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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

グルール・アグロ、または……ステロイドの最新モデル(スタンダード)

岩SHOW


 失われていく文化がある。よくドキュメンタリーで伝統工芸を絶やさないため……とかやっているのを見ると、忘れられ失われていくものになんだか胸が苦しくなると共に……その文化を継承し次代に引き継ごうとしている人の姿にリスペクトの念を抱く。僕にも同じようなことができるんじゃないか?そう、マジックの、失われつつある文化を繋ぐ役目を……というわけで、今回は近年マジックを始めたプレイヤーは知らないかもしれないデッキ名を紹介しよう。それは「ステロイド」。

 デッキ名とはすなわち「赤単アグロ」とか「ジェスカイ(青赤白)コントロール」とかの呼び名のこと。ここ10年でデッキ名はすっかり【色+アーキタイプ(or カード名)】という形式が定着し、常識となっている。これはインターネットによるデッキリストの共有・拡散が当たり前となってから加速度的に進行し定着した。デッキ名を見ただけでなんとなくその全容がつかめるものが好ましいという、速度を重視する現代社会らしいものだ。

 確かに分かりやすい、素晴らしい。しかし僕がマジックを始めた頃は……分類学的なデッキ名とは別に、なんとなくデッキの内容を伝えるような名前というものも用いられていた。最も耳にしたのが「ステロイド」である。これは現在の命名法則に当てはめてしまえば「グルール(赤緑)アグロ」ということになる。

 

 「ステロイド」と呼ばれたデッキに共通するのは、《ラノワールのエルフ》などマナクリーチャーで加速し、1ターンの手数を殖やしたり本来よりも1ターン早くクリーチャーを繰り出すことで、最序盤から猛攻を仕掛ける。《火葬》や《火の玉》といった火力呪文をクリーチャー除去として採用し、それらで道を切り開きながら攻撃を通し、終盤はトドメの一撃として対戦相手本体に投げつける。デッキ名の由来は諸説あるが、デッキの暴れっぷりが強心剤を想起させたり、《アーナム・ジン》のような筋肉の怪物たちが集うデッキだからとか……いずれにせよやたらとしっくりくるネーミングであり、この文化を生み出した人々のセンスは素晴らしいと思う。マジックをプレイしだして少し経った頃、中学生同士で「ステロイドつええなぁ」「ステロ、ヤバい」などと口にしたものである。

 

 というわけで今回紹介するデッキはスタンダードの「グルール・アグロ」(あるいは「グルール・ウロボロイド」)……であるわけだが、それを「ステロイド」と呼ぶのはプレイヤーの自由だ。この文化を消したくないという思いで、今回はあえてそう呼ぼう。最新の「ステロイド」の一例をご覧あれ。

Greg P - 「ステロイド」
Flame トップ8 / スタンダード (2025年12月13日)[MO] [ARENA]
2 《始まりの町
4 《マルチバースへの通り道
4 《踏み鳴らされる地
4 《ソーンスパイアの境界
3 《バーシンセー
6 《
-土地(23)-

4 《ラノワールのエルフ
4 《遺伝子送粉機
1 《継ぎ接ぎのけだもの
4 《アナグマモグラの仔
4 《蜘蛛の顕現
4 《鋭い目の管理者
1 《漁る軟泥
1 《逆上したベイロス
4 《ウロボロイド
4 《熱心な飼育係
1 《孔蹄のビヒモス
-クリーチャー(32)-
1 《削剥
1 《大ドルイドの魔除け
2 《脱走
2 《自然の律動
-呪文(6)-
2 《アイローの表演
1 《削剥
1 《歪んだ忠義
2 《腹黒茸
2 《下生えの豹
2 《アガサの魂の大釜
1 《ゴミの策略家、ムエラ
1 《ロクの伝説
1 《解剖道具
2 《灯を追う者、チャンドラ
-サイドボード(15)-
MTGTop8 より引用)

 

 

 《ウロボロイド》を1つのゴールとし、これによる全体強化を美味しく享受するためにマナ・クリーチャーを展開。横並べにしたところをまとめて強化してフィニッシュ……という現在のスタンダードの緑らしい戦い方をこのデッキも踏襲している。何と言っても《アナグマモグラの仔》、これに尽きる。ウロボのためのクリーチャーの頭数を土の技で稼ぎ、クリーチャーが加えるマナの生産量を増やす。《ラノワールのエルフ》らがエンジンとしてフル稼働し怒涛の回転力でラッシュを叩き込む。

 そんなマナ・クリーチャーの枠にこのリストでは《蜘蛛の顕現》を投入。スパイダーマンの世界からやってきたこの蜘蛛・アバターは、2マナ2/2到達で赤か緑のマナを加える……標準的なマナ・クリーチャーに見えるが、最後に書かれた能力がこのカードの存在感を際立たせている。それは4マナ以上の呪文を唱えるとアンタップするというもの。つまりこの顕現は、1ターンに2回以上起動することが可能である。ウロボやX=2以上の《自然の律動》などを唱えれば、シャキッとアンタップしてまたマナを加えたり、あるいは攻撃に参加したりと大車輪の活躍を見せてくれる。《アナグマモグラの仔》で複数マナを加えられるようになれば……ハチャメチャなこと、たとえば同一ターンに《ウロボロイド》を連打したり、《孔蹄のビヒモス》を素出しすることもできちゃうという寸法だ。

 

 かつての「ステロイド」はマナ・クリーチャーからマッチョなやつらを繰り出して戦うデッキだったが、最新モデルは単体で勝負するクリーチャーというよりも、そのマナ・クリーチャーらを強化する存在を叩きつけるという戦術を用いるのが特徴と言える。《ウロボロイド》、そしてこのリストでは《熱心な飼育係》を採用。人間以外のクリーチャーを強化してくれるこの同盟者、さてどれだけの仕事っぷりを見せてくれるのかというところだが……このリストのマナ・クリーチャーを改めてチェックしてみよう。

 《ラノワールのエルフ》《遺伝子送粉機》《蜘蛛の顕現》……いずれも人間ではなく、クリーチャータイプを2つ持つので+2/+2修正を受けることに。こりゃウロボの代役を十分に務められるし、ケースによってはこちらを優先して繰り出した方が大ダメージを生み出せる。それにオーバーキル気味ではあるが、植物・ワームであるウロボが+1/+1カウンターを3個ばら撒く……これが決まれば勝ったも同然だ。

回転

 

 さて、そんな最新の「ステロイド」にとっての天敵となるのが《鳴り渡る龍哮の征服者》だ。クリーチャーの能力の起動を許さないので、エルフや蜘蛛は皆静かな軽量クリーチャーに成り下がってしまう。《アナグマモグラの仔》を対策して各デッキのメインやサイドに採用されているこのカードに対抗するには、《削剥》のような除去をきっちり用意すること。また、サイドボードに起動型能力でない形で勝負を仕掛けられるカードを投入するのも、相手の裏をかけて良いかもしれない。《ゴミの策略家、ムエラ》や《ロクの伝説》は起動でない形でマナを加え、アドバンテージも生み出してくれる。こういった少々攻め口が異なるカードをお守りのように採用しておくことが、勝利の秘訣だ。

 結局のところ万人へのわかりやすさでは「グルール・アグロ」が勝る。「ステロイド」と表記しても、長年やっているベテランしかピンとこないだろう。しかし便利さだけを追求するのも寂しいもので……細々とこういうところに書くなどして、文化を紡いでいければと考えている……そんなおじさんの胸中を綴って、今回はおしまい。

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