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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

カスケード・クラッシュ:変わる環境、永遠のレジェンド(モダン)

岩SHOW

 今回も無事、プロツアー閉幕。3日間にわたり続いた激闘の舞台、参加したプレイヤーと運営スタッフの皆さん、ありがとうッッ。おかげで我々観戦を楽しみまくることができました!

 ブースタードラフトも観ていてかなり面白かったが、当コラム的にはやはりモダン構築戦。個人的にはこのトーナメントの1か月前、幕張でのオープンイベントにて『指輪物語:中つ国の伝承』リリース後のモダンのゲームはたっぷりと予習していた。そこで見たデッキ達が1ヶ月という期間を経て、どれだけ洗練されたものになったのか?ここに注目していた。同セットがモダンに与えたインパクトは……。

 さまざまなカードがモダンのデッキに採用されているが、多大なる影響を与えたBIG3を選ぶなら《喜ぶハーフリング》《オークの弓使い》《一つの指輪》となるのではないかな。いずれも一目見てわかる強カード、こりゃ強いと納得のテキストが並ぶパワフルなレア(および神話レア)だ。フィーチャーマッチでもこれらのカードが飛び交っていたのは、ガッツリ観戦してくれた皆さんも熟知しているところかな。『指輪物語:中つ国の伝承』の参入により、モダンという環境は確実に大きく変化したのである。

 変化がもたらされたモダンに対して、変わらないものもあることを実感できたのが今回のプロツアー。それはプレイヤーの実力だ。カイ・ブッディ/Kai Budde、競技マジックにおけるレジェンド中のレジェンドだ。

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 彼の偉業は……ヨーロッパでのグランプリ連勝から乗り込んだ横浜での世界選手権99優勝を皮切りに、プロツアーで計7回の優勝。大小問わずあらゆるトーナメントを勝ちまくり、プレイヤーズ・オブ・ザ・イヤー(年間最も強かったプレイヤー)の座に4度君臨した。02-03シーズンでの受賞から20年……彼は未だ現役であり、そして今プロツアーのフィーチャーマッチでも全盛期を思い起こさせる剛腕ぶりを発揮。変わらぬ強さ、堅実さに試合を観ながら様々な感情が沸き起こっていたが……トップ8入賞の瞬間には、月並みな表現になるが痺れたね。20年経ってもまだまだ強く、夢を見させてくれる。変化しないものもあるのだなぁ。

 変化するモダンと、変わらない実力者。これらが合わさったことで最高にアツいゲームが生み出されたのだろう。今回紹介するのはプロツアー指輪物語にてカイ・ブッディが使用したデッキ、これしかないだろうッ!

カイ・ブッディ/Kai Budde - 「カスケード・クラッシュ」
プロツアー・指輪物語 / モダン (2023年7月28~30日)[MO] [ARENA]
1 《蒸気孔
1 《沸騰する小湖
4 《樹木茂る山麓
2 《
1 《踏み鳴らされる地
1 《ケトリアのトライオーム
4 《霧深い雨林
2 《宝石の洞窟
2 《
1 《天上都市、大田原
1 《繁殖池
1 《耐え抜くもの、母聖樹
-土地(21)-

1 《濁浪の執政
2 《探索する獣
2 《緻密
4 《断片無き工作員
-クリーチャー(9)-
4 《ロリアンの発見
4 《衝撃の足音
4 《死亡 // 退場
4 《火 // 氷
4 《否定の力
4 《暴力的な突発
2 《四肢切断
4 《神秘の論争
-呪文(30)-
2 《激情
1 《緻密
4 《忍耐
1 《活性の力
3 《アノールの焔
2 《血染めの月
1 《耐え抜くもの、母聖樹
1 《宝石の洞窟
-サイドボード(15)-

 ブッディの使用したデッキは「カスケード・クラッシュ」!カスケードは続唱という能力のこと。これを持った呪文を唱えると、オマケとしてこれよりマナ総量の小さい呪文が唱えられる。ライブラリーからその条件を満たすカードが出てくるまで公開して、それを唱えるというメカニズムなのだが、つまりカードを絞って構築すれば狙ったものを確実に唱えられる。デッキ内のマナ総量は続唱持ちも含めて3マナ以上で固めて、それよりも小さいコストのものはクラッシュこと《衝撃の足音》のみに留めたデッキ、これが「カスケード・クラッシュ」である。

 《暴力的な突発》《断片無き工作員》と2種類の続唱呪文からこのマナコストを持たない=マナ総量0の呪文を唱えることで、3マナで4/4トランプルのサイ・トークンを2体得る!やんちゃすぎるムーブで勝利を手にする、コンボ要素を備えたデッキだ。

 3マナで強大なクロック(相手のライフを減らす手段)を得られるクラッシュデッキ。工作員込みの10点打線だった李突発のパワー上昇があったりで、だいたい2回攻撃が通れば勝利できる。この勝利までのターンの間、対戦相手の動きを抑えることが重要になってくる。抵抗のための除去や、あるいはクロックを無視して勝利するコンボなどなど、モダンではこれぐらいのクロックをただ出すだけでは簡単に勝たせてもらえない。それらのアクションを打ち消しなどで妨害することが重要だ。

 ただし2マナ以下のカードを採用することはできないので、いずれも3マナ以上のものに限られる。重要なのは実質2マナ以下で運用可能なマナ総量3以上のカード。代替コストわかりやすく大きな助けとなってくれる。非クリーチャー呪文には《否定の力》を、クリーチャーやプレインズウォーカー呪文には《緻密》を。手札を追放することでマナ不要で唱えられるこれらの呪文、カード2枚を差し出して相手のカード1枚との交換になるので損はしているのだが、それでサイで殴り勝つ時間が稼げるのであれば何ら問題はない。

 これらで打ち消すパーミッション戦術を用いることから、クラッシュデッキはクロック・パーミッションというアーキタイプに分類される。3マナからサイ2体は一種のチートにも見えるが、モダンにはもっとアンフェアなことを仕掛けるデッキが存在する。なので、このクロックパーミはフェアデッキとして認知されている。《四肢切断》もマナではなくライフという形でコストを払わせてくれて対戦相手のブロック役やこちらへの攻撃手段を捌ける、クロックパーミを後押しする1枚だ。

 他の3マナ以上でありながらもっと軽く運用できるカードで言うと、分割カードはモダンらしいチョイスだ。《死亡》は1マナであるが、《退場》は3マナ。カードとしてはこれらのマナを合計した値がマナ総量となるので、これも《火 // 氷》も、マナ総量4で続唱を邪魔しない軽量コストの呪文となっている。

 《ロリアンの発見》は島サイクリングがメインの運用。1マナで確実に土地を1枚手に入れつつ、ライブラリーも1枚だけとはいえ圧縮できるナイスカード。土地を3枚まで確実に伸ばして3ターン目クラッシュを決めたいデッキの需要を満たしている。長期戦になってしまったら5マナ3ドローで手札を満たせるのも◎、指輪物語の影響がこのリストにも見て取れる。

 そしてメイン4枚の《神秘の論争》もプロツアーという舞台を見据えた覚悟のチョイス。青い呪文に対しては1マナで唱えられるので、《否定の力》《呪文貫き》などを持っている相手には4ターン目論争か前の続唱から動くことを狙うシーンも見られた。


 変化していくモダン環境で、20年経っても変わらない強豪が使用した「カスケード・クラッシュ」。新旧含めて多くのマジックファンの心をガッチリつかんだのではないかな。3マナからサイを突撃させる快感、伝説のブッディの如き剛腕と緻密なプレイから、勝利を掴み取れ!

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