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岩SHOWの「デイリー・デッキ」

バント気の技:世界選手権の結果より(スタンダード)
先日、2025年度の世界選手権が開催された。スタンダード新環境下でのイベント、新セットリリースから丁度良い頃合いというのもあって、どのようなデッキが活躍するのか大いに注目が集まっていた。個人的には11月末のジャパンスタンダードカップにて、《アナグマモグラの仔》を搭載したデッキが大躍進した光景を目の当たりにし、特に「シミック(緑青)ウロボロイド」「バンド(緑白青)気の技」の強さを実感したのもあり、世界選手権でもこれらのデッキが中心となって……そこに前回紹介した「イゼット(青赤)ルーティング」が絡んでくるような、そんなデッキ使用率を予想していた。そして大会直前にメタゲームブレイクダウンが公開される。
メタゲームとは実際のゲームをプレイする前に始まっている戦い、駆け引きのことであり、そこから転じて流行りのデッキや環境のデッキ分布を意味するマジック用語。今回の世界選手権のメタゲーム解析を見ると……「バント気の技」は使用率3位につけたものの、1・2位は想定外のアーキタイプであり、「シミック・ウロボロイド」は僅か7名と戦前のイメージよりも随分と少ない。そして大会がスタートし、2日目が終わり、トップ8の発表……3日目に進出したデッキの中に、バントもシミックも姿はなかった。これは完全に予想外!その要因は何だったのだろうか?特に「バント気の技」はテクニカルな動きと、コンボによる突然の決着というパワフルな要素を持ったデッキなので、優勝してもおかしくはないと思っていたのだが……
気の技デッキは戦場に出た時に気の技を行うクリーチャーがキーカードである。《素早き救済者、アン》に《不動の守護者、アッパ》、これらで自身のパーマネントを出し入れすることで無茶苦茶しようぜというデッキであるわけだが、このデッキは《倦怠の宝珠》というアーティファクト1枚でそれらのクリーチャーが沈黙する。クリーチャーが戦場に出たことにより引き起こされる能力が誘発しなくなるため、気の技以外にも《アナグマモグラの仔》や《孔蹄のビヒモス》などこのアーキタイプに採用されているカードの悉くが機能不全に陥る。もちろん宝珠対策を用いれば戦えるが……それでも明確な弱点であることには変わりない。『マジック:ザ・ギャザリング | アバター 伝説の少年アン』リリース直後より、このデッキは目立ちまくったため、全体のガードも上がることが予想され、その中で気の技デッキで戦うリスクを避けたプレイヤーが多く、またチームで調整された「イゼット講義」や「ティムール(緑青赤)カワウソ」のようなアーキタイプが多くなったため、使用率は第3位に落ち込むことになったのだろう。そして実際のところ《倦怠の宝珠》は全体の三分の一のプレイヤーがサイドボードに採用し、除去なども多く取られたデッキ構築と相まってエアベンダーたちを苦しめる。
また長丁場において3色のデッキゆえのマナ基盤の不安定さが露呈したり、スタンダードと無関係なドラフトラウンドでの成績などといった要素も絡んで、トップ8に気の技デッキ不在という結果になったわけだ。使用者16名中、5勝以上の成績を上げたプレイヤーが3名という事実から、このアーキタイプが世界選手権という舞台で苦戦したことはまぎれもない事実だ。
しかしながら、世界選手権とは特殊な舞台である。プロツアーよりも参加者が少なく、全体のレベルが一、二段階も高いようなトーナメントでの結果が、必ずしも我々一般のプレイヤーをとりまくメタゲームとイコールになるわけではない。「バント気の技」はまだまだスタンダードで活躍することだろうし、何よりもこのデッキはプレイしていて面白い。中毒性満点のゲーム体験をもたらすので、今後も使われ続けることは間違いないし、今使っているプレイヤーは臆せずにガンガンとプレイしてほしいところだ。
| 4 《マルチバースへの通り道》 4 《始まりの町》 4 《繁殖池》 2 《植物の聖域》 4 《フラッドファームの境界》 4 《ハッシュウッドの境界》 -土地(22)- 4 《ラノワールのエルフ》 3 《遺伝子送粉機》 4 《アナグマモグラの仔》 4 《木苺の使い魔》 4 《灰毛の天才、オーロック博士》 4 《素早き救済者、アン》 1 《エイヴンの阻む者》 4 《不動の守護者、アッパ》 3 《岐路に立つアン》 -クリーチャー(31)- |
3 《縫い目破り》 1 《冬夜の物語》 3 《自然の律動》 -呪文(7)- |
1 《忌まわしき眼魔》 1 《アブソリュートヴァーチュー》 1 《アバターの怒り》 1 《エイヴンの阻む者》 1 《魂の洞窟》 2 《脚当ての陣形》 3 《量子の謎かけ屋》 1 《縫い目破り》 2 《スパイダーセンス》 2 《冬夜の物語》 -サイドボード(15)- |
というわけでいつになくシリアスかつボリューミーに世界選手権の結果を分析してみたところで、本日の話題の中心である「バント気の技」というアーキタイプを解説しよう。《アナグマモグラの仔》と《ラノワールのエルフ》らマナ・クリーチャーによる加速で支えられたこのデッキは、先述の通り気の技という能力をフル活用する。《不動の守護者、アッパ》と《素早き救済者、アン》で自身のクリーチャーを追放し、それをまた追放領域から唱える。これに《灰毛の天才、オーロック博士》が加わることで、気の技により追放領域から唱える呪文のコストは{0}となる。アッパとアンを交互に気の技で入れ替えグルグルとループさせることで、アッパが同盟者トークンを無限に生成できる。このコンボにより決着をつけるというのがこのアーキタイプの最大の武器である。
バントの強みはこの3色を冠する《岐路に立つアン》が使用できるという点。ライブラリーの上から5枚見てマナ総量4以下のクリーチャーを戦場に出すという能力で、コンボに必要なパーツをかき集める。このアンを気の技で出し入れすることで爆発的にクリーチャーが並ぶことになる。そしてそんなアンと似たような働きを見せるのが《木苺の使い魔》だ。マナ・クリーチャーなのでアナグマモグラとセットで使えば大量のマナを供給してくれるし、これに対して気の技を用いると……追放領域から{2}でとなえられるわけだが、そのコストで出来事モードである《初めてのお使い》で唱えることもできる!これによりエンチャントや土地、クリーチャーを低コストで戦場に出せるため、アッパなどで気の技をかけてやりテクニカルに用いてそのカードパワーを最大限に引き出してやろう。オーロック博士が揃えば、出来事後にクリーチャーとして緑マナ1つで唱えて出す→気の技で追放して{0}で出来事→出来事後に緑マナ1つで唱えて……とマナがある限りグルグルとループさせ、アッパとアンが揃うまで探し続けることが可能だ。このムーブを決めている時にはなんだか心が浄化されるような、得も言われぬ快感があるぞ。
アーキタイプ選択もそうだが、世界選手権参加者のデッキリストは特殊なトーナメントでの勝利を目的に組まれているため、カードの取捨選択もそのまま完全コピーする必要はない。このリストでは不採用だが、気の技要素を水増しする《気のベンダーの位に至る》も素晴らしいカードだ。《木苺の使い魔》と相性がすこぶる良い。
また《孔蹄のビヒモス》や《イモデーンの徴募兵》といった無限トークンを大ダメージに変換する速攻フィニッシャーを採用するのもオススメだ。自分のメインでコンボを決めてそのまま勝てるというのは、店舗などでの大会だったりオンライン上のゲームにおいては魅力的なものである。というわけで世界選手権の「バント気の技」、その構成や結果から学びを得て、各々のゲームに活かすことにしよう!
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