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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
ラクドス吸血鬼:これぞチームデッキ(パイオニア)
目玉飛び出そうなすんげえデッキが突如として現れる……かつてのプロツアーで度々見られた光景だ。競技イベントの極致、最高の舞台であるプロツアー。そこで戦う構築デッキというものは、1人で作り上げるには限界があることも。
参加者の一部を占める、いわゆるプロプレイヤーたちは1人よりも仲間とデッキを組み上げることを選択する。仲間で集まって調整した結果組みあがったチームデッキは、短期間で1人で組むデッキよりもずっと高い完成度を誇るものだ。アイディアは人間がひとりでも多い方が沢山生まれるもの。1人では思いつかなかったり、ほんのり過ったとしても形に出来なかったようなデッキが、チームでなら完成形へと持っていける。そうやって生まれたデッキは、視聴者の想像を超えるものになることがある。
近年はイベントの形式も変化したことも相まって、既知のデッキをワンランク上のものに仕上げたリストがプロツアーやそれに順ずるイベントに持ち込まれることが多く、サプライズなチームデッキというものはそれほどなかったかもしれないが……プロツアー『カルロフ邸殺人事件』では、セット名のインパクトに負けないくらいの衝撃をもたらすリストが登場。アメリカを中心とした世界中のプロツアー殿堂顕彰者らを中心とした、伝統あるチーム「Channel Fireball」。今回このチームは11名が同一のデッキを持ち込み、回戦前のメタゲームブレイクダウン(デッキ使用率とその考察記事)にて、パイオニア環境では馴染みの薄いデッキ名が一勢力として名を連ねることとなり、その時点で世界中の注目を集めることとなった。その名は……
「ラクドス吸血鬼」
1 《見捨てられたぬかるみ、竹沼》 4 《変わり谷》 1 《反逆のるつぼ、霜剣山》 4 《黒割れの崖》 2 《荒廃踏みの小道》 2 《硫黄泉》 4 《血の墓所》 3 《魂の洞窟》 2 《目玉の暴君の住処》 2 《沼》 -土地(25)- 4 《血管切り裂き魔》 1 《黙示録、シェオルドレッド》 3 《分派の説教者》 4 《税血の収穫者》 2 《薄暮軍団の盲信者》 -クリーチャー(14)- |
4 《傲慢な血王、ソリン》 4 《鏡割りの寓話》 4 《思考囲い》 2 《強迫》 1 《苦々しい勝利》 4 《致命的な一押し》 2 《密輸人の回転翼機》 -呪文(21)- |
1 《ヴェールのリリアナ》 1 《ゲトの裏切り者、カリタス》 1 《クレンコの轟音砕き》 2 《危難の道》 2 《強迫》 1 《苦々しい勝利》 1 《引き裂く流弾》 2 《減衰球》 4 《虚空の力線》 -サイドボード(15)- |
ラクドス(黒赤)といえばパイオニアでも定番中の定番、ミッドレンジ(中速デッキ)といえばまずラクドスが浮かぶレベルだ。赤のカードの中でも歴代最強レベルの1枚、《鏡割りの寓話》を中心とし、これを活かすカード・これにより活かされるカードで固めた、強靭な分厚いデッキだ。黒という色を扱うということは、《思考囲い》を使う権利を得るということ。この手札破壊で相手のデッキ・プランを確認したうえで、最もゲームにおいて重要な1枚を捨てさせる。脅威を未然に排除しつつ、こちらのワガママを押し通す。マジックの理想を追求するのが「ラクドス・ミッドレンジ」だ。
このラクドスの序盤を支える、2マナクリーチャーの代表格が《税血の収穫者》!2マナ3/2と攻めに剥いたスペック、血をもたらしてゲーム終盤や緊急時の手札入れ替えが狙える。血を参照してクリーチャーにマイナス修整を与える除去能力……多色と言えどよくぞここまで2マナのクリーチャーに与えたものだと、今見ても驚きを隠せない超強力2マナ域。この収穫者を、カルロフ邸参入後のパイオニアで強く使うのはどうすれば……というところから、この「ラクドス吸血鬼」の構想が始まったのではないかな。2マナの汎用打ち消し《喝破》によりアゾリウス(白青)系コントロールが隆盛することを読んで、《魂の洞窟》で打ち消されないように展開することを狙う。そして他の吸血鬼もデッキに盛り込んで……というのがスタートラインのように思えるね。
吸血鬼デッキと言えば《傲慢な血王、ソリン》!パイオニアで彼を用いるデッキは、僕も含めコアなファンデッキ・ユーザーの支持を集めていた。ソリンは吸血鬼を強化し、また吸血鬼を生け贄に捧げてダメージも飛ばせる。3マナという軽さでありながら、プレインズウォーカーに求められるものを十分に備えているが、やはり最も魅力的なのは手札の吸血鬼を戦場に出す能力。マナコストの踏み倒しだ。吸血鬼でさえあればだれでも彼でもダイレクトに戦場にイン!これはロマンあふれる。《ガルタとマーブレン》のような暴力の塊だったり、《蒐集家、ザンダー卿》のようにアドバンテージを取れるなど……どうしても多色で7マナ以上の、唱えにくい吸血鬼をこれで叩きつけたくなる。
上記のような特大吸血鬼をソリンというカタパルトから射出するのも楽しいのだが、所謂ファンデッキの域に留まるデッキではあった。ソリンがいないと手札で待機するだけのお荷物になり、またせっかくソリンから出して秒で除去されるのが日常茶飯事。そんな吸血鬼デッキの事情を一転させたのだが……《血管切り裂き魔》!カルロフ邸の新カードだ。このカードに気付き、パイオニアでプレイしてみようという判断に至る……流石は世界に誇るChannel Fireballの調整チームだ。プレイヤー1人では辿り着けないようなアンサーを見せてくれるぜ。
この物騒な名前の新たな吸血鬼。6/5飛行というボディもさることながら、クリーチャーが死亡すると誘発する能力もエグイ。2点のライフを吸い取る、このシンプルなライフを詰める能力が本当にすごい!切り裂き魔自身はもちろん、自身のも対戦相手のも問わずクリーチャーが死亡すれば2点をジュルリと吸い取る。税血を生け贄に捧げてタフネスをマイナスして除去、と動けばこれだけで対戦相手は4点のライフを失う。ブロックしてしのぐというプランも許さず、詰めにも最適であり、回復により逆転劇も演出する。
そしてこの切り裂き魔、護法がヤバい。最近はあれにもこれにもという具合で護法が与えられているので、これの護法も読み流していたが……クリーチャー1体の生け贄を要求する。それができなければ対象に取ることができないため、クリーチャーを展開しないデッキでは切り裂き魔を除去するのが非常に難しい。スタンダード目線で見ていたので多くのデッキでトークンを餌にされてしまうなぁくらいに思っていたが、パイオニアはコントロールやコンボが多いため、これを対象にする機会がほとんど得られないデッキも比較的多くなる。また生け贄により護法を突破してくるデッキであっても、護法コストの支払いの時点で2点、切り裂き魔自身が死亡して2点と計4点のライフをもっていかれる。クリーチャーデッキであってもこれを除去する代償は大きいのだ。さらにアゾリウスなどが《至高の評決》で対象を取らずに除去しようとしても、血管が切り裂かれまくってライフがもぎとられる…詰みの状況を簡単に作りだせてしまうのだ。ソリンで出した後は彼の[+1]能力でこの切り裂き魔を強化し、絆魂も与えて殴る。相手のクリーチャーは適当な吸血鬼をソリンが投げつけて死亡させ、切り裂き魔で4点イタダキ。うーん、まさかこれほどまでに強いとは。プロツアーで躍動するシーンを目にするまでは、まったく信じられなかった。
この吸血鬼デッキを持ち込んだChannel勢は今大会で大躍進。元々自力の高い集団が未知の強デッキを持ち込んだのだから納得の結果だ。トップ8に2名を送り出し、その一人セス・マンフィールド/Seth Manfieldは堂々の優勝!かつて絶対王者として活躍していたプレイヤーがまたトップ中のトップへと返り咲くことになった。
チームだからこそ辿り着ける構築がある。『カルロフ邸殺人事件』のプロツアーではそれを再確認させられた。だがチームのデッキも、それに属するメンバーそれぞれのアイディアが元になっている。個人の発想は何よりも大切だ。調整するチームがなくても、皆もデッキを作るのを諦めないでどんどん構築にトライしてみて欲しい。そのデッキに共感する仲間が見つかれば、それがチームだ。デッキを組めばチームが見つかるかもしれない。チームができれば、さらなるデッキが見つかるかもしれない。さあ、今日もデッキ作ろうぜ!
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