは《皮羽根》の方が強力なカードです。《皮羽根》は4マナ2/2飛行+役に立つおまけ能力と飛行クリーチャー相場どおりのコスト設定になっています。《縒り糸歩き》は4マナが相場の《大蜘蛛》系カードに対し5マナなのでちょっと相場より高いです。装備を他のクリーチャーに移した時にも、飛行の方が到達より決定打になりやすいのでその点でも《皮羽根》の方が優秀です。
ファイレクシア側の装備品、生体武器に対するのはミラディン側の《饗宴と飢餓の剣》です。
《火と氷の剣》、《光と影の剣》、《肉体と精神の剣》と続いた『XとYの剣』シリーズの最新作、《饗宴と飢餓の剣》は激化の一途を辿るファイレクシアの侵攻に対抗するべく持ち出された対ファイレクシア用最終兵器。今までの剣と同様に、修整値は+2/+2、プロテクションの色も伝統的な対抗色の組み合わせで、今回は黒と緑になっています。
効果の方もこれまでの剣と比べてもなかなか派手で、黒側の「饗宴」能力は「手札を1枚捨てさせる」スペクター化でアドバンテージが稼げるようになっていて、緑側の「飢餓」能力は「自分がコントロールする土地を全てアンタップする。」ものになっています。
リミテッドではぶっ壊れなのは明白で、修整値、プロテクション、スペクター化、アンタップ能力、その全てが効果的に使えるでしょう。+2/+2されることで速やかに相手のライフを削り、プロテクションでブロックされにくい。アンタップ能力を使えば後続の展開や装備の移し替えの役に立ち、ディスカード能力で相手の反撃の芽を摘む。ここまでのカードを敢えて使わないという選択をする人はいないはず。
構築戦の観点で話をしても、修整値やプロテクションに関してはこれまでの剣と同じで文句をつけるところはありません。以前に比べクリーチャーのサイズは飛躍的に大きくなってはいますが、サイズ差さえ付いてしまえばブロックで止め難くなるのは変わらず、現在でも+2/+2で十分ということです。プロテクションに関しても、《精神を刻む者、ジェイス》への耐性こそ下がってしまうものの、これから定番除去になりそうな《喉首狙い》への対抗策になり、またエクステンデッドに目を向ければ、憎きフェアリーの《苦花》のトークンをすり抜けることができるなど、結局はメタゲーム次第とはいえ何色のプロテクションでも強力ということです。
攻撃が通った時の能力に目を移してみると、どちらかと言うと「饗宴」側能力のスペクター能力が少しもの足りないかなと感じます。
と言うのも、現在の構築で使われているカードのレベルを考えると、出てしまえば対処されるまで決定的なアドバンテージを稼ぎまくるタイプのカードが多いので、1枚ディスカードなど物ともしないという状況に直面することが多いと思うからです。《復讐蔦》やサイドボード定番の《強情なベイロス》など、ディスカードに強いカードがトーナメントシーンで使われていることも向かい風です。
とはいえ、毎ターン攻撃が通り続ければさすがに決定打になります。
一方、「飢餓」側は現代の構築デッキで必要とされる能力になっています。
カードパワーの上昇に伴って、対処しにくいカードが増えた昨今、一度対応を誤ったら即死と言うゲームが増え、いかにブン回るかということが主眼に置かれてデッキが組まれています。
土地のアンタップ能力は、そのターン装備して攻撃してそれで終わり、とはならず攻撃後にアンタップした土地で再度クリーチャーの展開や装備の移し替え、その他にも打ち消し呪文を構えるなど、高い対応力と爆発力を与えてくれるようになるでしょう。ディスカード側の能力が盤面に影響を与える能力ではないこともあり、土地アンタップ能力はありがたい能力になっています。
ミラディン包囲戦の装備品、新能力「生体武器」と《饗宴と飢餓の剣》に着目してレビューを行ってきました。
どちらも正直《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》のように構築環境を支配してしまうというほどのカードではないとは思います。しかし、名脇役というポジションに就くには十分過ぎるポテンシャルは持っていると思います。
次のエキスパンションが「清純なるミラディン」なのか「新たなるファイレクシア」なのかは気になるところですが、おそらく登場する「赤と白の剣」に期待を寄せて、ここでこの稿を閉じようと思います。
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