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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
Happy Birthday to Magic! 古のデッキを求めて(特別企画)
Happy Birthday‼ 愛しのマジックよ、お誕生日おめでとう。これが公開されるのは8月4日予定。明日、8月5日がマジックの誕生日だ。誕生日というのは、マジック最初のセットであるアンリミテッド・エディションの『アルファ版』が発売された日付のこと。このゲームが店頭に並び、一般の人々がこれを手に取って魔法の世界へと踏み出した、そんな記念すべき日だ。今回は30回目のバースデー、記念すべき節目の年となる。ここまでの30年間、どうもありがとう。そしてこれはまだまだ始まり、40年50年……100年続く神話の領域を目指して、これからも突き進んでいただきたいね。
さて、一マジック関係者の末席に名を連ねる者として、当コラムでも記念すべき誕生日をお祝いしたいなと……30年の歴史を感じられるものをと考えた結果、「最古のデッキリストの探求」をテーマにさせていただこうと。30年という歴史を遡り、太古の時代のデッキを目にすること。これは特に新参プレイヤー、これからの31年目にマジックを始める人々のためにも意味のある試みではないかなぁと。では、テフェリーやサルカンよろしく、多元宇宙の時を越えるたびに出発だ。古き時代のデッキを巡るヒント、それは意外にも……カードのテキスト内に見つけることができた。
"These kids today with their collector numbers and their newfangled tap symbol. Twenty Black Lotuses and twenty Plague Rats. Now that's real Magic ."
《Old Fogey》、日本語版があるとしたら「頑固じいさん」というカード名になる。杖をついた恐竜の姿と、その背後には《Time Machine》が墜落しており、彼が過去よりやってきたことが伝わってくる。銀枠のジョークセット『アンヒンジド』らしさを象徴するカードであり、これがリリースされた2004年時点でマジックにおける「過去のもの」が詰め込まれている。
塁加アップキープに消散、バンドにはたまた雪かぶり平地渡りとマニアックなものがズラリ。中にはエコーやフェイジングなど後に再録されるものもあるのが面白い。そんなじいさんのタイプの恐竜自体が、一時的に廃止されていた失われし種族だった。廃止された旧バージョンの枠だったりフォイルには流星マークが付いたりするこのじいさん、素晴らしいのは上記のフレイバーテキストも。「最近の若いやつは……」とぼやきから入る。「コレクター番号やら、新しいタップ・シンボルやら……」一体どの時代のプレイヤーを最近の若いヤツ呼ばわりしているのやら。極めつけは「20枚の《Black Lotus》と20枚の《疫病ネズミ》。これこそが本物のマジック」ときたもんだ。デッキは40枚以上で構築されていればその中身はなんでもOK、上限枚数なども存在しないという最古のルール(ルールと言えるのか?)を語っているのだ。つまり……。
これが古の至高のデッキか?生け贄に捧げれば3マナ加えるロータス、これが20枚あればデッキに土地は不必要。同名カードが並べば並ぶほどデカくなる《疫病ネズミ》をこれで複数体展開して殴る、殴る、殴る。大味というか、雑というか……しかしながらこれをリアルタイムで体験した人にとってはこれこそがマジックと感じられるのだろう。素晴らしい。価値観の違いがあってこそ、歴史あるコンテンツと言える。それぞれの世代にそれぞれの思い出のデッキがある。1993年、マジック創世と同時にプレイヤーとなった人々にとってはこのような異形のリストこそが正常であり、青春なのだろう。
しかしやはり最古のデッキとなると、公的な記録を掘り返すのが筋というものだ。マジックの公式トーナメントとして記録が残っているもの、最も古いものは……「世界選手権94」。マジックの発売から1年が経過して満を持して開催されたトーナメントだ。リリースからたった1年ではあるが、実はこの時点で使用可能なセットは既に5つもあった。基本セットに加えて『アラビアンナイト』『アンティキティー』『レジェンド』『ザ・ダーク』、オールド・エキスパンションと呼ばれるこれらのセットが1年のうちにリリースされていた、その勢いには本当に驚かされる。
これらのカードプールを用いてデッキを作る、この時代には今でいうフォーマットがどうこうも存在しない。「公認構築」というルールの下、60枚以上のメインデッキに15枚のサイドボード、同名カードは4枚まで・《Ancetral Recall》など強すぎる一部のカードは1枚制限に指定されている(頑固じいさんの時代から随分とマジックらしくなったな!)。このルールで組まれたデッキを手に、512名のプレイヤーが集結。トーナメントのルールはまさかのシングルエリミネーション!負ければ即敗退!厳しい戦いを生き残り、最後に残った二人が座った決勝のテーブルは……汚い木製のテーブル。着席しゲームを行うプレイヤーの周囲には飲み物片手に見守るギャラリーたち。今日の世界選手権やプロツアーのフィーチャーテーブルの豪華さからは考えられない光景だ。テーブルに並ぶカードも裸、ノンスリーブだ。
このテーブルがあったからこそ、マジックの30年があると言っても過言ではない。カードゲームの世界大会、当時はごく一部のマニアが熱狂し、その熱が外へ外へと伝わって……今や全世界で数千万人のプレイヤーが、このゲームに熱中している。すべてのはじまり、記念すべき「世界選手権94」優勝デッキリストがこれだ。
4 《Tundra》 4 《Tropical Island》 4 《Savannah》 1 《Library of Alexandria》 2 《露天鉱床》 -土地(15)- 1 《極楽鳥》 1 《草原のドルイド僧》 2 《Old Man of the Sea》 1 《時の精霊》 1 《クローン》 1 《Vesuvan Doppelganger》 4 《セラの天使》 -クリーチャー(11)- |
1 《太陽の指輪》 1 《魔力の櫃》 1 《ブラック・ロータス》 1 《Mox Pearl》 1 《Mox Sapphire》 1 《Mox Jet》 1 《Mox Ruby》 1 《Mox Emerald》 1 《Time Walk》 1 《Ancestral Recall》 1 《Timetwister》 1 《新たな芽吹き》 1 《回想》 4 《剣を鍬に》 1 《神の怒り》 1 《支配魔法》 1 《セイレーンの呼び声》 2 《弱者の石》 2 《解呪》 1 《ハルマゲドン》 1 《マナ吸収》 1 《黒の万力》 1 《吠えたける鉱山》 1 《氷の干渉器》 1 《象牙の塔》 2 《停滞》 1 《宿命》 1 《冬の宝珠》 -呪文(34)- |
1 《宿命》 1 《Chaos Orb》 1 《Copy Artifact》 1 《Diamond Valley》 1 《In the Eye of Chaos》 1 《Floral Spuzzem》 2 《因果応報》 1 《魔法改竄》 1 《魔力消沈》 1 《主の存在》 1 《ダメージ反転》 1 《臨機応変》 1 《北風》 1 《赤の防御円》 -サイドボード(15)- |
このデッキリストは「宝石箱」と形容される。Mox全種をはじめ、制限カードがひたすらに投入された豪華絢爛、煌びやかなデッキリストを讃えているのだ。《Mox Pearl》はじめとする0マナアーティファクト、《太陽の指輪》に《魔力の櫃》、そして《Black Lotus》……最初の世界選手権にして、最高のマナ基盤を備えたリストになっている。土地だってもちろん最初にして最高の2色土地、デュアルランドを完全装備だ。
制限カードとなると《Ancestral Recall》や《Library of Alexandria》など手札をガッツリ増やすアドバンテージ源にも抜かりなし。これらを《新たな芽吹き》や《回想》で使いまわす!こうやって1枚制限を突破しようとする精神、黎明期のリストには溢れていたりするんだよな。
「宝石箱」はコントロールデッキだ。なので常に手札が満たされていることが好ましい。そうやって大量の手札を抱えていると《象牙の塔》で毎ターンライフが増えていく。このアーティファクトもTHE黎明期な1枚。過去のリストを見てこの塔の採用率の高さに驚かされたのも懐かしい。2023年のカードパワー基準で見た場合、大した回復量には見えないのだが、当時のクリーチャーは今と比べて圧倒的に貧弱である。ライフを削る手段が弱い中では、毎ターン2点くらい回復するだけでも十分に延命手段として機能したのだな。
日本国内の文献では「宝石箱」という表記をよく目にしたものだが、海外のサイトなどでは「Stasis Angel」「Serra Stasis」といった具合に勝利へと向かうキーカードに注目しているものも見られる。アンタップステップを丸ごと消し去るという、とんでもエンチャント《停滞》。《セラの天使》を出してこれを設置し、対戦相手のクリーチャーはアンタップせずに攻撃ができず、こちらの警戒持ちのセラ天は自由に空を舞う……と。《氷の干渉器》や《冬の宝珠》《ハルマゲドン》に《露天鉱床》と、《停滞》以外にも対戦相手の土地をまともに機能させない手段がズラリ。えげつねぇ、えげつなさすぎる!
でもこれが当時の常識の範囲。30年でマジックも変わったよなぁと確かに実感できる。このハチャメチャすぎる土地攻めも、今のゆったりと確実にマナを伸ばしていけるゲームも、どちらも楽しくどちらも素晴らしい。しかしまあ《宿命》×《停滞》コンボはリストを目にする度に使いたくなってしまうな!
今回はマジック30回目のバースデーを記念して、古き記録に残されたデッキを紹介させていただいた。僕にとってマジックは中学1年生の時に出会って以来、ずっと付き合いが続いている友達そのものである。マジックの成長を目にし、またマジックのおかげで僕自身も成長できた。数々の思い出はマジックと共にある。デッキリストはそんな過去と現在を繋ぐ古文書、日記のようなもの。皆にもいつまでも忘れられないデッキがあるんじゃないかな?プレイヤーとして年月を重ねていけば、今は何でもないと思っているようなリストですらもすごく懐かしく、そして愛らしいものに見えてくる。
これからもマジック、遊んでいこうじゃないか。当コラムも可能な限り一つでも多くのデッキを紹介できるように、頑張っちゃうぞ。それじゃあ、また。
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